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 金時はかぶき町ホストクラブ某店のナンバーワンホストである。しかしそれだけではない。中国系マフィアの頭でホストクラブのオーナである神楽とツーカーで、護衛や裏取引に一枚も二枚も噛むことがあった。
 もちろんそれは本業ではないので、他にテキトーな人間がいないからと神楽にお願いされて、やっていることだった。
 だから正式にマフィアの構成員とかではない。神楽は神楽で部下を動かして組織の名前が出ては困る、という時に、金時というグレーゾーンの人間をキープしておく方が都合がよいのだ。
 そんな二人は今香港にきている。
「部下ときても面白くも何ともないアル。むすっとしてるだけアルからな」
 ホストの仕事の一つとして、金時もよく上客の旅行に同行し接待するけれども、そんなようなものだ。ただ神楽はオーナーなので金時のスケジュールを空けさせるのがお客さまよりも簡単というだけのことだ。
「それにしても、オークションねぇ」
「今はマイケル・ジャクソン関連が投機筋でも人気アルな。もちろんわたしはそんな流行ものはいらないアル」
 神楽は日本の演歌をこよなく愛しているので、どうせ手に入れるなら同じ芸能人でもはるみと同じ振り袖を手に入れてカラオケの方が嬉しいだろう。金時は神楽のそいういう庶民臭い所が気に入っている。気がつくとはすっぱに酢昆布銜えている所とか。
「なんか目当てのものでもあんのか?」
 金時はオークションが始まるまで待たされている間に、参加者に振る舞われているシャンパンを神楽にすすめながら聞いた。
 神楽はそれまでぱらぱらとめくっていたカタログを閉じて、シャンパンと交換する。
「何かあれば落札するのも退屈しのぎにはいいアルが、目的はオークションが引けた後のパーティでの商談ね」
「神楽自らお話しなきゃならないほどのお人なのね」
 神楽の隣に座った金時はカタログを流し見ながらいう。場所柄中国風の古美術が多いようだ。自分の身長よりも高い壷なんかは金時などが見ても価値も良さも分からない。
 まだ料理の盛りつけや花瓶に使えそうな雰囲気のものなら好き嫌いも言えようが。そういうわけで早々にカタログから目を離す。
「そう、もうね、代理人じゃ話にならないアル。足取りは掴めないわ、やっとのことで接触したらおちょくられて泣きながら帰ってくるわ、まるで金ちゃんのように始末に負えないね!」
「何それ誉めてんの?」
「そんなわけアルか。ところで金ちゃん、なんか欲しいものないアルか? ただ見ててもつまんないアル。何か買えよ」
 自腹でか。
 車でも買い直した方がまだましかもしれないと思いながら、金時たちはオークション会場へ招き入れられ、そのまま次から次へと競売が行われるのを見送った。
 枯山水に混じって、日本画があったり、洋画、書の類いもある。アンティークの宝石も。
 神楽は翡翠の細工を一つ落札し、金時は買う気もなかったのに日本刀を一振り、入手した。
 売り出されたものの中で一番善し悪しが分かるのがこれだ。金時は銀八のように剣道を嗜んだりはしなかったが、神楽に関わるようになって日本刀の取扱いを覚えた。銀八よりもずっと実践に触れていると言っていい。
 その金時が見てもいい一品だった。鞘も鍔も柄の拵えも。勿論こうしたものは気に入らなければ幾らでも作り替えられる。最も重きを置かれるのは刀身なのだ。
 刃紋は波のようにみえる互の目。
 その上、売り手が提示した条件もまたふるっていた。
 実際に使用すること。
