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目を開けると暗かった。まだ夜だ。しかし、いつの夜だろう。眠ってからどれくらい経っているのか、高杉には分からなかった。
そういえば、今がいつかも知らなかった。
八重桜が終わろうという頃だとしか。
「…?」
起きていられる時間は短い。例え真夜中だろうが、目覚めたら、できるだけ体を動かさなければならない。でなければ四肢が萎えてしまう。
(それから何だったか、)
高杉は病人心得を思い出す。
水分を多くとり、通常の食事をし、体を清潔に。
(そういや風呂入ってねぇ)
そう思って身を起こそうとした高杉は、体が重くてほとんど動かせない事に気付く。そしてその原因にも。
別に術後が思わしくないとかそんな話ではなく、同じ布団に銀時が抱きついて寝ていたのだ。
高杉は片腕を銀時の拘束から抜き放つと、叶う限り痛みを与えられる角度でべしっと叩いた。
「、でっ」
しかしそれくらいでは寝穢い銀時は起きなかった。ので、高杉はべしっべしっと何度かそれを繰り返さなければならなかった。
「痛い痛い痛い! 晋ちゃん、痛ぇって!」
高杉の攻撃を避けようとしてやっと銀時の拘束が外れる。高杉は身を起こしながら言った。
「痛くしてんだよ! いい加減離しやがれ! 大体てめーなんで人の布団の中にいんだ?」
「新婚だから」
イラッとする。
何でもかんでも新婚でまかり通ると思ってるのか。それに新婚じゃなくなったら布団は別なのか、とかいろいろ思ったが、取りあえず言いはしなかった。
やっぱり一緒に寝ていいんじゃん、ということになりかねない。沈黙は金だ。
だから高杉は握った拳の、間接の出たところで銀時をばかりと殴った。
いつもいらないことには雄弁な銀時は高杉の抗議にべらべらと反論を始める。
「ケチ。だって、こんなに大きいんだぜ? 夫婦布団なみに広いんだから使わなきゃ勿体ないじゃねーか。常に寄り添いたい俺の気持ちを分かれよ。つーか、高杉よぉ。これで誰かと寝てたんじゃねぇよな」
銀時は高杉の羽布団が何故大きいのか、とそこの所が気になるらしい。自分が潜り込むのはいいが他人が潜り込むのは駄目なのだ。相変わらず了見が狭い。懐は割と広いのに。
「ああ?」
「ホントに一人で使ってた? なんか銀さん横に寝たらするっとこうすり寄ってきて鼻血でそうだったんですけど。可愛くて。まさか他のとそんなことしてないよね?」
面倒くせぇ。
高杉は起こした半身が脱力するのを止められなかった。
「ちょっと何黙ってんの! そこはすぐに否定するとこじゃないの! 銀さん泣いちゃうよ!? 高杉?」
ああもう心底めんどくさい。
否定するのも面倒いし、といって肯定して嘘をつく気力もそがれて高杉はぼすっと起こしていた体を横たえる。「疲れた」
こんなんで風呂までたどり着けるのだろうか。と思いながら高杉は目を閉じながら言うと銀時が慌てた気配がする。
布団の上に座り直して、高杉の首の下に手を入れると自分の膝の上に乗せて、高杉を覗き込む。
「どこか痛ぇのか? 具合悪い? 熱は…ねぇな。つかつめてぇ」
手を握りながら額をくっつけて熱を測った。高杉はもう何度目になるか分からない拳でぼすっと銀時のテンパ頭を突いた。
「疲れただけだっつっただろ。んな顔すんな」
疲れた、と聞いただけでいちいちこんな反応をされては思った事も言えなくなる。
「高杉手が冷てぇ」
だから、熱はない。雪火のウィルスも死滅したはずだ。だから高杉は新八も出入りする万事屋に引き取られたのだ。
「ああ」
銀時の手が温かい。それは元の体温に戻ったという事だ。雪火の最中は銀時の手は冷たくて気持ちがよかった。今はやはり温かくて安心する。
「本当に平気なのか? 我慢してねぇ?」
「してねぇ。怠ぃし、眠ぃけど、そりゃいつもそうだしな」
「眠ぃんだ?」
「そういう薬だろ」
副作用で脳の一部が麻痺して正常に働かない。脳は常に眠れと言うサインを出し続けている。
「でも今覚醒期じゃねぇの」
「覚醒期でも眠いんだよ。いつだって眠れるくらいにはな。副作用で死ぬのは、目ぇ開けたくないからかもしれねぇな」
