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言いたくなさそうな高杉が伏せた目を泳がせるとえも言われぬ艶があった。
このまま攫って尋問しても良かったが、季節を先取りしているとはいえ、初夏を過ぎた菖蒲柄なのに袷に仕立てて着ているという事はまた熱でもあるんだろう。
それなのにこんなところをふらふらさせるとは、鬼兵隊は何を考えているのだ。きっと両替商から出てきたのも悪巧みの一環だろうが。高杉自身ではなくてはならないことなのか。
銀時はむっかりしながらそう思った。
自分が頑健だったからか銀時の覚えている高杉は超がつくほど生意気だったが格段に弱い子供だった。
雨が降るたびに熱を出し、十の頃には大病を患って何ヶ月も臥所から出る事ができなかった。度々休むので学問も遅れがちだったし、剣の腕も鍛えるために熱心に取り組んではいたがちびっ子だったのでリーチが足りず、残念ながらそれほどでもなかった。
己の理想と現実に確かに悶々としていたが、長じて鬼や獣と恐れられる男になろうとは誰も思いはしなかった。
松陽以外は。
どちらかというと、蝶よ花よの風情だったのだ。
(あのままでいればよかったのに)
「銀時?」
長い戦に耐え、今は片目をなくし、体中傷だらけでいまだに血なまぐさい事を続けている。決して強くはなかった。だから少しずつ壊れていく。
「しょうがねーなー。また今度にしてやるよ。お前、また熱があるだろ?」
銀時は高杉の手を握ったまま会計へ動いた。触った指は銀時よりも温かい。酒のせいではなく。
「ああ? ねぇよ」
白粉で洗ったかのように膚はすけるように白かった。わずかに目元だけが赤い。
「嘘です。あります。ほんとは送ってやりてぇけどそれは駄目なんだろ? さっさと帰れ」
「お前が引き止めたんだろ」
むっと高杉は銀時を睨んだ。振り回されるのが気に入らないのだ。本当はどっちが振り回されているのか。
「はいはい。次は容赦しねぇよ?」
銀時は金を払うために、名残惜しい指を離して、手を振った。
俺ってほんと甘ぇなーと思いながら。
高杉は両親や周りの者に溺愛されて育ったが、多分それは銀時も変わらないのだ。
という事があった数日後なんでかヅラがやってきて高杉の事を散々に言い立てて行った。
「奇矯にもほどがある! 俺はもう、開いた口が塞がらなかったぞ。お前からもちょっと言ってやってくれ。どうせ俺の言う事は聞きやせん」
「はあ?」
何を?
もうテロとかヤメろってか?
ジャンプの早売りを読んでいた銀時は訳の分からん事をまくしたてられて意味が分からない。
大体高杉は銀時のいうことだって聞くわけがない。特に攘夷ヤメろとかは絶対に聞かない。あれを止めさせたら…できたらいいのだが…多分高杉は折れる。生きる理由がなくなって死ぬ。今だって息も絶え絶えだ。復讐だけが奴の身を、精神を支えている。
「思想ではない、風体だ! あれではよからぬ男共がざかざか群がるに決まっている!」
「いやまあそうだけど。今に始まった事じゃねぇだろ? 鬼兵隊とか鬼兵隊とか鬼兵隊とか」
「鬼兵隊なんぞ、良からぬうちに入らんわ! あれらは高杉を害する事だけはないからな」
そういえばヅラは昔から鬼兵隊には鷹揚だった。そこが銀時と違う所だ。銀時にしてみれば総督命のあの手足こそがもう邪魔で邪魔で仕方がなかった。高杉と自分の間に立ちはだかる壁だ。もちろんその壁は、銀時以外からも十重二十重に高杉を守っていたから全くの利用価値がなかったとはいえないが。
しかし高杉にはあんな鬼兵隊など作らず、ずっと故郷で奥さんよろしく銀時の帰りを待っていてほしかったなぁと思わぬではなかった。累々たる屍の地獄など見ずに。
「着流しのかわりに女物羽織るくらい傾いてるで済むがあれはない」
「え? 違うの?」
「見てこい。洒落にならん」
行けば分かるとヅラは銀時に高杉の逗留場所をリークした。
そんなんで仲間の攘夷志士の居場所を売っていいのか。
(まあ尋問もまだだし、そろそろ熱も下がったかな)
そう思って、銀時は教えられた妓楼へ上がった。
桂の使いでぇと言って本人自筆の書き付けを見せると見世の者はあっさりと通してくれた。指名手配犯が潜伏してるのにいいのかそんなんで。と思いながら上へ上がると、開いた口が塞がらないといっていたヅラの気持ちが良く分かった。
銀時は思わず、座敷にへたり込みそうになった。
「お前は娼妓かーっ! 一体幾らだオイィィィィ!」
叫んだ銀時に、酒を呑んでいた高杉は婉然と笑って言った。
「こんな片目の遊女がいるか」
