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 父親の方針で古武術の道場に通うようになったのは小4の時だった。
それまで高杉は勉強で困ったこともないし、運動も得意なほうでその上健康そのものだった。
 そんな高杉に、電車で通わせてまで何でまたスポーツと言うにはマイナーな剣術道場へ入れたのか当時の高杉にはまるでわからなかった。
 分からないなり、放課後にそこへ通うのは楽しかった。
 そう、楽しかった。
 学校の知り合いなど誰もいなかったけれどまるで気にならず、喜び勇んで駆け込んだものだ。
 そこには松陽がいた。
 高杉のものか、銀時のものか、それともその両方のせいかなのか判然としなかったが松陽を求める心が彼をこの世界に存在させていた。
そのころにはほんの少しの記憶もなかったのに、本能に刷り込まれているかのように 高杉は素直に松陽を慕い、そこで銀時にも会った。
 銀時は松陽の近所に住んでいる悪たれ、という感じ。道場には同じ小学校に通う桂が通っていたのでその流れで顔を出しているようだった。
「なんか見た瞬間にがつんと来たんだよね。萌え的な? お前の袴姿、可愛かったもんねぇ?」
 と後に銀時は変態くさい事を語った。
 銀時自身は道場に入門したりはしなかった。兄が剣道を嗜んでいたので、似たような武術をすることを忌避していたようだった。
 そのくせ熱心に顔を見せた。
「いや、おれはね、先生の茶のみ友達であって剣術とかはど~でもいいのよ」
 などと嘯く小学生だ。高杉にとってはずっとむかつく奴であるはずだった。まさか同じ高校に通うようになり、付き合うようになるなんて思いもよらないことだった。
 全てを思い出してみればあまりにも馬鹿馬鹿しい。自分はどれだけおろかなのだろう。同じ地点から少しも動けていない。
 結局繰り返しているだけだった。
(どこまでおれは、おれたちはダミーでスペアでコピーなんだ)
 父親が何処まで何を把握していたのかはもう確かめようのないことだが、高杉は道場に通うべきではなかったし、松陽にであってはいけなかった。
 松陽はまるで生贄のように殺された。どこかで別の高杉を失って正気に戻った銀時に。
 それは稽古の最中で、高杉は真剣を持っていたにもかかわらず対抗することもできなかった。松陽は心臓を一突きにされ、片目を斬られて動けない高杉をかばって、一緒に道場に来ていた銀時が腕と背中と肩口をやられた。
「先生! 銀時! ああああああああああああ!」
 竹刀からはじめ、木刀、それから真剣と段階を踏んで腕を上げ、免許まで受けて置きながら、高杉はようやくそこで反撃することができた。
 それ以来ずっと高杉は目覚めても覚めない悪夢の中を漂っている。



