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高杉家の者は大なり小なり狂疾の気があるそうだ。
そうだ、というのは高杉は父を早くに亡くし、ずっと母と暮らしていて高杉の親戚とは疎遠だったからだ。
だがこれまた母に死に別れた高杉が生きた実例である従兄や叔父を見ているとなんとなくそう言われても仕方がなんだろうなと感じる。溶け込めない。浮いている。アウトローの異物だ。
救いがあるとしたら、当人たちがそんな事は気にしていないことだろう。
人と違う事を、相容れない事を、おかしい事を気に止んだり、治療しようとしたりという無駄なことはしない。あるがままに受け入れて、ふんぞり返っている。
そりゃあ俺らは狂ってるかもしれないし、社会の害悪かもしれない。だけどそれが?
そういう血筋を恨んだりはしない。ただ自分の自由に振る舞った結果、心の命ずるまま好きに生きている結果、はみだしたからといって後悔はないのだと言う。
自分も。
まぎれもなく高杉の家の子なんだな、と近頃は思う。銀八と付き合えるって相当おかしい。
母が死んでから、高杉を引き取って養育し、一応の保護者として一緒に住んでいる同居人に、銀八とのことを話しておくか、という気になった高杉は男が出来たと報告してみた。
「へえ?」
同居人の従兄はとととと、一升瓶からコップ酒に酒を注ぎながらそれっきりうんともすんとも言わなかった。相手の名前さえ聞きやしない。
「なんか、ほかにねぇの? 男だぞ」
恥じる所はないのだが常識的にほめられたことではないので、そういってみた。
「別にフツーだろ。お前、俺が男にモテねぇとでも思ってんのかよ」
しかし高杉家においては異常が普通なのだった。
ぐびっと喉を鳴らした後、そういうと従兄は従弟に流し目をくれた。高杉は何とも思わないが、免疫のない奴らならころっといくだろうというのは分かる。そんな視線だった。
実際こいつの仕事関係の男どもはみんなこいつに夢中だったなと高杉は思い出す。まるでゴキブリホイホイのように吸い寄せてた。
だがモテるのとつき合うのとは別だろう。今まで男の匂いなんかさせたことがなかった。男相手なんて冗談じゃないと思ってるんだと思ってた。
「男なんか連れ込んだ事ねぇだろ」
「女も連れ込んでねぇ」
そういえばそうだった。まあこいつはここには高杉がいるから帰って来るだけで、連れ込む場所には事欠かないはずだ。仕事場だって普通の家と変わらずに寝泊まりできるし、帰ってこない日は実際そっちで泊まっているはずだった。
つまりは多感なお年頃の高杉に気を遣って見せないようにしていただけか。
「男と付き合った事あんの?」
「お付き合いなんかできるタマか、俺が。寝た事があるだけだ」
流石自分で自分をコワレテルと自称するだけの事はある。恥じらいがない。そして従兄は好きでもなくても男と出来るらしい。高杉と違って大人だからなのか、破滅型だからなのか分からないけれども。
「そういうわけだから、別に反対とかはしねぇがな」
「うん?」
「どうせ銀八だろ? お前のツレ」
何で分かったんだろう。分かってたから聞かなかったのか。俺はそんなに家で銀八の話をしていただろうか。それにしてもどんな慧眼だろう。
「銀八って馴れ馴れしーけど、知り合いか?」
そういや三者面談で固まってたよな。主に銀八が。そっくりだからビビってんのかと思ったけど知り合いか?
