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 お前いきなりそんなこと俺にさせて良いのかと思わなくもなかったが、高杉がいいといっているのだからと結局桂は思い切り良く開き直って西郷を探し始めた。
 雪火以来、風俗業は瀕死の態だ。ああいう人の集まるところから疫病は広がるもの。その上生活するにも精一杯という貧しい懐事情がそれに拍車をかけた。客商売は景気の影響を如実に受けてしまう。

 客足が遠のく過程で西郷も店を畳まざるを得なかった。最後まで店を開くつもりではいたようだが、従業員から雪火が出ればそれもおぼつかない。
 妹(?)のように思って大事にしてきた同志たちの療養に付き添って新宿から姿を消していたのだ。故郷の薩州に帰ったのかもしれない。
 戻れば彼は薩州の顔だ。薩州を代表するまとめ役としてそれなりの影響力を持つに違いない。彼もまた伝説に語られる英雄なのだ。知った顔でもあるし交渉相手にするのに、やぶさかではない。
 自由に同志を使いながら、桂は辰馬とも連絡を取った。宇宙で活動している辰馬だけでなく何人もの仲介者たちと話し合いを持つ。その間に感じた手応えではみな自分たちの意志で真剣にこの日の本の未来を憂いている、といういことだった。
 高杉に軍資金や物資を提供しているのが先ほど掌握した藩庁だけでなく、豪士、豪商、そして庄屋連合にまで至ることでそれが分かる。
 天人相手に商売をしている開国派の宇宙商人たちもが含まれていた。かれらはみな、一様に幕吏たちの国益を省みないオヤクニン的保身に苛立っていた。
 もちろんそれは幕府に更なる譲歩を引き出そうとする天人も同じなのだ。オヤクニンは責任の所在をまるで明らかにしない。何か問題が起こっても卑屈に這いつくばりはするものの、トカゲの尻尾のように末端切り捨てて上層部は知らぬ存ぜぬを繰り返す。そんな者たちとまともな交渉ができるはずがない、と。
 だからこそ天人は我々を見下す。下位のものの腹を切らせれば事足りると、上が命を軽く扱うから天人自体も地球人を虫けらのように扱うのだ。
 どん底にあるからこそ先の展望を見据える者たちは、そのような幕府の機構を、体質を打ち壊さなければならない、これからの未来へ持ち込みたくないと思い定めている。
 理想論ではなく、現実から生まれた要求に辰馬が歩調を合わせるのも不思議はないのだろう。
 お前にもお前の理想があるように、辰馬にも辰馬のやりてぇことがあるんだろうと歌うように高杉はいったものだ。
 ただ一つの救いは辰馬もまた、この時勢にあってもなお穏健派だということだろうか。
 武力に寄る衝突を避けたいと思っているようだった。西郷にかくまわれたことがあるという辰馬が薩長同盟をすすめているのも、薩長が組むことで幕府に長州がつぶされることなく、それなりの発言権をもたそうということのようだった。
 その上で征夷大将軍による大政奉還の実現を目指している。しかし幕府を存続させたいもの、武力で倒幕を成し遂げたい者たちにとってはそれがばれればただではすまないだろう。
「始末されたくなかったら、内乱が終わるまで帰ってくるな」
 散々に辰馬を利用して大量の武器を購入した高杉はある日、桂と坂本の回線に割り込んできてそう釘をさした。ビデオ通信という奴だ。からくりという奴はよくわからないが、高杉は苦にならないのかかなり使いこなしているようだ。旧鬼兵隊の昔から新しいものを導入するのにためらいがない。それにしても。
(相変わらず、鋭い。まだ何も言ってないのに)
 大政奉還などまだこの段階で高杉も知らないはずだ。それでも坂本が腹に一物かかえていると睨んできたのか。
「なんやき。おっとろしいの。わしも嫌われたもんぜよ」
 返り血なのか、首の辺りを赤く染めたままの高杉にモニター越しに睨まれて坂本は笑いながら両手を上げた。
 後から聞いた話では高杉に辰馬が協力することは辰馬が攘夷活動から手を引く時に既に取り交わされていたらしい。
 道理であのとき、高杉は辰馬を引き止めもしなかったし、怒鳴りちらしもしなかった。見えていたのだろうか。あの時の劣勢から巻き返す今が。生き残る確信があったのか、気が長いともいえるしとにかく抜け目なく、用意周到だった。
 もちろん辰馬は約束を盾にいやいや高杉に協力している訳ではないし、薩長同盟の仲立ちも何度か頓挫しかかったが、不利のないようにまとまりつつある。
 西郷はいまだ姿を見せないが、この頃には繋ぎがとれるようになっていた。攘夷戦争の英雄の一人がまた、担ぎだされるのは時間の問題だろう。それより。
「おい、高杉。物騒な話が出てるならはっきり言え。誰だ。こんな黒もじゃを暗殺するとかいってるのは。きりきり吐け! 吐くのだ!」
「さてなぁ。そういう話が出てきてもおかしくないってことだ。まあすすんで死にてぇならかまわねぇけどよ」
「ぜひとも構うぜよ。わしはまだ死にとうないき」
「ならそこで高見の見物でもしてるんだな」
 その辰馬が斬られたのはそれからしばらく経ってからのことだった。



