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「手ぇ出すなよ、また子」
いいながら高杉が抜刀する。
「おっと」
届くと思っていない間合いから、白刃が迫って銀時はその時ばかりは半分眠ったような目を見開いて腰の木刀で弾いた。小柄な高杉が好む通常よりも刀身の長い刀のせいだ。
こんなものをあり得ない速度で高杉は繰り出す。本当に雪火なのか。銀時はまだ信じたくはなかった。
「遅いぞ銀時!」
高杉を追って来た桂が勝手な事をいっている。銀時が教えなければまだのうのうと京都にいたくせに。いつも顔を会わせれば口やかましい桂にも説教が必要だ。だがその前に、高杉を止めなければ。
「勘弁しろよ。これでも充分急いできたっての」
銀時は木刀を肩に預けて高杉を見る。
それこそ頭の先から裸足のつま先まで。
痩せた。
だが病み衰えている風ではなかった。肌色は紙のように白い。だがほほには僅かに赤みがあり、緑の強い目は熱をはらんで潤んだように光った。
雪火は亡国病とも呼ばれるが、同時に美人病ともいわれている。
確かに高杉は銀時の目にはかっきりとあざやかに映った。特に膚の白さが漆黒の髪と衣装とに映えてまばゆいほどだ。だが薄汚れた戦場でも高杉は際立っていた。いつだって銀時には目覚ましかった。
桂が騙されても仕方がないのかもしれない。銀時だって沖田に知らされるまでまるで気づかなかったのだ。幾ら遠く離れていたからといっても虫の知らせくらいあったって良かった。
(どうして教えてくれなかったんだよ、先生)
それとも松陽こそが呼んでいるのだろうか。成すべき事を成さしめた後に高杉を。だとしても渡せない。
銀時は寿命が尽きるまで、まだ当分この浮き世をたゆたっていなければならないからだ。そこには高杉にいてほしい。
傲慢な願いなのは分かっている。それでも失えない。
(だから俺はお前を殺してやれねぇ)
背伸びしたって出来ない事はある。
「銀時、てめぇ刀はどうした」
再び刀を振り下ろしながら、高杉も銀時を眺めた。腰に下げられていたのは木刀だけだった。送りつけた真剣はない。
「忘れて来た」
悪びれないその答えに高杉は毒づいた。
「どうしようもねぇ野郎だな。まあいい」
高杉は銀時の不殺の木刀を横薙ぎに払うと、反転して桂に迫り、その腰のものを左手で器用にしゃっと抜き取った。
「高杉!」
手癖の悪い高杉に桂は非難の声を上げたが、武士の魂を抜き取られる方が悪い。そのまま高杉は銀時へと刀を投げ打つと同時に打ち合わせた木刀を真っ二つに両断した。
「使え」
桂の刀でほほが切った銀時はつうっと血を流しながらやはり左手で刀の柄を掴んだところだった。
「…。…やんの?」
ちらりと折れた洞爺湖を見やりながら、この期に及んでも気乗りしないようだった。そんな逡巡を許さずに高杉は尚も打ち込んだ。銀時はとっさに洞爺湖を放し、高杉の刀を蹴り上げた靴底で受ける。
「じゃあなにしに来たんだよ。ここで止めなきゃ江戸城下は火の海だぜ」
答えたのは桂だった。
「江戸城総攻撃は延期だ」
「!」
聞き捨てならない言葉に高杉は銀時と刃をあわせながら桂を振り仰ぐ。
「江戸庶民を虐げることはできん。元将軍は徹底して恭順だ。その前政権最高権力者を処刑するのは対外的にも外聞が悪い」
元々桂は穏健派だ。分かってはいたが、桂を招き入れた影響がこういう形で現れるとは。官軍の主体である薩州の主立ったものたちは強硬派だったから押し切れると思っていた。
「…西郷は折れたか。どいつもこいつも」
江戸と目と鼻の先にあって攻撃を躊躇うとは、恨みつらみのない奴らはこれだから頼りにならない。
掲げた憎しみをではどうやって振り下ろせばいい? どうすれば弔える? 流れた血の量をどうして突きつければいい。あの犠牲を刻み付けるためには。
同じ戦場をくぐり抜けて来た桂と銀時でさえ、傷つきすぎてその悲惨さを黙して語らない。あの惨劇を忘れさせないためには同じ屍を積み上げるしかない。辛酸を舐めた口で吠え続けなければならない。聞くものの心胆を凍らせるほどに許さないと叫ばなければ。
「止めて欲しかったろう。感謝しろ」
「ばかな」
「だから俺を呼んだだろう」
戦い合う銀時と高杉の後方から桂は言った。
もういいだろうと。
何がいいものか。
しかし尚も桂はいう。
「貴様を駆り立てていたものはいつだって愛したものを惜しむ気持ちだった。証拠に、世界を壊すと言っていたお前の刀は、世界には向けられていない。お前が終わりを突きつけているのは幕府という害悪だ。それももう叶ったろう?」
お前は分かっているはずだ。喪われたものたちが、この世界を愛していた事を。貴様もまたこの世界を愛しんでいる。花の美しさを愛で、春を待ちわびていた貴様が、そうでないとは言わせない。もうお前一人がこの世の汚濁だけを見つめている必要はないのだと。
「黙れ! 違う!」
否定の言葉を吐きながら、高杉は桂をぶった切りたくて仕方がなかった。口を塞ぎたい。今はようやく銀時と斬り合っているというのに。
最後に残された至福の時のはずなのに、邪魔をする。桂を抱え込んだのは失敗だった。ずっと京都に釘付けに出来ていればこんなことにならなかったのに。どうしてこいつはこのタイミングでここにいるんだ。
銀時が来るのと同じ時に。
恐らく二人は結託している。
高杉は刀を揮いながら銀時を睨む。
(そんなに俺と戦いたくなかったのか。今更俺を説得できると思ったか…)
そして?
説得して何になる?
確かに江戸は無傷で残るかもしれない。江戸の無事だけを思うなら二人はここまで来る必要はなかった。総攻撃と決められていた日まで高杉に伏せていればいい話だ。
それともどこかで聞きつけた高杉が、やけを起こして暴発するのを直接止めに来たか?
そうだ。まだ方法はある。
降伏を申し出て、それを受け入れた江戸で、官軍側の鬼兵隊が一発打ち込むだけで全ては破約。あっというまに市街戦の火ぶたは切られるだろう。地球一の規模を誇るターミナルに戦艦を突っ込ませてもいい。それであっけなく世界は終わる。
「弔いの為の刀をいつまでも振りかざして何になる。俺たちを置いて逝った連中もそんな事を望んでいない。奪ってもまた何かを喪うだけだ」
桂の言う通り、きっとまた高杉は失うだろう。今までそうして来たように、多くの命を火にくべる。そこには顔も知らない人間だけでなく、仲間たちの親や兄弟も含まれるだろうし、攻撃を命ずる鬼兵隊もその内に入るだろう。
高杉の命令通りやきもきしながら見守っている来島や、武市、河上、岡田。使い捨ての道具のように扱って来た同志たち。
だがそのことを高杉は省みないようにして来た。
何故なら、彼らはどうせ、高杉が死ねば生きてはいない。遅かれ早かれ後を追う。
高杉が拾わなければ、もっと早く命を使い果たしただろう。彼らもまた破壊と復讐の鬼なのだ。
太々しく生きる一般人とはまるで相容れない危うさを持っている。どうしたってはみ出す。平穏には生きれないのだ。
だから高杉が道を敷いた。
目的を遂げてからの、滅びを。省みない。案じはしない。本当に生きる力があるならその軛から自力で反れて行くだろう。
「俺の憎しみを! 奴らへの怒りを! 死んで逝った人間を、奪って来た命を否定するな。俺たちがして来たことを、なかったことにするな」
託されたものが復讐ではない事は分かっている。彼らが望んだのは天人の過剰な干渉を排する事だ。国土が、人が踏みにじられない事だ。自分の国を自分たちのものとしておくことだ。
それをするには幕府ではいけない。彼らは無尽蔵に天人の入植を受け入れ続ける。天人を規制する新しい機構がいる。そしてそれは実現しつつある。新政府の命題は高杉が示唆するまでもなく、不平等条約の撤廃。関税自主権の回復。自由貿易だ。
報復を死んで逝ったものたちが望んでいない事など百も承知の上だ。それでも高杉は突き進んだ。
殺戮は生きているもののためにも必要だった。
高杉や鬼兵隊だけではない。新しい世界を作ろうとするものたちが矛をおさめて前に進むためにも犠牲はいる。
官軍賊軍、双方ともうんざりするほど死ぬだろう。
そして血で血を洗って出来たものは少しは世界を良くするかもしれない。技術を進め、人を富ませ、安全を確保して、誇りを曲げずにすむように。
だが結局は同じだ。歴史は繰り返す。権力を握るものが腐った幕吏と入れ替わる。それだけだ。
同じ人間が作るものだ。どうせ碌なものじゃない。
次に来る世の良さも高杉は大して信じてはいなかった。高杉はとうに絶望している。
「高杉! お前はもう充分に事を成した!」
事を成した?