「焼くな。お前の担任くらい知ってる」
「焼いてねぇ」
そういいながら、疑いの眼差しで見る高杉に従兄はただ婉然と笑った。明日は銀八を問いつめねばなるまいと思う高杉だった。
もちろん常日頃やきもちを焼いてもらいたくて仕方がない銀八はもの凄く喜んだ。
「だから焼いてねぇって」
「え〜、嘘〜、もー照れちゃってー。先生どうしよう? 連れ帰って可愛がっちゃっていいですか? いいですよね? 高杉は俺に可愛がられる為に存在してるもんね。うーれーしーいー」
「そんなわけあるか、変態教師! それでどうなんだよ!」
きもい。うざい。死ね。男に可愛がられて嬉しがる男がいるかとおもいながら銀八にしたら自分は可愛いだけの年下の子供なんだろうなと腹が立った。
未来永劫年下と言うのは変わらない。
そして銀八は今高杉の若さを愛でているが、高杉だってそのうちおっさんになるわけである。その時まで付き合えているかどうかはおいといて、おっさんになってからの方が人生長いんだよと考えながら高杉は問いつめる。
「直接は知らないよ。多分ね」
そんな風に思っているなどとまるで気付かずに銀八は高杉の手を握りながらまだ明るい公道を歩く。今日は日曜日だ。忙しい教師だって休みで、地元だと顔が割れると面倒なので、遠出してきているせいか浮かれているせいか大胆になっている。
高杉はこれを振りほどくべきなのかと考えながら相当銀八に毒されてもいるのでまあいいかとか質問の続きに戻る。誰も自分たちなんか知らないし、見てなんかいない。都会って言うのはそういうところが楽でいい。
「間接的には知ってたのか」
「まあね。剣道時代だったか剣道日本だったか雑誌に載ったことあったんじゃねぇかな。学年違ったけどどっかの大会でも見たことあったかも」
「剣道…」
成程。確かに銀八はこうみえて剣道が強いらしい。インハイで優勝がどうとか土方に聞いたな。大学までやってたそうだ。剣道部の顧問は別の先生がしているが、一応こいつも副顧問で顔を出せと絡まれているのを見た事がある。
そして従兄も今も相当の使い手らしい。抜刀術の。真剣持ち歩いてて職務質問された事があるとか言ってた。袋とか箱とかにいれておけばいいものを大雑把だから。
「名前まで覚えてなかったけど顔見たら思い出したよ。まあ最初は晋ちゃんとそっくりでびっくりしてただけなんだけど」
「ふーん」
まあ嘘でもなさそうだしありえそうなことだと高杉は一応の納得をした。
その時だった。
「晋ちゃんこんな真っ昼間に人ごみに出てくるなんて珍しって銀八! 何で俺の晋ちゃんと一緒にいるんだよ? ああ?」
とメンチ切ってきたチャライ男に絡まれた。
「金時、誰が俺の晋ちゃんだって? 高杉こいつといつの間に知り合ったんだ? 聞いてねぇぞ」
「いや、知り合いでも何でもねぇし。誰?」
「晋ちゃんツレねぇ! って晋ちゃん、名字高杉って言うの? 俺には絶対教えてくれなねぇのに、んー?」
金髪を除けば銀八に異様に似ている男はずい、と高杉の前に顔を出して、銀八にブロックされた。けれども負けじとぐいぐい迫って来るので、高杉は後ざすろうかと検討する。
しかし金髪は己の間違いに気がついたようだ。
「俺の晋ちゃんじゃねぇ。すごいそっくりだけど若いし、可愛いし、色気が足りねぇ。なんでこんなに似てんの。もしもしドッペルゲンガーですか? 晋ちゃん俺と言う者がありながら死んじゃう気ですか?」
ああ。
こいつの言ってる晋ちゃんはあれだな。
銀八もピンと来たようだ。
「お前相変わらず馬鹿だな。せめて兄弟だとか言えよ」
つまり銀八とこれは兄弟と言う事かと察しのいい高杉は思う。
「なにおう? 晋ちゃんには親兄弟はいねぇはずだ。秘密主義だけど嘘だけは言わない子なんです〜。で、君名前は? おれ坂田金時。お察しの通り銀八と兄弟です。ちなみに好きな子のタイプはいま同じだということが判明しました。仲良くしようね。どう? お近づきの印に銀八と別れてケーキバイキングでも」
あ〜やっぱり兄弟か。異常に似てる。言ってる事もほぼ銀八と同じだ。微妙に金時の方がまぶしいっていうかこう開放的? オーラが。