そんな遊女はいないかもしれないが、こんな上玉だったら一発お願いしたいのがいっぱい群がる。確かに群がる。絶対群がる。
「お前、自分が絶品だって分かってる? そんじょそこらの別嬪さんじゃないかんね? それをそんな格好…」
普段ならああ高嶺の花かー、で済むかもしれないが、こんな色町で遊女の格好していたらもしかしたら買えちゃうかもーというバカなのが集まっちゃう。絶対集まっちゃう。だって遊女はどエロいのが普通だもん。
「お前、よくよく外見に拘るな。ぼろを着てても心は錦だろ」
「ぼろじゃないじゃん。なんでその帯前結び?」
本日の絶品さんは赤い襦袢に、緋鯉の泳ぐ黒絹の単を灰銀の帯で締めていた。地味に派手だ。
きっちりと襟を合わせているのはいい。いつもは腹まで見える事があるから。肌の露出はぎりぎりまで抑えていただきたい銀時だ。
ただそうした所で、男が寄って来ないということにはならないのだと、今現実に突きつけられている。この人誑しが。
「後ろだと、あんまり解かれやすいんでまた子が」
「くるくるぺいっか? くるくるぺいってされたんか? どこそいつら? 殺してくる」
「くくく。もう生きちゃいねぇよ」
高杉はおかしそうに口元をゆがめた。
まあそうね。そんな無礼者は自分でやっちゃったか、鬼兵隊にぶち殺されなきゃ駄目ですよね。
「あっそ」
でもできればくるくるぺいってされる前になんとかしてほしい。とっても似合ってて空恐ろしいくらいだが、こんな防衛どころか誘っているようにしか見えない服じゃなくて全身鎧かなんかで覆っていただきたい。
「大体何しにきてんだ?」
「ヅラに言われて、お前の洒落にならないおべべ見に来た」
確かにヅラの言う通り洒落にならない。ほんと有害指定だ。漫倫だ。R20だ。訴えたい。誰か取り締まってぇぇぇ、お願いぃぃぃぃ!
「だから別にこれでいいだろ? お前もきっちり着込んでろっていってたよな、確か」
着込んだとしても、いずれ菖蒲か杜若。
むらむらなのは、変わらないってことだ。
「頼むよ高杉、銀さんどうしたらいいの? これ。押し倒して良い? いいよね?」
「ああ? っ!? 銀時てめぇ!」
高杉は銀時に向かって酒の入った猪口を投げつけたが、遅かった。
「…あっ」
「次は容赦しないって言ったよねー」
このまま攫って尋問しても良かったが、季節を先取りしているとはいえ、初夏を過ぎた菖蒲柄なのに袷に仕立てて着ているという事はまた熱でもあるんだろう。
それなのにこんなところをふらふらさせるとは、鬼兵隊は何を考えているのだ。きっと両替商から出てきたのも悪巧みの一環だろうが。高杉自身ではなくてはならないことなのか。
銀時はむっかりしながらそう思った。
自分が頑健だったからか銀時の覚えている高杉は超がつくほど生意気だったが格段に弱い子供だった。
雨が降るたびに熱を出し、十の頃には大病を患って何ヶ月も臥所から出る事ができなかった。度々休むので学問も遅れがちだったし、剣の腕も鍛えるために熱心に取り組んではいたがちびっ子だったのでリーチが足りず、残念ながらそれほどでもなかった。
己の理想と現実に確かに悶々としていたが、長じて鬼や獣と恐れられる男になろうとは誰も思いはしなかった。
松陽以外は。
どちらかというと、蝶よ花よの風情だったのだ。
(あのままでいればよかったのに)
「銀時?」
長い戦に耐え、今は片目をなくし、体中傷だらけでいまだに血なまぐさい事を続けている。決して強くはなかった。だから少しずつ壊れていく。
「しょうがねーなー。また今度にしてやるよ。お前、また熱があるだろ?」
銀時は高杉の手を握ったまま会計へ動いた。触った指は銀時よりも温かい。酒のせいではなく。
「ああ? ねぇよ」
白粉で洗ったかのように膚はすけるように白かった。わずかに目元だけが赤い。
「嘘です。あります。ほんとは送ってやりてぇけどそれは駄目なんだろ? さっさと帰れ」
「お前が引き止めたんだろ」
むっと高杉は銀時を睨んだ。振り回されるのが気に入らないのだ。本当はどっちが振り回されているのか。
「はいはい。次は容赦しねぇよ?」
銀時は金を払うために、名残惜しい指を離して、手を振った。
俺ってほんと甘ぇなーと思いながら。
高杉は両親や周りの者に溺愛されて育ったが、多分それは銀時も変わらないのだ。
という事があった数日後なんでかヅラがやってきて高杉の事を散々に言い立てて行った。
「奇矯にもほどがある! 俺はもう、開いた口が塞がらなかったぞ。お前からもちょっと言ってやってくれ。どうせ俺の言う事は聞きやせん」
「はあ?」
何を?
