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 言いたくなさそうな高杉が伏せた目を泳がせるとえも言われぬ艶があった。
 このまま攫って尋問しても良かったが、季節を先取りしているとはいえ、初夏を過ぎた菖蒲柄なのに袷に仕立てて着ているという事はまた熱でもあるんだろう。
 それなのにこんなところをふらふらさせるとは、鬼兵隊は何を考えているのだ。きっと両替商から出てきたのも悪巧みの一環だろうが。高杉自身ではなくてはならないことなのか。
 銀時はむっかりしながらそう思った。
 自分が頑健だったからか銀時の覚えている高杉は超がつくほど生意気だったが格段に弱い子供だった。
 雨が降るたびに熱を出し、十の頃には大病を患って何ヶ月も臥所から出る事ができなかった。度々休むので学問も遅れがちだったし、剣の腕も鍛えるために熱心に取り組んではいたがちびっ子だったのでリーチが足りず、残念ながらそれほどでもなかった。
 己の理想と現実に確かに悶々としていたが、長じて鬼や獣と恐れられる男になろうとは誰も思いはしなかった。
 松陽以外は。
 どちらかというと、蝶よ花よの風情だったのだ。
(あのままでいればよかったのに)
「銀時?」
 長い戦に耐え、今は片目をなくし、体中傷だらけでいまだに血なまぐさい事を続けている。決して強くはなかった。だから少しずつ壊れていく。
「しょうがねーなー。また今度にしてやるよ。お前、また熱があるだろ?」
 銀時は高杉の手を握ったまま会計へ動いた。触った指は銀時よりも温かい。酒のせいではなく。
「ああ? ねぇよ」
 白粉で洗ったかのように膚はすけるように白かった。わずかに目元だけが赤い。
「嘘です。あります。ほんとは送ってやりてぇけどそれは駄目なんだろ? さっさと帰れ」
「お前が引き止めたんだろ」
 むっと高杉は銀時を睨んだ。振り回されるのが気に入らないのだ。本当はどっちが振り回されているのか。
「はいはい。次は容赦しねぇよ?」
 銀時は金を払うために、名残惜しい指を離して、手を振った。
 俺ってほんと甘ぇなーと思いながら。
 高杉は両親や周りの者に溺愛されて育ったが、多分それは銀時も変わらないのだ。

 という事があった数日後なんでかヅラがやってきて高杉の事を散々に言い立てて行った。
「奇矯にもほどがある! 俺はもう、開いた口が塞がらなかったぞ。お前からもちょっと言ってやってくれ。どうせ俺の言う事は聞きやせん」
「はあ?」
 何を?
 もうテロとかヤメろってか?
 ジャンプの早売りを読んでいた銀時は訳の分からん事をまくしたてられて意味が分からない。
 大体高杉は銀時のいうことだって聞くわけがない。特に攘夷ヤメろとかは絶対に聞かない。あれを止めさせたら…できたらいいのだが…多分高杉は折れる。生きる理由がなくなって死ぬ。今だって息も絶え絶えだ。復讐だけが奴の身を、精神を支えている。
「思想ではない、風体だ! あれではよからぬ男共がざかざか群がるに決まっている!」
「いやまあそうだけど。今に始まった事じゃねぇだろ? 鬼兵隊とか鬼兵隊とか鬼兵隊とか」
「鬼兵隊なんぞ、良からぬうちに入らんわ! あれらは高杉を害する事だけはないからな」
 そういえばヅラは昔から鬼兵隊には鷹揚だった。そこが銀時と違う所だ。銀時にしてみれば総督命のあの手足こそがもう邪魔で邪魔で仕方がなかった。高杉と自分の間に立ちはだかる壁だ。もちろんその壁は、銀時以外からも十重二十重に高杉を守っていたから全くの利用価値がなかったとはいえないが。
 しかし高杉にはあんな鬼兵隊など作らず、ずっと故郷で奥さんよろしく銀時の帰りを待っていてほしかったなぁと思わぬではなかった。累々たる屍の地獄など見ずに。
「着流しのかわりに女物羽織るくらい傾いてるで済むがあれはない」
「え? 違うの?」
「見てこい。洒落にならん」
 行けば分かるとヅラは銀時に高杉の逗留場所をリークした。
 そんなんで仲間の攘夷志士の居場所を売っていいのか。

