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 会議所から連れ出された近藤は元の牢に押し込められるのだろうと思っていた。牢と言ってもここは前線の出先である。物置のようなものだ。
 しかし前を進む河上はそのまま近藤の入れられていた物置を通り過ぎる。そして裏口へと回った。
「何処へ連れて行くんだね。あの人は生き地獄を見せてやれといったんだ。殺していいとも、仲間の元に戻していいともいってないね」
 裏口の塀に寄りかかって立っていた岡田は言った。
 その言葉に近藤は目を見開く。何故岡田はそんなことを言ったのだろう。鬼兵隊は高杉晋助の強い統制によって機能していたはずだ。
 だが岡田の言葉は河上の裏切りを示唆している。
「戦い続けるなら、捕らえておくだけではぬるいでござる」
 しかし近藤が見た河上の背中は揺らぎもしなかった。強い決意があってのことだった。
「晋助が殺すなというならそれでもいい。しかし晋助の目的が破壊なら、この男は逃がした方が得策でござる。官軍も賊軍も侍たちはこの戦で殺し合い今度こそ滅び尽きねばならん。解き放てばこの男はあちら側の中心人物として最期まで戦い抜くでござろう」
 腐敗した世界を屠るには戦争がすぐに終結しては困る。侍たちが自ら腹を切れないならこちらが引導を渡してやるまでだと河上は言った。
「今更侍やあの人が言う世界とやらがどうなろうと知ったことじゃあないが。それならあの人の許可を持ってくるんだね」
 しかし岡田の方にはそうした信念に共感する部分はないようだった。一兵卒としてただ高杉の意のままにということだ。
「お前がいうでござるか」
 以前独走した岡田に河上は辟易したように言った。
「だからこそいうんだよ」
 そんな事情を近藤はしらない。だから岡田も間違ってはいないと思うばかりだ。
 例え高杉の意を汲んでなされることでも、官軍において近藤を逃がしたことが分かれば高杉の立場を悪くする。
 忠臣のすることではないと。
 いや、そもそもこの河上万斉は高杉晋助にとっては忠臣なのか。鬼兵隊の面々は高杉に取って忠臣なのか。
 攘夷志士というものがそうしたものではないことを近藤は知っていた。
 彼らは同志。利害が一致して党派を組み、忠誠を誓い合うものではないのだ。掲げた理念を現実にすること、それこそが究極の目的。協力はするし、上のものに従いはするが党首の家来になったわけではない。
 そして鬼兵隊の目的は世界の破壊だ。河上には矛盾はないのかもしれない。
 あるとしたらそれは高杉晋助に、だった。
 狂気。
 高杉の行状を聞くに及び、彼はそう囁かれることがあった。天才の振る舞いを凡人が理解できないためなのかもしれない。けれども確かに彼には矛盾があった。
 同じ目にあわせてやるといいながら高杉は雪火のまみれた指を近藤に触れさせることはなかった。
 雪火に感染させれば、虜囚にしておくのも楽だったろう。身動きの取れない高熱が近藤を襲ったはずだ。自力で逃げることもできなくなる。
 おぞましいことだが、そうしている間に、近藤の命を盾に真選組を誘き出すことも出来たかもしれない。
 高杉が持ちこたえているように、死ぬまでには、少しの猶予がある。地獄の苦しみを味あわせるには充分な時間ではないのか。
「伊東の時とは違い、許可は出ないでしょう。晋助さまは近藤をひいては真選組を損ないたくないのですよ。坂田銀時のためにね」
 背後を振り返ると、鬼兵隊の武市がいつの間にか立っている。
「万事屋のため?」
 妙なところで妙な人間の名を聞いた。坂田銀時とは近藤が懸想を続けているお妙の愛弟、新八の給料を出さない雇用主だ。
(確かトシが怪しいと調べていたことがあった)
 分かったことは限りなく黒に近いグレー。確証はない上に一般市民の味方で、真選組に協力することもあった。
「ご存知ありませんでしたか? 彼はかつて高杉の盟友です」
