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猫じゃらしと、なんか猫的なえさと携帯とで武装して、黒にゃんこにじりじり迫っていた坂田弁護士は愛しのあの人の出現にぼとぼとと獲物を取り落としながらあっという間に高杉との距離をつめた。
「神様がお願いを叶えてくれたんでしょうか。それにしたってもう一日早めてくれればいいものを」
その上相変わらずわけの分からないことを真顔でぶつぶつ呟いていて、高杉は一、二歩後ざすらないわけには行かなかった。
普通に近寄りたくない。何で見つかったんだろう。こいつは背中に目でもつけてるのだろうか。
しかしやはりいつも通り両腕であっさりと拘束された。どうして取りあえず拘束から入るのか。
「お帰りなさい。いつの間に日本へ?」
にこやかに問い詰める弁護士にあ~、また面倒なのに捕まった。空港にいないから安心してたのに、と重いため息をつきながら、高杉は背後のにゃんこを指差した。
「お前、あれはいいのか?」
今までツンの限りを尽くしていた黒にゃんこはそのままだが、何処からか現れたらのか、白にゃんこが弁護士の落とした焼きささみホタテ味をさっと奪った。
甥がよく写メってくる白ではないか。
「あっこら、それは晋ちゃんの!」
と弁護士が叫ぶ。
白は自分からだぜぇ、というように猫の晋ちゃんの足元へ焼きささみを置いた。
その上、にゃーにゃー、鳴きながら晋ちゃんの顔を舐めまわした。まあ、勿論ツン全開の晋ちゃんなので、それにもべしっと猫パンチをお見舞いしていたが。
「あなたにそっくりなので、晋ちゃんです。今わたしの一押しにゃんこですっていうか、このぶさ猫ぉぉぉ! なに晋ちゃんの上にのっかってんですかぁぁぁ!」
しっしっ、と白を追い払いに行った銀時は、全く油断もすきもない、と拘束を解いた高杉を振り返った。
白を追いかけていった隙にいなくなったかと焦ったが、高杉は相変わらずそこにいた。
窮地を脱した晋ちゃんに足元をすりすりされながら。
「うわ~、あなた猫フェロモンもあるんですか?」
「も、ってなんだよ?」
「すぐに色んなの引っ掛けてくるじゃないですか」
高杉は、晋ちゃんをべろーんと抱き上げて、懐に入れると思う存分撫で回した。晋ちゃんも晋ちゃんで、ごろごろ喉を鳴らす。
うわ~うわ~、晋ちゃんつれな~い、ひど~い、でも超可愛いー2ショットーとか言いながら坂田弁護士は携帯を拾い上げてぱしゃりと撮った。
色んなものを引っ掛けたつもりは高杉にはまるでないが、その最たるものはこの弁護士だよなぁと思う。できれば引っ掛けたくなかった。心の平安のために。
「ところで、晋助さん。忘れてると思いますが昨日はわたしの誕生日だったので、ぜひあなたをいただきたい」
高杉は眉を顰める。
「なんですかぁ? そんなに嫌そうな顔しなくてもいいでしょ? いきつくところまでいってる二人なのに」
何処にだよ? と反論すると滔々と聞きたくもない事を聞かされるはめになるので、高杉は端的に断るだけにしておいた。
「十月十日生まれの白もじゃの言うことは聞くなって家訓があってな」
「理屈にあいませんね。高杉君は銀八の言いなりじゃないですか」
それ聞いたら晋助は怒るんじゃねーのと高杉は思う。実は高杉家の中で一番怖いのはあの子供なのだ。
(銀八のことだってなんだかんだ尻にしいてるみたいだしな)
「別に甘いもんなんかいらねぇ」
「甘くしない。甘くしないから!」
と言いながら作ったのはハート型で焼いたチーズスフレだった。何故こんなファンシーなものが銀八の家に、と思ったら、去年のバレンタインデーにビターに大人なフォンダンショコラを焼いたのだそうだ。
「ちまちまつつく高杉が超ラブかった」