もうテロとかヤメろってか?
ジャンプの早売りを読んでいた銀時は訳の分からん事をまくしたてられて意味が分からない。
大体高杉は銀時のいうことだって聞くわけがない。特に攘夷ヤメろとかは絶対に聞かない。あれを止めさせたら…できたらいいのだが…多分高杉は折れる。生きる理由がなくなって死ぬ。今だって息も絶え絶えだ。復讐だけが奴の身を、精神を支えている。
「思想ではない、風体だ! あれではよからぬ男共がざかざか群がるに決まっている!」
「いやまあそうだけど。今に始まった事じゃねぇだろ? 鬼兵隊とか鬼兵隊とか鬼兵隊とか」
「鬼兵隊なんぞ、良からぬうちに入らんわ! あれらは高杉を害する事だけはないからな」
そういえばヅラは昔から鬼兵隊には鷹揚だった。そこが銀時と違う所だ。銀時にしてみれば総督命のあの手足こそがもう邪魔で邪魔で仕方がなかった。高杉と自分の間に立ちはだかる壁だ。もちろんその壁は、銀時以外からも十重二十重に高杉を守っていたから全くの利用価値がなかったとはいえないが。
しかし高杉にはあんな鬼兵隊など作らず、ずっと故郷で奥さんよろしく銀時の帰りを待っていてほしかったなぁと思わぬではなかった。累々たる屍の地獄など見ずに。
「着流しのかわりに女物羽織るくらい傾いてるで済むがあれはない」
「え? 違うの?」
「見てこい。洒落にならん」
行けば分かるとヅラは銀時に高杉の逗留場所をリークした。
そんなんで仲間の攘夷志士の居場所を売っていいのか。
(まあ尋問もまだだし、そろそろ熱も下がったかな)
そう思って、銀時は教えられた妓楼へ上がった。
桂の使いでぇと言って本人自筆の書き付けを見せると見世の者はあっさりと通してくれた。指名手配犯が潜伏してるのにいいのかそんなんで。と思いながら上へ上がると、開いた口が塞がらないといっていたヅラの気持ちが良く分かった。
銀時は思わず、座敷にへたり込みそうになった。
「お前は娼妓かーっ! 一体幾らだオイィィィィ!」
叫んだ銀時に、酒を呑んでいた高杉は婉然と笑って言った。
「こんな片目の遊女がいるか」
そんな遊女はいないかもしれないが、こんな上玉だったら一発お願いしたいのがいっぱい群がる。確かに群がる。絶対群がる。
「お前、自分が絶品だって分かってる? そんじょそこらの別嬪さんじゃないかんね? それをそんな格好…」
普段ならああ高嶺の花かー、で済むかもしれないが、こんな色町で遊女の格好していたらもしかしたら買えちゃうかもーというバカなのが集まっちゃう。絶対集まっちゃう。だって遊女はどエロいのが普通だもん。
「お前、よくよく外見に拘るな。ぼろを着てても心は錦だろ」
「ぼろじゃないじゃん。なんでその帯前結び?」
本日の絶品さんは赤い襦袢に、緋鯉の泳ぐ黒絹の単を灰銀の帯で締めていた。地味に派手だ。
きっちりと襟を合わせているのはいい。いつもは腹まで見える事があるから。肌の露出はぎりぎりまで抑えていただきたい銀時だ。
ただそうした所で、男が寄って来ないということにはならないのだと、今現実に突きつけられている。この人誑しが。
「後ろだと、あんまり解かれやすいんでまた子が」
「くるくるぺいっか? くるくるぺいってされたんか? どこそいつら? 殺してくる」
「くくく。もう生きちゃいねぇよ」
高杉はおかしそうに口元をゆがめた。
まあそうね。そんな無礼者は自分でやっちゃったか、鬼兵隊にぶち殺されなきゃ駄目ですよね。
「あっそ」
でもできればくるくるぺいってされる前になんとかしてほしい。とっても似合ってて空恐ろしいくらいだが、こんな防衛どころか誘っているようにしか見えない服じゃなくて全身鎧かなんかで覆っていただきたい。
「大体何しにきてんだ?」
「ヅラに言われて、お前の洒落にならないおべべ見に来た」
確かにヅラの言う通り洒落にならない。ほんと有害指定だ。漫倫だ。R20だ。訴えたい。誰か取り締まってぇぇぇ、お願いぃぃぃぃ!
