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「晋ちゃん、誕生日なにかほしいもんあんの? なけりゃ俺の愛を押し付けんぞコラ」
何でけんか腰だよ、照れてんのかと思いながらみそ汁を啜った高杉は壁にかかった日めくりカレンダーをみて、今が八月である事を確認する。
一日の大半を眠って過ごしているし、和室には体力の落ちきった高杉の為にエアコンが取り付けられていて室温28度を保っている。そのためあまり夏らしい気がしていなかったのだが、そういえば蝉も煩い。
八月か。
欲しいものなどないし、不自由も感じていない。望みはなくした。まだ、あるといえばあったが自分にはもう叶える力がない。世界を壊す。だが原動力となった狂おしいほどの憎しみは思い出に変わってしまった。
狂気の獣はどこかへ行った。最後まで一緒にいるつもりだったのに。それともこの胸のどこかでまだ眠っているだけなのか。いつも眠い、高杉のように。そうだったらいいと高杉は思う。
銀時に望むことはなかった。この数年間、銀時がいたらどんなにかと思った事もあったが、やる気がないのだから仕方がない。一緒に戦えないなら、どこか遠くで生きていてくれれば良かった。
だが状況は変わりつつある。まだ決定的ではないにしても。
そう。高杉はまだ戻れる。
戦火の中に。
「ねぇの? 俺はそれでもいいけどね」
だからこのままうやむやとかなし崩しは避けた方がいいのだろう。愛を押し付けられる前に何かなかったかそう思って。
「酒」
高杉は銀時の顔を見ながらぽつんといった。
「ん?」
「酒呑みてぇ」
病をえてからこのかた、禁酒禁煙の高杉だった。
じっと見つめると、銀時は腕を組んでうーん、うーんと考える。そしてちらりと高杉を見てまたうーん、と言った。本当は呑ませられないと思っているのだろう。高杉は上目遣いで銀時を見る。
「あ〜、その目反則。上手にお強請りしやがってったく仕方ねぇな〜。ちょっとだぞ、ちょっと。ほんのちょっとね」
そういって辛抱溜まらなくなったのか、銀時は組んでいた腕を解いてぎゅっと高杉の肩を抱いた。
ちょっとかよけちくせーな、と返事をする前に口を塞がれた。
少なくとも、十日まではここにいるだろう。自分のために。そう思った。
銀時が気付いていないだけで、万事屋を訪れる客は多い。まずはマダオ、それからさっちゃん、お登勢、たま、キャサリン、桂。これらの面々は高杉が起きている時も起きていない時もふつーに万事屋に上がってくる。
以前からの事のようなので、新参の高杉などはおとなしく止めもせず、上がるまま上がらせている。
ただし、さっちゃんからは
「ちょっとあなた、銀さんのなんなのよ」
と絡まれたりする。
「何って元隠密だろ。好きなだけさぐりゃあいいじゃねーか」
「もちろん調べたわよ! そうじゃなくて! ほんとに銀さんのお嫁さんなのって聞いてるのよ!」
銀さんと結婚するのはあたしよーとかいった。銀さんはあたしの理想のドSなのよーって。
(…。銀時に虐められたいってか…)
正直、高杉はひいた。
高杉は銀時の加虐趣味が好きではない。好きな子は虐めたいタイプ、といって本当に虐められた事が何度もあるが、誰が好き好んで痛めつけられたいものか。しかしそういうところがいいのもいるのか。奇特な。
銀時がモテるのは今に始まった事ではない。そういう意味では驚きはないのだが。それにしてもありのままの銀時を受け入れるとはそれはそれで似合いだなとも思う。
ただ銀時にしてみればこのさっちゃんとかいうメガネっこはなしの方向なのだろう。抵抗されるのに燃える口だから。だいたいありだったら高杉なんかを引き取りはしないだろうしさっさと身を固めているだろう。常々、追われるより追う方が好きとかいっていた。
そこそこ巨乳なのにもったいない。がつんと殴って逃げてみればいいのにそう思ってからげんなりした。自分がやってきた事そのまんまだったからだ。
(べっべつに俺は銀時の気を引きたくてしてたわけじゃ)
「おい、銀時いるかい? 今月の家賃払え」
動揺していると下のスナックお登勢の連中が家賃のことでやってきた。
「オイ嫁。坂田イルカ?」
「生体反応2。しかし銀時様はいないようです」