 日々は瞬く間に過ぎ去っていく。
(ヅラめ)
 銀時は吉原への道をトラックに走らせながら心の中で悪態をついた。
 一緒に見栄を切ったヅラは高杉に取り込まれてしまった。あれのことだから全てを許容して高杉のそばにいる訳ではないのだろう。どっちかというとあの調子で怪電波を垂れ流し、倒幕軍を洗脳しかけているかもしれない。
 しかし倒幕軍が有利になりつつあるのは奴の力も大きいだろう。桂なら高杉の不足を補える。実際桂や高杉、他の攘夷志士の指名手配が撤回されたのは桂の手腕だろうという話だ。
 その上幕府はなくなってしまった。
 大政奉還だ。
 どうやらこちらを主導したのは桂ではないようだが。将軍お膝元の大江戸には、土州ものの仕業だとかいう噂が流れてきていた。ということは辰馬の息がかかっているということで、銀時にしてみれば昔の仲間がくんずほぐれつ訳の分からないことになっているなとしか言いようがない。
 その辰馬は京で襲撃を受けたとか。
 これだから戦争は、と銀時は思う。
 辰馬が死んだとは聞かないから、多分生きているだろうあいつ前も生き延びたし、しぶといからと辰馬の悪運を信じながらも、銀時はもやもやと思う。
 桂も高杉も死ぬかもしれない、と。
(いや、しなねぇか)
 あいつらももう何遍も暗殺と粛正の危険をくぐり抜けてきていた。しぶとさで言ったら、辰馬と変わらないだろう。
 それに多分、高杉は大江戸を落とすまでは絶対に生き延びるだろう。銀時が殺しにいくまで、きっと待っている。
 そう。
 たとえ幕府がなくなっても、火種はまだくすぶり続けている。大江戸の危険は去ってはいない。それに幕府を倒してそこで終わりではない。
 高杉が壊したいのは世界そのものだからだ。
「ちーっす。万事屋でーっす」
 銀時は愛称大八という名のトラックを止めて、元店の中に声をかけた。なかでは吉原中の炊き出しを行っている車いすの日輪がいた。
「あら銀さん」
 きゅっきゅと一度バックしてターンすると、日輪はいつもの輝くような笑みを浮かべて銀時を迎えた。
「ところざわから野菜仕入れてきたぜ」
 日輪も十人に一人の人間だった。ちなみに月詠も血のつながっていない晴太もそのうちには含まれなかった。そんで例に漏れず、寝込んでいる。
 原因もわからなかったごく初期のうちに、倒れた仲間たちを解放して罹患したのだ。
「ご苦労様。ほんと助かるわー」
 足の悪い私が雪火にかからなくてもねぇ、たいしたことはできないんだけど、と言うけれど日輪がいなかったら今頃無人になっていただろう。
「お代は足りたかしら?」
「そこはそれ、銀さんの話術で値切り倒したからな」
「たのもしいわー。流石吉原の英雄」
 よっと日輪は持ち上げるが、それ、関係なくね? と銀時は返す。
「まあ実際のところは着物やら簪やらが効いたのさ。今じゃ金なんか持っててもおっつかねぇ」
 金ではもう農村分は動かない。値打ちなんかないからだ。物物交換するのが一番良い。高価な着物や簪だって、気を抜けば足下を見られてしまうが何もないよりはましだ。そしてこの吉原には売るほどそうした数寄ものが集まっていた。
「うふふ。商売道具が役に立って良かったわ」
が協力して仲間たちの面倒を見ている。自分たちは命を奪われることはないんだからと。人の役に立てってお天道様が言ってんだよと。他の町内も似たようなものだ。
 それでも、そうやって身を粉にして尽くしても、半分は死んでいく。
「あ。そうだ銀さん。晴太はまだ一度も目を覚まさないけどね、月詠は目を開けたのよ」
 目を開けたからといって楽観はできない。けれども一度も目を覚まさないまま尽きていくものもいる。
 少しずつ少しずつ、目を開けていられる時間がのびていき、一時間を過ぎれば安心だという話だ。これはその第一歩。しかし銀時は野菜を下ろす手を止めていった。
「そっか、良かったな」
「ええ」








大まかな流れでは史実っぽく進んでいきますが違うところも沢山あります。幕軍だけが悪い訳じゃないからね。そりゃそうだ。
にしてもみている方向とか手段とか立ち位置が攘夷の4人はほんとバラバラ。
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