「起きたくないってか?」
「見る夢が、悪夢なら良かったのにな」
そしたらほとんどの者は飛び起きただろう。しかし生存率は五分五分だった。
「ふーん。違うんだ? いい夢?」
「ああ、多分な」
昔の夢。
高杉が狂おしく恋うた者たちは残らずその夢の中にいる。だけどそこには銀時はいなかった。
高杉が目を覚ます度、高杉を失わずに済んだ事を喜んでいた銀時は。
高杉が死んだらどうなるのだろう。想像したら苦しくなって、銀時をおいては逝けないと強く思ったから、高杉は目を開ける事ができているのだと思う。高杉が手を離しても、今まで通り銀時は銀時なりに生きて行けるとは分かっていても。
高杉にとっての銀時のような、そういう存在がいない者が死ぬのだろう。この世に何の未練も無く、希望も持たず、執着する者もいない人々は、簡単に自分に優しい夢に絡み取られ、永遠の眠りにつく。
「痛い! 痛い痛い何すんの! 禿げる! 男の髪は繊細なの! 暴力反対!」
黙った銀時に高杉は繋がれなかった左手を挙げて、銀髪をひっぱった。
「表情がねぇぞ銀時。てめぇがそういう顔してる時ってのはどうせ禄でもねぇ事考えてんだよ」
「別に。先生元気? って思っただけだもーん。やきもちじゃないから。まだ完全に 先生にとられたわけじゃないから! 高杉は俺の!」
やっぱ焼いてんじゃねぇか。ほんとくだらねぇ。
「信じる信じないはてめぇの勝手だがなぁ、銀時」
「うん」
高杉は引っ張っていた銀髪をそっと離すと、ついでのようにその手を銀時の首に絡めた。
「俺の男はてめぇ一人だ」
少しだけ頭を持ち上げて高杉はたぐり寄せた銀時の口を吸った。
高杉、とたくさん名前を呼ばれた。いいながら、銀時は高杉の顔一面余す所無く口づける。
「晋、晋ちゃん、好き」
そんな事は知っている。分かっていないのは銀時の方だろう。ただそれは高杉が伝えていなかったのが悪いのかもしれない。そう思うようにもなっていた。
始終言われていた高杉だって、半ばなかったことにしていた。すれ違いは、会わなかった年月の分だけおこったわけではなかった。
隔たっていたのは、互いの心が見えずにいたからだ。
そういう意味では高杉は未だ銀時にちゃんといってない。言わなくても分かれと幼なじみの間柄にあぐらを掻いている。始めた逢った日から、もう二十年にもなろうとしているのに。
毎日飽きるほど共に過ごした子供時分でもない。言わなくても伝わるほどの時間は薄くなってしまった。これから、また銀時と過ごす時間が増えるにしても、二人は言葉にしなければ伝わらない、大人になってしまったのだ。
子供でもなく、大人にもなりきれず、若い頃にはそんなことも分からなかった。
「…っ、」
そんなふうに思いながら、高杉は、気持ちいいので銀時のしたいようにさせていた。
首筋にまで顔を埋めて、吸い付かれるまで。
「そこまでにしろ」
高杉はわずかに身をよじって、銀時のジンベエの襟を引っ張って、銀時を引き離そうとした。
「ん〜、もうちっと。つーかしたい」
「無茶言うな」
「分かってるって。だから早く治せよ。いつまで経っても初夜ができねぇ」
初夜とか言うな、あほめ。処女を抱くわけでもあるまいし、間が空いた事は否めないが、それでも飽きるほどしたんじゃないのかよと思わないでもなかったが、銀時のきもちも分かる。
要するにまだ不安なのだ。
高杉の覚醒期はまだ一時間にはまだ遠く、三十分も起きてはいられない。このまま、ずっとここで銀時の望むように高杉が生きて行くと言う確信が無いのだ。
それは高杉にとっても同じ事だったが。
まだ迷ってる。
このままここにいていいのか。
銀時を受けいれて、希望を持たせていいものか。
「ってどこいくの?」
「水と風呂」
そう告げると、さっと銀時がグラスに水をみたして寄越した。
「風呂は銀さんが入れてやったからだいじょーぶ。風邪引かないようにちゃんと髪も乾かした。偉いだろ?」
どおりで髪も体もべたつかないと思った。拭かれているのだとは思ったが。
ほんとうにどうしたものだろう。
こんなに尽くされて。
返すものが高杉には無い。あるにあるが、きっとそれは銀時の欲しいものではないと分かっていた。
