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「はいはいそこまで〜」
 バイクで飛ばしてきて正解だった。沖田は屯所の門まで出て来ていた。雪火じゃないという証明がなければどうせ駕篭タクにも列車には乗れないけどね。そしてずっと寝込んでいた沖田君はそんな規制がされたなんてことも知らないだろうけどねと銀時は可哀想に思った。
 足がなくても行こうとするだろう。死ぬも生きるも好きにさせてやればいいじゃんと思わなくもなかったが、実際死んだら悲しくなるのがいっぱいいるんで目一杯阻止する気だった。
「チッ」
「はい、舌打ちしない〜。刀抜かない〜。病人はいい子で布団に戻った戻った」
 最悪、もぬけの殻になった冷たい布団を発見した山崎が携帯で連絡というシュミレーションだったので、発見が早く、あちこち探しまわるはめにならずにすんで良かった銀時である。可愛くない対応をされながらも、沖田を屯所の方へ追い返す。
「旦那、俺は行かなきゃならねぇんで」
「そんなこと知りません〜。文句ならマヨラーに言ってくんね? 俺ただの仕事だしぃ」
 説得しようなんて十年早い。ここでいつものごとく甘味を提供されても銀時はうんとは言わないだろう。銀時は土方が大嫌いなので、大概のことは沖田の肩を持つのにやぶさかではないのだが、こればかりは土方の指示通りにする。
「じゃあ、俺が旦那を雇いまさぁ。一緒にいきましょうや。電車代出しますぜ」
 しかし沖田は何を思ったか甘味などでなく同行を求めて来た。戦力として当てにしているのか? それともしつこく邪魔されるより取り込んだ方がいいという判断か。
 こんな反応は思っても見なかった。そんなところに行くなんて普段の沖田なら間違っても考えないはずなのに、寝過ぎで頭が沸いたんだろうか。可哀想に、熱が上がりすぎると朦朧とするもんね、でもアレ、薬飲んでたんじゃなかったっけと銀時は思う。
 薬を飲むと劇的に熱は下がるのだ。ウィルスを攻撃し免疫異常でウィルスごと自分の体まで破壊してしまう白血球の働きを抑えるという。
「何言ってんの。銀さんこれでも売れっ子なの。山奥なんか行ってる暇ないんですよ」
「あんただって、用があるんじゃないんですかぃ? 急がねぇともう二度と会えねえかもしれませんぜ」
 しかし沖田は決して頭が沸いているのではなかった。
「何それ、何のこと?」
 どうしてどいつもこいつも、銀時と高杉の因縁を知っているのだろう。誰彼構わず話したことなどない。それなのに。
 沖田は銀時の目を見て言った。何もかも知っている、といった表情で。
実際沖田は知っていた。何食わぬ顔で、見て見ぬ振りをしていただけだと告白した。
「俺ぁ知ってるんですぜ。旦那の大事な人、何遍も見かけやしたから。…雪火だそうですぜ」
 見かけたどころか俺の知らないところじゃ追いかけっこして斬り合ったこともあるんじゃないの、実際と考えていた銀時は思考を停止した。
「はあ?」
雪火?
「薬ものまねぇで戦争とるたぁなまなかなことじゃねぇ。その信念には脱帽しますぜ」
 帽子なんかかぶっちゃいないくせにそんなことを沖田は言った。
「沖田君冗談きつい…」
「ザキが見て来た感じじゃ、末期だそうで」
 そんなことは聞いてない。だって高杉は十人のうちの一人だ。そう言っていた、本人が。そのはずだ。確か…。
 心臓が早鐘のように打ち鳴らされてうるさいほどだ。
 銀時は眉間にしわを寄せた。
 だが相手は高杉だった。何故それを信じたのだろう。アレの語る全てが嘘だとは思ってはいない。本当のことだって言う。だが質の悪いことに嘘も真実も同じように話す。
 それが奴の手だ。
 いつだって虚実を織り交ぜて自分の都合のように進めて行く男だった。何故疑いもしなかったのだろう。



 最後に会ったのは何時だっただろう。紅桜の後、戦争が始まる前。雪火が瞬く間に広がり、それに比例して刹那的な犯罪が増え始めた頃だった。
 高杉は何故か江戸におり、火付けや強盗に乗じて幕臣を手当り次第に殺していた。確かにそんな行動はらしくなかった。
鬼兵隊を再結成した頃からそんな単独行動は止め、大規模な策謀を巡らせていたというのに。それとも策謀の段階は過ぎ、派手に何かをやらかす前の景気付けか。そんな 風に銀時も思っていた。
 そんなあいつが雪火だなんて。最後に会ったときはどうだった? 元気だったはずだ。
 悠々と刀を揮って、その後の西で起こした戦争のテレビ中継だって一心不乱に敵を屠っていたでないか。そして、今このときも戦場にいるはずだった。
「ぶった切るんじゃなかったのかよ?」