 日本刀を産する日本でさえ刀の所持が許されるのは古美術品としてだった。海外ではさらに、鑑賞の対象として愛でられているだけで実際に振るえる者は少ない。一部の居合道の達人だけだ。剣道でさえ竹刀、もしくは木刀で行われるのだ。
(ま、例外は何処の世界にもいるもんだ)
 やーさんだったら実際に段平振り回したりもあるだろう。そういう輩とも立ち回る万事屋晋ちゃんの獲物も日本刀だ。丸腰が危ない時には金時もこれを使おう。晋ちゃんのお土産にしてもいいしなどと金時は考えていた。
「いたアル」
 品物の受け渡しの書類が整うまで、という体裁のパーティ会場に通された神楽は早速今日の交渉相手を見つけたようだ。
「お前が鬼兵堂主人アルな」
 かつかつと音を立てて近づいた神楽が話しかけた相手は晋ちゃんだった。
(あれ、こんなこと前にもあったような…)
 また晋ちゃんのドッペルゲンガー見ちったよ。おれ最近疲れてんのかな。世界にはそっくりな人間が三人いるって言うけどどうなの? 世間って狭いんですか? と思いながら金時は神楽の背後に控える。
「それがどうしたぃ? お嬢ちゃん」
 彼は煙管を吹かし、派手な着流しを身に着けるという非常に古風な出で立ちだった。
「お前のルートで流してほしいものがあるアル」
 晋ちゃんも片袖抜いた着流しを引っ掛ける、という一風変わったスタイルだが、異国にあって彼はそれ以上に独特だった。ドレスコードのあるオークションでは民族衣装の正装と見なされたのだろうが、普通これは略礼装とも認められない。色んな意味で度胸がある。
「へえ? おれは一介の古美術商だ。お門違いってもんじゃねぇか?」
 鬼兵堂主人と呼ばれた晋ちゃんそっくりの青年は、ふうっと煙を吐いてそういった。
 う〜ん、こっちは晋ちゃんより気怠い感じで更に退廃的だなぁと金時は思った。まあ眼光鋭く油断ならなそうなところは一緒なんだけどな、と。
 この人も晋ちゃんと関わりがあるんだろうか。他人のそら似と言うには似すぎている。銀八と一緒にいたあの子…確か高杉と言ったっけ…晋ちゃんの血縁みたいだったけど。実際どういう関係なのかは金時には分からずじまいだ。
 守秘義務があるといってたから銀八の高校の生徒だろうとあたりをつけてこっそり涙ぐましく張ったこともあるのだが。銀八のガードが堅いのか、他の生徒が帰宅する時間帯には学校から出てこなかった。そうこうするうちに金時も出勤時間になるし、結局高杉君から晋ちゃんについて聞く機会はえられていない。
 晋ちゃんは何一つ教えてくれない。名前さえも。性感帯だって隠そうとして我慢してくれちゃってさぁ。
 さてこの人は愛しい晋ちゃんについて金時に情報をくれるだろうか?



 銀八は一緒に暮らそうというが、高杉はなかなか踏み切れないでいる。マンションを引き払ったって二人一緒なら生活できないわけじゃない。バイトと奨学金でなんとかなるくらいのことは高杉にだって分かっている。
 ただあの家は高杉には少し特別なのだった。
 母が死んだ後、暫く高杉は祖父の後妻である血のつながらない祖母に預けられていた。彼女の一人息子である叔父はほとんど日本にいなかったし、同じように身寄りのない従兄もまだ学生だった。しかしその祖母も50歳を前に死んでしまったのだ。
 流石に落ち込んだ。どこまで縁が薄いのかと思って。
 その葬式の席だった。
「身内がすくねぇ者同士が結婚するとこうなるんだ」
 高杉同様彼女と直接血の繋がらない従兄と喪主である叔父と一緒に遺影と位牌、遺骨を持てば、高杉家の血縁では棺を運ぶ男手もない。ばあちゃんの実家ももうないに等しく葬式に呼べるほどの親戚はいなかった。結局葬儀屋のスタッフに手伝ってもらいながら霊柩車へと送る。