何を成したというのだ。ただ殺しただけ。多くの血を流しただけ。壊しただけの高杉にどうしろと言いに来たのか? 復讐を止めろ?
江戸は護られる。将軍は見逃される。しかし戦いはまだ続く。高杉がいてもいなくても官軍は他に犠牲を求めるだろう。ここで高杉を阻止しても流れは止まらない。
復讐の血を求めず、争いに参加していないこの二人には止められない。生きるために報復を求めていたのは高杉だけではない。
「巫山戯るな!」
充分に事を成した?
ああそうだろう。
高杉は旧悪を取っ払った。そのための力だけを望まれた。新たな政治を実行するのに、高杉はいなくてもいい。そうやって残虐な時代の寵児として高杉も消える。全ての責を負って。命を賭した、回天の罪は誰がなんと言おうと高杉のものだ。
あとは時代の終焉とともに死んでみせることだけだ。だから高杉は止まらない。無益だろう。だが無意味ではない。何の生産性も創造性もない。しかし無価値ではない。何かを始めるには必要なことだ。
誰もがやりたがらなかっただけだ。
(今度は俺が捨て駒になる番だ)
昔、多くを生き残らせるために、そうなれと仲間に命じたことがある。本陣を護れ。戦線を持ちこたえさせろ。前線を突き崩せと。ただ高杉一人を生き残らせるために、命じなくともそうした仲間もいた。
だから同じ道を辿ることに不満はない。悔いさえ残らない。
(だから、どうせ死ぬならお前の悪夢を終わらせてからにしてやるよ。お前の獣を、白夜叉を連れて)
突き、払い、刃をあわせ、それまで黙って高杉をいなしていた銀時が不意に口を開いた。
「別にお前だけじゃねぇ。俺たちだって大まじめだぜ。何しに来たって言ったよな。高杉。俺はこの国が滅ぼうが侍が滅びようが別にどうだっていいんだ。昔も今もな」
桂は高杉の憎しみを止めに来た。銀時は違うというのか。
「じゃあ、何しに来たんだよ? 江戸は無事なんだろ?」
「お前を護りに」
「はっ」
その滑稽さを高杉は吐き捨てた。
「お前自身からな」
銀時は全力を込めて、高杉の長刀を打つ。刃こぼれするほどの衝撃に、刀からは一瞬青い火花が飛んだ。そのすべてが銀時の怒りを表出させていた。
「幾らお前でもお前を殺そうとするなんてゆるさネェ」
先ほどまでの気のない鍔迫り合いとはまるで異にした音がガンガンと響く。
「お前は俺のものなんだよ! 勝手に死ぬな! なんで薬を飲まなかった!? 生きろよ! 生きる努力をしろよ! 先生みたいに俺を置いて逝くのか!?」
その重い一撃一撃を、銀時の叫びを高杉は凌いだ。
そうだ。高杉は勝手に死のうとした。銀時よりも誓いをとった。
可哀想に。
教えてやりたかった。銀時がそんなに必死になるほど自分はいいものではないと。銀時が護る価値なんかない。憎めばいい。愛してもらう資格なんかない。
ただ最後に、お前を想って死ねればいい。死んだ後にしかお前のものにはなれない。生きている限り、部下を率いて戦い続ける。お前を選ぶ事は出来ないし、お前の傍には決していけないから。
そう何処までも自分本位に思っていた。
「ああ、そうだ。お前を置いて俺は死ぬ」
高杉はそう肯定して事実を突きつける。
俺はお前が信じるほど弱くはなかったし、お前が疑うほど強くはなかった。
だから今こうして死のうとしていると。
「高杉ィ!」
銀時がどんなに叫んでも覆らない。
天とは非情なものだ。
高杉はそういったものと戦ってきた。高杉自身、非情にならざるを得なかった。高杉はあまり銀時に、高杉自身の穢さを見せなかったが。
(それでも俺は残酷だと、お前は知っていただろう?)
「お前を死なさねぇ!」
両腕がしびれてあがらない。その高杉の頭上に銀時の刀が打ち下ろされた。
(どうやって?)
高杉は笑った。
刀を振り下ろす事との矛盾が生じている。それが無性に可笑しくもあった。
(それともお前が俺を不朽にしてくれるのか?)
だが違った。
見上げた刀の刃は向けられておらず、高杉は刀の平で面を取られた。
(今ここで殺さないで、雪火で俺が死ぬのを待つつもりか?)
無惨な仕打ちだ。それがお前の、お前たちの復讐なら受け入れてもいいと高杉は思う。だがそうはならなかった。銀時は本気で高杉を救いに来たのだ。万に一つの可能性に賭けるために。
高杉の剣も身のこなしも病人のそれではなかった。神速の域にまで達するかと思われた。何遍か体をかすり、髪の筋を切られた。最期の舞のようだった。持てる力を、命の全て注ぎ込んでいるかのように力強く、銀時に向かって繰り出された。
永劫続くかとも思われた斬り合い。
だが時折切っ先がぶれる。
やはり、限界は近い。
これ以上命を削らせてはならない。
銀時は随分遅くなった。
高杉を救うにはこの一分一秒が命取りになる。
何度も何度も力任せに刀を打ち込み、弱った高杉の腕が萎えるのを狙った。
銀時は絶叫して高杉の名を呼ぶとようやくがんと、一発入れることができた。高杉は笑っていた。
どうやって護るつもりだと。
(護るったら護るんだよ。今度こそ俺は逃げねぇ)
無力さ、遣る瀬なさ、そんなものを抱えている間に、高杉を一人にした。そしてどんどん高杉は遠ざかって行った。銀時が無為に生きている間に、引き返せないところまで。高杉が生きるために必要なことだったとはいえ。目的を遂行するのによく命がけで、というし、実際に銀時だってそんな風に命をさらして戦ったことはある。だが不意に死ぬならともかく、本当に命を賭ける奴があるか。誓いを達するのが先か、病で倒れるのが先か、そんな鬼ごっこを本気で仕掛ける馬鹿がいるか。
だがいたのだ。
(高杉)
平で打っただけだがそれでも額は割れたようで、高杉の白い包帯に赤いものが混じった。
だが包帯がはらりと地面へ落ちるより先に、脳しんとうを起こした高杉が倒れ込む。
銀時は持っている刀で傷付けないようにしながら、高杉に手を伸ばし、抱きかかえる。
そのとき、がちりと撃鉄を起こす音が聞こえた。同時にすらりすらりと鞘から刀が引き抜かれる音が。
「白夜叉、貴様!」
「晋助さまの仇っす」
「その人を離せ!」
目線を上げれば鬼兵隊幹部がそろい踏みしている。どいつもこいつも戦い慣れした堂の入った構えだったが、一人髷を結った中年だけは刀の切っ先が揺れている。
銀時はそれらを苦々しく見ながら、桂に刀を返すと高杉を抱え上げた。
軽い。
完全に脱力して気絶した人間は普通重いものなのに、小柄なことも差し引いても、高杉は軽々としていた。
「何で殺したことになってんだ。俺、こいつを死なさねぇって言ったよなぁ? 聞いてただろ? つか俺はお前らにももの凄く怒ってんだよ。こんなになるまでほっときやがって何してくれてんだ?」
ああ?
