忍者ブログ
総督至上サイト swallowtail mania since 090322 小説はカテゴリーの目次をクリックどーん。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 黒い。
 暗闇のただ中にいた。一人。月も星も、ぼんやりと光る街の明かりさえもない。建物の輪郭も見えず、足にふれる雑草の感触もなくただ暗いばかりだった。
 この闇は夜よりも暗い。ただそう思っただけだった。
 このところいつも冷たく感じる空気も変わりなく膚にまとわりついた。
 高杉は一歩足を進める。
 さてここは何処だろう。
 そんなことさえも思わなかったかもしれない。
 これが夢なのは分かっていた。近頃の夢はずっとこんなものだ。何処までも続く闇。何処までも一人。何もない虚ろ。
 高杉が壊そうとした世界の終焉とはこういうものなのかもしれないと漠然と思った。だったらもう、手に入れたも同じか。こうして目の当たりにしているのだから。
 存外、快いものではなかった。
 だがそんなものだろうと高杉は思った。
 別に高杉は理想を現出させるために世界を壊そうとしたわけじゃない。見たい景色があったわけじゃない。だったらこんな終わりでも仕方がない。
 特に清々ともしなかったが。
 高杉はすることもなく、見るべきものもなく、逍遥する。
 その時だ。珍しく今日は壁に突き当たった。いや、壁というよりは、するっとした毛に覆われたものだった。
 高杉は両腕を出して、それに触る。
 それは高杉の身の丈を越えて大きく、毛はかたく冷たく、けれども体は暖かく、生きているものだということが分かった。
 輪郭は闇に同化してどんなものか分からなかったが。そうするうちに、それは動いた。
 目を開けた。
(緑)
 闇の他にはじめて色というものを見た。高杉の着物でさえも黒にしか見えないのに、その大きな一つ目が色づいて見えたのは眼光が爛々と妖しく光っていたからだ。
 それは次に口を開けた。
 大きな牙が何本も白く浮かんだ。
 高杉など簡単に丸呑みできそうなくらい大きな口。それが迫る。
 けれども高杉は身動き一つしなかった。
(食われる)
 と思ったけれども。
「!?」
 それは高杉の襟首を噛んだ。そしてそのままどたんどたんと走り出す。高杉はそれの首元で猫の子のように運ばれた。
 高杉は着物が裂けるのも厭わずにそれを振り返る。
 走る様子から見て、それは四つ足の獣。けれども高杉が最初に見た一つ目は口の真上、顔の中央にあって、地球にいるどの生物のようでもなかった。
 宇宙からきたのだろうか。
 天人が行き来するようになってから様々なものが地球に持ち込まれた。これもその一つなのか。
 だが高杉は、これの正体について心当たりがある。
「お前か」
 これは高杉の獣。
 師の教えに背き、朋輩に去られ、恋人に愛想を尽かされてもこれだけはそばにいた。
 お前は血と暴力、死と腐肉を食らって大きくなった。俺がお前をそう育てた。だから俺だけはお前を否定しない。最後まで。
 お前の望みと自分の望みが分からなくなってしまった。俺は狂った。だがそれはお前のせいじゃない。俺が弱かったから。憎しみは確かにこの胸にあった。
 世界を憎んだ。
 本当だ。だからお前の望みは自分の望み。すなわち、お前は俺自身なのだ。
「お前だけが、一緒にいるんだな」
 何処までいくのだろう。何処まで行けるのだろう。