「お前早く結婚しろよ」
 四親等の親戚はたった三人。その中で一番年長の叔父もまだ二十代の独身だった。
「順番で言ったらあんたが先だろうが」
「おれに家庭なんかもてるわきゃねぇだろうが」
「そっくり返すぜ」
 二人は同じ車の中でそういい合っていた。
「それより当面の問題は晋助だよな。まだ中坊だし、俺と住むんでいいだろ」
 従兄は叔父と高杉の両方を見ながら言う。
「まあ、俺はほとんどこっちにいねぇからな。金は今まで通り俺が持つから晋助がいいならそうするしかねぇ。流石に俺のとこで引き取るにはまだちっせぇよな。ほとんど一人暮らしさせることになるし」
「俺はどっちでも…」
 従兄が高校のころから叔父の留守宅でほとんど一人暮らしをしていたことをばあちゃんから聞いて知っていた高杉はそう答えた。
 しかし二人は高校生ならともかくまだ中学生には同居の保護者が必要なんじゃないのかよくわからんけど、義務教育的にという考えだった。
 そもそも高杉の母が死んだ時も叔父が面倒みなければならないところ、ばあちゃんに預けたのだってそういう理由からだった。
 あんまり面倒はかけたくないから、一人暮らしでもいいんだけどな、と高杉が思っていたが、どちらにしろ、保護者になるのだ。判子とか必要なことをしてもらわなければならない。傍にいた方がいいのかもしれない。
 しかし血が繋がっているとはいえ離れて暮らしていた親戚と暮らすのは気が重い。ばあちゃんとの生活に慣れるのも時間がかかった高杉だ。
 高杉がそんなことをつらつら考えている隙に年長者の相談はどんどん進む。
「じゃあそういう事にするとして、お前んちじゃ手狭だろ。家でも買うか」
そして何故だかもの凄い方向へ転換して行く。
「いいんじゃねぇの。俺とあんたの賃貸引き払えばそっちの方が安くつく」
「ああ、面倒もねぇし」
「え?」
 面倒ないのか? ていうか家ってそんなに簡単に買えるもんなのか。それって若い二人が中学生の面倒を経済的に見ている上に手に入れられるものか? 友達の親なんかローン返すのにもの凄く大変でドラマのご家庭だってヒーヒー言ってるぞ。
 と高杉が戸惑っているうちにどんどん進む。 
「戸建てなら和風がいい」
「誰が掃除するんだ。マンションにしろ」
「じゃあペット可のところ。晋助が飼うかもしれねぇし」
 俺が飼うのか?
 犬とか猫?
 いや、動物は嫌いではないと思うが、多分飼えば可愛いし。飼った事ないけど。
「いや、飼わねぇって」
 でも欲しいと思った事はないのでそう告げた。
「何だよ、飼えよ」
 叔父は自分が飼いたいのかもしれない。ただ海外暮らしだし、本人は喘息なのでペットなど飼えるはずもない。
「じゃあ適当な所探しとく」
「ローンは組めねぇから一括で買えるとこな」
 叔父はそういって物件探しは従兄に任せて、また高杉の与り知らぬ場所へ行ってしまった。
 ばあちゃんの家を引き払って、3人分の引っ越しをするのは面倒だったが、そういうわけで叔父と従兄が話し合って用意してくれた今の家が、高杉は好きだ。
マンション自体の住み心地というよりは、高杉のために買ってくれた、というのが嬉しいのだと思う。はじめて自分の家だと思える場所。
 その方が便利だからそうなったのだとしても、契機はやはり高杉を思ってしてくれたことだから。



 夏休みを利用して海外へ出かけて行く人間が多い反面、帰国する人間も途切れはしない。
 弁護士をしている銀時はそうして久しぶりに日本へ戻ってくる想い人を迎えに、入国ゲートの出口で彼が出て来るのを待っていた。
「お帰りなさい」