「お前らも知ってたんならなんで言わネェ」
銀時は桂の後ろに控えていた御神酒徳利にもメンチを切った。どいつもこいつも馬鹿ばっかりで苛々する。死んだらそこで終いだとあの戦争で覚えて来たんじゃなかったのか。
「お前に言う義理はねぇ」
けっと井上が言えば、銀時の執念深さを知っている伊藤が少しでも怒りを逸らそうと続ける。
「と、高杉さんが言ってました!」
もちろん銀時は誤摩化されない。この二人も後でしめる。銀時に言えないまでも、この馬鹿どもがそれこそ命を賭けて止めていればこんなことにはならなかった。
世の中はひっくり返らなかったかもしれないが、高杉が生き残る確率はまだそれなりにあっただろう。どうして受け入れた。
「これで高杉が死んだら白い獣が目を醒すから。血が凍るような八つ当たりかましてやるから」
そういいながら銀時は寺の奥へ奥へと進む。
「おい、こいつの部屋は何処だ? あと医者は?」
鬼兵隊その他は顔を見合わせるとそれぞれに武器を下ろした。
そうして自分たちの総督を好き勝手に動かしていることに今更ながらに気づいたヘッドフォン野郎が交代を要求した。
「晋助は拙者が運ぶでござる」
「誰がてめぇなんかに渡すか。二度と触らさねぇから覚えとけ」
却下に決まっている。
「それはこっちの台詞っす。晋助さまは渡さないっす」
「渡すも渡さないも俺のもんです〜。今まで貸してやってただけだから。高杉の意思を尊重して」
「どの面下げていうんだね? 今更あんたなんかお呼びじゃないんだよ」
「嘘付け。こいつは待ってただろ」
俺が殺しに来るのを。
流石に、誰もそれを否定することは出来なかった。
(やっぱりな)
自惚れではなかった。雪火であることを隠し通せても、最期の果てに高杉が銀時に会いたがっていたことだけは誰にも否定できない。
「こちらです」
瞬きをしない中年が雪見障子を開けて高杉の居室に誘う。地図や書き付けの束が撒き散らされたそれを踏みしだいて銀時は進む。
「布団しけ」
腹いせに鬼兵隊をあごで使ってやった。
何を言い訳したらいいか沢山ありすぎてあれですが、高杉が好きすぎるのはおいといて、鬼兵隊が高杉に触ろうとしているのは防菌スーツ着てるからですので、移りません。あと書きたいのはメロドラマなので、銀高のもの凄い剣と剣の応酬(大気をまきこんでばーんとか靡く髪とか)はアニメと見て補完していただきたい所存。
次は先生と銀高。
いいながら高杉が抜刀する。
「おっと」
届くと思っていない間合いから、白刃が迫って銀時はその時ばかりは半分眠ったような目を見開いて腰の木刀で弾いた。小柄な高杉が好む通常よりも刀身の長い刀のせいだ。
こんなものをあり得ない速度で高杉は繰り出す。本当に雪火なのか。銀時はまだ信じたくはなかった。
「遅いぞ銀時!」
高杉を追って来た桂が勝手な事をいっている。銀時が教えなければまだのうのうと京都にいたくせに。いつも顔を会わせれば口やかましい桂にも説教が必要だ。だがその前に、高杉を止めなければ。
「勘弁しろよ。これでも充分急いできたっての」
銀時は木刀を肩に預けて高杉を見る。
それこそ頭の先から裸足のつま先まで。
痩せた。
だが病み衰えている風ではなかった。肌色は紙のように白い。だがほほには僅かに赤みがあり、緑の強い目は熱をはらんで潤んだように光った。
雪火は亡国病とも呼ばれるが、同時に美人病ともいわれている。
確かに高杉は銀時の目にはかっきりとあざやかに映った。特に膚の白さが漆黒の髪と衣装とに映えてまばゆいほどだ。だが薄汚れた戦場でも高杉は際立っていた。いつだって銀時には目覚ましかった。
桂が騙されても仕方がないのかもしれない。銀時だって沖田に知らされるまでまるで気づかなかったのだ。幾ら遠く離れていたからといっても虫の知らせくらいあったって良かった。
(どうして教えてくれなかったんだよ、先生)
それとも松陽こそが呼んでいるのだろうか。成すべき事を成さしめた後に高杉を。だとしても渡せない。
銀時は寿命が尽きるまで、まだ当分この浮き世をたゆたっていなければならないからだ。そこには高杉にいてほしい。
傲慢な願いなのは分かっている。それでも失えない。
(だから俺はお前を殺してやれねぇ)
背伸びしたって出来ない事はある。
「銀時、てめぇ刀はどうした」
再び刀を振り下ろしながら、高杉も銀時を眺めた。腰に下げられていたのは木刀だけだった。送りつけた真剣はない。
「忘れて来た」
悪びれないその答えに高杉は毒づいた。
「どうしようもねぇ野郎だな。まあいい」
高杉は銀時の不殺の木刀を横薙ぎに払うと、反転して桂に迫り、その腰のものを左手で器用にしゃっと抜き取った。
「高杉!」
手癖の悪い高杉に桂は非難の声を上げたが、武士の魂を抜き取られる方が悪い。そのまま高杉は銀時へと刀を投げ打つと同時に打ち合わせた木刀を真っ二つに両断した。
「使え」
桂の刀でほほが切った銀時はつうっと血を流しながらやはり左手で刀の柄を掴んだところだった。
「…。…やんの?」
ちらりと折れた洞爺湖を見やりながら、この期に及んでも気乗りしないようだった。そんな逡巡を許さずに高杉は尚も打ち込んだ。銀時はとっさに洞爺湖を放し、高杉の刀を蹴り上げた靴底で受ける。
「じゃあなにしに来たんだよ。ここで止めなきゃ江戸城下は火の海だぜ」
答えたのは桂だった。
「江戸城総攻撃は延期だ」
「!」
聞き捨てならない言葉に高杉は銀時と刃をあわせながら桂を振り仰ぐ。
「江戸庶民を虐げることはできん。元将軍は徹底して恭順だ。その前政権最高権力者を処刑するのは対外的にも外聞が悪い」
元々桂は穏健派だ。分かってはいたが、桂を招き入れた影響がこういう形で現れるとは。官軍の主体である薩州の主立ったものたちは強硬派だったから押し切れると思っていた。
「…西郷は折れたか。どいつもこいつも」
江戸と目と鼻の先にあって攻撃を躊躇うとは、恨みつらみのない奴らはこれだから頼りにならない。
掲げた憎しみをではどうやって振り下ろせばいい? どうすれば弔える? 流れた血の量をどうして突きつければいい。あの犠牲を刻み付けるためには。
同じ戦場をくぐり抜けて来た桂と銀時でさえ、傷つきすぎてその悲惨さを黙して語らない。あの惨劇を忘れさせないためには同じ屍を積み上げるしかない。辛酸を舐めた口で吠え続けなければならない。聞くものの心胆を凍らせるほどに許さないと叫ばなければ。
「止めて欲しかったろう。感謝しろ」
「ばかな」
「だから俺を呼んだだろう」
戦い合う銀時と高杉の後方から桂は言った。
もういいだろうと。
何がいいものか。
しかし尚も桂はいう。
「貴様を駆り立てていたものはいつだって愛したものを惜しむ気持ちだった。証拠に、世界を壊すと言っていたお前の刀は、世界には向けられていない。お前が終わりを突きつけているのは幕府という害悪だ。それももう叶ったろう?」
お前は分かっているはずだ。喪われたものたちが、この世界を愛していた事を。貴様もまたこの世界を愛しんでいる。花の美しさを愛で、春を待ちわびていた貴様が、そうでないとは言わせない。もうお前一人がこの世の汚濁だけを見つめている必要はないのだと。
「黙れ! 違う!」
否定の言葉を吐きながら、高杉は桂をぶった切りたくて仕方がなかった。口を塞ぎたい。今はようやく銀時と斬り合っているというのに。
最後に残された至福の時のはずなのに、邪魔をする。桂を抱え込んだのは失敗だった。ずっと京都に釘付けに出来ていればこんなことにならなかったのに。どうしてこいつはこのタイミングでここにいるんだ。
銀時が来るのと同じ時に。
恐らく二人は結託している。
高杉は刀を揮いながら銀時を睨む。
(そんなに俺と戦いたくなかったのか。今更俺を説得できると思ったか…)
そして?
