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 目を開けると暗かった。まだ夜だ。しかし、いつの夜だろう。眠ってからどれくらい経っているのか、高杉には分からなかった。
 そういえば、今がいつかも知らなかった。
 八重桜が終わろうという頃だとしか。
「…?」
 起きていられる時間は短い。例え真夜中だろうが、目覚めたら、できるだけ体を動かさなければならない。でなければ四肢が萎えてしまう。
(それから何だったか、)
 高杉は病人心得を思い出す。
 水分を多くとり、通常の食事をし、体を清潔に。
(そういや風呂入ってねぇ)
 そう思って身を起こそうとした高杉は、体が重くてほとんど動かせない事に気付く。そしてその原因にも。
 別に術後が思わしくないとかそんな話ではなく、同じ布団に銀時が抱きついて寝ていたのだ。
 高杉は片腕を銀時の拘束から抜き放つと、叶う限り痛みを与えられる角度でべしっと叩いた。
「、でっ」
 しかしそれくらいでは寝穢い銀時は起きなかった。ので、高杉はべしっべしっと何度かそれを繰り返さなければならなかった。
「痛い痛い痛い! 晋ちゃん、痛ぇって!」
 高杉の攻撃を避けようとしてやっと銀時の拘束が外れる。高杉は身を起こしながら言った。
「痛くしてんだよ! いい加減離しやがれ! 大体てめーなんで人の布団の中にいんだ?」
「新婚だから」
 イラッとする。
 何でもかんでも新婚でまかり通ると思ってるのか。それに新婚じゃなくなったら布団は別なのか、とかいろいろ思ったが、取りあえず言いはしなかった。
 やっぱり一緒に寝ていいんじゃん、ということになりかねない。沈黙は金だ。
 だから高杉は握った拳の、間接の出たところで銀時をばかりと殴った。
 いつもいらないことには雄弁な銀時は高杉の抗議にべらべらと反論を始める。
「ケチ。だって、こんなに大きいんだぜ? 夫婦布団なみに広いんだから使わなきゃ勿体ないじゃねーか。常に寄り添いたい俺の気持ちを分かれよ。つーか、高杉よぉ。これで誰かと寝てたんじゃねぇよな」
 銀時は高杉の羽布団が何故大きいのか、とそこの所が気になるらしい。自分が潜り込むのはいいが他人が潜り込むのは駄目なのだ。相変わらず了見が狭い。懐は割と広いのに。
「ああ?」
「ホントに一人で使ってた? なんか銀さん横に寝たらするっとこうすり寄ってきて鼻血でそうだったんですけど。可愛くて。まさか他のとそんなことしてないよね?」
 面倒くせぇ。
 高杉は起こした半身が脱力するのを止められなかった。
「ちょっと何黙ってんの! そこはすぐに否定するとこじゃないの! 銀さん泣いちゃうよ!? 高杉?」
 ああもう心底めんどくさい。
 否定するのも面倒いし、といって肯定して嘘をつく気力もそがれて高杉はぼすっと起こしていた体を横たえる。「疲れた」
 こんなんで風呂までたどり着けるのだろうか。と思いながら高杉は目を閉じながら言うと銀時が慌てた気配がする。
 布団の上に座り直して、高杉の首の下に手を入れると自分の膝の上に乗せて、高杉を覗き込む。
「どこか痛ぇのか? 具合悪い? 熱は…ねぇな。つかつめてぇ」
 手を握りながら額をくっつけて熱を測った。高杉はもう何度目になるか分からない拳でぼすっと銀時のテンパ頭を突いた。
「疲れただけだっつっただろ。んな顔すんな」
疲れた、と聞いただけでいちいちこんな反応をされては思った事も言えなくなる。
「高杉手が冷てぇ」
 だから、熱はない。雪火のウィルスも死滅したはずだ。だから高杉は新八も出入りする万事屋に引き取られたのだ。
「ああ」
 銀時の手が温かい。それは元の体温に戻ったという事だ。雪火の最中は銀時の手は冷たくて気持ちがよかった。今はやはり温かくて安心する。
「本当に平気なのか? 我慢してねぇ?」
「してねぇ。怠ぃし、眠ぃけど、そりゃいつもそうだしな」
「眠ぃんだ?」
「そういう薬だろ」
 副作用で脳の一部が麻痺して正常に働かない。脳は常に眠れと言うサインを出し続けている。
「でも今覚醒期じゃねぇの」
「覚醒期でも眠いんだよ。いつだって眠れるくらいにはな。副作用で死ぬのは、目ぇ開けたくないからかもしれねぇな」
「起きたくないってか?」
「見る夢が、悪夢なら良かったのにな」
 そしたらほとんどの者は飛び起きただろう。しかし生存率は五分五分だった。
「ふーん。違うんだ? いい夢?」
「ああ、多分な」
 昔の夢。
 高杉が狂おしく恋うた者たちは残らずその夢の中にいる。だけどそこには銀時はいなかった。
 高杉が目を覚ます度、高杉を失わずに済んだ事を喜んでいた銀時は。
 高杉が死んだらどうなるのだろう。想像したら苦しくなって、銀時をおいては逝けないと強く思ったから、高杉は目を開ける事ができているのだと思う。高杉が手を離しても、今まで通り銀時は銀時なりに生きて行けるとは分かっていても。
 高杉にとっての銀時のような、そういう存在がいない者が死ぬのだろう。この世に何の未練も無く、希望も持たず、執着する者もいない人々は、簡単に自分に優しい夢に絡み取られ、永遠の眠りにつく。
「痛い! 痛い痛い何すんの! 禿げる! 男の髪は繊細なの! 暴力反対!」
 黙った銀時に高杉は繋がれなかった左手を挙げて、銀髪をひっぱった。
「表情がねぇぞ銀時。てめぇがそういう顔してる時ってのはどうせ禄でもねぇ事考えてんだよ」
