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 天人がやってきて、開国を迫り、幕府は不平等条約を結ばされた。
 それはそれとして、市井の民草は笑って泣いて今まで変わりなく日々の営みを続けていた。なんて強くたくましい。
そんな人々の間に紛れて、大江戸かぶき町に銀時が住み着いてもう何年にもなる。
「こんにちわー。やっとトイレットペーパー買えましたよ」
そうこぼしながら新八が帰ってきた。
「おう、新八。これで安心してケツが拭けるな。良かった良かった」
 近頃大江戸の物価は驚くほど上がるばかりだ。舶来の文物を購入するための金がどんどんと流失の一途を遂げているからだという。右肩上がりの物価上昇。この未曾有のインフレに貧乏人はもうついていけなくなっている。
 その上、雪火病という伝染病が大流行して人心不安に拍車をかけている。
 新八もマスクをして予防に努めていた。
「でもなー、新八。あんま出歩かねーほうがいいぞ。どこでうつるかわかんねーんだから」
 雪が燃えるほどの熱を発する、ということからつけられたこの熱病は元は地球にはないものだった。これもまた舶来のものだ。どっかの天人の風土病らしい。そいつらには特効薬もあってたいしたことのない病気でも、人間には違った。
 天人の特効薬は人間には強すぎるのだ。その上適合しない。
天人の技術は地球人にとっては完全にオーバーテクノロジーで、我がものとするにはまだ何年もかかるそうだ。人間が人間のための薬を作り、人類がこの病を克服するにはまだまだ時間がかかるということだ。
 何のための開国。
 毎日ばたばたと人は死んで行き、残された人々は悲しみと貧困に喘いでいる。
 開国は人を豊かにするのではなかったのか。日々の生活は便利に、全てがよくなるのでは。だが実際には逆へと向かっていた。一体どこで間違ってしまったのだろう。かつて頻繁に感じた既視感が再び銀時を襲い始めていた。
「まあそうなんですけど」
 新八はトイレットペーパーを片付けながら眼鏡をずりあげた。
「大丈夫ですよ。銀さんが坂本さんから薬貰ってくれたじゃないですか」
 本当の初期の段階、まだ体力のあるうちなら天人用の特効薬も効く。ただし代価は非常に高額の上、強い副作用がでる。しかしそれも完全に発症してしまえば効き目はほどんどなく、生存率は五割を切った。
ただの風邪だと思っていた者たちが次々と死んでやっと発覚したのだった。
 そして気づいた時には手の施しようもなく遅く、雪火はそこここに蔓延していた。
「飲まずにすめばそれにこしたことはねぇんだ。買い物なんかは俺や神楽がやるからよ。おまえはあんま、動きまわんなや」
 薬の副作用は何度も長時間に渡る昏睡状態を引き起こす。熱は下がっても、そのまま目覚めなくなる者もいた。だから罹らずにすむならそれにこしたことはないのだ。 神楽は夜兎だ。だからいい。
 そして銀時にはどうやら抗体があるらしい。
 反応検査で分かった事だ。しかし新八は違う。
 抗体を持つ者は十人に一人の確率だった。
 医療機関はそうした人の研究も進めていて、銀時も検査の上、随分血を抜かれた。
 そればかりではない。こんな時局にあって雪火に罹らない人間は貴重で、銀時は万事屋として、不眠不休で働いていた。
 それは主に発病者を隔離病棟へ移したり、死体を片付けて葬式を出してやったり、或いは買い物もできずに閉じこもっている人々への代行サービスであったり様々だったが。
 今はほんの仮眠としてこの事務所に戻ってきていたのだ。一時間ほどは眠れただろうか。神楽はまだ押し入れで落ちている事だろう。
 同じように働く事ができない新八はせめて家の中のことをしようとしてくれているのだ。それは分かる。分かるが、死なれては困る。
 銀時が眠い目でじっと見ていると新八はようやく頷いた。充分気をつけると。
「分かりましたよ」
「おう、悪いな。それより飯でも作ってくれ」
「もちろん」
 そんなこんなで今大江戸は混乱の極だ。
 そして、この不安と混乱、幕府要人暗殺、将軍雪火による病没、新将軍への代替わり、ヤケになった者たちの犯罪の多発、テロの鎮圧などの政情不安が天人と幕府への悪感情となって吹き出そうとしている。天人排斥、それとともに倒幕運動が火を噴くのではないかと、銀時は案じていた。
 しかし、銀時の心配は杞憂には終わらなかった。
 数日後、高杉晋助起つ、の報が入った。

(高杉…!)

 鬼兵隊挙兵。
 戦火は瞬く間に全国に飛び火し、それに呼応して倒幕の諸隊が次々と雪崩を打って結成、武装蜂起した。
 高杉は過激派テロリストの皮膜を脱ぎ捨てて、攘夷戦争の英雄、常勝の戦争屋として再び立ったのだ。
 高杉を危険視していた幕府も当然黙ってはいない。
 新将軍喜喜はすぐさま京都へ赴いた。幕軍が動員され、将軍護衛のため武装警察真撰組もそれに編入されるという。
「マジかよ」
 銀時が屯所へ行った時にはすでにもぬけの殻に近かった。
 戦争なんか、やってる場合か。
 今幕府がしなくてはならないことは雪火の沈静化、それしかないはずなのに。あの野辺送りの火が目に入らないのか。
 警察がいなくなったら誰が大江戸市中を守るのだ。ただでさえ犯罪が激化しているのに。銀時は静まり返った屯所に唖然とした。
 高杉が挙兵するのは分かる。
 ずっとやりたがっていたことだ。
 この雪火の大流行は、高杉にとっては千載一遇の機会に違いない。最後の機会だ。これを逃せば次はない、そう思い定めているに違いない。
(なんてひどい展開だ)
 銀時は目眩を感じる。
 雪火さえなければ。
 そして幕府や、高杉を取り巻く人間が、誰もまともに相手なんかしなければ、あいつの命をかけた喧嘩は独り相撲に終わったはずなのに。
 銀時は残酷にもそう思った。
 しかし現実は希望とはかけ離れていた。
 世の中には思った以上にバカが多い。幕府然り。江戸を空にした真撰組然り。高杉というカリスマに煽動される者然り。
「旦那」
「沖田君、お前のこってたのか」
「この体じゃねぇ」
 完全にもぬけの殻、ではなかったのは沖田がいたからだった。
 沖田は縁側に面した一室で横たわっていた。障子は開け放たれていたので、銀時がいるのが分かったのだろう。薄い、透明な幕の中に布団をしかれて、沖田はこちらを見ていた。
 空気感染を遮断させる幕。沖田は雪火病に罹患していたのだ。
「お前、」
「こんな時に情けねぇ。薬のせいで体が動きやせんのさぁ」
 それだけ言うと、沖田はすうっと意識を失った。
 もう何度も見た副作用だ。
 服用した者は何度も長時間の昏睡状態に陥る。日に二三度目を覚ますが、そのまま死ぬ者も多い。生存率は五割を切る。
 その五割に、沖田は入れるのか?
 どうして、こんなことに。

3







銀ちゃん編。明治まで突っ走ります。
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