(まあ尋問もまだだし、そろそろ熱も下がったかな)
 そう思って、銀時は教えられた妓楼へ上がった。
 桂の使いでぇと言って本人自筆の書き付けを見せると見世の者はあっさりと通してくれた。指名手配犯が潜伏してるのにいいのかそんなんで。と思いながら上へ上がると、開いた口が塞がらないといっていたヅラの気持ちが良く分かった。
 銀時は思わず、座敷にへたり込みそうになった。
「お前は娼妓かーっ! 一体幾らだオイィィィィ!」
 叫んだ銀時に、酒を呑んでいた高杉は婉然と笑って言った。
「こんな片目の遊女がいるか」
 そんな遊女はいないかもしれないが、こんな上玉だったら一発お願いしたいのがいっぱい群がる。確かに群がる。絶対群がる。
「お前、自分が絶品だって分かってる? そんじょそこらの別嬪さんじゃないかんね? それをそんな格好…」
 普段ならああ高嶺の花かー、で済むかもしれないが、こんな色町で遊女の格好していたらもしかしたら買えちゃうかもーというバカなのが集まっちゃう。絶対集まっちゃう。だって遊女はどエロいのが普通だもん。
「お前、よくよく外見に拘るな。ぼろを着てても心は錦だろ」
「ぼろじゃないじゃん。なんでその帯前結び?」
 本日の絶品さんは赤い襦袢に、緋鯉の泳ぐ黒絹の単を灰銀の帯で締めていた。地味に派手だ。
 きっちりと襟を合わせているのはいい。いつもは腹まで見える事があるから。肌の露出はぎりぎりまで抑えていただきたい銀時だ。
 ただそうした所で、男が寄って来ないということにはならないのだと、今現実に突きつけられている。この人誑しが。
「後ろだと、あんまり解かれやすいんでまた子が」
「くるくるぺいっか? くるくるぺいってされたんか? どこそいつら? 殺してくる」
「くくく。もう生きちゃいねぇよ」
 高杉はおかしそうに口元をゆがめた。
 まあそうね。そんな無礼者は自分でやっちゃったか、鬼兵隊にぶち殺されなきゃ駄目ですよね。
「あっそ」
 でもできればくるくるぺいってされる前になんとかしてほしい。とっても似合ってて空恐ろしいくらいだが、こんな防衛どころか誘っているようにしか見えない服じゃなくて全身鎧かなんかで覆っていただきたい。
「大体何しにきてんだ?」
「ヅラに言われて、お前の洒落にならないおべべ見に来た」
 確かにヅラの言う通り洒落にならない。ほんと有害指定だ。漫倫だ。R20だ。訴えたい。誰か取り締まってぇぇぇ、お願いぃぃぃぃ!
「だから別にこれでいいだろ? お前もきっちり着込んでろっていってたよな、確か」
 着込んだとしても、いずれ菖蒲か杜若。
 むらむらなのは、変わらないってことだ。
「頼むよ高杉、銀さんどうしたらいいの? これ。押し倒して良い? いいよね?」
「ああ? っ!? 銀時てめぇ!」
高杉は銀時に向かって酒の入った猪口を投げつけたが、遅かった。
「…あっ」
「次は容赦しないって言ったよねー」







黒地に緋鯉の着物は、銀さんの白地に流水紋の着流しと対のつもりです。
このおべべの話の元ネタはビスコさんでした。元ネタは以下。
1また子が買ってくる
2花魁服
あざーす!
ビスコさんに捧ぐ。

 
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説明した方が親切かな、と思った諸注意みたいなもの。


・史実をベースにしたねつ造未来の銀高。もしも高杉が四境戦争以降も生き延びたなら。
・原作の上様は死亡。新将軍は喜喜(のぶのぶ)。道州制。明治まで藩庁と旧藩主が地方行政中。
・開始直後高杉27歳。桂、銀さんも似たり寄ったり。
・攘夷戦争後花火の時に再会。紅桜でちょこっと。その後一、二度会ってますがほとんど交流のない銀高。←なのにばっちり沖田君にみられてる。駄目じゃん。
・色んな人を書こうと思ったので銀高以外のキャラも沢山。
・わざと書かなかったキャラ、天人。神威。天導衆。
・都合上入らなかったキャラ、西郷・松平ぁぁぁぁぁ!
・原作にいない史実キャラも明治の都合上うろうろ出ています。
・総督至上。
・糖分は足りない。これから補完します。


