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桜の匂いがしていた。
桜は美しいが高杉はあまり好まない。友人の一人が好きだといい、先を争うに華々しく散ったからだ。桜そのもののように似合ってはいた。だからこそ痛ましい。
観桜の宴を張った事もある。宴を共にした者たちと酌み交わした酒はうまく、楽しく、唄は今でも思い出せる。けれどもその人々もほとんどが地下で眠っていた。
桜の散り際を見てはその思い出がひどく、気を滅入らせた。
桜が咲けば春の盛り、桜が散れば、春の終わり。それが寂しかっただけではなかった。
悼み。
生の涯てまでこれを背負って行かなければならないのだ。
重苦しい胸に圧されて、高杉はうっそりと目を覚ました。
「お前、」
桜の匂いがしていると思えばそれは、枕元に置かれた花台の上の花瓶に生けられた八重桜のせいだった。通常の桜よりも濃く、艶やかだ。
しかし匂いの元はそればかりでなく、人の寝顔を眺めながら、むしゃむしゃ桜餅を食っている銀時のせいもあった。つーかこっちの方が匂いがきょーれつ。
「お前も食うか?」
銀時は死んだ魚の目をしたまま、食いかけの桜餅をん? と差し出した。
「いるか。人の枕元でんなもん食ってんじゃねぇよ。そしてここは何処だ?」
一度に投げかけられた質問に文句を付けるでなく、銀時は答えた。
「え〜、だって〜、銀さん好きなもんをきれーなもん見ながら食べたかったんだもの。俺の幸せのために。そしてここは俺んち。連れて来ちゃった俺の幸せのために。一緒に幸せになろうな」
「は?」
高杉は呆然とあたりを見回した。確か高杉は銀時の強い要望で薬を飲んだ。何度か目を覚ました記憶がある。
その度に銀時は高杉の目の前に陣取っていた。目を開けるのはこれが最後かと覚悟しながらも、こんな銀時を置いていけないなと思った。あんまりにも悲愴だったから。
結局どうなんだろう。高杉はぼんやりと考える。もしや自分の経過は良好なのか?
実は寝床が変わるのはこれが初めてではない。というか、目を覚ますたびに高杉の居場所は転々と変えられていた。戦線から、京の屋敷へ、それから流れ続ける血を止めるための手術を受けるための病院。
CTやMRIの最中に覚醒した日もあった。
それがとうとう銀時の家か。
「大江戸?」
「うん」
「よくうちの奴らが許したな。っつーかあいつらはどうした」
いつもなら銀時のほかに一人か二人は張り付いていたものだった。だが今日は誰もいない。
(別にいなくてもいい…戦争中だ)
同じ答えを銀時はいう。
「戦争の続きしてる」
そう。戦争中だ。つまり鬼兵隊はまだ戦っていると言う事だ。何故今まで気付かなかったのだろう。高杉はがばりと起き上がった。
「っ」
体中が痛む。何だ? この体は? もう雪火の熱はないはずなのに。手術の影響か。確かに出血が止まらないからカテーテルでとか脳圧が上がっていて危ないとか、肝臓の一部を切除とか言ってたような気がするが。
「待て待て待て! 何処行く気だこのやろー! ちょっと起きれるようになったくらいで行けるわけネェだろ」
「離せ! あいつら、見張ってねぇと死ぬ。俺が見てねぇところでそんなん」
「…」
思わず本心を語ると銀時は絶句した。
ああ、そんなことを考えていたのか。高杉から奪われたものは多い。そして最後に奪われたものはめためたに高杉を壊した。今でも高杉は傷ついて、そして恐れている。部下が死ぬ事を。
銀時が尻尾を巻いて逃げ出してきた痛み。
それでも高杉は復讐のためにその中に踏みとどまった。そこにいる限り、戦い続ける限り、部下は死ぬと分かっていただろう。
だが自分が見ている限り全滅はしない。そう思っていたのか。それほど、目を離した隙に、捕縛され処刑された旧鬼兵隊の死は高杉を打ちのめした。
そんな時に、銀時は高杉の傍にはいれなかった。なんの助けにもならなかった。護れやしなかった。
銀時は、ぎゅうっと高杉を抱きしめる。
何度もその薄い背を撫でた。
「銀時」
「大丈夫。曲がりなりにもてめーの部下だ。無様な事はしないってよ。信じてやれ」
「…。離せ」
胸に押し付けていた高杉が、体の力を抜いてそう言うと、銀時は少しだけ腕をゆるめてお互いの間に隙間を作ってやった。その間から、高杉の顔を覗き込む。
「落ち着いたか?」
不承不承高杉は頷いた。
「あいつら寝てる間に帰ったから、お前宛に文がある」