銀時はただ、ずっと高杉にここにいてほしいのだ。本当に高杉は銀時にそうしてやる事ができるだろうか。
分からない。
高杉はあまりにも長く戦い続け、今も戦闘は続いている。命の続く限り、そこにいると決めていた。今更翻意もないだろうと思う。この命は銀時にもらったものだとも分かっていたが。そう簡単に、思い切れるものでもなかった。
幕府は倒れた。しかし世界はまだ存続している。
世界の破滅を誰も望んではいない事を知ってはいたが、その夢についてきた者も確かにいるのだ。今も。
「…。何にもしてねぇだろうな?」
「キスしながら、抜かせて貰ったけど」
一体それのどこが偉いのだ。まあ尽くしてもらっているのは疑い用の無い事実なのだが。逡巡した自分がばかみたいだ。
「…。…」
今更裸をみられたからって何とも思わないが、じゃあしなくてもいいだろう。と思った高杉は、銀時の膝枕から無言で降りた。
銀時に使われていた枕を取り戻してその上に頭をのせる。
「もう寝るのか? まだ十分も経ってねぇよ。ほら、銀さんともっと話そうぜ」
「何を?」
「何でも。何かしてほしい事とか足りないものとかあるか?」
「じゃあ俺の刀、床の間に飾っておくんじゃなくて、手の届く所に置いといてくれ」
遠慮なく高杉は注文を付けた。長年の習慣とはいえ、用心にこしたことはない。
「ん」
それから銀時の話も聞いた。大体誰かが、万事屋に詰めている事。でも万事屋の仕事がないわけではない。目覚めて誰もいなくても、風呂は好きに使っていいとか、でも多分夜には勝手に銀時がいれるから、とか。冷蔵庫に飯が用意してあって、困った事が有れば銀の携帯やヅラでもまた子でも呼びつければいいこと、下にも大家やその従業員がいるから心配しなくてもいいとか、そんな話だった。
別に心配などはしていなかったが、うとうとしながら、銀時に髪をすかれ、聞いてはいた。
そこに確かに幸福を感じながら。
入浴初夜遍のつもりで書いたのに入浴も初夜もしてないっつーね。エロ入れようとすると途端に遅くなるよう。
この後、お掃除後退編の次にお誕生日編をやりたい所存。
そういえば、今がいつかも知らなかった。
八重桜が終わろうという頃だとしか。
「…?」
起きていられる時間は短い。例え真夜中だろうが、目覚めたら、できるだけ体を動かさなければならない。でなければ四肢が萎えてしまう。
(それから何だったか、)
高杉は病人心得を思い出す。
水分を多くとり、通常の食事をし、体を清潔に。
(そういや風呂入ってねぇ)
そう思って身を起こそうとした高杉は、体が重くてほとんど動かせない事に気付く。そしてその原因にも。
別に術後が思わしくないとかそんな話ではなく、同じ布団に銀時が抱きついて寝ていたのだ。
高杉は片腕を銀時の拘束から抜き放つと、叶う限り痛みを与えられる角度でべしっと叩いた。
「、でっ」
しかしそれくらいでは寝穢い銀時は起きなかった。ので、高杉はべしっべしっと何度かそれを繰り返さなければならなかった。
「痛い痛い痛い! 晋ちゃん、痛ぇって!」
高杉の攻撃を避けようとしてやっと銀時の拘束が外れる。高杉は身を起こしながら言った。
「痛くしてんだよ! いい加減離しやがれ! 大体てめーなんで人の布団の中にいんだ?」
「新婚だから」
イラッとする。
何でもかんでも新婚でまかり通ると思ってるのか。それに新婚じゃなくなったら布団は別なのか、とかいろいろ思ったが、取りあえず言いはしなかった。
やっぱり一緒に寝ていいんじゃん、ということになりかねない。沈黙は金だ。
だから高杉は握った拳の、間接の出たところで銀時をばかりと殴った。
いつもいらないことには雄弁な銀時は高杉の抗議にべらべらと反論を始める。
「ケチ。だって、こんなに大きいんだぜ? 夫婦布団なみに広いんだから使わなきゃ勿体ないじゃねーか。常に寄り添いたい俺の気持ちを分かれよ。つーか、高杉よぉ。これで誰かと寝てたんじゃねぇよな」
銀時は高杉の羽布団が何故大きいのか、とそこの所が気になるらしい。自分が潜り込むのはいいが他人が潜り込むのは駄目なのだ。相変わらず了見が狭い。懐は割と広いのに。