「は? 高杉がお前みてぇに怪しい男についてくわきゃねーだろ」
「怪しさで言ったらお前だっていっしょだろーがよぉぉぉぉぉ!」
なんかどうでも良くなってきた。もう帰ろうかなと高杉は思い始めた。兄弟同士仲良くさせておけばいっかなどと非情に薄情な事を高杉は思い始める。
「おれと高杉はであってから二年三ヶ月。お前は初対面でしょーが。であってすぐケーキバイキングなんてうらやましい事お兄さん許しませんよ」
「こんな時だけ兄貴ぶるんじゃねーよ、銀八ぃ」
「あっ高杉何処行くの?」
「そうそう高杉君。おれじっくりたっぷり聞きたい事が」
二人をおいて駅の方へ向かおうとした高杉に気付いた銀八と金時が両腕を同時に掴んだ。
「離せよ」
高杉が振り向いてそういった。主に金時に。
「そうだ、気安く高杉に触んなよ」
そして銀八も。その時だ。金時が吹っ飛んだ。
「ゲホォ」
とか腹を押さえて踞る。隣で銀八も絶句した気配がした。ということは銀八ではなくて。
半分見えない狭い視界を高杉が前に向けるとそこにはいつも飄々と不適でマイペースな従兄の勇姿があった。
「ゲホゲホッ、し、晋ちゃん? やっぱりその子となにか関係が」
やはり金時が知っている晋ちゃんは万事屋晋ちゃんなる何でも業を商っている従兄のことなのだった。
「詮索は無用だと言ったはずだぜ金時?」
「好きな子のこと知りたいのはふつーだろ。今更グエッ」
秘密なんてぇ、と言おうとした金時は従兄に再度蹴られて蛙が踏みつぶされたような声を上げた。
あ〜、じゃあこれが従兄の付き合ってはいないけど寝た事ある男の一人かと思って高杉はもやっとした。坂田兄弟だけじゃなく自分たちも男の趣味が一緒なのか。それはちょっとやだな、と思う。従兄は付き合ってはいないと言うがなんかやだ。
「い、いいもん、銀八に聞いてやるう」
そういう金時が涙目で見上げると、従兄は、唇に人差し指を当てて銀八に口止めをする。何もしゃべるなと言うジェスチャーだ。
だがそんな強制力、いくら従兄でも持ってるはずがない。大丈夫かなと見ていると銀八はすぐに弟を見捨てた。
「悪いな、金時。そうすると高杉のことも話さなくちゃならなくなってお前にちょっかい出されんのもやだし。そういや守秘義務ってのがあったわ」
銀八は高杉の肩を抱いたまま、そのまま歩きだす。
守秘義務。
ああ。守秘義務ね。そういえば学校の生徒や保護者の事をむやみやたらに話していい訳がないか。別に従兄が銀八の好みのタイプ、だからではなくて。
「大丈夫。もう二度と金時には触らせねぇから」
銀八は従兄にもそう告げる。
従兄がそれで納得したのかどうか、高杉には分からない。ただ残る気も一緒に高杉たちについて来る気もないようで、じゃあな、と別の路地へ行った。
それをちらりと見送った高杉は目的のデパ地下スイーツへ向かいながらおれって結構嫉妬深いのかもと思ったのだった。
「高杉、卒業したら一緒に住もうよ」
銀八にもPSPを買わせていっしょに共同作業をしていた高杉は小さな画面から目を離さずににべなくいった。すげなくいった。
「無理だろ」
ちょっとは考えようよこっちはプロポーズのつもりなんだしさ〜。瞬殺ってひどくね? と銀八は不満たらたらに聞いてみた。
「何で?」
「マンションに誰もいなくなる」
つまり銀八と暮らすのはいやだと言うわけではないらしい。そりゃそうだ。週の半分はうちの子だもん。全部まるっとうちの子になるんだって時間の問題じゃね? と思ったから言ったのだ。
「引き払えば? 事務所に住めるんでしょ? 高杉さん」
高杉は不幸にして既に両親が他界している。紆余曲折の末、現在高杉は自営業の従兄と暮らしていた。従兄は仕事柄事務所に泊まり込む事も少なくなく、高杉の外泊も相まって引き払っても問題がないように思える。
「あのマンション、そもそも俺のでもあいつのでもねぇんだよな」
だが高杉はつれない。かちゃかちゃとボタンを連打しながら淡々と答えた。
「えっ、そうなの? 誰の? 高杉さんの男とか? 高杉そいつに何もされてねぇだろうな」