 ファーストクラスだから定刻からあまり経たないうちに現れる。派手な着流しで荷物一つ持たずに。銀時を見て美しい顔をしかめるのもいつも通りだった。
 銀時は構わず彼を腕におさめた。こんな風に腕に囲い込むのは久しぶりだ。海外を転々として中々帰ってこないこの人に、しびれを切らして会いに行った、5月のシンガポール以来のことである。
「よせ、」
 あの時もこの人はこんな顔で嫌がってみせた。そんなことをされればされるだけ、銀時は燃える質なのに可愛いらしいことだ。
「銀時と呼んでくれるなら、離してあげましょう。今だけね」
 しかし彼の甘い声で名前を呼ばれる前に品のない声で銀時の名前を呼んだ者がいた。
「げっ銀時」
「やあ、金時君。相変わらずホスト業に勤しんでますか?」
 どうやら金時も帰国者のようだった。ほとんど同時に出てきたと言う事は同じ便だったのかもしれない。危険だ、とそう銀時は思う。銀八も金時も気位の高い面倒そうな人間は避ける嫌いがある。だがそれが本物なら別だ。
 世の中には何もかも投げ打っても構わないと思わせる人間がいる。彼のように。その彼と一緒で大丈夫だったろうか。銀時でさえ一目で惹かれたこの独特な存在に気付かなかったはずはない。
 香港から戻ってきたならそう何時間も乗っていたはずもないが、腕の中の彼は心なしか疲れているような気がする。
「ってそれ」
 金時は銀時の彼を指差していう。
「それ?」
 銀時はにこやかに聞き直した。銀時の面倒臭さを知っている金時は素早く言い直す。
「その人お前の知り合いかよ? 名前も教えてくれねぇんだけど」
 名前など記号でしかない、というのが彼の持論だ。高杉晋助。高杉家はこれまでも何人もの彼と同じ名前の人間を輩出してきた。そんな家に生まれれば名前に執着をなくしても仕方がないのかもしれないと銀時は思う。
 最も高杉家に生まれた男子の全員がその名を持つわけではない。彼の法定相続人に指定されている二人の名前を知って分かったことだ。
そこにどんな意味があるのかまでは知らない。彼の言う通り記号のようなもので意味 などないのかもしれない。
 しかしそれだけで名を明らかにしなかったわけではないだろう。銀時とそっくりな金時を見て警戒したのだろう。正しい判断だ。
 金時が一瞬うらやましそうな顔をしたのを銀時は見逃さなかった。心配は杞憂ではない。一見外見しか似ていないような銀時と金時だが、銀八を含めて中身もかなり似通っている。厄介な事に好みのタイプも同じらしい。
「そうですか。良かったですね。私も教えませんよ。いらないちょっかい出されたら困りますし、守秘義務がありますから。あ、でも結婚式には呼んであげます。可愛い身内ですから」
「あれ? これデジャブ? 銀八にも似たような事言われた気がする」
「坂田、銀八…」
視線が外されたのをいいことに、回された腕を解こうとしていた彼がそっと言う。
「銀八まで知ってんの?」
「会わせたことありませんけど」
 そういえば彼の被保護者は今はもう高校生だ。もしかしたら銀八の生徒なのかもしれない。あのころはまだ中学生だったはずだが。
 これはうかうかしていられない。彼が年に二、三回でもまだ日本へ帰って来るのは「晋助君」がいたからだ。しかし晋助君が自活できるようになったらこれまで以上に会えなくなるに違いない。
 ただでさえ、恋人というにはまだつなぎ止めきれていない。銀時は彼の遺言の執行者。様々な法的手続きの為の契約も結び、事件があったなら弁護することになってはいたが、それだって本当に必要とされるか分かったものではない。彼が弁護士が必要になるほどの窮地に陥ったりするだろうか?