銀八のくせにラブラブでほんとムカツクわと思ったが、クリーム色のハートのスフレをつつく晋ちゃんがみたかったので、遠慮なく使わせてもらった。
もちろん銀八と金時の分は砂糖増量。
そして砂糖減量したにも関わらず、晋ちゃんと高杉君は一様に眉を顰めて
「「甘ぇ」」
といって、ちまちまとスフレをつついてくれたのだった。
いまだかつてないほどラブかった。
「かーわーいーいー」
「あ~、今日は一際雑音がうるせーな」
「ひど! おれの美声を雑音て!」
「じゃあ騒音」
そういいながらにやりと笑った晋ちゃんに金時は見蕩れた。
金時が晋ちゃんに出会ったのはホストをするようになってからだったが、それよりももっと前から、金時は晋ちゃんと同じ顔が好きだった
初恋の人の名前は高杉晋助。生きていれば二十四歳。晋ちゃんたちに生き写しだった。高杉君と同じ苗字なので、親戚か何かかもしれない。
晋ちゃんの年は明かしてもらっていないが、ドッペルゲンガーのようにそっくりな三人の中では晋ちゃんが一番近いだろう。もう少しで金時は晋ちゃんを高杉と呼ぶところだった。思いとどまったのはやはりどこか、金時の知る高杉とは違うように思えたからだ。
(それにしても似すぎてた。他人とは思えないくれぇ。晋ちゃんも高杉って名字かもしれねーし)
だが、金時は晋ちゃんに、晋ちゃんはおれの高杉だろ? とはまだ聞けていない。晋ちゃんは自分のプライベートは完全にシャットアウトしていて、金時はどうしても確信をもてないのだった。
(せめて高校とか分かればいいんだけどなぁ)
高杉とは同じ高校に通っていた。いわゆる同級生という奴だ。それだって頑張って頑張って勉強した結果であって、授業は寝ているのがデフォルトの金時が、一念発起して頑張らなければ高杉と同じ学校へ通うことはなかっただろう。
高杉は息を吸うくらい簡単に勉強ができた上、小学校も中学校も校区が違ったのだった。
(結局クラスメートにはなれずじまいだったけどさぁ)
それでも金時は充分うれしかったし、高杉と過ごすスクールライフを楽しんだ。青春というのはこうでなくては、というくらいバカやって、悪さして、過剰なスキンシップをしては怒られて、告ってキスして、それなりに、恋人っぽいこともして、幸せだった。
金時は高杉を大事にしたし、高杉だって金時に呆れながらも愛されてるなーと感じなくもなかった。
高杉が大学に通うようになった後もそれは続いた。高杉の部屋からバイト先へ出かけ、高杉の部屋に帰る、そんな新婚の真似事のような生活だってしていたのだ。
仮にも恋人だったなら、酷似しているからって本人かどうかわかりそうなものだ。高杉とは余さず仲良くしていたわけだし。でも金時には分からない。体の特徴や何気ない仕草は晋ちゃんがおれの高杉絶対、と思うのに、晋ちゃんは高杉とは変わってみえた。
荒んだ目の色。
傷だらけの体。
物騒な微笑み。
漂う夜の気配。
染み付いた血。
その全てが高杉にはなかったものだ。けれどもそれが万事屋晋ちゃんの魅力で、金時はそんな晋ちゃんにぐいぐい惹かれている。
高杉の影ばかりを追っているわけではない。だけど、高杉を求める気持ちがなければこんなに晋ちゃんに入れ込んだだろうか、そうとも思う。
(晋ちゃんがおれの高杉ならいいのに)
結局金時は高杉を守れなかったことを突きつけられるのが怖いだけなのかもしれない。
ある日突然刀を持った白い影に金時と高杉、高杉の先生は斬られた。高杉の先生は即死。二人は意識不明の重体で別々の病院に運ばれた。高杉とはそれきりだ。
金時が退院するころにも高杉のアパートは厚い埃が被ったままだった。いつまでも。勿論病院には行った。しかし、金時でさえ最初に担ぎ込まれた病院からリハビリを含めて三回も転院していたのだ。高杉もまた病院が変わっていた。