 そう言った高杉の足下には制服の男たちが倒れて血溜まりを作っていた。高杉は完全に一仕事終えたという感じで手に刀と懐紙を持っていた。
 その日も高杉は闇の生き物のように白く、冴え冴えとしていた。
「獲物がないもん」
 そう言いながら、通りがかった銀時は両手を上げた。遣り合う気はないからお前も俺を斬らないでね、というサインだ。高杉はそれでもしばらく懐紙で血脂を拭い取った刀を終わずに言った。
「そいつは何でも切れるんだろ? 大筒だって斬ったっていうじゃねぇか」
 何処でそんな情報を拾ってくるのか高杉は詳しかった。あれか。紅桜前の桂か。それともマムシの一件が耳に入ってたのか。あの一派も攘夷だったらしいからな。高杉あたり、ジャスタウェイ仕入れてたら可愛いなと銀時は思う。いやいやいや。物騒だからほんとは止めてほしいんだけどね、なんて考えながら銀時は答える。
「人間みてぇな柔らかいもんぶった切れません。そういうてめぇはお取り巻きはどうした?」
「近くにいる」
 高杉は渋々刀を鞘に納めると言った。その白い頬に返り血がとんでいる。
「…いるのかよ。あ、ちょっと待て。血が」
 しかし銀時が手を伸ばそうとすると、驚くほど素早く距離をとった。警戒心の強い猫みたいな動きだった。
「寄るな、雪火は空気感染および、飛沫感染だ。こいつらの中に感染者がいれば返り血からでも移る」
「俺平気」
 俺を雪火には罹らせたくないんだな、と内心ニヤケながら銀時は言った。
 果たしてはそれは、遣り合う機会を失うからか。それとも、と自惚れる。
「十人に一人か」
「そ」
「お前はほんとに丈夫な野郎だな。昔から病気一つしやがらねぇ」
 しかし罹らないと知れば知ったで高杉は嫌そうな顔をしてみせた。昔からこいつは病気なんかしない方がいいとお心優しく思っているくせに、自分と比べて銀時があまりに健康優良児なのが気に入らないのだ。
 せめて風邪の一つでもひいてみせればかわいげがあるものを、ああ、馬鹿は風邪引かないっていうもんなと憎まれ口を叩いていたこともある。そんな銀時だって最近はたるんでるから風邪の一つはひくようになった。ただ高杉に知りようがないだけだ。
 そんな風にずっと一緒にいれば、分かり合えることは沢山あったろうし、看病くらいしてくれたはずなのに、現実の二人は遠ざかったままだ。あんなに一緒だったのに、今では居所さえ確かには分からない。こんなに距離ができるなんて、子供の頃には想像もしていなかった。
「流石におたふく風邪はやったよ? 男の一生に関わるもんな」
「俺が先生に頼まれてうつしてやったんだろ」
 その時ばかりは高杉は目元を緩ませた。懐かしい素の微笑み。あの時もそう言えばもの凄く嬉しそうだった。
 日頃元気な奴が寝込んでいるとハイになると言うアレだろうか。それとも腺病質の体質が役に立って嬉しかったってか。まあ十中八九、先生のお願い聞けてよかったと思っていたのだろう。
 今も先生を懐かしんで微笑んだのかもしれない。それでもいい。銀時はその笑みに誘われるように今度こそ近づいて、乾きかけた血を拭い、ついでに唇を食んだ。
「…」
 俺は今でもお前が好きだと、伝わっただろうか。命を取り合うような仲になったとしても、お前は永劫、俺のものだと。
「そういうてめぇは? 返り血思いっきり付いちゃってたけど」
 高杉は何の感銘も受けないと言った無表情を貫いた。
「大丈夫だから俺が実行犯してんだよ」
「ああ、お前も?」
 高杉はただ、意味ありげな視線を一つくれただけだ。大丈夫との先ほどの言葉もあって、銀時はそれを肯定とみた。
 成る程だからお取り巻きは近くにいるけど加勢はしなくて、高杉一人で斬りまくったのか。退路を確保するとかでたまたまいないわけではなくて。そうその時、銀時は納得してしまったのだ。
 抗体なんかあるはずがなかった。
 ありとあらゆる流行病を拾っては誰よりも多くの時間を臥所で寝たきりになっていた高杉を、雪火だけが許してくれるなんてそんな訳がなかったのだ。
(そうだ。あの時だって)
 高杉は一度だって十人に一人とは断言しなかった。
 既に感染していたから、もうあれ以上、ウィルスに触れても結果は変わらない。だから自ら実行犯なんかをつとめ、最前線で一人突出して戦っていたのだ。自分のせいで仲間を感染させないため、鬼兵隊も近づけずに。



 次に山崎が目を覚ました時にはまだ沖田は屯所の布団の中にいた。
 万事屋の旦那が間に合ったのだ。
(ん?)
その布団から床柱に紐のようなものが延びていて、山崎は目をこすった。
(いや、紐じゃなくて鎖…? って首、輪?)
 それを認識したとたん、睡魔は晴れて、ぱかっと山崎は覚醒した。
(なんで首輪? 着替えやすいようにか? ちょっと旦那ぁ、気を使うところが違うって!)