説得して何になる?
確かに江戸は無傷で残るかもしれない。江戸の無事だけを思うなら二人はここまで来る必要はなかった。総攻撃と決められていた日まで高杉に伏せていればいい話だ。
それともどこかで聞きつけた高杉が、やけを起こして暴発するのを直接止めに来たか?
そうだ。まだ方法はある。
降伏を申し出て、それを受け入れた江戸で、官軍側の鬼兵隊が一発打ち込むだけで全ては破約。あっというまに市街戦の火ぶたは切られるだろう。地球一の規模を誇るターミナルに戦艦を突っ込ませてもいい。それであっけなく世界は終わる。
「弔いの為の刀をいつまでも振りかざして何になる。俺たちを置いて逝った連中もそんな事を望んでいない。奪ってもまた何かを喪うだけだ」
桂の言う通り、きっとまた高杉は失うだろう。今までそうして来たように、多くの命を火にくべる。そこには顔も知らない人間だけでなく、仲間たちの親や兄弟も含まれるだろうし、攻撃を命ずる鬼兵隊もその内に入るだろう。
高杉の命令通りやきもきしながら見守っている来島や、武市、河上、岡田。使い捨ての道具のように扱って来た同志たち。
だがそのことを高杉は省みないようにして来た。
何故なら、彼らはどうせ、高杉が死ねば生きてはいない。遅かれ早かれ後を追う。
高杉が拾わなければ、もっと早く命を使い果たしただろう。彼らもまた破壊と復讐の鬼なのだ。
太々しく生きる一般人とはまるで相容れない危うさを持っている。どうしたってはみ出す。平穏には生きれないのだ。
だから高杉が道を敷いた。
目的を遂げてからの、滅びを。省みない。案じはしない。本当に生きる力があるならその軛から自力で反れて行くだろう。
「俺の憎しみを! 奴らへの怒りを! 死んで逝った人間を、奪って来た命を否定するな。俺たちがして来たことを、なかったことにするな」
託されたものが復讐ではない事は分かっている。彼らが望んだのは天人の過剰な干渉を排する事だ。国土が、人が踏みにじられない事だ。自分の国を自分たちのものとしておくことだ。
それをするには幕府ではいけない。彼らは無尽蔵に天人の入植を受け入れ続ける。天人を規制する新しい機構がいる。そしてそれは実現しつつある。新政府の命題は高杉が示唆するまでもなく、不平等条約の撤廃。関税自主権の回復。自由貿易だ。
報復を死んで逝ったものたちが望んでいない事など百も承知の上だ。それでも高杉は突き進んだ。
殺戮は生きているもののためにも必要だった。
高杉や鬼兵隊だけではない。新しい世界を作ろうとするものたちが矛をおさめて前に進むためにも犠牲はいる。
官軍賊軍、双方ともうんざりするほど死ぬだろう。
そして血で血を洗って出来たものは少しは世界を良くするかもしれない。技術を進め、人を富ませ、安全を確保して、誇りを曲げずにすむように。
だが結局は同じだ。歴史は繰り返す。権力を握るものが腐った幕吏と入れ替わる。それだけだ。
同じ人間が作るものだ。どうせ碌なものじゃない。
次に来る世の良さも高杉は大して信じてはいなかった。高杉はとうに絶望している。
「高杉! お前はもう充分に事を成した!」
事を成した?
何を成したというのだ。ただ殺しただけ。多くの血を流しただけ。壊しただけの高杉にどうしろと言いに来たのか? 復讐を止めろ?
江戸は護られる。将軍は見逃される。しかし戦いはまだ続く。高杉がいてもいなくても官軍は他に犠牲を求めるだろう。ここで高杉を阻止しても流れは止まらない。
復讐の血を求めず、争いに参加していないこの二人には止められない。生きるために報復を求めていたのは高杉だけではない。
「巫山戯るな!」
充分に事を成した?
ああそうだろう。
高杉は旧悪を取っ払った。そのための力だけを望まれた。新たな政治を実行するのに、高杉はいなくてもいい。そうやって残虐な時代の寵児として高杉も消える。全ての責を負って。命を賭した、回天の罪は誰がなんと言おうと高杉のものだ。
あとは時代の終焉とともに死んでみせることだけだ。だから高杉は止まらない。無益だろう。だが無意味ではない。何の生産性も創造性もない。しかし無価値ではない。何かを始めるには必要なことだ。
誰もがやりたがらなかっただけだ。
(今度は俺が捨て駒になる番だ)
昔、多くを生き残らせるために、そうなれと仲間に命じたことがある。本陣を護れ。戦線を持ちこたえさせろ。前線を突き崩せと。ただ高杉一人を生き残らせるために、命じなくともそうした仲間もいた。
だから同じ道を辿ることに不満はない。悔いさえ残らない。
(だから、どうせ死ぬならお前の悪夢を終わらせてからにしてやるよ。お前の獣を、白夜叉を連れて)
突き、払い、刃をあわせ、それまで黙って高杉をいなしていた銀時が不意に口を開いた。
「別にお前だけじゃねぇ。俺たちだって大まじめだぜ。何しに来たって言ったよな。高杉。俺はこの国が滅ぼうが侍が滅びようが別にどうだっていいんだ。昔も今もな」
桂は高杉の憎しみを止めに来た。銀時は違うというのか。
「じゃあ、何しに来たんだよ? 江戸は無事なんだろ?」
「お前を護りに」
「はっ」
その滑稽さを高杉は吐き捨てた。
「お前自身からな」
銀時は全力を込めて、高杉の長刀を打つ。刃こぼれするほどの衝撃に、刀からは一瞬青い火花が飛んだ。そのすべてが銀時の怒りを表出させていた。
「幾らお前でもお前を殺そうとするなんてゆるさネェ」
先ほどまでの気のない鍔迫り合いとはまるで異にした音がガンガンと響く。
「お前は俺のものなんだよ! 勝手に死ぬな! なんで薬を飲まなかった!? 生きろよ! 生きる努力をしろよ! 先生みたいに俺を置いて逝くのか!?」
その重い一撃一撃を、銀時の叫びを高杉は凌いだ。
そうだ。高杉は勝手に死のうとした。銀時よりも誓いをとった。
可哀想に。
教えてやりたかった。銀時がそんなに必死になるほど自分はいいものではないと。銀時が護る価値なんかない。憎めばいい。愛してもらう資格なんかない。
ただ最後に、お前を想って死ねればいい。死んだ後にしかお前のものにはなれない。生きている限り、部下を率いて戦い続ける。お前を選ぶ事は出来ないし、お前の傍には決していけないから。
そう何処までも自分本位に思っていた。
「ああ、そうだ。お前を置いて俺は死ぬ」
高杉はそう肯定して事実を突きつける。
俺はお前が信じるほど弱くはなかったし、お前が疑うほど強くはなかった。
だから今こうして死のうとしていると。
「高杉ィ!」
銀時がどんなに叫んでも覆らない。
天とは非情なものだ。
高杉はそういったものと戦ってきた。高杉自身、非情にならざるを得なかった。高杉はあまり銀時に、高杉自身の穢さを見せなかったが。
(それでも俺は残酷だと、お前は知っていただろう?)