「ああ?」
「ホントに一人で使ってた? なんか銀さん横に寝たらするっとこうすり寄ってきて鼻血でそうだったんですけど。可愛くて。まさか他のとそんなことしてないよね?」
面倒くせぇ。
高杉は起こした半身が脱力するのを止められなかった。
「ちょっと何黙ってんの! そこはすぐに否定するとこじゃないの! 銀さん泣いちゃうよ!? 高杉?」
ああもう心底めんどくさい。
否定するのも面倒いし、といって肯定して嘘をつく気力もそがれて高杉はぼすっと起こしていた体を横たえる。「疲れた」
こんなんで風呂までたどり着けるのだろうか。と思いながら高杉は目を閉じながら言うと銀時が慌てた気配がする。
布団の上に座り直して、高杉の首の下に手を入れると自分の膝の上に乗せて、高杉を覗き込む。
「どこか痛ぇのか? 具合悪い? 熱は…ねぇな。つかつめてぇ」
手を握りながら額をくっつけて熱を測った。高杉はもう何度目になるか分からない拳でぼすっと銀時のテンパ頭を突いた。
「疲れただけだっつっただろ。んな顔すんな」
疲れた、と聞いただけでいちいちこんな反応をされては思った事も言えなくなる。
「高杉手が冷てぇ」
だから、熱はない。雪火のウィルスも死滅したはずだ。だから高杉は新八も出入りする万事屋に引き取られたのだ。
「ああ」
銀時の手が温かい。それは元の体温に戻ったという事だ。雪火の最中は銀時の手は冷たくて気持ちがよかった。今はやはり温かくて安心する。
「本当に平気なのか? 我慢してねぇ?」
「してねぇ。怠ぃし、眠ぃけど、そりゃいつもそうだしな」
「眠ぃんだ?」
「そういう薬だろ」
副作用で脳の一部が麻痺して正常に働かない。脳は常に眠れと言うサインを出し続けている。
「でも今覚醒期じゃねぇの」
「覚醒期でも眠いんだよ。いつだって眠れるくらいにはな。副作用で死ぬのは、目ぇ開けたくないからかもしれねぇな」
「起きたくないってか?」
「見る夢が、悪夢なら良かったのにな」
そしたらほとんどの者は飛び起きただろう。しかし生存率は五分五分だった。
「ふーん。違うんだ? いい夢?」
「ああ、多分な」
昔の夢。
高杉が狂おしく恋うた者たちは残らずその夢の中にいる。だけどそこには銀時はいなかった。
高杉が目を覚ます度、高杉を失わずに済んだ事を喜んでいた銀時は。
高杉が死んだらどうなるのだろう。想像したら苦しくなって、銀時をおいては逝けないと強く思ったから、高杉は目を開ける事ができているのだと思う。高杉が手を離しても、今まで通り銀時は銀時なりに生きて行けるとは分かっていても。
高杉にとっての銀時のような、そういう存在がいない者が死ぬのだろう。この世に何の未練も無く、希望も持たず、執着する者もいない人々は、簡単に自分に優しい夢に絡み取られ、永遠の眠りにつく。
「痛い! 痛い痛い何すんの! 禿げる! 男の髪は繊細なの! 暴力反対!」
黙った銀時に高杉は繋がれなかった左手を挙げて、銀髪をひっぱった。
「表情がねぇぞ銀時。てめぇがそういう顔してる時ってのはどうせ禄でもねぇ事考えてんだよ」
「別に。先生元気? って思っただけだもーん。やきもちじゃないから。まだ完全に 先生にとられたわけじゃないから! 高杉は俺の!」
やっぱ焼いてんじゃねぇか。ほんとくだらねぇ。
「信じる信じないはてめぇの勝手だがなぁ、銀時」
「うん」
高杉は引っ張っていた銀髪をそっと離すと、ついでのようにその手を銀時の首に絡めた。
「俺の男はてめぇ一人だ」
少しだけ頭を持ち上げて高杉はたぐり寄せた銀時の口を吸った。
高杉、とたくさん名前を呼ばれた。いいながら、銀時は高杉の顔一面余す所無く口づける。
「晋、晋ちゃん、好き」
そんな事は知っている。分かっていないのは銀時の方だろう。ただそれは高杉が伝えていなかったのが悪いのかもしれない。そう思うようにもなっていた。
始終言われていた高杉だって、半ばなかったことにしていた。すれ違いは、会わなかった年月の分だけおこったわけではなかった。
隔たっていたのは、互いの心が見えずにいたからだ。