 そしてだらだらと汗を流した。
(あれ、おかしいな俺、薬飲んで熱下がったはずなのに滝のような汗が…しかもなんか体がふるえるんですけど。死ぬのか? 俺は死ぬのか? 沖田さんが起きたら殺されるのかーっ?)
 それにしてもどSの星の王子様を鎖に繋ぐなんて、どんだけ鬼畜どSなんだろう。上か? 沖田隊長より上なのか? しかも首輪なんて、そんな物騒な一般人が世の中に存在し、剰えこんなに近くにいていいのか? と思いながらも流石万事屋の旦那、と山崎は一人呟いた。
 しかし間に合ったのは良かった。
(今すぐ駆けつけたって何もできやしない。それに俺たちが必要とされる日は必ず来る)
 その時の為に今、ここで温存されている。そう考えなくては遣る瀬ない。みんなを信じて一刻も早く体を治すだけだ。
 隊を離れてできることはそれしかない。
 近藤捕縛。その報が遠く江戸までやってきたのはそのしばらく後だった。



 甲州は天領。将軍直轄地だ。その甲府城の守りにつけとの命を受け、真選組は江戸を後にしたのだが、天候に恵まれず途中まさかの雪が降った。スノータイヤを履いてなかった真選組の車両は足止めを食らった。
 その間に西側から寄せた官軍三千人が甲府城へ入城、真選組は出端を挫かれることになった。
 真選組隊士はこの時二百足らず。
 しばらく甲州街道にて粘ったが、蹴散らされて終わった。刀を使えぬまま無線で指揮を取っていた近藤は、砲撃を至近で受け、気絶、気づいたら運悪く捕縛されていた。
 近藤はテレビにもよく出る有名人だったから、すぐに真選組局長だと分かっただろう。その場で車に押し込められて随分遠くまで運ばれたようだ。
(これじゃ幾らトシでも助けにこれねぇなぁ)
 と近藤は考える。
 土方は戦えない近藤に指揮を任せ、自ら前線で戦っていたはずだ。生きていると信じていたが、どうなったか分からない。当てにはできなかった。
 怪我などしてなければいいがと思った。
 処分が決まったのか、運ばれた先の牢から出されたのは三日後のことだ。
 ずらりと幹部らしき人間が居並ぶ中、幕営に通された。察するにここが前線司令部、官軍の会議所だろう。左右両端に居並んでいる猛者たちは諸隊の総督だろうか。全員黒いコートを着用して、腕章をつけていた。
「直接には初めまして、だよなぁ? 真選組局長近藤勳」
 最も上座に据えられた胡床には刀の先を地に付けて持つ隻眼の男が座っていた。
「高杉か」
「そうだ。苦労したぜ、お前の身柄をもぎ取るのは」
 多数対少数で真選組は敗北したが、同じような数で圧倒的戦力差を覆した男がいる。それがこの高杉晋助だった。彼の蜂起の出発はわずか三十人足らずだった。
 恐ろしい才だ。
 同じような才人が真選組にいればなぁと思う。でなければ真選組は負け続ける。天道衆はこの戦自体から手を引き始めた。
 天人たちは官軍側の外交的駆け引きなのか、それとも何らかの密約があったのか、幕府の要請を受けてもまるで介入をしようとはしない。
前攘夷戦争では彼らと真っ向からぶつかったのは天人たちだったのだが。
「殺す為か?」
「くくく」
 高杉は目を細めて笑った。
「知ってるだろうが、お前、恨まれてるぜ。ただ殺すだけなら俺は何もする必要はなかったろうよ」










混沌とラストに向かっているのでいろんな人が入り乱れてくるかも。気になるのは西郷が書けてないことかな。軍の主力なのにごめん。
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 ではどうする気だと身構える近藤に高杉は懐から書面を出して片手に掲げた。
「殺さねぇよ。勝を通して、真選組副長から助命嘆願の書面が届いてる」
(やっぱり生きてたか、トシ! 良かった…!)