「お前を死なさねぇ!」
両腕がしびれてあがらない。その高杉の頭上に銀時の刀が打ち下ろされた。
(どうやって?)
高杉は笑った。
刀を振り下ろす事との矛盾が生じている。それが無性に可笑しくもあった。
(それともお前が俺を不朽にしてくれるのか?)
だが違った。
見上げた刀の刃は向けられておらず、高杉は刀の平で面を取られた。
(今ここで殺さないで、雪火で俺が死ぬのを待つつもりか?)
無惨な仕打ちだ。それがお前の、お前たちの復讐なら受け入れてもいいと高杉は思う。だがそうはならなかった。銀時は本気で高杉を救いに来たのだ。万に一つの可能性に賭けるために。
高杉の剣も身のこなしも病人のそれではなかった。神速の域にまで達するかと思われた。何遍か体をかすり、髪の筋を切られた。最期の舞のようだった。持てる力を、命の全て注ぎ込んでいるかのように力強く、銀時に向かって繰り出された。
永劫続くかとも思われた斬り合い。
だが時折切っ先がぶれる。
やはり、限界は近い。
これ以上命を削らせてはならない。
銀時は随分遅くなった。
高杉を救うにはこの一分一秒が命取りになる。
何度も何度も力任せに刀を打ち込み、弱った高杉の腕が萎えるのを狙った。
銀時は絶叫して高杉の名を呼ぶとようやくがんと、一発入れることができた。高杉は笑っていた。
どうやって護るつもりだと。
(護るったら護るんだよ。今度こそ俺は逃げねぇ)
無力さ、遣る瀬なさ、そんなものを抱えている間に、高杉を一人にした。そしてどんどん高杉は遠ざかって行った。銀時が無為に生きている間に、引き返せないところまで。高杉が生きるために必要なことだったとはいえ。目的を遂行するのによく命がけで、というし、実際に銀時だってそんな風に命をさらして戦ったことはある。だが不意に死ぬならともかく、本当に命を賭ける奴があるか。誓いを達するのが先か、病で倒れるのが先か、そんな鬼ごっこを本気で仕掛ける馬鹿がいるか。
だがいたのだ。
(高杉)
平で打っただけだがそれでも額は割れたようで、高杉の白い包帯に赤いものが混じった。
だが包帯がはらりと地面へ落ちるより先に、脳しんとうを起こした高杉が倒れ込む。
銀時は持っている刀で傷付けないようにしながら、高杉に手を伸ばし、抱きかかえる。
そのとき、がちりと撃鉄を起こす音が聞こえた。同時にすらりすらりと鞘から刀が引き抜かれる音が。
「白夜叉、貴様!」
「晋助さまの仇っす」
「その人を離せ!」
目線を上げれば鬼兵隊幹部がそろい踏みしている。どいつもこいつも戦い慣れした堂の入った構えだったが、一人髷を結った中年だけは刀の切っ先が揺れている。
銀時はそれらを苦々しく見ながら、桂に刀を返すと高杉を抱え上げた。
軽い。
完全に脱力して気絶した人間は普通重いものなのに、小柄なことも差し引いても、高杉は軽々としていた。
「何で殺したことになってんだ。俺、こいつを死なさねぇって言ったよなぁ? 聞いてただろ? つか俺はお前らにももの凄く怒ってんだよ。こんなになるまでほっときやがって何してくれてんだ?」
ああ?
「お前らも知ってたんならなんで言わネェ」
銀時は桂の後ろに控えていた御神酒徳利にもメンチを切った。どいつもこいつも馬鹿ばっかりで苛々する。死んだらそこで終いだとあの戦争で覚えて来たんじゃなかったのか。
「お前に言う義理はねぇ」
けっと井上が言えば、銀時の執念深さを知っている伊藤が少しでも怒りを逸らそうと続ける。
「と、高杉さんが言ってました!」
もちろん銀時は誤摩化されない。この二人も後でしめる。銀時に言えないまでも、この馬鹿どもがそれこそ命を賭けて止めていればこんなことにはならなかった。
世の中はひっくり返らなかったかもしれないが、高杉が生き残る確率はまだそれなりにあっただろう。どうして受け入れた。
「これで高杉が死んだら白い獣が目を醒すから。血が凍るような八つ当たりかましてやるから」
そういいながら銀時は寺の奥へ奥へと進む。
「おい、こいつの部屋は何処だ? あと医者は?」
鬼兵隊その他は顔を見合わせるとそれぞれに武器を下ろした。
そうして自分たちの総督を好き勝手に動かしていることに今更ながらに気づいたヘッドフォン野郎が交代を要求した。
「晋助は拙者が運ぶでござる」
「誰がてめぇなんかに渡すか。二度と触らさねぇから覚えとけ」
却下に決まっている。
「それはこっちの台詞っす。晋助さまは渡さないっす」
「渡すも渡さないも俺のもんです〜。今まで貸してやってただけだから。高杉の意思を尊重して」
「どの面下げていうんだね? 今更あんたなんかお呼びじゃないんだよ」
「嘘付け。こいつは待ってただろ」
俺が殺しに来るのを。
流石に、誰もそれを否定することは出来なかった。
(やっぱりな)
自惚れではなかった。雪火であることを隠し通せても、最期の果てに高杉が銀時に会いたがっていたことだけは誰にも否定できない。
「こちらです」
瞬きをしない中年が雪見障子を開けて高杉の居室に誘う。地図や書き付けの束が撒き散らされたそれを踏みしだいて銀時は進む。
「布団しけ」
腹いせに鬼兵隊をあごで使ってやった。
何を言い訳したらいいか沢山ありすぎてあれですが、高杉が好きすぎるのはおいといて、鬼兵隊が高杉に触ろうとしているのは防菌スーツ着てるからですので、移りません。あと書きたいのはメロドラマなので、銀高のもの凄い剣と剣の応酬(大気をまきこんでばーんとか靡く髪とか)はアニメと見て補完していただきたい所存。
次は先生と銀高。
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梅花凋落13を更新しました。前回更新から一週間も経ってた。おそくなってすみません。
集中力が切れるとテンションが戻って来るのに大変だと思った。
まだ若干頭が痛いんですけど、全ては銀高のために!