「何が、盟友。俺は…、認めないよ」
 やはりつながりがあったのか。しかし岡田の様子をみれば攘夷戦争末期、坂田が高杉と袂をわかったことは明白だった。そして鬼兵隊のものたちはそれを快くは思っていない。
「そうでござる。白夜叉のためなどと晋助がそんなことをいうはずがござらん」
 高杉の立場を危うくするようなことを仕掛けた河上も、顔色を変えたようだ。
「もちろん、我らが総督はそんなことは口が裂けても言いませんよ。だからあの方は本音も建前も入り交じって惑乱していくのです。ですが常に仲間への愛惜だけは一貫している。この戦も師や仲間への弔いでしょう」
 生き地獄を見せてやれと言ったのは同輩たちを納得させるためのものにすぎないと 武市はいう。
 もちろん全てが推測だ。
 高杉は自らを語ることをあまりにもしてこなかった。高杉自身自分はどうしたいのかもうわかっていないのかもしれない。狂気と理性の狭間を引き裂かれ続けて来たのだ。
「われらがあの方の元に集ったのはあの方自身を思ってのことか、破壊衝動に共鳴したからか、それはおのおのが知っていれば良いことです。あなたがあなたの信じることをするならそれはそれで好きにするといい。あの人は我々を指揮することはもうできないでしょうから」
 武市は河上にわたしは止めませんよと言った。賛成もしかねるがと。
 近藤にしてみれば逃がしてくれるならこんなにありがたいことはない。
 真選組のことが心配だった。
 と、同時に、鬼兵隊たちも上司のことがやはり心配なようだった。
「どういうことだい? あの人に何が」
「桂殿が来ました。このままあちらに奪われればそれで終いです。あなたちはここで 近藤を取り合っていればいい。私は行きますからね」
 武市はそれだけを言うとぱっと身を翻して行った。
 慌ててそれを岡田と河上が追う。
「おや、どうしたんです?」
 武市が遠ざかりながら言った。実は二人にお冠だった。
「意地が悪いでござるよ」
 最初から呼びに来たくせにそのまま行ってしまうとはあんまりだと河上は言う。
「あの人の方が重要に決まってるだろう」
 何故もっと早くそれを言わないと文句を付けながら三人は去って行く。
「え?」
 近藤はそのまま裏口にぽつんと残されてしまった。
「俺、え?」
 一人にされたらされたで逃げる絶好の機会だったのだがあまりのことに近藤は少し現状把握に戸惑ってしまった。そしてそうしているうちに裏口の木戸がドカーンと破壊された。
 バズーカが直撃したのだ。
 着弾は木戸を破壊したばかりではなく、会議所が借り上げている寺院のそこかしこを破壊しまくった。
 その混乱に乗じて、木戸をくぐって来たのが。
「あ、近藤さん!」
 雪火で臥せっていた沖田だった。
「おおおお総悟ぉ! お前あれほどバズーカを人に向けて打っちゃいけませんて言ってたでしょー。危なかった。本当危なかった。雪火は大丈夫か? ん?」
 そのあとに続いて来たのが土方だった。
「おー、元気元気。こいつも近藤さんもやっぱ殺しても死なねぇな」
 そう言いながら拘束されている近藤の手錠の鎖をペンチでばちんと切った。
「なんだと土方コノヤロー。お前後ろから刺してやろうか」
「いや駄目駄目だよ総悟君。なんか怪我してるよこの子。トシ、お前も大丈夫なのか」
 土方はやはり甲州戦で負傷していたのか包帯だらけだった。特にひどいのが足の怪我のようだ。その怪我を押してきたのか。
「ああ? たいしたことねぇよ」
 足を引きずりながら、近藤を木戸の外へ出そうと促した。
「そうですぜ。全然大したことないんで車も運転させました」
 木戸の外にはバンが横付けしてあって、そのドアが勢い良く開いた。
「感動の再会は後々後々ぉぉぉぉぉ! 近藤さん早く乗ってぇぇぇぇぇ。追っ手がくる! 追っ手が! 今度こそ捕まったら死にますからね。即死にますからね」
「山崎! お前も雪火なのに」