「別に。先生元気? って思っただけだもーん。やきもちじゃないから。まだ完全に 先生にとられたわけじゃないから! 高杉は俺の!」
 やっぱ焼いてんじゃねぇか。ほんとくだらねぇ。
「信じる信じないはてめぇの勝手だがなぁ、銀時」
「うん」
 高杉は引っ張っていた銀髪をそっと離すと、ついでのようにその手を銀時の首に絡めた。
「俺の男はてめぇ一人だ」
 少しだけ頭を持ち上げて高杉はたぐり寄せた銀時の口を吸った。
 高杉、とたくさん名前を呼ばれた。いいながら、銀時は高杉の顔一面余す所無く口づける。
「晋、晋ちゃん、好き」
 そんな事は知っている。分かっていないのは銀時の方だろう。ただそれは高杉が伝えていなかったのが悪いのかもしれない。そう思うようにもなっていた。
 始終言われていた高杉だって、半ばなかったことにしていた。すれ違いは、会わなかった年月の分だけおこったわけではなかった。
 隔たっていたのは、互いの心が見えずにいたからだ。
 そういう意味では高杉は未だ銀時にちゃんといってない。言わなくても分かれと幼なじみの間柄にあぐらを掻いている。始めた逢った日から、もう二十年にもなろうとしているのに。
 毎日飽きるほど共に過ごした子供時分でもない。言わなくても伝わるほどの時間は薄くなってしまった。これから、また銀時と過ごす時間が増えるにしても、二人は言葉にしなければ伝わらない、大人になってしまったのだ。
 子供でもなく、大人にもなりきれず、若い頃にはそんなことも分からなかった。 
「…っ、」
 そんなふうに思いながら、高杉は、気持ちいいので銀時のしたいようにさせていた。
 首筋にまで顔を埋めて、吸い付かれるまで。
「そこまでにしろ」
 高杉はわずかに身をよじって、銀時のジンベエの襟を引っ張って、銀時を引き離そうとした。
「ん〜、もうちっと。つーかしたい」
「無茶言うな」
「分かってるって。だから早く治せよ。いつまで経っても初夜ができねぇ」
 初夜とか言うな、あほめ。処女を抱くわけでもあるまいし、間が空いた事は否めないが、それでも飽きるほどしたんじゃないのかよと思わないでもなかったが、銀時のきもちも分かる。
 要するにまだ不安なのだ。
 高杉の覚醒期はまだ一時間にはまだ遠く、三十分も起きてはいられない。このまま、ずっとここで銀時の望むように高杉が生きて行くと言う確信が無いのだ。
 それは高杉にとっても同じ事だったが。
 まだ迷ってる。
 このままここにいていいのか。
 銀時を受けいれて、希望を持たせていいものか。
「ってどこいくの?」
「水と風呂」
 そう告げると、さっと銀時がグラスに水をみたして寄越した。
「風呂は銀さんが入れてやったからだいじょーぶ。風邪引かないようにちゃんと髪も乾かした。偉いだろ?」
 どおりで髪も体もべたつかないと思った。拭かれているのだとは思ったが。
 ほんとうにどうしたものだろう。
 こんなに尽くされて。
 返すものが高杉には無い。あるにあるが、きっとそれは銀時の欲しいものではないと分かっていた。
 銀時はただ、ずっと高杉にここにいてほしいのだ。本当に高杉は銀時にそうしてやる事ができるだろうか。
分からない。
 高杉はあまりにも長く戦い続け、今も戦闘は続いている。命の続く限り、そこにいると決めていた。今更翻意もないだろうと思う。この命は銀時にもらったものだとも分かっていたが。そう簡単に、思い切れるものでもなかった。
 幕府は倒れた。しかし世界はまだ存続している。
 世界の破滅を誰も望んではいない事を知ってはいたが、その夢についてきた者も確かにいるのだ。今も。
「…。何にもしてねぇだろうな?」
「キスしながら、抜かせて貰ったけど」
 一体それのどこが偉いのだ。まあ尽くしてもらっているのは疑い用の無い事実なのだが。逡巡した自分がばかみたいだ。
「…。…」
 今更裸をみられたからって何とも思わないが、じゃあしなくてもいいだろう。と思った高杉は、銀時の膝枕から無言で降りた。
 銀時に使われていた枕を取り戻してその上に頭をのせる。
「もう寝るのか? まだ十分も経ってねぇよ。ほら、銀さんともっと話そうぜ」
「何を?」
「何でも。何かしてほしい事とか足りないものとかあるか?」
「じゃあ俺の刀、床の間に飾っておくんじゃなくて、手の届く所に置いといてくれ」
 遠慮なく高杉は注文を付けた。長年の習慣とはいえ、用心にこしたことはない。
「ん」
 それから銀時の話も聞いた。大体誰かが、万事屋に詰めている事。でも万事屋の仕事がないわけではない。目覚めて誰もいなくても、風呂は好きに使っていいとか、でも多分夜には勝手に銀時がいれるから、とか。冷蔵庫に飯が用意してあって、困った事が有れば銀の携帯やヅラでもまた子でも呼びつければいいこと、下にも大家やその従業員がいるから心配しなくてもいいとか、そんな話だった。
 別に心配などはしていなかったが、うとうとしながら、銀時に髪をすかれ、聞いてはいた。
そこに確かに幸福を感じながら。










入浴初夜遍のつもりで書いたのに入浴も初夜もしてないっつーね。エロ入れようとすると途端に遅くなるよう。
この後、お掃除後退編の次にお誕生日編をやりたい所存。
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