じゃんぴ。
てんてー結局辰馬はあれだったのね。忘れ…。
これだけいじり倒して銀魂人気投票してもらえなくなるんじゃない? とも思ったり。
あと、レッツバーリーが。
いやあたしも大好きですよ。戦国バサラ。信(長)さまが。こっちでは放映してないので、DVDでたらすごく見たいなーと。明智変態がすばらしいと聞いたので。
日記のネタがないと思ってたらあったあれだ。信さま関連で。
村塾ネタ。
病気で村塾休んでる晋助のとこにヅラがやってきて御見舞いしてくれるんですけど、枕元に本があって(寝たきりで退屈なので読んでた奴)世間話的に今なに読んでるんだとか聞いたら晋助が嬉しそうに先生が差し入れてくれた信長公記って。
それをきいたヅラは常々晋助は大魔王だと思っているので、大魔王に魔王の本読ませてどうするんですか、先生。覇王でも育成する気ですか、って思うって話。
銀高でない上にSSにしても話も短いのでここに書いとく。
あと銀ちゃんが晋助の大魔王の片鱗をみてどんびく話とか。あたしはしょたではないので子供にまるで興味がないんですけど村塾は楽しそうだなぁ。
黒い。
暗闇のただ中にいた。一人。月も星も、ぼんやりと光る街の明かりさえもない。建物の輪郭も見えず、足にふれる雑草の感触もなくただ暗いばかりだった。
この闇は夜よりも暗い。ただそう思っただけだった。
このところいつも冷たく感じる空気も変わりなく膚にまとわりついた。
高杉は一歩足を進める。
さてここは何処だろう。
そんなことさえも思わなかったかもしれない。
これが夢なのは分かっていた。近頃の夢はずっとこんなものだ。何処までも続く闇。何処までも一人。何もない虚ろ。
高杉が壊そうとした世界の終焉とはこういうものなのかもしれないと漠然と思った。だったらもう、手に入れたも同じか。こうして目の当たりにしているのだから。
存外、快いものではなかった。
だがそんなものだろうと高杉は思った。
別に高杉は理想を現出させるために世界を壊そうとしたわけじゃない。見たい景色があったわけじゃない。だったらこんな終わりでも仕方がない。
特に清々ともしなかったが。
高杉はすることもなく、見るべきものもなく、逍遥する。
その時だ。珍しく今日は壁に突き当たった。いや、壁というよりは、するっとした毛に覆われたものだった。
高杉は両腕を出して、それに触る。
それは高杉の身の丈を越えて大きく、毛はかたく冷たく、けれども体は暖かく、生きているものだということが分かった。
輪郭は闇に同化してどんなものか分からなかったが。そうするうちに、それは動いた。
目を開けた。
(緑)
闇の他にはじめて色というものを見た。高杉の着物でさえも黒にしか見えないのに、その大きな一つ目が色づいて見えたのは眼光が爛々と妖しく光っていたからだ。
それは次に口を開けた。
大きな牙が何本も白く浮かんだ。
高杉など簡単に丸呑みできそうなくらい大きな口。それが迫る。
けれども高杉は身動き一つしなかった。
(食われる)
と思ったけれども。
「!?」
それは高杉の襟首を噛んだ。そしてそのままどたんどたんと走り出す。高杉はそれの首元で猫の子のように運ばれた。
高杉は着物が裂けるのも厭わずにそれを振り返る。
走る様子から見て、それは四つ足の獣。けれども高杉が最初に見た一つ目は口の真上、顔の中央にあって、地球にいるどの生物のようでもなかった。
宇宙からきたのだろうか。
天人が行き来するようになってから様々なものが地球に持ち込まれた。これもその一つなのか。
だが高杉は、これの正体について心当たりがある。
「お前か」
これは高杉の獣。
師の教えに背き、朋輩に去られ、恋人に愛想を尽かされてもこれだけはそばにいた。
お前は血と暴力、死と腐肉を食らって大きくなった。俺がお前をそう育てた。だから俺だけはお前を否定しない。最後まで。
お前の望みと自分の望みが分からなくなってしまった。俺は狂った。だがそれはお前のせいじゃない。俺が弱かったから。憎しみは確かにこの胸にあった。
世界を憎んだ。
本当だ。だからお前の望みは自分の望み。すなわち、お前は俺自身なのだ。
「お前だけが、一緒にいるんだな」
何処までいくのだろう。何処まで行けるのだろう。
耳元でわんわんと音がしていた。それがあまりに煩わしくて目を開けたいのに、まぶたが重い。
酷い目眩でくらくらしているのが、目を閉じていても分かる。何かに呼ばれているような気がした。
そのとき、衝撃が来た。二度三度繰り返されてそれが痛みだと分かる。体のうちから来るものではない、与えられた痛み。
「痛ぇ!」
バチンと、耳をうつ音が止んだ。高杉はやっとのことで目を開けると、銀時が胸ぐらを掴んでこちらを見ていた。
「銀時、てめぇ何遍言ったら分かるんだ。俺は叩かれて喜ぶほど落ちぶれてねぇぞ」
ぶちぶちと高杉が文句をいうとゆっくりと頭を枕の上にのせられた。見覚えのある天井を見ながら、熱とは違う熱さをじんじんと頬に感じた。どうやら高杉は銀時に叩かれていたようだ。
「白夜叉貴様ぁ」
「坂田殺す」
「あいだだだだだ」
「よくも晋助さまの顔を」
「許さん」
「死ね」
とかいう声が呻きに混じって部屋中に満ちていて高杉は顔を横に向けた。
どうやら高杉は居室にしていた十畳敷に西枕で寝かせられている。
銀時の座る南側には順にマイペースを保ってお茶を啜っている桂、畳に踞っている井上、伊藤。反対側にはやはりすっかりぼろっちくなった武市、河上、来島、岡田が畳に沈みながら、銀時に呪いの言葉を吐いている。
何事かと一瞬思ったが多分、銀時にぼこられたのだろう。理由までは分からないが、最後の締めが高杉だったのだろうか? それにしては桂が無傷なのが解せない。
なにちゃっかり茶なんぞ飲んでいるのか。
「お前の許可ないと駄目ってうるせーからよ。しょうがねぇから起こしたんだよ」
そういいながらせっせと銀時は高杉に今の衝撃でずれたと思われる氷枕をあてがい直した。両腕の下と、首の下、額の上にも。冷たい。だがそれ以上に、氷の重さが身にしみる。布団でさえ重く感じるのだ。
間接がぎしぎしと痛む。
「何の話だ…?」
強い吐き気に、高杉は目を閉じて聞く。
「薬だよ。雪火の。勝手にのませて死んだらどうするってさ。どうせこのままほっといても死ぬのにな」
「ああ」
高杉は笑うこともできない。どうやって高杉を護るつもりなのかと思ったら銀時はこんなところまで高杉に薬を飲ませに来たのだ。
取り返しがつかないほど病状が進んでからは誰もそうしろということはなかった。下手に飲ませれば寿命を縮めるだけだから。流石銀時だ。そんなハイリスクなどものともせず、この期に及んで高杉の命を諦めないつもりだ。
「飲め」
銀時は簡潔に要求する。
「銀時のくせに俺に命令すんな」
にべなく断ると、ざわりと空気が毛羽立った。多分怒ったのだろう。しかし銀時は腹に仕舞い込んで、怒鳴り散らすでなく下手にでてきた。
「…。…御願いしたら飲んでくれんの?」
そんなに飲んでほしいのか。
「…俺を生かそうとしてどうするよ。誰の為にもなりゃしねぇ」
高杉は氷の重さに胸を圧迫されながらぼそぼそと銀時がどん引くに違いない魔王の所行を虚実を織り交ぜて語ってやった。
けれども望んだような反応は得られなかった。
「あーはいはい。そんなん後で裏付けとるから。俺はもうお前のことは話半分に聞くって決めてんだよ。それより俺はお前がいる方がいい」
「あきらめの悪い奴だな。飲んでもどうせ死ぬ」
初期の段階なら五割だが、今更飲んでも生存率は一割を切るだろう。昏睡したまま、二度と目覚めない。
「死なねぇよ」
残念ながらそんな期待には応えられないだろう。ためになるとすれば、これ以上害悪を撒き散らすこともなく、苦しむさまを見せずにすむことくらいか。楽な死に方だ。反吐が出る。こんな自分が?
あんなに死をうみだして、苦痛と喘鳴の阿鼻叫喚を、屍の山を築いた高杉が眠るように死ぬ訳だ。高杉は多くの人間に恨まれている。殺された犠牲者もその家族も、その高杉の死に様がそれでは浮かぶに浮かばれないのではないだろうか。
(それも一興か?)