「だから別にこれでいいだろ? お前もきっちり着込んでろっていってたよな、確か」
着込んだとしても、いずれ菖蒲か杜若。
むらむらなのは、変わらないってことだ。
「頼むよ高杉、銀さんどうしたらいいの? これ。押し倒して良い? いいよね?」
「ああ? っ!? 銀時てめぇ!」
高杉は銀時に向かって酒の入った猪口を投げつけたが、遅かった。
「…あっ」
「次は容赦しないって言ったよねー」
黒地に緋鯉の着物は、銀さんの白地に流水紋の着流しと対のつもりです。
このおべべの話の元ネタはビスコさんでした。元ネタは以下。
1また子が買ってくる
2花魁服
あざーす!
ビスコさんに捧ぐ。
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新八は実はゴキブリホイホイ的な、何か強力な引力を発しているんじゃないかと思う時がある。
ぱっつぁんを拾ってから、急に物事が進み始めたような気がするからだ。
トラブルメイカーなんだろう。なんとなく疫病神に近いかんじの。まあ神楽と定春は銀時に取り憑いたスーパーボンビーに違いないが。
とにかくこの碌に給料も払えない従業員と一緒にずるずるしてたらば、途端に疎遠だったヅラだの、知り合いなんかになる気もない真撰組の面々と次から次へと腐れ縁づいていてしまったのだった。
そしてあの夏の花火の日、とうとう銀時は高杉にも遭遇した。生存の噂を得てから随分経っていたけれども。
高杉。
万事屋なんかを始めたのはそりゃあ生活のためもあったが、もしかしたら、あいつがこの事務所を訪ねてきやしないかと期待していたからでもあった。
だがとうの高杉ときたら、鬼兵隊粛正の日から消息すら掴めず、半ばその生存を諦めさせられそうなほど、音沙汰がなかった。
その度に何とも言えない無力感が銀時をますますやる気のない無気力なマダオにしていった。
それでもずっと銀時は高杉が現れるのを待っていた。
待っていたのだ。
生きている、と判ったのは新八のゴキブリホイホイ的引力で再会したヅラからだった。
「はーい。ったく誰だ、こんな夜中にってヅラかよ」
「ヅラではない、桂だ! 銀時。お前に言っておく事があった」
こっちはおまえのせいでだいぶ疲れさせられていい迷惑だ。それが別れた日の夜にたずねてくるってどんなKYなんでしょう。と思いながら銀時は面倒くさくいった。
「んだよ?」
「高杉のことだ」
「た…、あいつ、がどうしたって?」
腹をかこうとした手を止めて、銀時は思わず桂の肩をつかんだ。
「無事だったのか!? つか会ったのか?」
生存情報以外は聞かないぞとのろいをこめて銀時は桂をにらんだ。
「ああ生きていた」
生きてた。
銀時は我を忘れてかけた自分に気がついて、そっと桂の肩から手をどけながら、できるだけ何の気もないように言った。幼馴染相手にもう既に全てが遅かっただろうが、少なくとも声は震えなかった。
「何処で?」
「二年ほど前に、実家の座敷牢でな」
「…。とうとうおとーさまにとっつかまったのか」
遅すぎたくらいだ。もっと早くにそうなるべきだった。そうすれば高杉は戦場で朋輩を失わずにすんだだろう。あんなに泣くこともなかったろうし、死に掛けることもなかった。傷を負い、怒り、憎しみをあらわにして、血の雨を浴びずにすんだ。
そうすれば、優しくではないかもしれないが皮肉交じりにでもわらっていたかもしれない。書をしたため楽を爪弾き、高らかに詩を歌い、仕えるべき人に仕え、才を愛され…。
しかし回収されたのならひとまずは安心ということだ。
もう銀時には二度と会えないことを意味していたが。
「よく会えたな」
同じような立場の桂はだが、銀時に比べれば高杉父の覚えはめでたいのかもしれない。どうだろう。松陽門下というだけで警戒されているといえばされているし。
座敷牢で幽閉といえば、普通は面会謝絶だ。
しかし会えたのだとすれば、和解があったということだ。
「勿論本来面会などできないが、医者の助手として入れて貰った」
「どっか悪かったのか」
銀時は顔を顰める。
怪我をしていたか。それとも病で伏していたか。よくあることだ。よくある…。
「野山獄にいれられて衰弱したらしい」
銀時は目を見開いた。