途端に心配になって銀八は前のめりになる。
「どうしてそういう発想になんだよ、いつもいつもおかしーぜお前。しかも恋人男かよ!」
それより集中しろと高杉に蹴られた。高杉の恋人だっておれと言うれっきとした男だろと思いながら、銀八はPSPに視線を落とす。
「だってスンゲー色っぺぇべ? 血は争えないと俺は戦慄したね。高杉のエロさは遺伝だよ遺伝!」
三者面談にやってきた高杉の従兄さまは、銀八とそう年の変わらぬ若い男で、高杉にそっくりだった。いや、高杉が従兄の方に似ているというべきなのだろう。生まれた順番からいえば。年の差のせいか、高杉の方がぴちぴちしててあっちはなんというか、高校教師風情では手に負えない感じだった。
弟でホストの金時はどうも彼狙いらしいのだがほとんど相手にされてないところからもその手強さが分かるというものだ。高杉落すのだってすっごく大変だったが輪をかけて質が悪そう。高杉も大人になったらああなりそうだ。若いうちに手が出せて本当に良かったと思いながらこちらも負けずにボタンを連打しながら主張すると呆れきったため息が返った。
「叔父貴だよ。帰ってきて埃が舞ってたら、絶対喘息だすし、誰もいねーと寂しさ余って怒り狂うからな」
「なにその可愛いおじさん。高杉の可愛さは遺伝なのか。恐るべし高杉DNA」
高杉は顔をしかめる。どんなDNAなんだ。そしてどんな顔で想像したんだ。もしかして俺か? それは流石に自惚れがすぎるかな、でも銀八だし油断できねーと思いながら高杉は言う。
「可愛くねーよ、ジャイアンだよ。だけど家の管理してるかわりに金だしてもらってるわけだから、引っ越せねぇの!」
「ギブアンドテイクなの?」
高杉一族はドライだな。たまに話を聞くけど、ますますその念を銀八は強くする。しかし高杉の方には不満はないらしい。
「居心地いいぜ? 二人とも煩くしねぇし」
そりゃ、高校上がった時に言われた台詞が例え人殺ししたってもみ消してやるからお前は好きに生きろだった。外泊だって若いんだからいいんじゃねぇの? 遊びたい盛りだろ? でもちゃんと連絡して野宿はするな、攫われると探すの面倒、だったらしい。
…。
…色んな意味ですごい保護者だ。ほんとに。一歩間違ったらすごいクズしか育たない所だ。それとも高杉の性格見越して言ってんのか。言ってるつもりなんだろーな。
「晋ちゃん俺と一緒じゃなくて寂しくねぇの? ちなみに俺は晋ちゃんいないと独り寝が寂しいけど」
毎日会ってるけどお泊まりのない日はすごく寂しい。一人で家に帰るのがいやだ。これで高杉が卒業したりした日にはどうしたらいいのだ。だって教室に高杉がいないんだよ? ありえなくね? と銀八は思う。
「別に。叔父貴はあんまり顔見せねぇけど、あいつは俺があっちにいればちゃんと帰ってくるし」
放任かと思えばでもそうでもないし、それなりに高杉の事は可愛がってるんだろうな〜とは察せられるのだが。
「え〜」
つまり大学卒業まで同棲できないってこと? もしくは学費を払える甲斐性が俺にあればってことだよね。ていうか、社会人になっても家出たくないとか言われたらどうしよう? この調子じゃいいそうなんだけど、と思いながら銀八は切ないため息をついた。
やっぱ早いうちにこの子を貰いにいかなきゃ、と決意する銀八だった。
高誕おめでとう! たくさんの高杉で高誕を祝いマッス。 続く。
そうだ、というのは高杉は父を早くに亡くし、ずっと母と暮らしていて高杉の親戚とは疎遠だったからだ。
だがこれまた母に死に別れた高杉が生きた実例である従兄や叔父を見ているとなんとなくそう言われても仕方がなんだろうなと感じる。溶け込めない。浮いている。アウトローの異物だ。
救いがあるとしたら、当人たちがそんな事は気にしていないことだろう。
人と違う事を、相容れない事を、おかしい事を気に止んだり、治療しようとしたりという無駄なことはしない。あるがままに受け入れて、ふんぞり返っている。
そりゃあ俺らは狂ってるかもしれないし、社会の害悪かもしれない。だけどそれが?