黒漆に螺鈿で梅の細工を施された文箱を銀時は違い棚から持ってきて、起き上がったままの高杉の膝の上に乗せてやる。
高杉はそれを開けた。中には武市のいかにも読みやすい、生真面目な手蹟で高杉開闢総督殿、と書かれてあった。
その宛名を読んで高杉は微笑を漏らす。
武市は高杉の遺言を読んだのだ。
あなたさまの残した文を仔細拝読し、我ら一同今後の処遇を決定いたし候。
鬼兵隊主力は北陸道戦線にて作戦続行の由。この戦い決しました後にはご指示通り解散致す所存。諸々協議の上、諸事万端怠りなく始末の事。御心配なきよう。
来島殿は早々ご意向どうり戦線を離れ、しばらくかぶき町裏長屋にて逗留のこと。あなたさまの御用あります時には馳せ参じる由、いつでも御下知くだされ候。坂田殿横暴在りし時はとくに御身柄お引き受けも辞さぬ由よくよく御気をつけられたし。
また藩庁より、こたびの御働きにより百石遣わされ別途傷病手当支給のお申出あり。仔細桂殿承知の段お含み候。
病重篤のみぎわ、くれぐれもご自愛の事。
総督の本復鬼兵隊一同祈念致そうらえば必ず再会のこと、お待申上げ候。
読み終わった高杉は黙ってまたその文を文箱の中へとしまった。何が書いてあるか銀時には伺い知れなかったが、まあ大体病人に書く事は決まってるだろう。
体が一番。
病人に心配されてもどうしようもない。今は療養だ。
「まあそう言うわけだから。あいつらは心配ねぇよ。うちでゆっくりしてな」
銀時はそのまま、高杉にちゅーっと。
しようとしたところで襖がバンと開いた。
「一体いつまでいちゃついてれば気がすむアル!」
「そうですよ。高杉さん、そんなに起きてられないんですから。ご飯くらい食べないといつまでも点滴じゃ痩せる一方です」
そういえば万事屋にはこんなのがいたなぁと高杉が思っていると。
「えーっ。俺たち新婚なのにぃ」
「あ?」
新婚だと? つーかその前にチャイナもなんか聞き捨てならない事を言わなかったか。確かいつまでいちゃついていれば気がすむのかとかなんとか。
いちゃついて?
俺たちは今いちゃついてただろうかと銀時を殴る前に思わず悩みそうになった高杉は、銀時の発言で己の境遇についてやっと理解する。
「うんそう新婚。晋ちゃんは俺のために生きる決心をしてくれたわけだから責任とって嫁に貰ってきた。あいつら誰も晋ちゃん助ける為に薬飲ませられなかったわけだし。ってことで俺たちの邪魔は出来ないんだザマアミロコノヤロー」
新婚編はじめました。こっちは先を急ぐ必要がないのでだらだらと甘甘に持ってきたいです。
桜は美しいが高杉はあまり好まない。友人の一人が好きだといい、先を争うに華々しく散ったからだ。桜そのもののように似合ってはいた。だからこそ痛ましい。
観桜の宴を張った事もある。宴を共にした者たちと酌み交わした酒はうまく、楽しく、唄は今でも思い出せる。けれどもその人々もほとんどが地下で眠っていた。
桜の散り際を見てはその思い出がひどく、気を滅入らせた。
桜が咲けば春の盛り、桜が散れば、春の終わり。それが寂しかっただけではなかった。
悼み。
生の涯てまでこれを背負って行かなければならないのだ。
重苦しい胸に圧されて、高杉はうっそりと目を覚ました。
「お前、」
桜の匂いがしていると思えばそれは、枕元に置かれた花台の上の花瓶に生けられた八重桜のせいだった。通常の桜よりも濃く、艶やかだ。
しかし匂いの元はそればかりでなく、人の寝顔を眺めながら、むしゃむしゃ桜餅を食っている銀時のせいもあった。つーかこっちの方が匂いがきょーれつ。
「お前も食うか?」
銀時は死んだ魚の目をしたまま、食いかけの桜餅をん? と差し出した。
「いるか。人の枕元でんなもん食ってんじゃねぇよ。そしてここは何処だ?」
一度に投げかけられた質問に文句を付けるでなく、銀時は答えた。
「え〜、だって〜、銀さん好きなもんをきれーなもん見ながら食べたかったんだもの。俺の幸せのために。そしてここは俺んち。連れて来ちゃった俺の幸せのために。一緒に幸せになろうな」
「は?」
高杉は呆然とあたりを見回した。確か高杉は銀時の強い要望で薬を飲んだ。何度か目を覚ました記憶がある。
その度に銀時は高杉の目の前に陣取っていた。目を開けるのはこれが最後かと覚悟しながらも、こんな銀時を置いていけないなと思った。あんまりにも悲愴だったから。
結局どうなんだろう。高杉はぼんやりと考える。もしや自分の経過は良好なのか?