 素早い対応だと高杉はほめながら、それを放った。
「高杉殿! 我らは承服できません。真選組にはわが土州の人材も犠牲になっております」
「許すとは言ってねぇ。吉田も杉山も宮部の親父も死んだ」
 前へ出た総督の一人に高杉はそう言った。
 真選組が取締り、その最中に死んだ攘夷志士はここにいる者たちの仲間だったのだ。
 高杉の言った通り、官軍のどこへ行っても同じように近藤は恨まれているだろう。しかし間違ったことをしたとは思っていない。江戸の治安を守る為だった。真選組は警察として命令を受け、職務を全うした。
 その為に死んでも悔いはない。覚悟は出来ている。
真選組はひとたび幕府お抱えとして禄を食んだ。何事が起ころうとも、その恩は忘れてはならないし、信じて実行した大義を翻すつもりはない。
「安心しろ。俺も同じように恨まれてる。この戦いの最中、幕府は俺の師の墓を壊した」
 政治犯、吉田松陽。それが高杉の師だということは調べがついている。それどころか、彼の教え子のほとんどが、攘夷戦争に参加し、生き残った後には幕府に楯突くテロリストになった。危険な思想を持っていたのは間違いない。そう、教え子たちが身をもって証明したようなものだ。
 しかし幕府の役人もどうして死者を冒涜したのか。見せしめか。心ないことをしたものだ。ますます怒らせるだけだとは思わなかったのだろうか。それとも倒幕軍のような反乱はすぐに踏みつぶせると甘く見ていたのか。
 恐らくそれだろう。
正直、近藤も高杉が京に入るまでここまでやるとは思っていなかったのだ。悪魔のように頭が切れることもしっていた。息をするように簡単に人心を操作するとも。甘く見ればざっくりと手痛い致命傷を負わされる、そうして何人もの隊士を失った。
 けれども所詮、テロリスト。火もないところに火つけして回っているが真選組がいる限り大火にはさせない、残らず鎮火させる、そう思っていた。まさか大江戸から遠く離れた地で挙兵し、ここまで情勢をひっくり返すとは。
「それが真選組の仕業ではなくとも。どちらにしろお前を赦す道理はねぇ…」
 高杉はいっそ優しく問いかけた。
「なあ近藤。生き地獄を見たことがあるか?」
 近藤は目を見開く。
 高杉が鬼になった理由は吉田松陽処刑、だけではない。攘夷戦争を戦った部下を幕府の手で処刑されたからでもあった。
「まさか、貴様真選組を」
 部下を捕縛して処刑する気か。近藤は前へ、高杉に飛びかかろうとした。監視のものに阻まれて、もちろん実行することはできなかったが。
「今ここで、殺してもお前は死んで不朽になるだけだ。そしてお前の部下たちはこぞって仇を討ちにくるだろう。俺たちがそうしたようにな。だからお前は殺させねぇ。名誉の戦死なんてもっての他だ。楽に死なせてなんかやらねぇよ。死んだ方がましだってものを見せてやる。俺が、俺たちが見続けて来たのと同じものをな」
 それは慈悲からの申し出ではなかった。もっと暗く、むごたらしい、怨嗟に満ちた制裁だった。
「あいつらを貴様に殺させはしない!」
「奇遇だな。俺もそう思ってた」
 始終優位に立ち続けた高杉はそこで眉を顰めた。口元に片手を当てて長い間咳き込み、驚くほどの大量の血を吐いた。
「雪火」
 江戸市中では高杉がバイオテロの為に雪火ウィルスを持ち込んだのだという噂が幕府によって広められていたが。持ち込んだウィルスに自ら感染するほど高杉は愚かではない。その件に関してだけは、高杉は関わっていないのだろう。
 なんて皮肉だ。それがこのような形で実証されるとは。
「総督!」
 居並んでいた幹部たちが高杉を一斉に注視し、近づこうと列を乱した。その幹部を高杉は視線一つで静止させた。
「お前らも総督だろう」
 赤く染まった口元を拭いながら、切れ切れの息の隙間からそう言う。
「高杉、貴様…」
 しかも末期だ。
 内蔵は破壊され、内出血が始まっている。血を吐くのはそのためだ。あの体で戦っていたのか。息をするにも痛むはずだ。その上、高熱が頭を鈍らせる。
 既に山崎が高杉雪火の可能性を指摘していた。だが信じてはいなかった。どこかに傷を負ったのだろうと。
「ああ…そうだ。俺の悪夢はもう終わる。だが近藤。てめぇのは今から始まるのさ」
 立ち上がって近づいてくる高杉は鈍るどころか怜悧そのものだった。身を焦がす熱さも、死への恐怖も、一息ごとに増す苦痛もかけらも見当たらず、ただ悪魔のように傲岸で、美しく、冷酷だった。
「何も出来ないまま、部下たちの行く末を見ているがいい」
 縛られて身動きの取れない近藤に、高杉は赤い血を滴らせた手を伸ばす。そして無精髭のはえた頬にその白い指を這わせようと。



 連れ出されて行く近藤を、もはや殺せというものは一人もいなかった。侍にとって、大勢の部下を率い命を預かる上司としてこれほど屈辱的な処遇もないだろう。
(頭が虜囚なんぞになるもんじゃねぇ)
 そう思いながら高杉は指示をだした。
「近藤は使えるカードだ。絆されてトドメを刺すなよ」