そういう意味では高杉は未だ銀時にちゃんといってない。言わなくても分かれと幼なじみの間柄にあぐらを掻いている。始めた逢った日から、もう二十年にもなろうとしているのに。
毎日飽きるほど共に過ごした子供時分でもない。言わなくても伝わるほどの時間は薄くなってしまった。これから、また銀時と過ごす時間が増えるにしても、二人は言葉にしなければ伝わらない、大人になってしまったのだ。
子供でもなく、大人にもなりきれず、若い頃にはそんなことも分からなかった。
「…っ、」
そんなふうに思いながら、高杉は、気持ちいいので銀時のしたいようにさせていた。
首筋にまで顔を埋めて、吸い付かれるまで。
「そこまでにしろ」
高杉はわずかに身をよじって、銀時のジンベエの襟を引っ張って、銀時を引き離そうとした。
「ん〜、もうちっと。つーかしたい」
「無茶言うな」
「分かってるって。だから早く治せよ。いつまで経っても初夜ができねぇ」
初夜とか言うな、あほめ。処女を抱くわけでもあるまいし、間が空いた事は否めないが、それでも飽きるほどしたんじゃないのかよと思わないでもなかったが、銀時のきもちも分かる。
要するにまだ不安なのだ。
高杉の覚醒期はまだ一時間にはまだ遠く、三十分も起きてはいられない。このまま、ずっとここで銀時の望むように高杉が生きて行くと言う確信が無いのだ。
それは高杉にとっても同じ事だったが。
まだ迷ってる。
このままここにいていいのか。
銀時を受けいれて、希望を持たせていいものか。
「ってどこいくの?」
「水と風呂」
そう告げると、さっと銀時がグラスに水をみたして寄越した。
「風呂は銀さんが入れてやったからだいじょーぶ。風邪引かないようにちゃんと髪も乾かした。偉いだろ?」
どおりで髪も体もべたつかないと思った。拭かれているのだとは思ったが。
ほんとうにどうしたものだろう。
こんなに尽くされて。
返すものが高杉には無い。あるにあるが、きっとそれは銀時の欲しいものではないと分かっていた。
銀時はただ、ずっと高杉にここにいてほしいのだ。本当に高杉は銀時にそうしてやる事ができるだろうか。
分からない。
高杉はあまりにも長く戦い続け、今も戦闘は続いている。命の続く限り、そこにいると決めていた。今更翻意もないだろうと思う。この命は銀時にもらったものだとも分かっていたが。そう簡単に、思い切れるものでもなかった。
幕府は倒れた。しかし世界はまだ存続している。
世界の破滅を誰も望んではいない事を知ってはいたが、その夢についてきた者も確かにいるのだ。今も。
「…。何にもしてねぇだろうな?」
「キスしながら、抜かせて貰ったけど」
一体それのどこが偉いのだ。まあ尽くしてもらっているのは疑い用の無い事実なのだが。逡巡した自分がばかみたいだ。
「…。…」
今更裸をみられたからって何とも思わないが、じゃあしなくてもいいだろう。と思った高杉は、銀時の膝枕から無言で降りた。
銀時に使われていた枕を取り戻してその上に頭をのせる。
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「何を?」
「何でも。何かしてほしい事とか足りないものとかあるか?」
「じゃあ俺の刀、床の間に飾っておくんじゃなくて、手の届く所に置いといてくれ」
遠慮なく高杉は注文を付けた。長年の習慣とはいえ、用心にこしたことはない。
「ん」
それから銀時の話も聞いた。大体誰かが、万事屋に詰めている事。でも万事屋の仕事がないわけではない。目覚めて誰もいなくても、風呂は好きに使っていいとか、でも多分夜には勝手に銀時がいれるから、とか。冷蔵庫に飯が用意してあって、困った事が有れば銀の携帯やヅラでもまた子でも呼びつければいいこと、下にも大家やその従業員がいるから心配しなくてもいいとか、そんな話だった。
別に心配などはしていなかったが、うとうとしながら、銀時に髪をすかれ、聞いてはいた。
そこに確かに幸福を感じながら。
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この後、お掃除後退編の次にお誕生日編をやりたい所存。