そういう血筋を恨んだりはしない。ただ自分の自由に振る舞った結果、心の命ずるまま好きに生きている結果、はみだしたからといって後悔はないのだと言う。
自分も。
まぎれもなく高杉の家の子なんだな、と近頃は思う。銀八と付き合えるって相当おかしい。
母が死んでから、高杉を引き取って養育し、一応の保護者として一緒に住んでいる同居人に、銀八とのことを話しておくか、という気になった高杉は男が出来たと報告してみた。
「へえ?」
同居人の従兄はとととと、一升瓶からコップ酒に酒を注ぎながらそれっきりうんともすんとも言わなかった。相手の名前さえ聞きやしない。
「なんか、ほかにねぇの? 男だぞ」
恥じる所はないのだが常識的にほめられたことではないので、そういってみた。
「別にフツーだろ。お前、俺が男にモテねぇとでも思ってんのかよ」
しかし高杉家においては異常が普通なのだった。
ぐびっと喉を鳴らした後、そういうと従兄は従弟に流し目をくれた。高杉は何とも思わないが、免疫のない奴らならころっといくだろうというのは分かる。そんな視線だった。
実際こいつの仕事関係の男どもはみんなこいつに夢中だったなと高杉は思い出す。まるでゴキブリホイホイのように吸い寄せてた。
だがモテるのとつき合うのとは別だろう。今まで男の匂いなんかさせたことがなかった。男相手なんて冗談じゃないと思ってるんだと思ってた。
「男なんか連れ込んだ事ねぇだろ」
「女も連れ込んでねぇ」
そういえばそうだった。まあこいつはここには高杉がいるから帰って来るだけで、連れ込む場所には事欠かないはずだ。仕事場だって普通の家と変わらずに寝泊まりできるし、帰ってこない日は実際そっちで泊まっているはずだった。
つまりは多感なお年頃の高杉に気を遣って見せないようにしていただけか。
「男と付き合った事あんの?」
「お付き合いなんかできるタマか、俺が。寝た事があるだけだ」
流石自分で自分をコワレテルと自称するだけの事はある。恥じらいがない。そして従兄は好きでもなくても男と出来るらしい。高杉と違って大人だからなのか、破滅型だからなのか分からないけれども。
「そういうわけだから、別に反対とかはしねぇがな」
「うん?」
「どうせ銀八だろ? お前のツレ」
何で分かったんだろう。分かってたから聞かなかったのか。俺はそんなに家で銀八の話をしていただろうか。それにしてもどんな慧眼だろう。
「銀八って馴れ馴れしーけど、知り合いか?」
そういや三者面談で固まってたよな。主に銀八が。そっくりだからビビってんのかと思ったけど知り合いか?