 昼間寝すぎたためか睡眠は浅く、明け方近くに就寝したというのに早々と目が覚めてしまった。うっそりと片目を開ければ、左向きに寝ていた自分に向かい合うように抱きつく金時の寝息が首元にあたっていた。
(近ぇ)
 付け込むなって言われたから、送るだけ。何もしない、何もしないからとか言っていたが、結局上がりこんで泊まっている。確かに何もされていないが、布団が狭い。
 いい加減払いのけたかったが、体に力が入らない。高杉は小さく息をつく。
 昨日誕生日だったの、おめでとうって言って、とねだられたのだがどうしても言うことができなかった。これはその代わりらしい。
(どうせいっつも無断で入り込んで勝手に寝て行くくせに。アホか)
 そんな風に思うのに、どうしても言えなかった。さっさと望む言葉を言ってやって追い出せばよかったのに。
 それでも、どうやっても十月十日に生まれたことをめでたいなどと思えなかった。十月十日生まれの白もじゃはいずれ斬ることになっている。金時は金もじゃだが、だからって免れるわけじゃない。
 ただ、金時を斬るのは高杉の仕事にはならないだろう。
 高杉は自分の体に回された金時の左腕に残る傷跡にそっと触れた。
 警戒心の強い高杉は本当は他人と一緒に眠ったりなんてできない。従弟や叔父は別だろうが。あれらは他人と言うよりは鏡のようなものだ。
 例外があるとしたら、それは銀時だった。しかし今、高杉は銀時たちと命を奪い合う立場だった。坂田銀時の因子を持っているからといってそうやすやすと寝床にまでいれたりはしない。
 多分。
 この世界にたくさん散らばっている銀時たちの中で何故金時だけに許しているかといえばこの傷あとのせいだろう。左手の傷は骨まで達し、斬られた神経を繋ぐのは難しく、そのせいで小指と薬指は少し動かすのがぎこちないようだった。
 金時にはあと、二箇所、大きな傷がある。背中と、肩口に。
 初めて金時の裸を見たときには唖然としたものだ。
 振り切って逃げた鬼に捕まった気分だった。
 そう。見て見ぬ振りをしているが高杉はとうに気付いている。金時は高杉の銀時だった。
(誕生日も一緒だし…。もう二度とあわねぇと決めていたのにな)
 そのために、それなりの対策もした。ぎゅ、と引き絞られるような心臓を掌で押さえながら、初見でちゃんと確認もしていた。
 お前の髪は本物か? と。
 もちろん、純正金髪和製ホストだもんと金時は答えた。嘘ではなかった。
多分高杉は聞き方を間違えたのだろう。
 まさか生えてくる髪そのものの色が変わってしまっていたとは思わずに。
 だがそれは言い訳だ。
 情報を重んじる高杉らしからぬ失態だ。病院に担ぎ込まれた後の銀時についてきちんと確認していれば済むことだった。
 直後の錯乱していた時期はともかく、曲がりなりにも社会と折り合いをつけてからはいつでもできたことなのに。
 しかし高杉は銀時を見たくなかった。
 銀時を目にして正気を保てる自信がなかった。敵と認識して斬り掛かってしまうかもしれない。心神喪失状態に陥って無我夢中であれを迎撃した日のように。
 実際何回かそういうことがあった。あの顔にはオートで攻撃してしまう。
 銀八だけじゃない。実はあの弁護士にもやったことがあった。彼はまだ何も知らないのに。事なきを得たのは傍に叔父がいたからだった。
 叔父は体は虚弱なのに職業柄か、それとも記憶のせいかそれなりに刀の扱いには精通していた。流石高杉晋助の影の一人というべきだろうか?
 その後はもっと悲惨だった。目の傷が焼けるようにうずいてフラッシュバックが起きる。今と昔とあちらとの境目がなくなる。混じりあう。自分がなくなる。区別がつかなくなる。壊れる。気が狂う。
 きっとその方が楽になる。だが自分は中途半端にいつまでも残っていて、それが苦しい。
 医者によればPTSDだという。
 そんな訳あるか。
 PTSD?
 何のトラウマだ。
 松陽を奪われたのはこれが初めてではない。
 銀時と殺しあう事だって。
 命を狙いあうことには前の世界から慣れきってしまっている。
 血の色も匂いも生々しく肉を断つ音だって何度も何度も経験した。
 松陽と銀時と片目を失った傷みのせいなんかじゃない。高杉晋助という亡霊の記憶が高杉に取り憑いたせいだ。しかしそれならどうしてこんなに苦痛が伴うのだろう。
 自分の過去を取り戻すだけなのに。どうして今の自分が消えて行くような気がするのか。
「おれはダミーでスペアでコピーなんだろう!?」
 もがき苦しむ高杉に同じ顔をした叔父は言ったものだ。
「本当に?」
 心からそう思っているのかと問うた。
「納得できてたらそうはならねぇ。あいつは一人でああなったわけじゃねぇし、俺たちは尚更だ。俺らはあいつらの願望なんだから」
 もっと別のとき別の場所で生まれていたら、別の生き方ができただろうか、そうした迷いを映しとった影なのだと言った。
「俺たちは似て非なるもの。俺とお前が少しだけ違うように、決して本物にはならねぇ」
 本物のように、派手な着物に煙管を銜えた彼でもそう言った。ではその格好はなんなのか?
 それは叔父の覚悟の証だ。こんなくだらない茶番はとっとと終わらせるに限るという抗戦の合図だった。
 俺は覚えている。欠片はここだ。いつでも命を取りにくればいい。
 派手な囮だ。
 完全に納得する事は出来なかったが、それはいいと思った。
 だから、高杉も以前の銀時のような格好を選んだ。あいつらが思い出していれば、分かる。
 どうせ壊れるのならとことんやっている。地面に踞ってのたうち回って、血反吐を吐いて。それでもこのまま呻いたままではいられない。
 自分が狂うか、この狂った世界が終わるのが先か。高杉は刀を握り続ける。



 金時を始めて見た日、高杉はやはりぶっ壊れた。ただ簡単に金時が高杉に殺されなかっただけだ。
 凌げるだけ凌いだ金時に坂田銀時ではない既視感を感じて、高杉は失神した。咄嗟に自己防衛のために精神をシャットアウトしたのだ。お陰で金時に万事屋まで送られる羽目となって今に至る。
 一定以上金時に寄られると全てがどうでもよくなる。抵抗できない。口付けもそれ以上も、こうして大人しく腕の中で寝ているように。
 高杉は金時を振り切ることができないのだ。進入を、侵食を許してしまう。
(俺はおかしい)
 高杉晋助のダミーでスペアでコピーだと認めてないなら、どうして金時は受け入れられる?
 銀時だと気付いた時点で晋助をおいて、失踪することもできたのに、高杉はとうとうそれをしなかった。
(業が深ぇ)
 どんなに否定してみても、結果を見れば明らかだ。愛着がないといえばうそになる。
(質の悪い夢だ)
 胸が悪くなるほど甘く苦しい。
 高杉が生きている限り、金時が覚醒することはない。そのときが来ない限り、坂田銀時の欠片は取り出せないし、金時が晋助たちを殺し始めることもない。
 金時を殺すのが自分でないならつい、いいかと思ってしまう。このままこうして、いてもいいかと。気の迷いだ。それでいいはずがないのに。
(何度もお前を殺して、お前に殺されているのに、懲りるってことをしらねぇ。おれは馬鹿だ)
 愚かで、臆病な、ただの道化。
 この腕を放さなければ、そう思うにできない。眠る金時の体温がじわじわとそこから、高杉に移るのを感じながら、高杉はため息のように呼んだ。
「銀時…」
 それは本当に小さなささやきで、誰の耳にも届かないような声だったのに、ぱちり、と金時は目をあけた。
「なに? 高杉」
 息が止まるかと思った。
「やっぱり、高杉だったんだな」
「き、」
「逃げないで。やっと会えた、晋助」
 落される口づけに失態を悟る。
 撥ね除けて、何か言わなければと思うのに、口を塞がれた。動けない。
キスをしながら金時の右手が頭の下へ入り込んで、包帯の上の髪をゆっくりと撫でた。
 真綿に包まれるように金時が重なり、絡んできて、この上もなく優しくされて…。
「生きてた。良かった」
 そういわれながら愛されて、高杉はとうとう最後まで金時を振りほどけなかった。




  




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