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そろそろ八月になろうかという頃、あいにく晋助は寝込んでいた。丁度北陸道戦線が終結し、一度総督に挨拶しようという鬼兵隊の面々などが東京に戻ってきて大変な騒ぎだ。
銀時だって泣きたい。
「やっとこさ一時間突破〜♥ 一安心、よっしゃあと三日もしたら〜♥♥ なあんて思ってたのに、酷い。酷過ぎる。神様の意地悪」
外の風にも当てずに大事に大事にしていたというのに、晋助は何処からか風邪を拾ってきてあっという間に肺炎にまでこじらせ、点滴生活へ逆戻りだ。
風邪一つとっても命取り、というのにどういうことだときつい猫目の金髪女、来島また子が銀時を問いつめる。
「あんたがきっちり面倒見るとか言ってどういう事っすかあああああ!」
そうだそうだと名も無い雑魚隊員も総督を起こさぬよう小さな声で来島の背後からさかんにやじった。
「どういう事かなんて俺が聞きてぇよ。どっから病原菌が入ったんだよ。外にも出してねぇんだよ。せいぜいいった所で一階までだぞ? 下にいんのも憎らしいぐらい元気なばばあたちしかいねーんだぜ。折角体重戻ってきたのにぃぃぃぃ!」
晋ちゃん死なないでぇぇぇと布団に突っ伏した銀時に不吉な事をいうなぁぁぁとうやむやのうちに高杉さんはうちの人、と受け入れてしまった新八と神楽が突っ込んだ。
「お労しい」
「大丈夫でござるか」
しかし。
「ハアハアいってるハアハア」
そんな発言が上がる頃にはぼこされながらも銀時は復活して警戒心をあらわにして鬼兵隊を睨みつけた。
「こら、いま萌えに繋がるような不穏な発言したの誰だ!? 高杉は俺の! 嫁!」
「銀さん」
「銀ちゃん」
どうどう。
「しかしこんな調子でこの人に預けていていいものかねぇ。俺たちも戦争は終わったんだ。ここいらで一つ返してもらった方がいいんじゃないのかぃ?」
「そうですねぇ。また子さん? どうかしましたか?」
本来ならそうっす、晋助さまのお世話はわたしが!とかいいそうなまた子は武市に声をかけられるまで何事か考えていた風だった。考えるよりもまず行動。発言の方もそんな感じのまた子にしては珍しい。
「えっ、えっと」
しかも何やら言いづらそうにしている。益々珍しいと鬼兵隊一同注視する。
「あの、今回の件、万事屋のせいとも言い切れないかもしれないっす、多分。全部が全部ないわけじゃないと思うけど」
「?」
電話がかかってきたのだ。
高杉からだった。
「もしもし晋助さまっ、お電話嬉しいっす! お元気すっか」
近くの長屋で独り住まいをしながら、陰ながら晋助の身を案じていたまた子は待ちに待った電話に狂喜しながら出たものだ。
自分の存在を覚えていてもらえてまた子は嬉しかった。
「おお、おめーも元気か? 近くにいるんだってな」
「はいっ。お許しさえあればいつでもおそばに参りまっす!」
高杉はそれに、一瞬躊躇うような気配をみせた。けれども高杉は用があるからかけてきたのだ。
「おめーに頼むのはどうかと思うんだが」
「何言ってるんすかー! そのためにここにいるっすよ」
「いや、俺は世話焼かれるよりゃ、嫁に行ってほしいけどな」
「あっはっは〜」
また子は軽く笑い飛ばした。男並みの働きをしてきたまた子に見合う男などそうそういるわけもない。割と古風な考えの高杉は女は嫁いで子供を生むものと思っているようで、以前からまた子の身の処し方について考えるところがあったようだが、中々うまくいかないだろう。また子にとってもその方がいい。まだ晋助のそばにいたかった。
「…。結構本気なんだが。まあそれはまた後でいい。それよりゴミが出たんだが、どうしたらいいか分からん」
「はい?」
「銀時が帰って来るまでに片付けてぇんだが、やっぱ往来に捨てとくわけにもいかねぇよな? 結構あるし」
あ〜、ゴミステーションが分からないのか、そんなの白夜叉にさせればいいのにと思ったが、白夜叉には見られたくないようなものなのかもしれない。でも結構ある?「燃えるゴミっすか? ゴミ出しの日は種類によって町内で違うんすよ」
そういいながらまた子は家を出て、走り始めた。
「燃える…。最終的には燃やすけど、まだ生だな」
生?