 土方にこれ以上運転させるのもどうかと思った近藤は自ら運転席に乗り込みながら感動していた。
「その上重傷なんですよ。無理させないでくださいよ!」
「まあいいじゃねぇか崎ィ。殴り込む手間が省けたじゃねぇかぃ。流石近藤さん気が聞いてらぁ」
 うん、それには色々と事情があってね。おいおい話すけども。そう思いながら重病重傷の部下たちを眺めた。
「なんでまたよりによってお前らが」
「失敗して死んでも惜しみのない構成だろ? 無傷なのはみんな、江戸の防備を固めてる」
 にやりと助手席に収まった土方が笑った。
「実際このメンバーが一番破壊力が大きいんで。俺は不本意ですが。だって、まだまだ俺、一時間起きてられないんですよ」
 大した役に立ちませんよ。
 という山崎が実はこの後一番役に立った。官軍による包囲網を短い覚醒時間を使ってすり抜けたのだ。流石監察。



「ちっ、何してやがんだ! あいつは!」
 銀時は受話器を電話に叩き付けた。苛々する。餡子ご飯を食べたのにまるで糖分が足りない。あれだ。パフェ的なものが必要だ。
 銀時はお冷やに砂糖をざらざらと溶かしてごくごくと飲んだ。
 土方の置いて行った携帯でぽちぽちやっていた新八がそれを咎める。
「ちょっと銀さん落ち着いて、あと糖分取りすぎ。本当の糖尿になりますよ」
「そうネ。予備軍から本物ネ。週一のパフェも一月一遍よ」
 そういうこの娘は酢昆布の塩分取り過ぎで高血圧になったりしないのか、夜兎って以外に丈夫だなオイ、神様って不公平〜と思いながら、銀時は苛々したまま訊いた。
「それよりメールはどうした?」
(やっぱ糖分足りないわ、いつもの幸福感がないもの。甘いもん食べた時のなんかほんわりとした幸福感があああああ!)
 ほんと今すぐ走り出したいような、でもここからでてってもなんの解決にもならない感じで本当いらっとする。いらっと。
「一応送れました。エラーはこないし大丈夫だと思います。あとは読んでもらえればいいんですけど」
 高杉雪火の情報を聞いて、銀時は桂に連絡を取ろうとした。しかし電話は引き払ったのか当然のように繋がらなかった。それでもしもの時用におしつけていったメールアドレスに丁度真選組が置いて行った携帯端末を使ってメールを送らせた。
 桂から連絡があったのはその二日後で、高杉の居場所がわかった頃、近藤捕縛の報も聞いた。
 真選組副長が甲州より戻って来て沖田の首かせの鍵と万事屋に預けていた携帯を受け取りに来たのだ。
「あ〜、ついにゴリラが檻にね」
「殺すぞ」
 すでに幕府高官を通じて助命嘆願を行ったというが無条件でのんでもらえるとは思っていないとのことだった。恐らく何らかの要求がなされるのではないかと土方は言う。真選組はそれがのめるかどうかはわからない、とも。
 幕府から手を引けと言われてはいそうですかとは言えないということだ。
 近藤を見殺しにするか、それは真選組の問題だ。手も口も出す気もないし、銀時にはその余裕もなかった。
「銀さん、車の用意できたぜ」
 銀時はこれから高杉の元へ行く。
 車は前の職場から長谷川が持って来てくれた。乗り手がいなくて余ってるのを半ば 無理矢理借り出させた。
「ありがと、長谷川さん」
 神楽のいう通り雪火に罹っていた長谷川はなんと今この時期に全快したのだった。これで一生の運を使い果たしたかも、とほほという感じだがマダオにしてはうまくやった。
「おっと取り込み中かい?」
 その長谷川は真選組の副長がいるのに邪魔をしたかと気遣いを見せた。
 銀時は玄関に向かいながら否定する。
「いやもう終わったよ」
 鍵と携帯はもう渡した。他に依頼がないのなら土方の方にも用はないはずだ。
「じゃあな、新八。神楽。避難が始まったらちゃんと船に乗れよ」
江戸は官軍に恭順降伏するための交渉を続けながら、交渉が決裂した時のための準備も始めていた。