「野山獄」
因縁深いところだ。松陽が最初に入れられた牢だ。松陽はあれでとても変わり者ではっちゃけたところのある人だったから、三回も入牢したことがあるのだった。そこへとうとう高杉も入ったわけか。
「あいつ、喜んでたんじゃねーの」
「それはもう」
桂もそのときばかりは苦笑した。
しかし野山獄か。
つまり高杉は囚われの身だったということだ。幕吏にとっつかまるよりはましとはいえ、松陽のように幕府に引き渡される可能性もなくもなかった。そうなれば、処刑は免れなかったろう。
鬼兵隊は粛清にあっているのだ。
その鬼の頭目が見過ごされるはずがない。
それを実家に移されたというのは、人誑しの高杉が松陽の二の舞となって、死して永遠を生きることを恐れたか。
むろん大切な高杉家の一人息子だ。高杉父が助命嘆願に動いたことは想像に難くない。
それが厳重監視の上の座敷牢。
「野山獄でもそうとう手を煩わせたそうだ」
「きほんわがままな女王さまだからね」
「魔王とか呼ばれてたぞ」
このおかんな桂は野山獄にいたころの高杉のことまで調べたのか。 ご苦労様なことだ。
「何してたの?」
「紙と筆がないからと、指を食い破って壁中に血文字で」
「げえええ」
「それがまた作戦図だったらしく、分からん奴には悪魔と取引してたとか噂になってな。もちろんすぐに紙と筆が差し入れられて」
「相変わらず手段を選ばない子!」
怖い。
あのこ本気で怖い。
「そんなになっても戦う気ですか」
桂はただ笑うばかりだった。
戦うことでしか生きられない。そう思っていたのかも知れない。でも本当はもっと、松陽がいきていれば違う風に生きれたのではないかと銀時はおもわずにはいられない。
思ってみても詮無いことだ。
それに高杉は否定するだろう。
「あいつはおれを認めると」
「ヅラぁ」
「ヅラではない、桂だ! 大丈夫か、高杉」
「ヅラ、おれぁな、野山獄にいたんだぜ…ぇ」
「といってな。別人のようだったが、その時ばかりは昔のあいつでなぁ」
「…バカじゃねーの」
「そうだな」
「ホント、ばかじゃねーの…アイツ」
でも生きてて良かった。生きててくれて、本当に良かった。
銀時は何度もそう思った。
だが同じくらい、果たしてそれが良い事だったのか分からなくなる事があった。高杉は狂っていた。
「元からさ」
高杉ならそう言っただろう。
だが、高杉の言動は常軌を逸して行く。
銀ちゃんはいつも遠くからやきもきしてればいい。
ぱっつぁんを拾ってから、急に物事が進み始めたような気がするからだ。
トラブルメイカーなんだろう。なんとなく疫病神に近いかんじの。まあ神楽と定春は銀時に取り憑いたスーパーボンビーに違いないが。
とにかくこの碌に給料も払えない従業員と一緒にずるずるしてたらば、途端に疎遠だったヅラだの、知り合いなんかになる気もない真撰組の面々と次から次へと腐れ縁づいていてしまったのだった。
そしてあの夏の花火の日、とうとう銀時は高杉にも遭遇した。生存の噂を得てから随分経っていたけれども。
高杉。
万事屋なんかを始めたのはそりゃあ生活のためもあったが、もしかしたら、あいつがこの事務所を訪ねてきやしないかと期待していたからでもあった。
だがとうの高杉ときたら、鬼兵隊粛正の日から消息すら掴めず、半ばその生存を諦めさせられそうなほど、音沙汰がなかった。
その度に何とも言えない無力感が銀時をますますやる気のない無気力なマダオにしていった。
それでもずっと銀時は高杉が現れるのを待っていた。
待っていたのだ。
生きている、と判ったのは新八のゴキブリホイホイ的引力で再会したヅラからだった。
「はーい。ったく誰だ、こんな夜中にってヅラかよ」
「ヅラではない、桂だ! 銀時。お前に言っておく事があった」
こっちはおまえのせいでだいぶ疲れさせられていい迷惑だ。それが別れた日の夜にたずねてくるってどんなKYなんでしょう。と思いながら銀時は面倒くさくいった。
「んだよ?」
「高杉のことだ」
「た…、あいつ、がどうしたって?」
腹をかこうとした手を止めて、銀時は思わず桂の肩をつかんだ。
「無事だったのか!? つか会ったのか?」
生存情報以外は聞かないぞとのろいをこめて銀時は桂をにらんだ。