「焼くな。お前の担任くらい知ってる」
「焼いてねぇ」
そういいながら、疑いの眼差しで見る高杉に従兄はただ婉然と笑った。明日は銀八を問いつめねばなるまいと思う高杉だった。
もちろん常日頃やきもちを焼いてもらいたくて仕方がない銀八はもの凄く喜んだ。
「だから焼いてねぇって」
「え〜、嘘〜、もー照れちゃってー。先生どうしよう? 連れ帰って可愛がっちゃっていいですか? いいですよね? 高杉は俺に可愛がられる為に存在してるもんね。うーれーしーいー」
「そんなわけあるか、変態教師! それでどうなんだよ!」
きもい。うざい。死ね。男に可愛がられて嬉しがる男がいるかとおもいながら銀八にしたら自分は可愛いだけの年下の子供なんだろうなと腹が立った。
未来永劫年下と言うのは変わらない。
そして銀八は今高杉の若さを愛でているが、高杉だってそのうちおっさんになるわけである。その時まで付き合えているかどうかはおいといて、おっさんになってからの方が人生長いんだよと考えながら高杉は問いつめる。
「直接は知らないよ。多分ね」
そんな風に思っているなどとまるで気付かずに銀八は高杉の手を握りながらまだ明るい公道を歩く。今日は日曜日だ。忙しい教師だって休みで、地元だと顔が割れると面倒なので、遠出してきているせいか浮かれているせいか大胆になっている。
高杉はこれを振りほどくべきなのかと考えながら相当銀八に毒されてもいるのでまあいいかとか質問の続きに戻る。誰も自分たちなんか知らないし、見てなんかいない。都会って言うのはそういうところが楽でいい。
「間接的には知ってたのか」
「まあね。剣道時代だったか剣道日本だったか雑誌に載ったことあったんじゃねぇかな。学年違ったけどどっかの大会でも見たことあったかも」
「剣道…」
成程。確かに銀八はこうみえて剣道が強いらしい。インハイで優勝がどうとか土方に聞いたな。大学までやってたそうだ。剣道部の顧問は別の先生がしているが、一応こいつも副顧問で顔を出せと絡まれているのを見た事がある。
そして従兄も今も相当の使い手らしい。抜刀術の。真剣持ち歩いてて職務質問された事があるとか言ってた。袋とか箱とかにいれておけばいいものを大雑把だから。
「名前まで覚えてなかったけど顔見たら思い出したよ。まあ最初は晋ちゃんとそっくりでびっくりしてただけなんだけど」
「ふーん」
まあ嘘でもなさそうだしありえそうなことだと高杉は一応の納得をした。
その時だった。
「晋ちゃんこんな真っ昼間に人ごみに出てくるなんて珍しって銀八! 何で俺の晋ちゃんと一緒にいるんだよ? ああ?」
とメンチ切ってきたチャライ男に絡まれた。
「金時、誰が俺の晋ちゃんだって? 高杉こいつといつの間に知り合ったんだ? 聞いてねぇぞ」
「いや、知り合いでも何でもねぇし。誰?」
「晋ちゃんツレねぇ! って晋ちゃん、名字高杉って言うの? 俺には絶対教えてくれなねぇのに、んー?」
金髪を除けば銀八に異様に似ている男はずい、と高杉の前に顔を出して、銀八にブロックされた。けれども負けじとぐいぐい迫って来るので、高杉は後ざすろうかと検討する。
しかし金髪は己の間違いに気がついたようだ。
「俺の晋ちゃんじゃねぇ。すごいそっくりだけど若いし、可愛いし、色気が足りねぇ。なんでこんなに似てんの。もしもしドッペルゲンガーですか? 晋ちゃん俺と言う者がありながら死んじゃう気ですか?」
ああ。
こいつの言ってる晋ちゃんはあれだな。
銀八もピンと来たようだ。
「お前相変わらず馬鹿だな。せめて兄弟だとか言えよ」
つまり銀八とこれは兄弟と言う事かと察しのいい高杉は思う。
「なにおう? 晋ちゃんには親兄弟はいねぇはずだ。秘密主義だけど嘘だけは言わない子なんです〜。で、君名前は? おれ坂田金時。お察しの通り銀八と兄弟です。ちなみに好きな子のタイプはいま同じだということが判明しました。仲良くしようね。どう? お近づきの印に銀八と別れてケーキバイキングでも」