刑事事件に巻き込まれた高杉の転院先は厳重に伏せられていた。同じ被害者なんだから教えてくれてもいいはずだ。けれども病院も警察も高杉の行方について、金時に明かしてはくれなかった。大学にも高杉はいなくて、金時は最悪を考えずにはいられなかった。
高杉は死んでいて、金時にそれを隠しているのでは。
そして高杉が帰らぬまま、とうとうアパートも整理されてしまった。
人は変わる。
そう思い込むことによって、高杉生存の一縷の望みを晋ちゃんにかけているだけかもしれない。
金時だって変わったのだ。有り得ないことではない。
元々銀髪だった金時は半死半生の怪我を負って入院したころ、何故か金髪になってしまった。
非常なストレスに晒されると一夜にして髪が白髪になるという話は聞いたことがあるが、金髪になるというのはどういう魔法が働いた結果だろうか。医者にもだいぶ不思議がられた。
お陰でオカマに転身していたクラスメートのおヅラにも未だに気付いてもらえない。
誰も思いもつかないだろう。あの高杉のけつを追っかける以外なんのやる気もない銀時がいまやかぶき町ナンバーワンホストの金ちゃんだなんて。
(でもさ~、俺だってあのヅラがオカマになってるなんて思わねーじゃん。思いきりホスト名で名乗ったわ)
ちなみにホスト名は神楽が決めた。
金髪なのに銀時なんておかしいネ、金時にするアル、だった。人のアイデンティティをなんだと思ってんだと思わないでもなかった。
だけどももう、そのこだわりも今はあまり感じない。身内に坂田銀時がもう一人いるせいかもしれない。兄の銀八も最近は金時としか呼ばなくなっている。
あっちの銀時なんてもう弁護士であることをいいことに、戸籍も変えたらどうです? とか薦めて来る始末だ。近所に同姓同名がいると、名前を変えることもできるとか言って。
おめー、近所にイネーだろと断ったが。
(だってさ、もう一度銀時って呼ばれてぇじゃん)
晋ちゃんが銀時と、呼んだら、晋ちゃんはおれの高杉。そんな風に思いながら金時は待っていた。
待っていたのだ。
本人にはっきり聞けないのはやっぱり怖かったからだろう。
晋ちゃんがもしも高杉でなかったら。
銀時は高杉を失い、金時は晋ちゃんへの愛を試される。
(双子とか? かもしれねーし。…そこいくとほんと、銀八は幸せそうでムカつくわ)
スフレを食い終わってまたゲームを再開した高杉君にさっき晋ちゃんがしていたような格好をしようと迫る銀八に金時はいらっとする。
ここはわざとらしくはいはい、いちゃいちゃしな~いと割って入るべきだろうか。それとも殴られるのを前提に負けずに晋ちゃんにくっつくべきか。
「っとそろそろ帰るか」
何気なく時計に目を流した晋ちゃんがそういった。
「泊まってかねぇの?」
「ん。あいつもきてるみたいだし、猫にイチゴ牛乳やんねーと」
「あのぶさ猫か」
「ああ。近いうちにまた飯に行くから、何食うか考えとけよ」
「分かった」
「あ、晋ちゃん送るよ~。おれ車できたから」
と言って一緒に晋ちゃんと出ようとした金時は、高杉君に片目でぎろりと睨まれた、様な気がした。
「んん?」
「あんまりあいつに付け込むなよ」
(おっと~)
ぴちぴちの十八歳、銀八の高校生妻に牽制、されたようだ。
ちっちゃくてもいっちょまえに傷だらけ、包帯だらけ、破滅型奔放極まりない晋ちゃんを案じているのだろう。
ここで晋ちゃんのお気に入りを敵に回すのは得策ではない。金時はこくこく、と頷いた。
晋ちゃんに似た貫くような真っ直ぐな目に多少の後ろめたさを感じたからかもしれない。
いろいろなことを秘密にして、金時は晋ちゃんと幸せになれるんだろうか。
誰がどの高杉とか書いてる方ももうわけわからん。きっと読んでる方はそれ以上でしょう。お願い、ついてきて〜。続きは晋ちゃん視点かな。