「生ゴミも燃えるゴミっすよ」
「生ゴミ? 生ゴミ、かな…」
高杉はゴミの分別に悩んでいるようだった。まあ高杉には不得手な分野だろうなと思う。
「ゴミ捨て場は近くにあるはずですけど、今から行きますね。もう2分くらいで着きますから」
もう万事屋の看板が見え始めている。
「わりー頼む。あともうすぐ」
「ああ、睡眠期すか? 分かりました。晋助さまはお布団の中に入って寝ててください。後はわたしがやるっすよ」
「いやでもちょっと量多いぞ」
「したら人手使うっすよ。大丈夫、伝手なら」
そう伝えている途中で、がちゃ、と携帯を落す音が聞こえた。
晋助さま寝落ちっすね起きてる顔もみたかったっすと思いながら、もう万事屋への 階段をラストスパートで登りきる。
息を乱しながら入った玄関は不用心な事に開けっ放しで、そこには累々たる人ゴミが横たわっていた。
「なんかね、晋助さまを恨んでる奴らがどっからか聞きつけてきて襲ってきたみたいなんすけど、返り討ちにあっちゃって奇麗にお掃除されました、みたいな」
「…」
臥せってたのに全員返り討ちか。流石総督。それにしてもあ〜無事で良かった。ゴミか。人がゴミなのか? などという感想が交錯する。
「でも四分の三殺しで我に返ったみたいで、かろうじて生きてたから燃やせないと思ったんじゃないすかね? 生ゴミにも出せないし困ってたみたいっすよ。ほんと可愛いっす」
「…」
「いや、可愛いのは同意だけど、聞いてねぇ。俺は聞いてねぇよ?」
とほの暗い目をして壊れたように呟いている白夜叉にだからそこが晋助さまのいじらしい所じゃないっすかと思う。
愛しい人の待つ我が家にるんるんで帰ってきたらほとんど屍と化しているむさ苦しい野郎どもが累々で、しかも高杉は刀もったまま襖に背を預けて寝ているのだ。そりゃあびっくりするだろうし、心配するだろうし、引かれたらヤダと思ったのかもしれない。
つまり高杉も物騒な襲撃があったことを隠したいと思うほどには万事屋の日常を守って一緒にいたいと思っていたのだろう。
「だから、多分、風邪菌はそいつらからじゃないっすか」
新妻お掃除編。お掃除の意味が違う。
銀時だって泣きたい。
「やっとこさ一時間突破〜♥ 一安心、よっしゃあと三日もしたら〜♥♥ なあんて思ってたのに、酷い。酷過ぎる。神様の意地悪」
外の風にも当てずに大事に大事にしていたというのに、晋助は何処からか風邪を拾ってきてあっという間に肺炎にまでこじらせ、点滴生活へ逆戻りだ。
風邪一つとっても命取り、というのにどういうことだときつい猫目の金髪女、来島また子が銀時を問いつめる。
「あんたがきっちり面倒見るとか言ってどういう事っすかあああああ!」
そうだそうだと名も無い雑魚隊員も総督を起こさぬよう小さな声で来島の背後からさかんにやじった。
「どういう事かなんて俺が聞きてぇよ。どっから病原菌が入ったんだよ。外にも出してねぇんだよ。せいぜいいった所で一階までだぞ? 下にいんのも憎らしいぐらい元気なばばあたちしかいねーんだぜ。折角体重戻ってきたのにぃぃぃぃ!」
晋ちゃん死なないでぇぇぇと布団に突っ伏した銀時に不吉な事をいうなぁぁぁとうやむやのうちに高杉さんはうちの人、と受け入れてしまった新八と神楽が突っ込んだ。
「お労しい」
「大丈夫でござるか」
しかし。
「ハアハアいってるハアハア」
そんな発言が上がる頃にはぼこされながらも銀時は復活して警戒心をあらわにして鬼兵隊を睨みつけた。
「こら、いま萌えに繋がるような不穏な発言したの誰だ!? 高杉は俺の! 嫁!」
「銀さん」
「銀ちゃん」
どうどう。
「しかしこんな調子でこの人に預けていていいものかねぇ。俺たちも戦争は終わったんだ。ここいらで一つ返してもらった方がいいんじゃないのかぃ?」
「そうですねぇ。また子さん? どうかしましたか?」
本来ならそうっす、晋助さまのお世話はわたしが!とかいいそうなまた子は武市に声をかけられるまで何事か考えていた風だった。考えるよりもまず行動。発言の方もそんな感じのまた子にしては珍しい。
「えっ、えっと」
しかも何やら言いづらそうにしている。益々珍しいと鬼兵隊一同注視する。
「あの、今回の件、万事屋のせいとも言い切れないかもしれないっす、多分。全部が全部ないわけじゃないと思うけど」
「?」
電話がかかってきたのだ。
高杉からだった。
「もしもし晋助さまっ、お電話嬉しいっす! お元気すっか」
近くの長屋で独り住まいをしながら、陰ながら晋助の身を案じていたまた子は待ちに待った電話に狂喜しながら出たものだ。
自分の存在を覚えていてもらえてまた子は嬉しかった。
「おお、おめーも元気か? 近くにいるんだってな」
「はいっ。お許しさえあればいつでもおそばに参りまっす!」
高杉はそれに、一瞬躊躇うような気配をみせた。けれども高杉は用があるからかけてきたのだ。
「おめーに頼むのはどうかと思うんだが」
「何言ってるんすかー! そのためにここにいるっすよ」
「いや、俺は世話焼かれるよりゃ、嫁に行ってほしいけどな」
「あっはっは〜」
また子は軽く笑い飛ばした。男並みの働きをしてきたまた子に見合う男などそうそういるわけもない。割と古風な考えの高杉は女は嫁いで子供を生むものと思っているようで、以前からまた子の身の処し方について考えるところがあったようだが、中々うまくいかないだろう。また子にとってもその方がいい。まだ晋助のそばにいたかった。
「…。結構本気なんだが。まあそれはまた後でいい。それよりゴミが出たんだが、どうしたらいいか分からん」
「はい?」
「銀時が帰って来るまでに片付けてぇんだが、やっぱ往来に捨てとくわけにもいかねぇよな? 結構あるし」
あ〜、ゴミステーションが分からないのか、そんなの白夜叉にさせればいいのにと思ったが、白夜叉には見られたくないようなものなのかもしれない。でも結構ある?「燃えるゴミっすか? ゴミ出しの日は種類によって町内で違うんすよ」
そういいながらまた子は家を出て、走り始めた。
「燃える…。最終的には燃やすけど、まだ生だな」
生?