あ〜やっぱり兄弟か。異常に似てる。言ってる事もほぼ銀八と同じだ。微妙に金時の方がまぶしいっていうかこう開放的? オーラが。
「は? 高杉がお前みてぇに怪しい男についてくわきゃねーだろ」
「怪しさで言ったらお前だっていっしょだろーがよぉぉぉぉぉ!」
なんかどうでも良くなってきた。もう帰ろうかなと高杉は思い始めた。兄弟同士仲良くさせておけばいっかなどと非情に薄情な事を高杉は思い始める。
「おれと高杉はであってから二年三ヶ月。お前は初対面でしょーが。であってすぐケーキバイキングなんてうらやましい事お兄さん許しませんよ」
「こんな時だけ兄貴ぶるんじゃねーよ、銀八ぃ」
「あっ高杉何処行くの?」
「そうそう高杉君。おれじっくりたっぷり聞きたい事が」
二人をおいて駅の方へ向かおうとした高杉に気付いた銀八と金時が両腕を同時に掴んだ。
「離せよ」
高杉が振り向いてそういった。主に金時に。
「そうだ、気安く高杉に触んなよ」
そして銀八も。その時だ。金時が吹っ飛んだ。
「ゲホォ」
とか腹を押さえて踞る。隣で銀八も絶句した気配がした。ということは銀八ではなくて。
半分見えない狭い視界を高杉が前に向けるとそこにはいつも飄々と不適でマイペースな従兄の勇姿があった。
「ゲホゲホッ、し、晋ちゃん? やっぱりその子となにか関係が」
やはり金時が知っている晋ちゃんは万事屋晋ちゃんなる何でも業を商っている従兄のことなのだった。
「詮索は無用だと言ったはずだぜ金時?」
「好きな子のこと知りたいのはふつーだろ。今更グエッ」
秘密なんてぇ、と言おうとした金時は従兄に再度蹴られて蛙が踏みつぶされたような声を上げた。
あ〜、じゃあこれが従兄の付き合ってはいないけど寝た事ある男の一人かと思って高杉はもやっとした。坂田兄弟だけじゃなく自分たちも男の趣味が一緒なのか。それはちょっとやだな、と思う。従兄は付き合ってはいないと言うがなんかやだ。
「い、いいもん、銀八に聞いてやるう」
そういう金時が涙目で見上げると、従兄は、唇に人差し指を当てて銀八に口止めをする。何もしゃべるなと言うジェスチャーだ。
だがそんな強制力、いくら従兄でも持ってるはずがない。大丈夫かなと見ていると銀八はすぐに弟を見捨てた。
「悪いな、金時。そうすると高杉のことも話さなくちゃならなくなってお前にちょっかい出されんのもやだし。そういや守秘義務ってのがあったわ」
銀八は高杉の肩を抱いたまま、そのまま歩きだす。
守秘義務。
ああ。守秘義務ね。そういえば学校の生徒や保護者の事をむやみやたらに話していい訳がないか。別に従兄が銀八の好みのタイプ、だからではなくて。
「大丈夫。もう二度と金時には触らせねぇから」
銀八は従兄にもそう告げる。
従兄がそれで納得したのかどうか、高杉には分からない。ただ残る気も一緒に高杉たちについて来る気もないようで、じゃあな、と別の路地へ行った。
それをちらりと見送った高杉は目的のデパ地下スイーツへ向かいながらおれって結構嫉妬深いのかもと思ったのだった。
「高杉、卒業したら一緒に住もうよ」
銀八にもPSPを買わせていっしょに共同作業をしていた高杉は小さな画面から目を離さずににべなくいった。すげなくいった。
「無理だろ」
ちょっとは考えようよこっちはプロポーズのつもりなんだしさ〜。瞬殺ってひどくね? と銀八は不満たらたらに聞いてみた。
「何で?」
「マンションに誰もいなくなる」
つまり銀八と暮らすのはいやだと言うわけではないらしい。そりゃそうだ。週の半分はうちの子だもん。全部まるっとうちの子になるんだって時間の問題じゃね? と思ったから言ったのだ。
「引き払えば? 事務所に住めるんでしょ? 高杉さん」