「ああ生きていた」
生きてた。
銀時は我を忘れてかけた自分に気がついて、そっと桂の肩から手をどけながら、できるだけ何の気もないように言った。幼馴染相手にもう既に全てが遅かっただろうが、少なくとも声は震えなかった。
「何処で?」
「二年ほど前に、実家の座敷牢でな」
「…。とうとうおとーさまにとっつかまったのか」
遅すぎたくらいだ。もっと早くにそうなるべきだった。そうすれば高杉は戦場で朋輩を失わずにすんだだろう。あんなに泣くこともなかったろうし、死に掛けることもなかった。傷を負い、怒り、憎しみをあらわにして、血の雨を浴びずにすんだ。
そうすれば、優しくではないかもしれないが皮肉交じりにでもわらっていたかもしれない。書をしたため楽を爪弾き、高らかに詩を歌い、仕えるべき人に仕え、才を愛され…。
しかし回収されたのならひとまずは安心ということだ。
もう銀時には二度と会えないことを意味していたが。
「よく会えたな」
同じような立場の桂はだが、銀時に比べれば高杉父の覚えはめでたいのかもしれない。どうだろう。松陽門下というだけで警戒されているといえばされているし。
座敷牢で幽閉といえば、普通は面会謝絶だ。
しかし会えたのだとすれば、和解があったということだ。
「勿論本来面会などできないが、医者の助手として入れて貰った」
「どっか悪かったのか」
銀時は顔を顰める。
怪我をしていたか。それとも病で伏していたか。よくあることだ。よくある…。
「野山獄にいれられて衰弱したらしい」
銀時は目を見開いた。
「野山獄」
因縁深いところだ。松陽が最初に入れられた牢だ。松陽はあれでとても変わり者ではっちゃけたところのある人だったから、三回も入牢したことがあるのだった。そこへとうとう高杉も入ったわけか。
「あいつ、喜んでたんじゃねーの」
「それはもう」
桂もそのときばかりは苦笑した。
しかし野山獄か。
つまり高杉は囚われの身だったということだ。幕吏にとっつかまるよりはましとはいえ、松陽のように幕府に引き渡される可能性もなくもなかった。そうなれば、処刑は免れなかったろう。
鬼兵隊は粛清にあっているのだ。
その鬼の頭目が見過ごされるはずがない。
それを実家に移されたというのは、人誑しの高杉が松陽の二の舞となって、死して永遠を生きることを恐れたか。
むろん大切な高杉家の一人息子だ。高杉父が助命嘆願に動いたことは想像に難くない。
それが厳重監視の上の座敷牢。
「野山獄でもそうとう手を煩わせたそうだ」
「きほんわがままな女王さまだからね」
「魔王とか呼ばれてたぞ」
このおかんな桂は野山獄にいたころの高杉のことまで調べたのか。 ご苦労様なことだ。
「何してたの?」
「紙と筆がないからと、指を食い破って壁中に血文字で」
「げえええ」
「それがまた作戦図だったらしく、分からん奴には悪魔と取引してたとか噂になってな。もちろんすぐに紙と筆が差し入れられて」
「相変わらず手段を選ばない子!」
怖い。
あのこ本気で怖い。
「そんなになっても戦う気ですか」
桂はただ笑うばかりだった。
戦うことでしか生きられない。そう思っていたのかも知れない。でも本当はもっと、松陽がいきていれば違う風に生きれたのではないかと銀時はおもわずにはいられない。
思ってみても詮無いことだ。
それに高杉は否定するだろう。
「あいつはおれを認めると」
「ヅラぁ」
「ヅラではない、桂だ! 大丈夫か、高杉」
「ヅラ、おれぁな、野山獄にいたんだぜ…ぇ」
「といってな。別人のようだったが、その時ばかりは昔のあいつでなぁ」
「…バカじゃねーの」
「そうだな」
「ホント、ばかじゃねーの…アイツ」
でも生きてて良かった。生きててくれて、本当に良かった。
銀時は何度もそう思った。
だが同じくらい、果たしてそれが良い事だったのか分からなくなる事があった。高杉は狂っていた。
「元からさ」
高杉ならそう言っただろう。
だが、高杉の言動は常軌を逸して行く。
銀ちゃんはいつも遠くからやきもきしてればいい。
眠りは浅く、短いのが常だというのに、ぐっすりと熟睡した感覚の後、高杉は片目を開く。
目が覚めるとまだ夜みたいで部屋の中は真っ暗だった。
(…?っつーか、ここはどこだ?)