「はっ」
 これで近藤の身柄を押さえておく限り、真選組への牽制になる。仇を討とうする無駄な攻撃に晒されることもないと大体の者は理解しただろう。
 そして虜は囮にもなりうる。もし救出しようと言う無謀の輩が現れるなら、近藤の眼前で虐殺すればいい。
 真選組は早々に近藤を諦めるのが奴のためだと分かるだろうか。
どちらにしろ救うのも、諦めるのも苦痛が待っている。それを思って、獣は満足げに喉を鳴らした。
(絆ってのは厄介なもんだ)
 だがそれでもあえて人は繋がりたがる。死をも超えて。そうして高杉も多くの者と繋がって来た。
 今も。
 高杉は息をついて、消毒を、と言う声を背に会議所から出る。
「晋助さま。少し休まれた方が」
 幕営の外に控えていた来島が言うのを高杉は遮った。
「平気だ」
「でも」
 来島はなおもいい募る。
 それほどやつれて見えるだろうか。確かに、輸血の針を刺す場所が見つからないほど高杉の体はぼろぼろだ。内蔵といい、血管といい、限界が近いだろう。
江戸の決戦に間に合うかどうか。梅花は凋落し、桜にはなお早い。
寝ている暇はない。
 時折諦めも心をよぎるが、これほど江戸に近づいてしまえば、この命が尽きるまでは足掻きたかった。そのために屍を越え汚泥を啜り血の海に這いつくばって生きて来たのだから。
 少しでも江戸に近づきたかった。幕府崩壊の足音はもう、誰の耳にも聞こえているのだ。出来ればこの残された目でその日を焼き付けたかった。そして最後に。
 高杉は腰の長刀に触れた。
 銀時は来るだろうか? 分からない。だがもしもその時が訪れ、高杉が銀時にまみえる為には休んでいてはいけない。
 高杉は今にも泣き出しそうな顔をする来島に告げる。
「同情なら要らねぇぞ。俺はやりたいようにしてんだから」
 痛みは鎮痛剤である程度なら散らせたが、体中の不具合から来るだるさばかりはどうにもならない。近頃では横になって寝付けば二度と起き上がれないのではないかと思う。
 横になってしまえば終いだ。
 しかし来島は高杉の拒絶に食い下がる。
「大事なものを惜しむのは同情なんかじゃないっすよ。晋助さまには願いを叶えてほしいっす。だけど」
 そういって来島は左胸を押さえた。ここがいたくなるのが嫌だから。晋助さまに苦しんでほしくないのは自分のためっす。と、いっそただのエゴのように語った。それは来島の甘さで、言い換えるなら優しさだろう。
「俺は誓いに命を掛けた。最後まで悔いのねぇようにしてぇんだよ」
 分かっていたが高杉は頷かなかった。例えどんなに部下を泣かせても、目的の為なら手段を選ばないと決めた通りに。
「晋助さま…」
 来島が高杉の名を呼ぶのとそれはほとんど同時だった。
「高杉!」
 屯所にしている寺にあがり、廊下を曲がったところでどかどかと桂がやってくるのが見えた。
 行儀の良い桂は追われる身であることも手伝って日頃から静々と足音もたてないのにこれは相当怒っているなと高杉は思った。何やら形相も変わっている。
「ヅラ、てめぇこんなところまで何の用だ」
 京に足止めしていたはずなのに、と狭い視界でその後ろを伺うと傷だらけの男と顔に特徴的なホクロのある男が諦めきった顔でついてきていた。
 つまり足止めは失敗なのだろう。
 さて何処までがバレて、何に対して怒っているのか? それは誤摩化せることなのか。
 桂は思案しながら様子を見ている高杉に近づくと、防菌スーツの頭部を露出させ、顔を近づけた。みるみる桂の端整な顔が迫った。
(近ぇ!)
 口づけの距離だった。
 高杉は渾身の力で幻の左を繰り出す。
 戯れで口を吸うくらいなら面白がってやってみても良かったが、今は雪火だ。近藤同様うつしてやる気はない。
「何のつもりだ? お前はそういう冗談嫌いだろ、ヅラ」
 桂はヅラではない桂だと訂正すらしなかった。
「本当なんだな? 昔ならいざ知らず、常のお前なら避けはすまい」
 鳩尾を強かに殴りつけられ、吹っ飛ばされかけた桂はぐぐっと踏みとどまってまた顔を寄せて来た。
「何がだよ? 電波」
 高杉は後ずさって距離を取る。昔から桂は銀時以上に突拍子もないことを始める。
「お前が雪火だというのは?」
 最悪だ。
 そこまで気づかれたか。
 誤摩化そうと思考を巡らせたが今は分が悪かった。高杉は血を吐いたばかりで、手巾で拭いたとはいえあちこちに乾いた血が付いている。切り合いをした訳でもないのに。
(それとも近藤を拷問したことにでもするか)
 しかし桂の目を見ればもはやそんな誤摩化しは通用しないことが分かる。
(どっちにしろ手遅れだ)
 高杉は口を開く。
「…。…捨て身の攻撃だな。頼りにならねー御神酒徳利だぜ」
「酷いや高杉さん!」
「俺ら、これでも頑張ったんだぜ」
 揶揄された同郷の二人は口々に言い返した。










復讐の鬼と化してる総督が少しでも書けてるといい。
どうしてこんな子に銀さんが今でも惚れてるのかは次!