 新しく徳川喜喜から全権を与えられた男はこれまでになく庶民のために配慮をしている。江戸周辺の船を全て使って避難をさせ始めていた。
「銀さん僕たちやっぱり一緒に」
「そうよ、一緒に行くある」
 勿論抗戦の準備も同時に進行しているだろう。真選組はそのためにも江戸にとどまっているのだろう。
 火消しのところに大量の火薬が配られたという話をなじみからも聞いていた。本当に降伏が入れられるかはまだ不透明なのだ。
「ここも安全だとは限らねぇから連れてきたいのは山々だけどよ。俺もすぐに帰ってくるから、他のみんなを頼むわ」
 だが船に乗ろうにも雪火で身動きが取れないものもいる。万事屋はこれまでずっと頼りにされて来た。これからも依頼があるだろう。全員で行けば困るものもでる。
 二人を向こうに連れて行っても恐らく出来ることはない。だったらお妙やお登勢のそばにおいておいた方がいい。
 銀時はあとをくっついてくる二人の頭をそれぞれぽんぽんと叩いた。
 桂も江戸総攻撃には反対している。予定されている江戸城総攻撃の日取りも教えてくれた。
 3月15日。その日までには必ず戻ってくる。そう思いながら銀時は長谷川から車の鍵を受け取った。
「出かけるのか」
 土方は子供を置いて行くのは感心しないと言いたげに言った。俺だってやりたくてやってんじゃねーやと思いながら、銀時は答えた。
「ああ、ちょっと野暮用でね」
 この時期新八や神楽を置いて行くなんて、そんな野暮用があるわけがなかったが。



 逃亡中の真選組は車の中で急ぎ情報交換をしている。いわくなんで近藤の居場所が分かったか。
「という訳で、万事屋がなんか怪しい動きをしてたんで前々から目を付けてたこともあり、一か八かで後をつけようとしたんだが」
「まー後なんかつけなくても携帯のメールの履歴が全部残ってたんで、高杉の居場所が知れて」
「旦那のふりして桂にカマかけて局長もいるか調べられるかっつったらビンゴだったんで」
「迎えに来ました」
 あー、もう眠い。もの凄く眠い。もう寝てもいいですかといいながら何でお前こんなど田舎の裏道知ってんだ的な山崎は盛んにあくびをはじめた。
「でもあれですよね。旦那はわざと履歴消さないで渡してくれましたよね」
 土方はタバコのフィルターを噛み締める。多分そうだろうと土方も思う。
「それを言っちゃあおしまいだ。大体これであいつがあっちと繋がってるのが分かった。もう今まで通り妙ななれ合いはやめろ」
「やっぱ旦那も攘夷志士だったんですかねぇ」
 今度は近藤が自分の仕入れて来た情報を披瀝した。
「白夜叉だそうだ。高杉とも盟友だと」
 白夜叉。
 眠りに落ちた山崎以外の二人は、同時に固まった。攘夷戦争末期に活躍した伝説の男ではないか。
「…流石旦那だ。大物じゃないですかぃ」
「白夜叉、か」
 実名も分からない白夜叉はとにかく強く、天人からも憎まれていて、その依頼を受けた幕府も血眼になって探していた首だ。だがこつ然と消息は不明で、死んだともあるいは都市伝説のようなもので元々存在していないのではという声さえも、近頃ではあがっていた。
「高杉、桂と懇意だとすると奴も村塾出身か」
 村塾の生徒たちはみな師を敬愛していた。ひいてはそれが幕府に弓引く原因となった。幕府がその師を殺したために。
 大事な人を奪われて仇討ちをしないでいられるはずがない。それが侍なら尚更だ。
「だから助けてくれたんだろう。お前たちを自分たちのようにしたくなくて。万事屋さんは人の痛みのわかる人だからな」
 だとしたら近藤は大きな借りを作ったはずだ。甘味どころでは追いつかないほどの借りが。









鬼兵隊も書いとくかなと思って予定がずれました。銀高は次、次ぃ!
以蔵は戻ってから調教済みなので滅多なことでは高杉に逆らいません、勝つまでは(?)
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