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 何遍も繰り返し、銀時でさえ暗記できたのではと思うほどの時間が経って、銀時は顔を上げ、はっと息をのんだ。
「高杉、おまえ」
 寂々とした沈黙の中で急に声をかけたせいか、それまできっ、と唇を噛み締めて前方に目を凝らしていた高杉が二度、三度と瞬きをする。
「銀時…?」
 反応を返したことに少し安堵した。けれども高杉は自分が声も上げずに泣いていたことには気付いていなかったようだ。
 表情もなく、青ざめて、高杉はまるで力を失った人形のように見えた。頬を伝う涙だけが生きている証。そんな風に見るからに悄然としていたのだ。
 いつもいつも弾けるような生の躍動とともに無茶をやらかしていた高杉が。いい知れない不安に突き動かされて、銀時は高杉の顔を手ぬぐい乱暴にぬぐった。
「な、なにすんだ」
 高杉は嫌がって手で防御する。
(調子が出てきたな)
 まあ、元から銀時の手ぬぐいにちゃんと洗ってるのかどうかとおぼっちゃまらしく懐疑的だったのだ。それが多分功を奏した。
「なにって、目から水がでてたからさ」
「水ってそんなわけ!」
 高杉はそう言うが、目から水を溢れさせていたのは事実だ。手ぬぐいに触ってみればちゃんと濡れているし、事実、高杉の涙を吸って着物も濡れている。それに高杉も気がついて、かっと顔を紅潮させた。
「あれ? それとも泣いちゃってた?」
 意地悪くからかえば、高杉は銀時を睨みつけた。そうだ。高杉はこうでなくてはと銀時は思う。
 そのまま、高杉はべちんと銀時を殴るつもりか、手を挙げた。
「!」
 だが、衝撃は来ず、その白い手は銀時の髪の中に突っ込まれただけだった。
「何してんの」
 さわさわと高杉はその手を動かす。普段は天パと罵る銀時のふわ毛をただ触りたいだけなのか、それともこれで撫でているつもりなのかはわからなかったが、久しぶりの接触は気分が安らぐ。
「うるせー。そういうお前こそ人の心配ばっかしてねぇでちゃんと出せ」
 何を?
 水?
 涙?
 高杉は自分が泣いてたことを認めずに遠回しにそういった。なんだかカツアゲされてるみたいだ。
 銀時は思わずぶひゃっと吹き出し、それから。
 それから自分よりも小さな高杉の体を抱きしめるために、飛びついた。高杉は銀時の体重をささえきれずにばたっと、畳に転がる。
 それでも銀時は高杉を離しはしなかった。
 高杉の涙みたいにきれいなものではなくてきっとみっともない顔をしてる。ぐちゃぐちゃになった顔を見られるのは格好わるくて、情けなくて、ぎゅうぎゅう抱きしめたまま高杉の肩に顔を埋めた。
 高杉は畳に叩き付けられても文句を言わなかった。
「銀時、」
「うん」
「俺は先生を殺した奴らを許さない。この仇は必ずとる」
 高杉もまた銀時をぎゅっと抱きながら、ただそういった。
 それからしばらく、そのまま二人それぞれ、松陽のことを憶った。



 それは寒い日のことで、身を寄せ合った二人の息が白かったことを覚えてる。閉め切られた村塾で、火鉢の火がぼんやりと明るかったこと。
 外ではいつの間にか雪が降って、辺り一面を真っ白にして、あれから銀時につられたのかまた少し泣いた高杉が苦笑した。
 高杉はそれを理由にそのまま村塾に泊まっていった。帰ってきたばかりでそれじゃあ、家族に恨まれるぞと思ったけれど、銀時も高杉を無理に帰してやることはできなかった。
 もう少し、お互い傍にいたかった。
 失われたものの空白があまりにも大きく、堪え難かったので。

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