はえーと攘夷の人たちで真選組は入るかなぁ。
 桂は忙殺されていた。政のあれこれを戦に集中する為に高杉が一抜けして桂にすべてを押し付けたせいだ。元々高杉は相当な軍略家で自ら鬼兵隊という手足を欲しがったように、戦上手だった。
 攘夷戦争時代共闘していた時にも上や、支援者との交渉ごとは桂に一任する嫌いがあった。一隊の長でもあったし、自分でもゴキブリホイホイのように色んな手合いを 引きつけていたから、まるでしないというわけではなかったが。
 桂が来たからには丸投げ。
 そんなわけで当初に言った通り、薩長同盟が締結した後も桂は新政府の参与になったり、朝廷でのあれこれに奔走させられていた。
(これも日本の夜明けの為)
 大江戸庶民を守り、理想の世を実現する為だと思っていたのだが、しかしそれだけではないと知ったのはエリザベスが銀時からのメールを回してきてからだった。
 銀時は以前教えていた連絡先へ電話をしたのだが、そちらは引き払った後だった。メールアドレスは生きてはいたが、桂は見れる状況ではなかった。気をきかせてくれたエリザベスが転送してくれなかったら今頃もまだ朝廷で喧々囂々しているところだった。
「御神酒徳利!」
 桂は二三のやりとりで裏付けを取った後、次から次へと書類を運んでくる自分の補佐たちを呼びつけた。
「はいっ」
「何ですか?」
 御神酒徳利とセットにされるこの二人は挙兵の折には一隊を率いたが元々は政治向きだったので、攘夷戦争の頃のように桂の使いっ走りをしたり、国元との連絡など様々な業務を任せていた。
 一人は村塾出身で、高杉に押し付けられて若い頃から桂が後見していることになっているし、今一人は高杉同様家柄もよろしく、御両殿の近習をつとめるほどだ。
 留学の経験もあり、能力も充分、そしてよく知った仲だった。ただし、前述の通り高杉とも縁が濃い。桂が大江戸で活動していた分、桂とのそれは薄れ、逆に高杉とは深まった感がある。
「高杉は今何処にいる?」
 桂の問いに答えたのは井上の方だった。
「高杉なら鬼兵隊本隊と北陸道戦線だろ?」
 流石、しゃあしゃあと答える面の皮の厚さだ。粛正されかけてなますにされても生き残っただけあって、肝は座りきっている。
「山田と山県からもそう聞いている。本当にそこだろうな?」
 すぐに白状するとも思っていなかった桂は村塾出身の指揮官たちの名前を挙げて重ねて問う。攘夷戦争を戦い、粛正の嵐をやり過ごして潜伏し、桂たち同様まだ生きている者もいるのだ。

 死して不朽の見込みあらば、いつでも死ぬべし
 生きて大業の見込みあらば、いつでも生きるべし

 先に死んだ者の無念を背負うなら生きて大業をなさねばならなかった。それが先生の教えだからだ。
 数人の例外もなくもなかったが、村塾の生き残り達は、高杉の挙兵に力を尽くしている。
 村塾の絆は強い。だがそればかりではない。今が生死を賭ける時だと理解したからだ。そう桂は思っていた。
「さあ? 何しろ高杉さんのすることですからねぇ」
 空とぼける伊藤を見ながら思う。桂は謀られていたのだった。
(あれは元々、人望があるわけでもないのに不思議と人を従わせるところがあった)
 呼びつけられた桂だとて今の今まで要望通りにしてやっているのだ。人のことを言えた義理ではないが。それにしてもと思う。
「…。そうか。では本当なんだな。高杉が雪火で北陸にはいないのは」
 病に侵され後がないことを知った高杉は走り通すことを決めた。しかしそれを桂には秘していた。ただ桂一人に。
 他の総督たちは知っていて、口止めをされていたのだ。
「何言ってんですか桂さん!」
「そうですよ、俺らそんなことひとっことも!」
 この二人もだ。
 軍内に動揺が広がるのを厭うたのだろう。だがそれにしても桂に黙っているとはどういうことだ。恐らく辰馬や銀時に漏れることを恐れたのだろう。それにしても。
「ふん。何か良からぬことを企んでいるのは知っていたが、あまり俺を甘く見るな。しらばっくれてもネタはあがっているのだ。銀時がエリザベスを通して知らせて来た」
「あー。あいつまだ生きてたのか。ふーん。しぶといなぁ」
 ふつふつと怒りながら桂は情報元を公開する。すると、井上は死ねばいいのにと思っているようでそんなことを言った。どうやら井上は白夜叉とまで言われた銀時が一般人として暮らしていることを快く思っていないようだ。
「坂田さん? 大江戸の坂田さんがなんで高杉さんのそんな情報。高杉さんが雪火持ち込んだって噂はたったそうですけどストーカー? いやいやいや」
 村塾出身だけあって、銀時の高杉好きといざという時のどS具合を知っている伊藤はやや腰が引けた感じだ。しかし腰が引けているもののまだ隠し通す気なのかそんなのただの根も葉もない噂ですってといい募る。