 初めて会った時も、彼自身に何かがあったわけではない。
 ただ彼の崇拝者である岡田以蔵の弁護をしてくれというものだった。
「誰にもあなたを触らせはしませんけどね」
 未だに帰国の日程なども教えてくれないつれない人。それでも銀時が彼の動向を知る事ができるのはとある筋に調べてもらっているからだ。早く銀時のものになってほしい。少なくともスケジュールくらいは把握し合える中になりたいものだ。
 そう。本物の恋人に。そうした願いと決意をこめて言うと、彼は爆弾発言をする。
「くくく。てめーらん中じゃあいつが一番うまくやってるがな」
「「何を!?」」



 夏休み。けれども月給をもらっている教師は毎日学校へ行かなければならない。来学期の授業計画は毎年似たような感じで乗り越えるとして、国語科研究会とか研修出張とかはこの休みを利用しないとならなかったりそこそこ忙しい。それに三年担当は進路についても悩まなくてはならない。夏は受験の天王山。ほとんどの子供たちが塾通いをしているけれども一応受験対策の夏期講習もあるのだった。
 それでも現国の銀時はまだ一週間だけの小論文対策で済んでいたが英語と数学は時間数も多ければ期間も長い。
 なので、高杉と会えるのも土日や夜だけだ。
 学期中よりも愛を確かめ合う日が少ない。
 本気であり得ない。かっさらって北海道にでも避暑に行きたい。金時がETCつけたっていってたから車ぶんどって軽井沢でもいい。
 それなのに高杉ときたら叔父が帰国したのでお泊まりできないという。え〜、である。まじでー? だ。もう本とあり得ない。と思いながらも銀時ははっとする。ある意味これはチャンスだと思った。
「家庭訪問?」
「いやいや、というより個人的にご挨拶したいんだよね。ほら交際するにしても保護者の同意があるとないとじゃ大分違うし、一応高杉未成年な訳だし」
「ああ、青少年保護育成条例とかな」
「いや、当人同士まじめに真剣に愛し合ってるからそこはクリアしてんだけどね!」
 まじめに真剣に愛し合ってるのか、そこは固定なのかと思いながら、反論する確かな根拠もないので高杉はいつものように銀八の戯言を流す。
「じゃあ別にいいじゃん」
 同意も何も、従兄は銀八と付き合ってる事は把握しているし、もしも深夜に二人で出歩いていても銀八は大人で教師だから警察も補導なんか出来ないし、援交疑われても小遣いなんて貰ってないし、その上保護者に電話されても、ああ、おれの許可あるからって従兄は言うに決まっている。警察嫌いだし。
「でも一応叔父さんも帰ってきてるんだろ。二人まとめて筋を通しておきたいんだよね。お泊まりしてもらってるし、旅行とか連れ出してるし」
 叔父に話を通しても別に何もならないだろう。どっちかというとなんか余計なトラブルに巻き込まれるような気もする。しかしまあ銀八がここまでいってるし、変態でも仮にも教師だ。生徒に手を出してそのままってわけにもいかないんだろう。
「…。…聞いてみるけど」
 と言うわけで、銀八宅のお泊まりを回避した高杉は、代わりに銀八にお願いされて帰宅した。
「ただいまー」
「おう、お帰り」
 叔父は高杉が出かけた夕刻と変わらぬ様子で、リビングに面した和室の戸を全開にしたまま、畳の上に転がっている。
 香港から帰ってきたので、勿論時差ぼけのはずもなく、ただ何でか疲れているだけだ。からだが弱いせいかと思うが、大抵帰ってくると最初のうちはこうしてただごろごろしてほとんど動かない。
 もう少し日が経つと、高杉や従兄と連れだって食事にいくぞとか、従兄や高杉の本を読むとか、従業員に任せっきりの武器屋…刀剣販売店というらしい…に顔を出したりそれなりに動き始めるのだが。
「飯なに食うか考えた?」
 そう聞くと叔父はごろりと起き上がって言う。
「今日は寿司取ろう。電話してくれ」
「分かった」
 あ〜、それは楽でいいやと高杉も賛成する。
 同居人の中で一番まともな飯を作るのが実は高杉だ。しかしそれだって銀八よりは拙い。
「何? お任せ?」
 高杉は寿司屋の広告を見せながら聞く。
「お前は?」
「ちらし」
 とか言っている間に従兄も帰ってきた。叔父がいる間は揃ってから飯なので時間的にぴったりだ。玄関まで寿司の話が聞こえていたのか、入ってきて最初の言葉が