高杉は不幸にして既に両親が他界している。紆余曲折の末、現在高杉は自営業の従兄と暮らしていた。従兄は仕事柄事務所に泊まり込む事も少なくなく、高杉の外泊も相まって引き払っても問題がないように思える。
「あのマンション、そもそも俺のでもあいつのでもねぇんだよな」
だが高杉はつれない。かちゃかちゃとボタンを連打しながら淡々と答えた。
「えっ、そうなの? 誰の? 高杉さんの男とか? 高杉そいつに何もされてねぇだろうな」
途端に心配になって銀八は前のめりになる。
「どうしてそういう発想になんだよ、いつもいつもおかしーぜお前。しかも恋人男かよ!」
それより集中しろと高杉に蹴られた。高杉の恋人だっておれと言うれっきとした男だろと思いながら、銀八はPSPに視線を落とす。
「だってスンゲー色っぺぇべ? 血は争えないと俺は戦慄したね。高杉のエロさは遺伝だよ遺伝!」
三者面談にやってきた高杉の従兄さまは、銀八とそう年の変わらぬ若い男で、高杉にそっくりだった。いや、高杉が従兄の方に似ているというべきなのだろう。生まれた順番からいえば。年の差のせいか、高杉の方がぴちぴちしててあっちはなんというか、高校教師風情では手に負えない感じだった。
弟でホストの金時はどうも彼狙いらしいのだがほとんど相手にされてないところからもその手強さが分かるというものだ。高杉落すのだってすっごく大変だったが輪をかけて質が悪そう。高杉も大人になったらああなりそうだ。若いうちに手が出せて本当に良かったと思いながらこちらも負けずにボタンを連打しながら主張すると呆れきったため息が返った。
「叔父貴だよ。帰ってきて埃が舞ってたら、絶対喘息だすし、誰もいねーと寂しさ余って怒り狂うからな」
「なにその可愛いおじさん。高杉の可愛さは遺伝なのか。恐るべし高杉DNA」
高杉は顔をしかめる。どんなDNAなんだ。そしてどんな顔で想像したんだ。もしかして俺か? それは流石に自惚れがすぎるかな、でも銀八だし油断できねーと思いながら高杉は言う。
「可愛くねーよ、ジャイアンだよ。だけど家の管理してるかわりに金だしてもらってるわけだから、引っ越せねぇの!」
「ギブアンドテイクなの?」
高杉一族はドライだな。たまに話を聞くけど、ますますその念を銀八は強くする。しかし高杉の方には不満はないらしい。
「居心地いいぜ? 二人とも煩くしねぇし」
そりゃ、高校上がった時に言われた台詞が例え人殺ししたってもみ消してやるからお前は好きに生きろだった。外泊だって若いんだからいいんじゃねぇの? 遊びたい盛りだろ? でもちゃんと連絡して野宿はするな、攫われると探すの面倒、だったらしい。
…。
…色んな意味ですごい保護者だ。ほんとに。一歩間違ったらすごいクズしか育たない所だ。それとも高杉の性格見越して言ってんのか。言ってるつもりなんだろーな。
「晋ちゃん俺と一緒じゃなくて寂しくねぇの? ちなみに俺は晋ちゃんいないと独り寝が寂しいけど」
毎日会ってるけどお泊まりのない日はすごく寂しい。一人で家に帰るのがいやだ。これで高杉が卒業したりした日にはどうしたらいいのだ。だって教室に高杉がいないんだよ? ありえなくね? と銀八は思う。
「別に。叔父貴はあんまり顔見せねぇけど、あいつは俺があっちにいればちゃんと帰ってくるし」
放任かと思えばでもそうでもないし、それなりに高杉の事は可愛がってるんだろうな〜とは察せられるのだが。
「え〜」
つまり大学卒業まで同棲できないってこと? もしくは学費を払える甲斐性が俺にあればってことだよね。ていうか、社会人になっても家出たくないとか言われたらどうしよう? この調子じゃいいそうなんだけど、と思いながら銀八は切ないため息をついた。
やっぱ早いうちにこの子を貰いにいかなきゃ、と決意する銀八だった。
高誕おめでとう! たくさんの高杉で高誕を祝いマッス。 続く。
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