 しかし彼らが共謀して高杉の方に付いたからと言って、桂に味方しない者がいない訳ではない。
「裏付も取った。俺と大村殿は仲良しこよしの仲。聞けば大概のことは答えてくれる。聞かなければ教えてくれんがな。口止めするだけ無駄だ」
 二人はがくりと肩を落とした。
 そっちかあああああああ! ああ、すみません高杉さん! とか言っている二人を他所に立ち上がった桂は宣言した。
「そう言う訳で俺は行くぞ。昔から奴の暴走を止めるのが俺の役目だ!」
 今より政務を投げ出して参るという訳で。桂は高杉のいる東山道軍本隊のいる武州までやって来たのだった。
「また子ぉ」
 高杉は一応の味方である桂に撃鉄を起こした思い切りの良い来島に声をかける。
「はい、晋助さま!」
「三十六計」
「了解っす」
 来島は牽制の一発をずどんと桂の足下にぶっ放す。その間に高杉は裸足のまま庭へと降りて脱兎の如く走った。ここで桂に捕まって無為に時間を取りたくはない。全てを知った今、無理矢理薬を飲ませることは生還率を考えれば桂はきっと強要できない。それにしても問答無用で戦場から引き離されるだろう。
 西郷のいる東海道軍が定めた江戸城総攻撃まで一週間を切っている。
「あっ、こら待て、高杉! 貴様走るんじゃない! まだ話が…!」
 銀時とぶつかるならその日だろうと高杉は思っていた。その日まで生き延びる。高杉は桂の静止を振り切って走った。



 息が切れて、目が霞む。喉が切れて、口腔の奥から血の匂いがあがってくる。慣れた不快感に、咳き込みたい衝動が、胸を圧迫した。しかしここで倒れればおしまいだ。二度と臥所から出ることが出来なくなることが高杉には分かっていた。
「晋助さま」
 ふらつく高杉の手を手袋をした来島が掴んで一緒に走った。
「もうすぐ車止めっす」
「ああ」
 高杉の命を掛けた願いを鬼兵隊は叶えようとした。他の諸隊の同志たちもだ。それはもう半ば以上達成されたようなものだ。幕府は終わる。誓いは果たされる。復讐は遂げられる。あとは高杉がいなくても勝手に進んで行くだろう。奪われたのは高杉一人ではない。
 だから本当は高杉はもう眠ってもいいのだ。
 寛容なのか同情なのか、高杉の自由にさせてくれるものたちがいても、一度倒れれば高杉の体そのものが、戦場に立ち続けることをこれ以上許さない。
 今でさえ常勝の軍神と崇められている高杉の強い意思がなければ死までの静養を余儀なくされていただろう。
意思の力で立っていても、終わりの時は近い。
 鬼兵隊は離れた場所から高杉を固く守っていたし、高杉よりも強い奴は現れなかった。相手になりそうな真選組も近藤が捕縛され、戦線から離脱するかもしれない。高杉はこのままでは戦場で死ぬこともできない。無様なことだ。
 畳の上で死ぬなんて、死んで行った奴らに顔向けできないと思っていたが、自分のような者には逆にふさわしいのかもしれない。
 華々しく散ることも出来ずに、無惨に病で倒れ…。
 それでも自分が幸運だということは高杉には分かっていた。
(俺は本懐を遂げられる)
 充分だ。もう。
 後事を託して、腹をかっ捌き、それで自分の身の始末をつけてもよかった。道はつき、復讐も、獣の呻きももろともにそうして死へと堕ちて逝っても。
 あと、思い残すことがあるとしたらそれは銀時のことだろう。
 本当だったら、何も想い残すこともなかったのに。
 そうだ。高杉は銀時が攘夷戦争から手を引いた後、トラブルを起こし、小さな災厄に見舞われながら、しぶとく生きていることに何の不満もなかった。
 それこそが松陽の願ったことではなかったかとさえ思っていた。
 銀時は死んだ魚のような目をしていつつも、なんだか楽しそうだった。多分幸福だった。
 松陽を失ってから初めて得た穏やかで騒々しい時間だっただろう。自分では与えてやれない、そして自分には与えられないものだとしても、高杉は安堵していた。
 似合いだった。銀時には。
 白夜叉を飼い殺しながら家族のようなメガネとチャイナと銀時が根を張った街の人々といつまでもそうしていればいい。銀時は自分が守れる範囲のものを、今度こそ守るだろう。
 どれほど高杉が一緒くたに破壊しようとしてもそこだけは守るだろう。そう思っていた。
(先生。先生…俺のことはいい、銀時の為にもう少しだけ時間をくれ…)
 当然だがこれまで高杉は銀時に斬ってほしいと願ったことはなかった。そんなことになったら志半ばで死んでしまう。
 それは向こうから言い出したことだ。あれ以上、人々に害をなす高杉のやり方を見ていられなかった銀時と桂が、高杉を止める為の最後通牒をつきつけただけだ。