「おれ特上」
 だった。
「おう、おかえり」
「あんた何にすんの? ツブは店行かないと食えねーよ」
「じゃあ江戸前づくし」
 高杉が電話をしている間に叔父は珍しく自分で煎茶を煎れてくれた。そして
「そういや、晋助がなんか話があるみてぇだ」
 などと言う。何で分かるんだろうと思いながら高杉はコードレスフォンを置くと、寿司で半分忘れかけていた話をする。
「なんか、銀八が挨拶したいって」
 二人とも揃ったから丁度いい。
「何だお前らもう結婚するのか?」
 叔父同様かなり奔放な自由人の従兄がそんな事を聞く。一足飛びにどうしてそうなるのか。 
「しねぇよ。つかできねぇだろ」
 それを受けて、日本人離れした見識を持つ叔父は暢気に言う。
「結構あちこちでできるようになってるけどなぁ、アメリカとか。日本はまだなのか」
 高杉が銀八みたいなのと付き合えてるのって、絶対この人たちに慣れてたからだと思う高杉だった。



「高杉君をおれにください」
 出かけんのが面倒だからじゃあ家に来い、ということで、マンションに入れてもらった銀八は、リビングの床の上に正座してソファーに座る二人の保護者に三つ指付いてお願いした。
「何言ってんだよ、銀八」
 コーヒーにすると砂糖の消費がもの凄くなるのでお茶をだそうとしていた晋助が手元を誤りそうになった。
「なんだやっぱ、結婚するんじゃねぇか」
「やるな、晋助。十八にして婚約か」
 保護者二人が動じないのは何でだろう。少し、くらっとする高杉だった。
「いや、しねぇから! しかもなんで受け入れる方向!?」
「「まだいいって言ってねぇけど?」」
「あっ、そう」
 ならいいんだけど。っていいのか?
 なんだかわけが分からなくなりながら、ようやく高杉は煎茶を大人たちの前に出す事が出来た。
「でもどうしても欲しいんですけど。卒業までは待ちますから、そしたら同棲させてください、高杉さんたち」
 しかし高杉の精神力を削る話はまだ続く。
「あー」
「んー」
「考えるまでもねぇんじゃねぇの?」
「晋ちゃんひどっ。俺と一緒に暮らしてくれねぇの? 二人で生きて行こうよ」
「そうだな、まずお前はどうしてぇんだ?」
「こいつに貰われてっていいのか?」
 犬猫じゃないんだから。貰うの貰われるのじゃないと高杉は思う。いや、一緒なのかと思いながら高杉は自分の思う所を述べた。正直迷っている。
「いや、別に。おれ今の生活に不満はねぇよ。ここも好きだし」
「先生も好き、と。欲張りだな」
 そこまではっきりとは言ってないと思いながら、まあ迷うと言う事はそういうことだ。否定するのも銀八が可哀想だしと思って黙っていると叔父がとんでもない事を言い出した。
「じゃあここはお前にやるから二人で住めばいい。お前ももうじき十八だからな」
「はい?」
「そうだな。俺も婿養子なら文句はねぇ」
 そしたら従兄もあっさり賛成した。
「え? 俺、婿養子? ま、いいけどね」
 いいんだ!?
 と愕然とする高杉を他所に、このままでは銀八との新生活が決まってしまう。
「あの、おれ別にこのマンションが好きなだけじゃなくて、あんたたちがいるから」
 そういうと二人の保護者はぽんぽんと高杉の頭に手を置く。そんな事は分かってんだよと。



 頑張って仕事をしてやっとのことスケジュールが空いたので、銀時は想い人のマンションまで彼を迎えに行き、少し早めの昼会席。その後自宅まで連れ込み、ネクタイを引き抜き、さて昼下がりの情事になだれ込もうかと思っていた時だった。
 銀八から電話だった。最初は無視しようとしていたのに、鳴ってるぜとくみしいた人が下から言うものでつい出てしまったのだった。
「引っ越す? わかりました。そのうち寄らせてもらいましょう。来るな? 今来るなと言いましたか? は? 同棲するから? 見せたくない?」
 銀時はスケジュール帳に新しい住所を書き込みつつ応答をする。しかしこの住所。どこかで見覚えが。
「それはそれは、珍しいですね、あなたが本気だなんて。でお相手のお名前は? …、…はい?」
 だから高杉晋助って言ってんだろーがコノヤローとか大声がする。銀時は一瞬携帯を耳から離した。
 そうだ。この住所、彼の家に近いですねと思ったのだが違う。彼の家そのものではないか!