何にしろ、まだ高杉は死に際を選べる訳だ。
苦しむ分だけまだ毒をあおった方がましのような気がするが…。
薬も今の高杉に取っては毒とはそう変わらないだろう。甘い毒。
「生き残って、また世界を壊せって? 悪夢の続きを見ろって言うのか?」
「俺と一緒に暮らすんだよ」
「お前が俺と? 無理だろ。…ガキどもはどうすんだ。大体、今の生活に、お前は満足なんだろう?」
不満は言い出したらきりがない貧乏だし、貧乏だし、貧乏だしそう優しい顔をしていうものだから、高杉はやはり自分の洞察の方が正しいと思う。
「そんなもん、大して苦になんかしてねぇだろう」
「まあな」
「良かったな」
それを捨てて銀時が高杉のところへなんて来れる訳がない。今までもそうだったように。二人の生きる道は分たれたのだ。いつまで行っても平行線で二度と重なることはない。
「まてまてまてまて! あるよ! 決まってんだろ! お前だよ、高杉。お前は目の上のたんこぶだ。じゃなかったらのどにささった骨だ。どうしたって無視なんかできねぇ。忘れるなんざ論外だできるわけねぇ」
「頑張れ」
(俺はお前とは逆だ。いいと思ったことなんかねぇ。満たされない。辛い。苦しい。 息をするのも痛ぇ。でも一つだけ。ある。良かったと思うことが)
「高杉?」
銀時が幸福そうなのが、ねたましく、まぶしく、そしてうれしかった。
「お前、良かったなぁ。銀時ぃ」
本当は悪夢なんかもう見ていないのかもしれない。それは時折、無意識の海から現れて銀時をさらおうとするかもしれないが、その揺り返しも段々と少なくなるだろう。思い出させる、高杉が消えれば。
そして銀時は白夜叉を飼いならして、苦痛を制して、松陽の死も昇華する。高杉がどうしても出来なかったことをして、いつか松陽を越えるだろう。
「な、に」
「だからこれで良かったんだ」
寂しくはない。高杉もまた一人きりではなかった。死出の道行きがいる。向こう側には松陽や多くの友や知人、朋輩が既に逝っている。戦争中ということもある。後に続くものも絶えないだろう。
死ぬことは怖くない。
だがこれ以上生きることは難しい。
「高杉ぃ、あんまり言うこと聞かねぇとケツぶったたくぞ」
「だからお前のSM趣味にはついていけねぇっつってんだろ
「嘘だね。だって高杉俺の事大好きじゃん。だから飲んでくれるだろ、俺の為にさ。生きろ」
銀時は難しいことを言う。出来るだろうか。銀時が信じるように、自分はできるだろうか。
高杉は答えず、じーっと銀時の顔を見つめた。
「高杉」
高杉は銀時の顔を片目に焼き付けるようにすると、自分から視線を外した。それから順繰りにその場に居合わせたものをみていく。
「晋助さま」
「晋助」
「高杉」
みんな身を乗り出したが、だからといってかける言葉はない。遺言はもう残してあった。その辺をひっくり返せば出てくるだろう。
高杉は一周すると桂に聞いた。
「ヅラ、てめぇは?」
「どうせ貴様らは俺の言うことなど端から聞かんだろう? 俺は坂本の代わりに見届けに来たのだ」
高杉は口の端をあげた。
「いいぜ、銀時」
高杉はもう一度銀時を見ると薬を出せと言った。
「晋助さま!」
銀時に体を起こされながら高杉は言う。
「俺が死んでもそれが天命だ。こいつを恨むなよ」
「無理でござる」
即答されてしまった。まあそうだろうな。銀時が恨まれないようにするには高杉は生き残らなければならないらしい。だが元々銀時は鬼兵隊の連中には大層恨まれているのだった。いや鬼兵隊ばかりではないか。
「高杉さん」
「ふっ、ふっ、…じゃあせいぜい頑張ってみるけどな。銀時」
高杉は元々生きたいと思っていない。この勝算のない賭けに勝てると思わないようにと銀時に釘を刺す。
「駄目元なんだから、あんまり期待するなよ」
「無理」
これもまた即答された。
(わがままだな)
そう思ったがもう、声は出なかった。銀時が薬を自分の咥内に入れて水を煽った。そのまま唇が触れる。
高杉は目を閉じて、温んだ、しかし冷たく感じる水を受け入れる。
その日、全国に展開する諸隊へ一斉に同じ文面が回った。その内容はただ、四文字。
少し短いですがここまで。先生は入りませんでした。ラストは先生、新旧鬼兵隊万事屋。明日には更新したいと思います。
暗闇のただ中にいた。一人。月も星も、ぼんやりと光る街の明かりさえもない。建物の輪郭も見えず、足にふれる雑草の感触もなくただ暗いばかりだった。
この闇は夜よりも暗い。ただそう思っただけだった。
このところいつも冷たく感じる空気も変わりなく膚にまとわりついた。
高杉は一歩足を進める。
さてここは何処だろう。
そんなことさえも思わなかったかもしれない。
これが夢なのは分かっていた。近頃の夢はずっとこんなものだ。何処までも続く闇。何処までも一人。何もない虚ろ。
高杉が壊そうとした世界の終焉とはこういうものなのかもしれないと漠然と思った。だったらもう、手に入れたも同じか。こうして目の当たりにしているのだから。
存外、快いものではなかった。
だがそんなものだろうと高杉は思った。
別に高杉は理想を現出させるために世界を壊そうとしたわけじゃない。見たい景色があったわけじゃない。だったらこんな終わりでも仕方がない。
特に清々ともしなかったが。
高杉はすることもなく、見るべきものもなく、逍遥する。
その時だ。珍しく今日は壁に突き当たった。いや、壁というよりは、するっとした毛に覆われたものだった。
高杉は両腕を出して、それに触る。
それは高杉の身の丈を越えて大きく、毛はかたく冷たく、けれども体は暖かく、生きているものだということが分かった。
輪郭は闇に同化してどんなものか分からなかったが。そうするうちに、それは動いた。
目を開けた。
(緑)
闇の他にはじめて色というものを見た。高杉の着物でさえも黒にしか見えないのに、その大きな一つ目が色づいて見えたのは眼光が爛々と妖しく光っていたからだ。
それは次に口を開けた。
大きな牙が何本も白く浮かんだ。
高杉など簡単に丸呑みできそうなくらい大きな口。それが迫る。
けれども高杉は身動き一つしなかった。
(食われる)
と思ったけれども。
「!?」
それは高杉の襟首を噛んだ。そしてそのままどたんどたんと走り出す。高杉はそれの首元で猫の子のように運ばれた。
高杉は着物が裂けるのも厭わずにそれを振り返る。
走る様子から見て、それは四つ足の獣。けれども高杉が最初に見た一つ目は口の真上、顔の中央にあって、地球にいるどの生物のようでもなかった。
宇宙からきたのだろうか。
天人が行き来するようになってから様々なものが地球に持ち込まれた。これもその一つなのか。
だが高杉は、これの正体について心当たりがある。
「お前か」
これは高杉の獣。
師の教えに背き、朋輩に去られ、恋人に愛想を尽かされてもこれだけはそばにいた。
お前は血と暴力、死と腐肉を食らって大きくなった。俺がお前をそう育てた。だから俺だけはお前を否定しない。最後まで。
お前の望みと自分の望みが分からなくなってしまった。俺は狂った。だがそれはお前のせいじゃない。俺が弱かったから。憎しみは確かにこの胸にあった。
世界を憎んだ。
本当だ。だからお前の望みは自分の望み。すなわち、お前は俺自身なのだ。
「お前だけが、一緒にいるんだな」
何処までいくのだろう。何処まで行けるのだろう。
耳元でわんわんと音がしていた。それがあまりに煩わしくて目を開けたいのに、まぶたが重い。
酷い目眩でくらくらしているのが、目を閉じていても分かる。何かに呼ばれているような気がした。
そのとき、衝撃が来た。二度三度繰り返されてそれが痛みだと分かる。体のうちから来るものではない、与えられた痛み。
「痛ぇ!」
バチンと、耳をうつ音が止んだ。高杉はやっとのことで目を開けると、銀時が胸ぐらを掴んでこちらを見ていた。