 そんな恫喝で止められることなら最初から誓いはしない。志がなくなれば高杉は高杉ではなくなる。なんのために生き延びたかも分からない。
 平和に平穏に大過なく銀時が幸福に過ごしたいならそうすればいい。虐殺に目をつぶり、粛正を忘れて、何事もなかったように忘れ、そうした生活を優先したいならそうすればいい。だがそこに高杉の望みはない。
 許さない。
 天人も、天人に迎合し、攘夷志士を弾圧した政府も、それをただ受け入れた世間という奴も、全てが高杉の敵で破壊の対象だ。そう。
 己の幸福も未来も命を投げ打ってでも高杉にはしなくてはならないことがあった。
(誰だって変わって行く。戦うと言ったお前が変節したように。俺は変わって俺にしかできないことをする。最期まで戦い抜く)
 破壊だ。高杉は旧体制の破壊をひたすらに目指した。幕府に支配されるという常識の破壊。階級制度の破壊。天人に貪り尽くされても仕方がない社会構造を、秩序をぶっ壊す。その破壊を、優しさや、希望、他者への労りに絡めとられて他の誰も憎しみを遂行出来ないというなら高杉がする。
 誰を殺し、泣かせ、犠牲にしても。全てを取っ払ってやろう。血と怨念に満ちた閉塞した世界に風穴を空けて滅ぼしてやる。たとえ、そのために全てが灰燼に帰し、更地になっても構うものか。
 憎めよ銀時、こちら側に来れないなら、そう思いながら。そうしてどうしようもない奴だったと苦々しく回想し次第に忘れていけばいい。
 攘夷戦争のただ中で、あるいは銀時が去った後でも、自分だけが悲嘆にくれているというように、一所に落ち着き、大事なものを作り固め、守ろうとする銀時をあざ笑いながら、高杉はあちらこちらを転々としては世界に喧嘩を売りつづけた。
 それを直接見、また伝え聞いた銀時はむかついただろう。先生の教えをねじ曲げて復讐に生きる高杉に怒らないまでも、苦しんだだろう、悲しんだろうし、辛かったろうと思う。だからいっそ無視するか、憎んでいてほしかった。
それなのに。
 とっくに愛想をつかされているだろうと高を括っていた。それなのにまだ銀時は高杉を諦めてはいなかった。自分のものだと思っている。
 高杉は心底驚いた。顔に出さなかっただけで。
(どんだけ馬鹿なんだ)
 銀時が一緒に幼少を過ごした頃の堅物で融通が利かず、死ぬほど自尊心の高いけれども屈託なく笑っていられた高杉など何処にもいない。最初から何処にもいなかったのに。
 ただ高杉は多少松陽に矯正されたため、自分の醜く、汚い、目的の為なら人を虐げても構わない、真っ黒に爛れた性根をみせなかっただけだ。桂などはよく知っていたから大魔王だの獣だのと好き勝手言っていた。
 死んだ後に、銀時の記憶の中でのみそれは再構築されるのだろう。
(どんだけ未練がましいんだよ。どんだけぐずぐずしてんだよ。俺だけがお前を想っていればいいことだったのに)
 銀時などは高杉を憎んで、死ぬ時にザマアミロとかいえばよかったのだ。
だけどまだ、銀時は高杉を懐に入れて大切にしている。
 守りたい者と守りたい者が両立しない矛盾が生じた。そんな葛藤に放り込みたい訳ではなかった。その上高杉は雪火だ。どうあってももう、この病魔から守ることなどできやしない。そんな思いをさせたいわけがなかった。何も守れないと悄然と戦場を去った銀時を虚しく見送ったからこそ。
(お前、馬鹿だなぁ銀時)
 昔のものなどさっさと捨てればいい。あの戦場に桂が、辰馬が、銀時が、残して行ったもの。そういうものこそが、高杉のものなのだから。
(お前本当にどうする気なんだ?)
 銀時自身、高杉を斬ることにそう乗り気でないことはもう分かっている。まだ迷ってる。
 来ないなら来ないでいい。渡した刀は形見になる。手元に置かなくても幾ばくかの金になるだろう。
 だがもし来るのなら。
(面倒だが仕方がねぇ)
 惚れた弱みだ。銀時の為にもう少し力を尽くしてやろう。最期まで足掻いて、生きて、思い切らせてやる。近藤への嫌がらせも、錦の御旗偽造、偽りの詔勅、公武合体派の天皇暗殺、あることないこと洗いざらい吐いて気持ちよく斬らせてやる。
 高杉得意の一石二鳥だ。
(うっかり俺がぶっ殺しちまうかもしれねーが。それもお前の為なのかもしれねぇ。俺にそれだけの力が残っていればの話だが)
「晋助さま!」
 来島が叫んでいる。意識を飛ばしかけていた高杉は必死で片目を凝らした。
 視界を過った銀髪に高杉はうっとりと微笑んだ。そのまま来島から汗ばんだ手を離し、抜き様に払う。









メロドラマになって来た。本望!
ツンデレだった。本望! 本望!
は銀さんと多分真選組。
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