シリアスに見せかけたツンデレのメロドラマでよろしければどうぞお楽しみください。

梅花凋落01
 きょうびの鬼兵隊総督、というのは座敷に転がって酒飲みながら日長一日ぷらぷらしていると思われがちだが、存外そうでもなかった。
 確かに転がって裸足の足をぷらぷらさせて煙草をのみつつ昼酒したり、そのまま日向で午睡をしていることもある。攘夷戦争の頃よりは格段にものぐさでだらしなく怠惰に過ごしているとか(本人談)。
 が、この総督は気がつけば歌を歌い、漢詩を書き付け、書物を読み、地図を広げて何やら立案し、実行に移す算段を黙考していたりする。
 そういうわけで、一人遊びが上手な総督があんまり退屈している所を万斉は見たことがない。
 今日も潜伏先にやってくると総督の部屋に様々な紙を散乱させたまま、やっていた作業に疲れたのか、隅っこで窓の外などを眺めていた。
「邪魔するでござる」
 結界のように広げられた紙片を片付けない事には総督の元にさえ近づけない万斉は足場を確保するため、順々に重ね始めた。

 魚驚釣餌去 鳥見矢弓飛
 反復人情事 我掌知此機…

 その一つに目をやれば、その書き付けがまた巧いもので、書も詩も立派な趣味人としてやっていけるほどだった。何をやらせてもいっぱしの、才気煥発な男なのだ。
 だが根を詰めすぎていた。
 もっと怠惰に緩やかに過ごしていてもらったほうが安心なのだが。
「何か用か?」
「何も。顔を見せにきたでござる」
 正確に言えば我らが総督の麗しのご尊顔を拝しにきたのだ。
 今日も晋助は指先まで白く、頬だけが上気して赤かった。
「ふうん」
「詩作に飽いたのなら、気晴らしに三味線でもどうでござる。最近はとんとやっておらぬであろう? 何か理由があるでござるか?」
「…。あれなぁ…」
 晋助はものうく答えた。
「気が乗らぬようでござるな」
「最近じゃ三味線くれぇで獣の唸りは打ち消せねぇのさ。日増しに大きくなっていきやがる。…それに音ってのは弾けば内心がだだ漏れんだろうが」
 聞く奴が聞けば分かるものだ。そしてお前は分かる奴だろうがと、晋助は万斉をちらりと見上げた。
 しかし気詰まりなのは本当なのだろう。
 考える事に草臥れたのは。
 晋助はほうっとため息をつくと、億劫そうに動いた。
「でもまあ、やってみるか。後で感想を聞かせろよ」
 晋助はいざって小さく畳まれていた携帯用の三味線を手に取った。順々に組み立てて音を合わせると、バチを動かし始めた。
 音はびいいんと重く乾いて響き、万斉の胸を抉るように轟いた。
 晋助は大変な弾き手だ。そもそも技巧ももの凄いが、そればかりではない。
 だが今日に限っては弾きづらそうに何遍か音を外した。いいや、音が取れないのだ。
気怠そうだがいつもはもっと楽しげな音を出すのに、眉間に皺を寄せている。
 晋助の言うように獣の唸りが強すぎて、三味線の音が聞こえないのかもしれない。万斉には獣の唸りは聞こえない。だが、晋助の胸が轟々と鳴るのは離れていても良く聞こえた。
 晋助は転調させて、曲の解釈に添うように弾くのをやめた。その胸の異音を打ち消すように、強く強くバチを動かした。
 未だ果たされぬ誓いと晋助の内心。志、彼の魂というべきもの、その情念。
 狂気で。
 真昼の穏やかな午後が黒く侵されて行く。
 美しく凄絶な修羅の音がしばらく響いた。
「どうよ」
 手遊び、という範囲を遠く逸脱している、その音。魂の叫びに万斉は頷いた。
「あい分かった」
「何が?」
 三味線を弾く事で何かを発散させ、少し表情の戻った晋助は怪訝そうに問うた。
「おぬしの願う通り、見事戦いの火蓋を切ってみせるでござる」
 近々に。
「…くくく、そうか俺は戦場に焦がれているのか。ああ、そうだな…その通りに違いない…」
 晋助は熱を帯びた潤んだ目で、小さな肩をふるわせて、暫くおかしそうに笑っていた。
 三味線は確かに目的通り気晴らしにはなったようだ。
 だが、晋助を止まらせる事はできないことを万斉は同時に悟った。もはやとどめるをえず。
(残された時は少ない…晋助自身が覚悟しているように)
 狂気が晋助の心を壊すのが先か、胸の轟音が体を壊すのが先か、だがその前に。必ずやその前に、晋助の宿願を果たさせてみせよう。
 そのために万斉は、いや鬼兵隊はあるのだ。
 万斉はそのまま、武市を探しに行った。
 時機は来ている。すぐそこまで。鬼兵隊はそれを掻き混ぜ早めねばならない。
 飛ぶ鳥が落ちるように、晋助は遠からず死ぬ。
 晋助は病んでいた。










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