銀時は稼ぎがないわけではないが、家賃をためがちらしい。あくせく働いているように見えるが万事屋ってのは儲からない仕事なのだろう。
高杉がくるまでは大体2・3ヶ月はためては、雑用を引き受けたりして割引してもらったりしていたようだ。ちゃんと払う事もあるようだが。
「俺は嫁じゃねー。同居人だ」
高杉は文句を付けながら寝室として使っている和室の違い棚から梅の文箱を出してきて、家賃の入った封筒を渡す。
百石は辞退したものの、これくらいは銀時の為にも受け取れと桂を通して押し付けられている傷病手当だった。
確かに銀時にも居候をこれ以上抱え込む甲斐性はないはずだ。あまり食べないからと言っても食費はかかるし、医療費もある。成程と思ったので心置きなく使い込んでいる。こっそり家賃を払う事で高杉も居心地の悪さを感じないで済むし。
近頃では銀時にいうよりも高杉に督促した方が払いが確実なのをこの三人も充分に承知していた。
「はいよ。キャサリン、領収書」
「オラヨ、嫁」
「毎度ありがとうございます、晋助さま」
「ちわーっす、米屋でーす」
「団子屋でーす」
ツケの支払いも高杉が持っている。
相互扶助。団子代のかわりにやはり雑用をしてやったりしているようだが、そんなことだから現金収入も上がらないのだ。
人と人とのつながりを考えれば悪いとはいいきれないが、相手にも相手の生活があるだろう。現金がなければ商売の材料も買えまいと出来る範囲でやりくりしていた。
それを知っているお登勢は
「銀時に足りなかったのはしっかり者の嫁だったんだねぇ」
などとからかう。
「だからよめじゃねーって言ってんだろ」
「大家と言えば親も同然。親公認? 公認なの? ひどいわ。でもわたし、わたし、負けない。お金の切れ目が縁の切れ目よー!!」
まあサッちゃんのいう通り、こんなことも、臥せっている間だけだ。完全に治ったら、傷病手当もなくなるのだし。
そうしたら、どうするか。
銀時が知ったら嫌がるだろうが、万事屋を訪ねる客の中には高杉自身に会いにくるものも多い。
それは高杉派を敵にして殺された者の遺族だったりすることもあれば、仲間の仇を取ろうという者もあった。
高杉の指名手配は解かれ、国賊として弔いもままならなかった攘夷志士たちも汚名を雪いだ今、高杉の命を狙う者の方がテロリストと呼ばれ、官憲に追われる。ゴミは警察に引き渡したという来島に高杉は驚いたものだ。
眠っている間に目紛しく時勢は流れて行く。その変化は高杉が率先して起こしたものだが一体何処へいきつくのか。
その収束に桂などはきりきりしている事だろう。
高杉は利用したかっただけだから、国の行く末がどうなろうが知った事ではなかったのだが。高杉の見る所、この国の膿はまだまだ出し切れていないし、劫火を燃やし続ける薪は事欠かない。
「ごめんでござる。晋助、拙者を呼んだでござるか」
鬼兵隊は解体された。元は農家の悪たれや村の鼻つまみ者、町のごろつきといった輩が主流だったから落ち着き先を見つけるのは大変だろうがその辺りは武市がうまくやってくれている。来島はしばらく高杉の手元に置いて、しかるべき筋に縁付かせようと思っていた。何しろ来島の親父に頼まれていた。
問題はこの河上万斉。高杉の部下というよりは同盟者のような立場で盟主としてあおいでも、高杉がその座を引けば従ういわれもないのだ。つまりこの男は止まらない。
それを証明するように音楽プロデューサーという表の顔には戻っていないという。それどころか、鬼兵隊解散後、高杉の見舞いに来たきり、似蔵と姿をくらましていた。
高杉にもどこにいるかは分からなかった。何をしているかは分かったが。二人は人斬りなのだ。
「ああ」
似蔵に思想はなくただの手足にすぎないが、万斉にはある。
侍を滅ぼすという信念が。
幕府が倒れたからと言って、新政府ができたからといって戦いをやめる理由にはならない。武士という階級はまだ絶滅していはいない。
話をしなければと思った。だが高杉は万斉にあわなければならないと誰にもまだ漏らしてはいなかった。
それでも呼んだかと言いながら訪ねてくる。そのことに高杉は少しだけ笑った。
こんな風に鬼兵隊との間にも絆があった。
(俺はこいつをこのまま行かせていいのか?)