実は寝床が変わるのはこれが初めてではない。というか、目を覚ますたびに高杉の居場所は転々と変えられていた。戦線から、京の屋敷へ、それから流れ続ける血を止めるための手術を受けるための病院。
CTやMRIの最中に覚醒した日もあった。
それがとうとう銀時の家か。
「大江戸?」
「うん」
「よくうちの奴らが許したな。っつーかあいつらはどうした」
いつもなら銀時のほかに一人か二人は張り付いていたものだった。だが今日は誰もいない。
(別にいなくてもいい…戦争中だ)
同じ答えを銀時はいう。
「戦争の続きしてる」
そう。戦争中だ。つまり鬼兵隊はまだ戦っていると言う事だ。何故今まで気付かなかったのだろう。高杉はがばりと起き上がった。
「っ」
体中が痛む。何だ? この体は? もう雪火の熱はないはずなのに。手術の影響か。確かに出血が止まらないからカテーテルでとか脳圧が上がっていて危ないとか、肝臓の一部を切除とか言ってたような気がするが。
「待て待て待て! 何処行く気だこのやろー! ちょっと起きれるようになったくらいで行けるわけネェだろ」
「離せ! あいつら、見張ってねぇと死ぬ。俺が見てねぇところでそんなん」
「…」
思わず本心を語ると銀時は絶句した。
ああ、そんなことを考えていたのか。高杉から奪われたものは多い。そして最後に奪われたものはめためたに高杉を壊した。今でも高杉は傷ついて、そして恐れている。部下が死ぬ事を。
銀時が尻尾を巻いて逃げ出してきた痛み。
それでも高杉は復讐のためにその中に踏みとどまった。そこにいる限り、戦い続ける限り、部下は死ぬと分かっていただろう。
だが自分が見ている限り全滅はしない。そう思っていたのか。それほど、目を離した隙に、捕縛され処刑された旧鬼兵隊の死は高杉を打ちのめした。
そんな時に、銀時は高杉の傍にはいれなかった。なんの助けにもならなかった。護れやしなかった。
銀時は、ぎゅうっと高杉を抱きしめる。
何度もその薄い背を撫でた。
「銀時」
「大丈夫。曲がりなりにもてめーの部下だ。無様な事はしないってよ。信じてやれ」
「…。離せ」
胸に押し付けていた高杉が、体の力を抜いてそう言うと、銀時は少しだけ腕をゆるめてお互いの間に隙間を作ってやった。その間から、高杉の顔を覗き込む。
「落ち着いたか?」
不承不承高杉は頷いた。
「あいつら寝てる間に帰ったから、お前宛に文がある」
黒漆に螺鈿で梅の細工を施された文箱を銀時は違い棚から持ってきて、起き上がったままの高杉の膝の上に乗せてやる。
高杉はそれを開けた。中には武市のいかにも読みやすい、生真面目な手蹟で高杉開闢総督殿、と書かれてあった。
その宛名を読んで高杉は微笑を漏らす。
武市は高杉の遺言を読んだのだ。
あなたさまの残した文を仔細拝読し、我ら一同今後の処遇を決定いたし候。
鬼兵隊主力は北陸道戦線にて作戦続行の由。この戦い決しました後にはご指示通り解散致す所存。諸々協議の上、諸事万端怠りなく始末の事。御心配なきよう。
来島殿は早々ご意向どうり戦線を離れ、しばらくかぶき町裏長屋にて逗留のこと。あなたさまの御用あります時には馳せ参じる由、いつでも御下知くだされ候。坂田殿横暴在りし時はとくに御身柄お引き受けも辞さぬ由よくよく御気をつけられたし。
また藩庁より、こたびの御働きにより百石遣わされ別途傷病手当支給のお申出あり。仔細桂殿承知の段お含み候。
病重篤のみぎわ、くれぐれもご自愛の事。
総督の本復鬼兵隊一同祈念致そうらえば必ず再会のこと、お待申上げ候。
読み終わった高杉は黙ってまたその文を文箱の中へとしまった。何が書いてあるか銀時には伺い知れなかったが、まあ大体病人に書く事は決まってるだろう。
体が一番。
病人に心配されてもどうしようもない。今は療養だ。
「まあそう言うわけだから。あいつらは心配ねぇよ。うちでゆっくりしてな」
銀時はそのまま、高杉にちゅーっと。
しようとしたところで襖がバンと開いた。
「一体いつまでいちゃついてれば気がすむアル!」
「そうですよ。高杉さん、そんなに起きてられないんですから。ご飯くらい食べないといつまでも点滴じゃ痩せる一方です」
そういえば万事屋にはこんなのがいたなぁと高杉が思っていると。
「えーっ。俺たち新婚なのにぃ」
「あ?」
新婚だと? つーかその前にチャイナもなんか聞き捨てならない事を言わなかったか。確かいつまでいちゃついていれば気がすむのかとかなんとか。
いちゃついて?
俺たちは今いちゃついてただろうかと銀時を殴る前に思わず悩みそうになった高杉は、銀時の発言で己の境遇についてやっと理解する。
「うんそう新婚。晋ちゃんは俺のために生きる決心をしてくれたわけだから責任とって嫁に貰ってきた。あいつら誰も晋ちゃん助ける為に薬飲ませられなかったわけだし。ってことで俺たちの邪魔は出来ないんだザマアミロコノヤロー」
新婚編はじめました。こっちは先を急ぐ必要がないのでだらだらと甘甘に持ってきたいです。
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