横たわった高杉が横目で見上げると、薄ぼんやりとした板の並びは普段自分が寝泊りしている和室の天井とあまり違和感がなかった。
だけど、上掛けは常日頃使っている羽根布団より明らかに体に重く、窮屈で、そのくせ何故だかひどく懐かしいにおいがした。自分の布団はこんなではない。仮宿の客用布団だってそうだ。まるで戦時中の、あれの布団の中にいるみたいだ。
そう思って高杉はあたりを伺う。
周りに人の気配はなく、しん、と静かだった。
たしか自分は三郎の父親平賀源外の仇討ちを見届けようとしていたはずだ。そこで銀時を見かけてついいたずら心をだして背後から銀時に迫ったのだ。
(銀時)
思ったとおり不愉快な気持ちにしかならなかったが、そのあと。
布団の中でわずかに身じろぎすると、下に敷いていた腕の痺れとともに、思い出ししたかのようにひりひりと鳩尾が痛む。
高杉は銀時に強かにそこを打たれたのだ。最初の拳は避けたけれども。
つまり、情けないことに当身を食らってココに運ばれたってわけだ。
あれがなんのつもりで自分の家の布団の中に高杉を転がしていったのかは分からない。あの頃の習慣でつい風邪でも引かれたら面倒だとでも思ったか。
どちらにしろ銀時はいまここにはいない。
高杉はこうしてはいられないと身を起こそうとした。
「!」
だがやたら窮屈だと思ったのは気のせいではなかった。高杉は半身を起こすことには成功したが、足をとられてもんどりうちそうになった。
縛られている。
(どういうつもりだあいつ!)
真撰組にでも突き出す気か。
だったら自宅になんかつれて来ないだろうと思いながら高杉は銀時の意図が読めないでいる。しかしこうしてはいられない。自分の体に巻かれた縄を確認する。
食い込むほどでもなく、だが緩みのないプロの仕事だ。その上、腕、手首、それに足首と三箇所にわたって縛られていて、関節をはずしても縄ははずせそうにない。従軍中に身につけた技だ。ろくでもないことだけは覚えているらしい。
(刀…)
は、ない。
抜き取られて隠されたか。あれがあればなんとか縄を切れただろうが、銀時の目的が拉致監禁ならそんなものは高杉の眼に入るところにはおいておかないだろう。
そう思って高杉は眉をひそめた。
あれが高杉をさらって閉じ込めてどうするというのだ。
何もなかったように。
死んだ魚のような目でぬるま湯に浸かって、世間が自分という伝説を忘れるのを待っているようなあれが。
銀時は高杉に用などない。
あの頃の自分と繋がる鬼兵隊総督には。
高杉のように腑抜けた奴を見下げて、嫌味の一つでも投げかけてやろうとかそんな風には考えもしない。
もうあれは白夜叉ではないのだ。
だから銀時は自分に会ってもただ面倒なだけだろう。高杉はいまだに血と硝煙と死の只中にある。
そう思って、高杉はひやりすとする。
だがあれは同時に白夜叉の牙をまだ持っている。
ごろごろと転がってふすままで移動すると高杉は両足を上げて、ふすまを開いた。銀時が何を考えているのかは図りかねるが、あれの意図どおりにここに留まるのは本位ではない。
開いた先には居間のような板敷きの広い部屋が広がっていた。ソファーや机がある。刃物の類はみあたらない。高杉は間取りを確認しながら、外に通ずると思われる廊下への扉を開けた。
これも引き戸で良かった。
足で開けると玄関と物置、そして小さな台所が見つかる。
台所なら刃物に事欠かないだろう。そう思いながら、物色するとやはり包丁が見つかった。刀を取り上げることは思い当たったが、包丁を隠すまでには至らなかったようだ。
銀時がばかで助かった。
もちろん、包丁がなければガラスを割って代わりにした。
だが包丁とガラスではずいぶんと効率が違う。高杉は後ろ手に包丁を抜く。歯の角度をあわせるのに少し苦労としたが、だが一度服と縄の間に入れてしまえばあとはざりざりと動かすだけだった。
これなら十分もあれば、腕は自由になりそうだった。
ざりざりざりと不自由な体勢で縄を切っていく。こまめに料理をしているのか、包丁の切れ味は悪くなかった。それでも寄り合わされた縄の繊維を断つのは簡単ではなく、思ったよりは時間がかかった。それでも高杉は両腕にまわされた縄を切ったし、それから後ろ手にくくられていた手首はそのままに、足を通して、体の前へ手を持ってくることに成功する。
足と手とどっちを先に切るか少し考えたが、効率を考えたら足だった。包丁を逆手に持って切れば先ほどよりはずっと簡単に足は自由になった。
(あと少し)
高杉は両足をあわせて、包丁を固定すると手首を出してまたざりざりとはじめた。
階段を上がってくる足音を聞いたのはその時だった。
(銀時!?)
後編のタイトルは白いわんこにしようと思ってます。 銀さんのターンね。
目が覚めるとまだ夜みたいで部屋の中は真っ暗だった。
(…?っつーか、ここはどこだ?)