行かせれば間違いなくこの男は死ぬ。
高杉の代わりに、とは言わない。高杉は世界を構成する総てのものを滅ぼしたかった。
万斉は士分を根絶やしにしたい。その利害が一致していただけだ。侍の支配を終わらせる鉄槌が下された後にはもしかしたら袂を分かち、暴走する高杉を阻む事さえしたかもしれない。
それとも、自分の悲願は達したと最後まで高杉についてきたか。分からない。そんな日は多分もう来ないのだ。
「少し早いが、拙者からの祝いでござる」
そういって万斉は手に持っていた包みを高杉に渡した。絹の風呂敷に包まれたそれは外側の形状だけでなにか分かった。三味線だ。
「久しぶりにセッションといこうでござる」
そういって万斉はさっさとソファーに座った。
音を聞けば、心胆など知れる。
そういうことか。それとも今生の別れにか、あるいは本当に純粋に楽しみたいのか。
どうでもいい。
弾けば悟られる事もあるだろう。
同じほどに聞けば分かる事もある。
ただ会って話す事と大した違いはない。ただそのほうが目も耳も塞いだこの男には似合いだというだけで。
腹を探るのが面倒になった高杉は促されるまま真向かいに座り、するりと風呂敷を解いた。
べんべんべべんと音を調律する。
曲はいつも高杉が選んだ。勝手に弾き始めれば、勝手に合わせてくる。
高杉は蝉の声に耳を澄ませてから、バチを動かした。
高誕。終わらなかったので適当な所をぶった切りました。早く誕生日になりたいです。
何でけんか腰だよ、照れてんのかと思いながらみそ汁を啜った高杉は壁にかかった日めくりカレンダーをみて、今が八月である事を確認する。
一日の大半を眠って過ごしているし、和室には体力の落ちきった高杉の為にエアコンが取り付けられていて室温28度を保っている。そのためあまり夏らしい気がしていなかったのだが、そういえば蝉も煩い。
八月か。
欲しいものなどないし、不自由も感じていない。望みはなくした。まだ、あるといえばあったが自分にはもう叶える力がない。世界を壊す。だが原動力となった狂おしいほどの憎しみは思い出に変わってしまった。
狂気の獣はどこかへ行った。最後まで一緒にいるつもりだったのに。それともこの胸のどこかでまだ眠っているだけなのか。いつも眠い、高杉のように。そうだったらいいと高杉は思う。
銀時に望むことはなかった。この数年間、銀時がいたらどんなにかと思った事もあったが、やる気がないのだから仕方がない。一緒に戦えないなら、どこか遠くで生きていてくれれば良かった。
だが状況は変わりつつある。まだ決定的ではないにしても。
そう。高杉はまだ戻れる。
戦火の中に。
「ねぇの? 俺はそれでもいいけどね」
だからこのままうやむやとかなし崩しは避けた方がいいのだろう。愛を押し付けられる前に何かなかったかそう思って。
「酒」
高杉は銀時の顔を見ながらぽつんといった。
「ん?」
「酒呑みてぇ」
病をえてからこのかた、禁酒禁煙の高杉だった。
じっと見つめると、銀時は腕を組んでうーん、うーんと考える。そしてちらりと高杉を見てまたうーん、と言った。本当は呑ませられないと思っているのだろう。高杉は上目遣いで銀時を見る。
「あ〜、その目反則。上手にお強請りしやがってったく仕方ねぇな〜。ちょっとだぞ、ちょっと。ほんのちょっとね」
そういって辛抱溜まらなくなったのか、銀時は組んでいた腕を解いてぎゅっと高杉の肩を抱いた。
ちょっとかよけちくせーな、と返事をする前に口を塞がれた。
少なくとも、十日まではここにいるだろう。自分のために。そう思った。
銀時が気付いていないだけで、万事屋を訪れる客は多い。まずはマダオ、それからさっちゃん、お登勢、たま、キャサリン、桂。これらの面々は高杉が起きている時も起きていない時もふつーに万事屋に上がってくる。