「銀時、てめぇ何遍言ったら分かるんだ。俺は叩かれて喜ぶほど落ちぶれてねぇぞ」
ぶちぶちと高杉が文句をいうとゆっくりと頭を枕の上にのせられた。見覚えのある天井を見ながら、熱とは違う熱さをじんじんと頬に感じた。どうやら高杉は銀時に叩かれていたようだ。
「白夜叉貴様ぁ」
「坂田殺す」
「あいだだだだだ」
「よくも晋助さまの顔を」
「許さん」
「死ね」
とかいう声が呻きに混じって部屋中に満ちていて高杉は顔を横に向けた。
どうやら高杉は居室にしていた十畳敷に西枕で寝かせられている。
銀時の座る南側には順にマイペースを保ってお茶を啜っている桂、畳に踞っている井上、伊藤。反対側にはやはりすっかりぼろっちくなった武市、河上、来島、岡田が畳に沈みながら、銀時に呪いの言葉を吐いている。
何事かと一瞬思ったが多分、銀時にぼこられたのだろう。理由までは分からないが、最後の締めが高杉だったのだろうか? それにしては桂が無傷なのが解せない。
なにちゃっかり茶なんぞ飲んでいるのか。
「お前の許可ないと駄目ってうるせーからよ。しょうがねぇから起こしたんだよ」
そういいながらせっせと銀時は高杉に今の衝撃でずれたと思われる氷枕をあてがい直した。両腕の下と、首の下、額の上にも。冷たい。だがそれ以上に、氷の重さが身にしみる。布団でさえ重く感じるのだ。
間接がぎしぎしと痛む。
「何の話だ…?」
強い吐き気に、高杉は目を閉じて聞く。
「薬だよ。雪火の。勝手にのませて死んだらどうするってさ。どうせこのままほっといても死ぬのにな」
「ああ」
高杉は笑うこともできない。どうやって高杉を護るつもりなのかと思ったら銀時はこんなところまで高杉に薬を飲ませに来たのだ。
取り返しがつかないほど病状が進んでからは誰もそうしろということはなかった。下手に飲ませれば寿命を縮めるだけだから。流石銀時だ。そんなハイリスクなどものともせず、この期に及んで高杉の命を諦めないつもりだ。
「飲め」
銀時は簡潔に要求する。
「銀時のくせに俺に命令すんな」
にべなく断ると、ざわりと空気が毛羽立った。多分怒ったのだろう。しかし銀時は腹に仕舞い込んで、怒鳴り散らすでなく下手にでてきた。
「…。…御願いしたら飲んでくれんの?」
そんなに飲んでほしいのか。
「…俺を生かそうとしてどうするよ。誰の為にもなりゃしねぇ」
高杉は氷の重さに胸を圧迫されながらぼそぼそと銀時がどん引くに違いない魔王の所行を虚実を織り交ぜて語ってやった。
けれども望んだような反応は得られなかった。
「あーはいはい。そんなん後で裏付けとるから。俺はもうお前のことは話半分に聞くって決めてんだよ。それより俺はお前がいる方がいい」
「あきらめの悪い奴だな。飲んでもどうせ死ぬ」
初期の段階なら五割だが、今更飲んでも生存率は一割を切るだろう。昏睡したまま、二度と目覚めない。
「死なねぇよ」
残念ながらそんな期待には応えられないだろう。ためになるとすれば、これ以上害悪を撒き散らすこともなく、苦しむさまを見せずにすむことくらいか。楽な死に方だ。反吐が出る。こんな自分が?
あんなに死をうみだして、苦痛と喘鳴の阿鼻叫喚を、屍の山を築いた高杉が眠るように死ぬ訳だ。高杉は多くの人間に恨まれている。殺された犠牲者もその家族も、その高杉の死に様がそれでは浮かぶに浮かばれないのではないだろうか。
(それも一興か?)
何にしろ、まだ高杉は死に際を選べる訳だ。
苦しむ分だけまだ毒をあおった方がましのような気がするが…。
薬も今の高杉に取っては毒とはそう変わらないだろう。甘い毒。
「生き残って、また世界を壊せって? 悪夢の続きを見ろって言うのか?」
「俺と一緒に暮らすんだよ」
「お前が俺と? 無理だろ。…ガキどもはどうすんだ。大体、今の生活に、お前は満足なんだろう?」
不満は言い出したらきりがない貧乏だし、貧乏だし、貧乏だしそう優しい顔をしていうものだから、高杉はやはり自分の洞察の方が正しいと思う。
「そんなもん、大して苦になんかしてねぇだろう」
「まあな」
「良かったな」
それを捨てて銀時が高杉のところへなんて来れる訳がない。今までもそうだったように。二人の生きる道は分たれたのだ。いつまで行っても平行線で二度と重なることはない。
「まてまてまてまて! あるよ! 決まってんだろ! お前だよ、高杉。お前は目の上のたんこぶだ。じゃなかったらのどにささった骨だ。どうしたって無視なんかできねぇ。忘れるなんざ論外だできるわけねぇ」
「頑張れ」
(俺はお前とは逆だ。いいと思ったことなんかねぇ。満たされない。辛い。苦しい。 息をするのも痛ぇ。でも一つだけ。ある。良かったと思うことが)
「高杉?」
銀時が幸福そうなのが、ねたましく、まぶしく、そしてうれしかった。
「お前、良かったなぁ。銀時ぃ」
本当は悪夢なんかもう見ていないのかもしれない。それは時折、無意識の海から現れて銀時をさらおうとするかもしれないが、その揺り返しも段々と少なくなるだろう。思い出させる、高杉が消えれば。
そして銀時は白夜叉を飼いならして、苦痛を制して、松陽の死も昇華する。高杉がどうしても出来なかったことをして、いつか松陽を越えるだろう。
「な、に」
「だからこれで良かったんだ」
寂しくはない。高杉もまた一人きりではなかった。死出の道行きがいる。向こう側には松陽や多くの友や知人、朋輩が既に逝っている。戦争中ということもある。後に続くものも絶えないだろう。
死ぬことは怖くない。
だがこれ以上生きることは難しい。
「高杉ぃ、あんまり言うこと聞かねぇとケツぶったたくぞ」
「だからお前のSM趣味にはついていけねぇっつってんだろ
「嘘だね。だって高杉俺の事大好きじゃん。だから飲んでくれるだろ、俺の為にさ。生きろ」
銀時は難しいことを言う。出来るだろうか。銀時が信じるように、自分はできるだろうか。
高杉は答えず、じーっと銀時の顔を見つめた。
「高杉」
高杉は銀時の顔を片目に焼き付けるようにすると、自分から視線を外した。それから順繰りにその場に居合わせたものをみていく。
「晋助さま」
「晋助」
「高杉」
みんな身を乗り出したが、だからといってかける言葉はない。遺言はもう残してあった。その辺をひっくり返せば出てくるだろう。
高杉は一周すると桂に聞いた。
「ヅラ、てめぇは?」
「どうせ貴様らは俺の言うことなど端から聞かんだろう? 俺は坂本の代わりに見届けに来たのだ」
高杉は口の端をあげた。
「いいぜ、銀時」
高杉はもう一度銀時を見ると薬を出せと言った。
「晋助さま!」
銀時に体を起こされながら高杉は言う。
「俺が死んでもそれが天命だ。こいつを恨むなよ」
「無理でござる」
即答されてしまった。まあそうだろうな。銀時が恨まれないようにするには高杉は生き残らなければならないらしい。だが元々銀時は鬼兵隊の連中には大層恨まれているのだった。いや鬼兵隊ばかりではないか。
「高杉さん」
「ふっ、ふっ、…じゃあせいぜい頑張ってみるけどな。銀時」
高杉は元々生きたいと思っていない。この勝算のない賭けに勝てると思わないようにと銀時に釘を刺す。
「駄目元なんだから、あんまり期待するなよ」
「無理」
これもまた即答された。
(わがままだな)
そう思ったがもう、声は出なかった。銀時が薬を自分の咥内に入れて水を煽った。そのまま唇が触れる。
高杉は目を閉じて、温んだ、しかし冷たく感じる水を受け入れる。
その日、全国に展開する諸隊へ一斉に同じ文面が回った。その内容はただ、四文字。
梅
花
凋
落
かねてから決められていた鬼兵隊総督の戦線離脱を示すものだった。
少し短いですがここまで。先生は入りませんでした。ラストは先生、新旧鬼兵隊万事屋。明日には更新したいと思います。