横たわった高杉が横目で見上げると、薄ぼんやりとした板の並びは普段自分が寝泊りしている和室の天井とあまり違和感がなかった。
だけど、上掛けは常日頃使っている羽根布団より明らかに体に重く、窮屈で、そのくせ何故だかひどく懐かしいにおいがした。自分の布団はこんなではない。仮宿の客用布団だってそうだ。まるで戦時中の、あれの布団の中にいるみたいだ。
そう思って高杉はあたりを伺う。
周りに人の気配はなく、しん、と静かだった。
たしか自分は三郎の父親平賀源外の仇討ちを見届けようとしていたはずだ。そこで銀時を見かけてついいたずら心をだして背後から銀時に迫ったのだ。
(銀時)
思ったとおり不愉快な気持ちにしかならなかったが、そのあと。
布団の中でわずかに身じろぎすると、下に敷いていた腕の痺れとともに、思い出ししたかのようにひりひりと鳩尾が痛む。
高杉は銀時に強かにそこを打たれたのだ。最初の拳は避けたけれども。
つまり、情けないことに当身を食らってココに運ばれたってわけだ。
あれがなんのつもりで自分の家の布団の中に高杉を転がしていったのかは分からない。あの頃の習慣でつい風邪でも引かれたら面倒だとでも思ったか。
どちらにしろ銀時はいまここにはいない。
高杉はこうしてはいられないと身を起こそうとした。
「!」
だがやたら窮屈だと思ったのは気のせいではなかった。高杉は半身を起こすことには成功したが、足をとられてもんどりうちそうになった。
縛られている。
(どういうつもりだあいつ!)
真撰組にでも突き出す気か。
だったら自宅になんかつれて来ないだろうと思いながら高杉は銀時の意図が読めないでいる。しかしこうしてはいられない。自分の体に巻かれた縄を確認する。
食い込むほどでもなく、だが緩みのないプロの仕事だ。その上、腕、手首、それに足首と三箇所にわたって縛られていて、関節をはずしても縄ははずせそうにない。従軍中に身につけた技だ。ろくでもないことだけは覚えているらしい。
(刀…)
は、ない。
抜き取られて隠されたか。あれがあればなんとか縄を切れただろうが、銀時の目的が拉致監禁ならそんなものは高杉の眼に入るところにはおいておかないだろう。
そう思って高杉は眉をひそめた。
あれが高杉をさらって閉じ込めてどうするというのだ。
何もなかったように。
死んだ魚のような目でぬるま湯に浸かって、世間が自分という伝説を忘れるのを待っているようなあれが。
銀時は高杉に用などない。
あの頃の自分と繋がる鬼兵隊総督には。
高杉のように腑抜けた奴を見下げて、嫌味の一つでも投げかけてやろうとかそんな風には考えもしない。
もうあれは白夜叉ではないのだ。
だから銀時は自分に会ってもただ面倒なだけだろう。高杉はいまだに血と硝煙と死の只中にある。
そう思って、高杉はひやりすとする。
だがあれは同時に白夜叉の牙をまだ持っている。
ごろごろと転がってふすままで移動すると高杉は両足を上げて、ふすまを開いた。銀時が何を考えているのかは図りかねるが、あれの意図どおりにここに留まるのは本位ではない。
開いた先には居間のような板敷きの広い部屋が広がっていた。ソファーや机がある。刃物の類はみあたらない。高杉は間取りを確認しながら、外に通ずると思われる廊下への扉を開けた。
これも引き戸で良かった。
足で開けると玄関と物置、そして小さな台所が見つかる。
台所なら刃物に事欠かないだろう。そう思いながら、物色するとやはり包丁が見つかった。刀を取り上げることは思い当たったが、包丁を隠すまでには至らなかったようだ。
銀時がばかで助かった。
もちろん、包丁がなければガラスを割って代わりにした。
だが包丁とガラスではずいぶんと効率が違う。高杉は後ろ手に包丁を抜く。歯の角度をあわせるのに少し苦労としたが、だが一度服と縄の間に入れてしまえばあとはざりざりと動かすだけだった。
これなら十分もあれば、腕は自由になりそうだった。
ざりざりざりと不自由な体勢で縄を切っていく。こまめに料理をしているのか、包丁の切れ味は悪くなかった。それでも寄り合わされた縄の繊維を断つのは簡単ではなく、思ったよりは時間がかかった。それでも高杉は両腕にまわされた縄を切ったし、それから後ろ手にくくられていた手首はそのままに、足を通して、体の前へ手を持ってくることに成功する。
足と手とどっちを先に切るか少し考えたが、効率を考えたら足だった。包丁を逆手に持って切れば先ほどよりはずっと簡単に足は自由になった。
(あと少し)
高杉は両足をあわせて、包丁を固定すると手首を出してまたざりざりとはじめた。
階段を上がってくる足音を聞いたのはその時だった。
(銀時!?)
後編のタイトルは白いわんこにしようと思ってます。 銀さんのターンね。