以前からの事のようなので、新参の高杉などはおとなしく止めもせず、上がるまま上がらせている。
ただし、さっちゃんからは
「ちょっとあなた、銀さんのなんなのよ」
と絡まれたりする。
「何って元隠密だろ。好きなだけさぐりゃあいいじゃねーか」
「もちろん調べたわよ! そうじゃなくて! ほんとに銀さんのお嫁さんなのって聞いてるのよ!」
銀さんと結婚するのはあたしよーとかいった。銀さんはあたしの理想のドSなのよーって。
(…。銀時に虐められたいってか…)
正直、高杉はひいた。
高杉は銀時の加虐趣味が好きではない。好きな子は虐めたいタイプ、といって本当に虐められた事が何度もあるが、誰が好き好んで痛めつけられたいものか。しかしそういうところがいいのもいるのか。奇特な。
銀時がモテるのは今に始まった事ではない。そういう意味では驚きはないのだが。それにしてもありのままの銀時を受け入れるとはそれはそれで似合いだなとも思う。
ただ銀時にしてみればこのさっちゃんとかいうメガネっこはなしの方向なのだろう。抵抗されるのに燃える口だから。だいたいありだったら高杉なんかを引き取りはしないだろうしさっさと身を固めているだろう。常々、追われるより追う方が好きとかいっていた。
そこそこ巨乳なのにもったいない。がつんと殴って逃げてみればいいのにそう思ってからげんなりした。自分がやってきた事そのまんまだったからだ。
(べっべつに俺は銀時の気を引きたくてしてたわけじゃ)
「おい、銀時いるかい? 今月の家賃払え」
動揺していると下のスナックお登勢の連中が家賃のことでやってきた。
「オイ嫁。坂田イルカ?」
「生体反応2。しかし銀時様はいないようです」
銀時は稼ぎがないわけではないが、家賃をためがちらしい。あくせく働いているように見えるが万事屋ってのは儲からない仕事なのだろう。
高杉がくるまでは大体2・3ヶ月はためては、雑用を引き受けたりして割引してもらったりしていたようだ。ちゃんと払う事もあるようだが。
「俺は嫁じゃねー。同居人だ」
高杉は文句を付けながら寝室として使っている和室の違い棚から梅の文箱を出してきて、家賃の入った封筒を渡す。
百石は辞退したものの、これくらいは銀時の為にも受け取れと桂を通して押し付けられている傷病手当だった。
確かに銀時にも居候をこれ以上抱え込む甲斐性はないはずだ。あまり食べないからと言っても食費はかかるし、医療費もある。成程と思ったので心置きなく使い込んでいる。こっそり家賃を払う事で高杉も居心地の悪さを感じないで済むし。
近頃では銀時にいうよりも高杉に督促した方が払いが確実なのをこの三人も充分に承知していた。
「はいよ。キャサリン、領収書」
「オラヨ、嫁」
「毎度ありがとうございます、晋助さま」
「ちわーっす、米屋でーす」
「団子屋でーす」
ツケの支払いも高杉が持っている。
相互扶助。団子代のかわりにやはり雑用をしてやったりしているようだが、そんなことだから現金収入も上がらないのだ。
人と人とのつながりを考えれば悪いとはいいきれないが、相手にも相手の生活があるだろう。現金がなければ商売の材料も買えまいと出来る範囲でやりくりしていた。
それを知っているお登勢は
「銀時に足りなかったのはしっかり者の嫁だったんだねぇ」
などとからかう。
「だからよめじゃねーって言ってんだろ」
「大家と言えば親も同然。親公認? 公認なの? ひどいわ。でもわたし、わたし、負けない。お金の切れ目が縁の切れ目よー!!」
まあサッちゃんのいう通り、こんなことも、臥せっている間だけだ。完全に治ったら、傷病手当もなくなるのだし。
そうしたら、どうするか。
銀時が知ったら嫌がるだろうが、万事屋を訪ねる客の中には高杉自身に会いにくるものも多い。