「…。…年のころはいくつです?」
 まさか。いやまさかと思いながら重要な質問をする。銀八が一番うまくやってるってそれのことかと思いながら。
 しかし帰ってきたのは十八だよ。とのことで一安心だ。ああ、良かった。心の底から良かった。
「ああ、そうですか。とりあえずおめでとうございます?」
 何で疑問系なんだよとかぶつぶつ言っている。
 高杉晋助君とそうですか。やっぱりあなた、晋助君と学校一緒だったんですね。
 彼が、銀八が一番うまくやっているといったのは、自分と、ではなく、パートーナーとの仲を銀八が一番良好にすすめているとか、そういう意味だったのだろう。
 死んだ魚みたいにのーんとしているくせに、うらやましいこと山のごとくだ。
 自分たちは同棲なんて出来る日が来るのだろうか。と遠い目をした弁護士ははたと気付く。晋助君が銀八と同棲するなら、あのマンションを引き払って自分のとこに来てくれてもいいんじゃないか? 元々晋助君のために用意した所だし。と。
 携帯を切った銀時は先ほどの続きを始めながらそう告げる。
「何言ってる? 銀八は婿養子に貰ったんだ。マンションは引き払わないし、晋助のいるところが俺たちの実家で帰る場所だ」
 ひど!
 っつーか銀八の同棲生活って結局どうなんですか。小姑と同居なんですか。ハーレムみたいじゃないですか許さんと思いながら銀時は雨のような口づけを落しながら言う。
「わたしのところには帰ってきてくれないんですか?」
「そんなつもりは毛頭ない」
 つれない。でももう、晋助君のところには銀八がいる。空港で捕まえたら有無を言わさずもう帰さない。そうすることが銀時にはできる。
 勿論今夜はたっぷり愛してからなら、帰してあげるけれども。
 八月十日。
 金時の晋ちゃんは何も教えてくれないと嘆いていたが、頭の良い銀時にはすぐに分かることだった。
 この腕の中で乱されている彼は必ずこの日までには帰国して、この日の銀時の誘いは断らないけれど、しかし夜には帰ってしまう。
 晋助君の誕生日、だからだけではなく。
 多分、自分のためにもそうしている。
 恐らく高杉家に生まれた八月十日生まれの男子が晋助と名付けられるのだろう。あの家に住む、三人が三人とも夏の同じ日に生まれた。
(来年からは、夜も一緒に過ごせそうですね)
 どうせ銀八のことだからまるっと恋人と過ごしたがるだろう。年長二人もそこまで野暮ではない。きっと遠慮してやるに決まっている。銀八に感謝すべきか、と思いながら銀時は彼の中に侵入する。つれないけど、可愛い人の中に。



 相変わらず謎めいて、秘密だらけの晋ちゃんを相手にのれんに腕押しの情報戦をしている金時だが、少しだけ進展があった。
 近頃、晋ちゃんは本格的に住まいを万事屋晋ちゃんにうつしたらしく、どんなに朝早く金時が侵入してもいつもお布団の中ですうすう寝ている。
 時折斬られそうになるけれども、添い寝も出来るし、朝から致しちゃったりもできる。
 高校生の高杉君も、危ない古美術商もそれぞれ良さがあったけれど、やっぱり金時は晋ちゃんが大好きだなぁ、せめて本名とかも知りたいところだよと思いながらもそういうわけで結構幸せなのだった。 











同じ世界に高杉さんちの遠い分家の同級生銀高とか逆3Z銀高とかついでに現代銀高もいればいいんだよ! と思います。みんなで幸せになればいいんだよ。パー高とか、最高じゃね?
あと、鬼兵堂高杉さん的に、坂田さんたちの中で一番うまくやってるのが銀八で、高杉家の中では万事屋晋ちゃん、と思ってるらしいです。
如実に力関係がね。つまり金ちゃんが一番可愛そうっていうね。

それにしてもホントに銀高しか書かずに終わった。本望です。
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