 耳元でわんわんと音がしていた。それがあまりに煩わしくて目を開けたいのに、まぶたが重い。
 酷い目眩でくらくらしているのが、目を閉じていても分かる。何かに呼ばれているような気がした。
 そのとき、衝撃が来た。二度三度繰り返されてそれが痛みだと分かる。体のうちから来るものではない、与えられた痛み。
「痛ぇ!」
 バチンと、耳をうつ音が止んだ。高杉はやっとのことで目を開けると、銀時が胸ぐらを掴んでこちらを見ていた。
「銀時、てめぇ何遍言ったら分かるんだ。俺は叩かれて喜ぶほど落ちぶれてねぇぞ」
 ぶちぶちと高杉が文句をいうとゆっくりと頭を枕の上にのせられた。見覚えのある天井を見ながら、熱とは違う熱さをじんじんと頬に感じた。どうやら高杉は銀時に叩かれていたようだ。
「白夜叉貴様ぁ」
「坂田殺す」
「あいだだだだだ」
「よくも晋助さまの顔を」
「許さん」
「死ね」
 とかいう声が呻きに混じって部屋中に満ちていて高杉は顔を横に向けた。
 どうやら高杉は居室にしていた十畳敷に西枕で寝かせられている。
 銀時の座る南側には順にマイペースを保ってお茶を啜っている桂、畳に踞っている井上、伊藤。反対側にはやはりすっかりぼろっちくなった武市、河上、来島、岡田が畳に沈みながら、銀時に呪いの言葉を吐いている。
 何事かと一瞬思ったが多分、銀時にぼこられたのだろう。理由までは分からないが、最後の締めが高杉だったのだろうか? それにしては桂が無傷なのが解せない。
 なにちゃっかり茶なんぞ飲んでいるのか。
「お前の許可ないと駄目ってうるせーからよ。しょうがねぇから起こしたんだよ」
 そういいながらせっせと銀時は高杉に今の衝撃でずれたと思われる氷枕をあてがい直した。両腕の下と、首の下、額の上にも。冷たい。だがそれ以上に、氷の重さが身にしみる。布団でさえ重く感じるのだ。
 間接がぎしぎしと痛む。
「何の話だ…?」
 強い吐き気に、高杉は目を閉じて聞く。
「薬だよ。雪火の。勝手にのませて死んだらどうするってさ。どうせこのままほっといても死ぬのにな」
「ああ」
 高杉は笑うこともできない。どうやって高杉を護るつもりなのかと思ったら銀時はこんなところまで高杉に薬を飲ませに来たのだ。
 取り返しがつかないほど病状が進んでからは誰もそうしろということはなかった。下手に飲ませれば寿命を縮めるだけだから。流石銀時だ。そんなハイリスクなどものともせず、この期に及んで高杉の命を諦めないつもりだ。
「飲め」
 銀時は簡潔に要求する。
「銀時のくせに俺に命令すんな」
 にべなく断ると、ざわりと空気が毛羽立った。多分怒ったのだろう。しかし銀時は腹に仕舞い込んで、怒鳴り散らすでなく下手にでてきた。
「…。…御願いしたら飲んでくれんの?」
 そんなに飲んでほしいのか。
「…俺を生かそうとしてどうするよ。誰の為にもなりゃしねぇ」
 高杉は氷の重さに胸を圧迫されながらぼそぼそと銀時がどん引くに違いない魔王の所行を虚実を織り交ぜて語ってやった。
 けれども望んだような反応は得られなかった。
「あーはいはい。そんなん後で裏付けとるから。俺はもうお前のことは話半分に聞くって決めてんだよ。それより俺はお前がいる方がいい」
「あきらめの悪い奴だな。飲んでもどうせ死ぬ」
 初期の段階なら五割だが、今更飲んでも生存率は一割を切るだろう。昏睡したまま、二度と目覚めない。
「死なねぇよ」
 残念ながらそんな期待には応えられないだろう。ためになるとすれば、これ以上害悪を撒き散らすこともなく、苦しむさまを見せずにすむことくらいか。楽な死に方だ。反吐が出る。こんな自分が?
 あんなに死をうみだして、苦痛と喘鳴の阿鼻叫喚を、屍の山を築いた高杉が眠るように死ぬ訳だ。高杉は多くの人間に恨まれている。殺された犠牲者もその家族も、その高杉の死に様がそれでは浮かぶに浮かばれないのではないだろうか。
(それも一興か?)
 何にしろ、まだ高杉は死に際を選べる訳だ。
 苦しむ分だけまだ毒をあおった方がましのような気がするが…。
 薬も今の高杉に取っては毒とはそう変わらないだろう。甘い毒。
「生き残って、また世界を壊せって? 悪夢の続きを見ろって言うのか?」
「俺と一緒に暮らすんだよ」
「お前が俺と? 無理だろ。…ガキどもはどうすんだ。大体、今の生活に、お前は満足なんだろう?」