それは高杉派を敵にして殺された者の遺族だったりすることもあれば、仲間の仇を取ろうという者もあった。
高杉の指名手配は解かれ、国賊として弔いもままならなかった攘夷志士たちも汚名を雪いだ今、高杉の命を狙う者の方がテロリストと呼ばれ、官憲に追われる。ゴミは警察に引き渡したという来島に高杉は驚いたものだ。
眠っている間に目紛しく時勢は流れて行く。その変化は高杉が率先して起こしたものだが一体何処へいきつくのか。
その収束に桂などはきりきりしている事だろう。
高杉は利用したかっただけだから、国の行く末がどうなろうが知った事ではなかったのだが。高杉の見る所、この国の膿はまだまだ出し切れていないし、劫火を燃やし続ける薪は事欠かない。
「ごめんでござる。晋助、拙者を呼んだでござるか」
鬼兵隊は解体された。元は農家の悪たれや村の鼻つまみ者、町のごろつきといった輩が主流だったから落ち着き先を見つけるのは大変だろうがその辺りは武市がうまくやってくれている。来島はしばらく高杉の手元に置いて、しかるべき筋に縁付かせようと思っていた。何しろ来島の親父に頼まれていた。
問題はこの河上万斉。高杉の部下というよりは同盟者のような立場で盟主としてあおいでも、高杉がその座を引けば従ういわれもないのだ。つまりこの男は止まらない。
それを証明するように音楽プロデューサーという表の顔には戻っていないという。それどころか、鬼兵隊解散後、高杉の見舞いに来たきり、似蔵と姿をくらましていた。
高杉にもどこにいるかは分からなかった。何をしているかは分かったが。二人は人斬りなのだ。
「ああ」
似蔵に思想はなくただの手足にすぎないが、万斉にはある。
侍を滅ぼすという信念が。
幕府が倒れたからと言って、新政府ができたからといって戦いをやめる理由にはならない。武士という階級はまだ絶滅していはいない。
話をしなければと思った。だが高杉は万斉にあわなければならないと誰にもまだ漏らしてはいなかった。
それでも呼んだかと言いながら訪ねてくる。そのことに高杉は少しだけ笑った。
こんな風に鬼兵隊との間にも絆があった。
(俺はこいつをこのまま行かせていいのか?)
行かせれば間違いなくこの男は死ぬ。
高杉の代わりに、とは言わない。高杉は世界を構成する総てのものを滅ぼしたかった。
万斉は士分を根絶やしにしたい。その利害が一致していただけだ。侍の支配を終わらせる鉄槌が下された後にはもしかしたら袂を分かち、暴走する高杉を阻む事さえしたかもしれない。
それとも、自分の悲願は達したと最後まで高杉についてきたか。分からない。そんな日は多分もう来ないのだ。
「少し早いが、拙者からの祝いでござる」
そういって万斉は手に持っていた包みを高杉に渡した。絹の風呂敷に包まれたそれは外側の形状だけでなにか分かった。三味線だ。
「久しぶりにセッションといこうでござる」
そういって万斉はさっさとソファーに座った。
音を聞けば、心胆など知れる。
そういうことか。それとも今生の別れにか、あるいは本当に純粋に楽しみたいのか。
どうでもいい。
弾けば悟られる事もあるだろう。
同じほどに聞けば分かる事もある。
ただ会って話す事と大した違いはない。ただそのほうが目も耳も塞いだこの男には似合いだというだけで。
腹を探るのが面倒になった高杉は促されるまま真向かいに座り、するりと風呂敷を解いた。
べんべんべべんと音を調律する。
曲はいつも高杉が選んだ。勝手に弾き始めれば、勝手に合わせてくる。
高杉は蝉の声に耳を澄ませてから、バチを動かした。
高誕。終わらなかったので適当な所をぶった切りました。早く誕生日になりたいです。
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