 不満は言い出したらきりがない貧乏だし、貧乏だし、貧乏だしそう優しい顔をしていうものだから、高杉はやはり自分の洞察の方が正しいと思う。
「そんなもん、大して苦になんかしてねぇだろう」
「まあな」
「良かったな」
 それを捨てて銀時が高杉のところへなんて来れる訳がない。今までもそうだったように。二人の生きる道は分たれたのだ。いつまで行っても平行線で二度と重なることはない。
「まてまてまてまて! あるよ! 決まってんだろ! お前だよ、高杉。お前は目の上のたんこぶだ。じゃなかったらのどにささった骨だ。どうしたって無視なんかできねぇ。忘れるなんざ論外だできるわけねぇ」
「頑張れ」
(俺はお前とは逆だ。いいと思ったことなんかねぇ。満たされない。辛い。苦しい。 息をするのも痛ぇ。でも一つだけ。ある。良かったと思うことが)
「高杉?」
 銀時が幸福そうなのが、ねたましく、まぶしく、そしてうれしかった。
「お前、良かったなぁ。銀時ぃ」
 本当は悪夢なんかもう見ていないのかもしれない。それは時折、無意識の海から現れて銀時をさらおうとするかもしれないが、その揺り返しも段々と少なくなるだろう。思い出させる、高杉が消えれば。
 そして銀時は白夜叉を飼いならして、苦痛を制して、松陽の死も昇華する。高杉がどうしても出来なかったことをして、いつか松陽を越えるだろう。
「な、に」
「だからこれで良かったんだ」
 寂しくはない。高杉もまた一人きりではなかった。死出の道行きがいる。向こう側には松陽や多くの友や知人、朋輩が既に逝っている。戦争中ということもある。後に続くものも絶えないだろう。
 死ぬことは怖くない。
 だがこれ以上生きることは難しい。
「高杉ぃ、あんまり言うこと聞かねぇとケツぶったたくぞ」
「だからお前のSM趣味にはついていけねぇっつってんだろ
「嘘だね。だって高杉俺の事大好きじゃん。だから飲んでくれるだろ、俺の為にさ。生きろ」
 銀時は難しいことを言う。出来るだろうか。銀時が信じるように、自分はできるだろうか。
 高杉は答えず、じーっと銀時の顔を見つめた。
「高杉」
 高杉は銀時の顔を片目に焼き付けるようにすると、自分から視線を外した。それから順繰りにその場に居合わせたものをみていく。
「晋助さま」
「晋助」
「高杉」
 みんな身を乗り出したが、だからといってかける言葉はない。遺言はもう残してあった。その辺をひっくり返せば出てくるだろう。
 高杉は一周すると桂に聞いた。
「ヅラ、てめぇは?」
「どうせ貴様らは俺の言うことなど端から聞かんだろう? 俺は坂本の代わりに見届けに来たのだ」
 高杉は口の端をあげた。
「いいぜ、銀時」
 高杉はもう一度銀時を見ると薬を出せと言った。
「晋助さま!」
 銀時に体を起こされながら高杉は言う。
「俺が死んでもそれが天命だ。こいつを恨むなよ」
「無理でござる」
 即答されてしまった。まあそうだろうな。銀時が恨まれないようにするには高杉は生き残らなければならないらしい。だが元々銀時は鬼兵隊の連中には大層恨まれているのだった。いや鬼兵隊ばかりではないか。
「高杉さん」
「ふっ、ふっ、…じゃあせいぜい頑張ってみるけどな。銀時」
 高杉は元々生きたいと思っていない。この勝算のない賭けに勝てると思わないようにと銀時に釘を刺す。
「駄目元なんだから、あんまり期待するなよ」
「無理」
 これもまた即答された。
(わがままだな)
 そう思ったがもう、声は出なかった。銀時が薬を自分の咥内に入れて水を煽った。そのまま唇が触れる。
 高杉は目を閉じて、温んだ、しかし冷たく感じる水を受け入れる。
その日、全国に展開する諸隊へ一斉に同じ文面が回った。その内容はただ、四文字。






















 かねてから決められていた鬼兵隊総督の戦線離脱を示すものだった。









少し短いですがここまで。先生は入りませんでした。ラストは先生、新旧鬼兵隊万事屋。明日には更新したいと思います。
PR
[42]  [43]  [44]  [45]  [46]  [47]  [48]  [51]  [49]  [50]  [53

カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
最新記事
フリーエリア



カウンター


* Powered by NINJA BLOG * Designed by 龍羽風磨
忍者ブログ [PR]