「生ゴミも燃えるゴミっすよ」
「生ゴミ? 生ゴミ、かな…」
高杉はゴミの分別に悩んでいるようだった。まあ高杉には不得手な分野だろうなと思う。
「ゴミ捨て場は近くにあるはずですけど、今から行きますね。もう2分くらいで着きますから」
もう万事屋の看板が見え始めている。
「わりー頼む。あともうすぐ」
「ああ、睡眠期すか? 分かりました。晋助さまはお布団の中に入って寝ててください。後はわたしがやるっすよ」
「いやでもちょっと量多いぞ」
「したら人手使うっすよ。大丈夫、伝手なら」
そう伝えている途中で、がちゃ、と携帯を落す音が聞こえた。
晋助さま寝落ちっすね起きてる顔もみたかったっすと思いながら、もう万事屋への 階段をラストスパートで登りきる。
息を乱しながら入った玄関は不用心な事に開けっ放しで、そこには累々たる人ゴミが横たわっていた。
「なんかね、晋助さまを恨んでる奴らがどっからか聞きつけてきて襲ってきたみたいなんすけど、返り討ちにあっちゃって奇麗にお掃除されました、みたいな」
「…」
臥せってたのに全員返り討ちか。流石総督。それにしてもあ〜無事で良かった。ゴミか。人がゴミなのか? などという感想が交錯する。
「でも四分の三殺しで我に返ったみたいで、かろうじて生きてたから燃やせないと思ったんじゃないすかね? 生ゴミにも出せないし困ってたみたいっすよ。ほんと可愛いっす」
「…」
「いや、可愛いのは同意だけど、聞いてねぇ。俺は聞いてねぇよ?」
とほの暗い目をして壊れたように呟いている白夜叉にだからそこが晋助さまのいじらしい所じゃないっすかと思う。
愛しい人の待つ我が家にるんるんで帰ってきたらほとんど屍と化しているむさ苦しい野郎どもが累々で、しかも高杉は刀もったまま襖に背を預けて寝ているのだ。そりゃあびっくりするだろうし、心配するだろうし、引かれたらヤダと思ったのかもしれない。
つまり高杉も物騒な襲撃があったことを隠したいと思うほどには万事屋の日常を守って一緒にいたいと思っていたのだろう。
「だから、多分、風邪菌はそいつらからじゃないっすか」
新妻お掃除編。お掃除の意味が違う。
「晋ちゃん、誕生日なにかほしいもんあんの? なけりゃ俺の愛を押し付けんぞコラ」
何でけんか腰だよ、照れてんのかと思いながらみそ汁を啜った高杉は壁にかかった日めくりカレンダーをみて、今が八月である事を確認する。
一日の大半を眠って過ごしているし、和室には体力の落ちきった高杉の為にエアコンが取り付けられていて室温28度を保っている。そのためあまり夏らしい気がしていなかったのだが、そういえば蝉も煩い。
八月か。
欲しいものなどないし、不自由も感じていない。望みはなくした。まだ、あるといえばあったが自分にはもう叶える力がない。世界を壊す。だが原動力となった狂おしいほどの憎しみは思い出に変わってしまった。
狂気の獣はどこかへ行った。最後まで一緒にいるつもりだったのに。それともこの胸のどこかでまだ眠っているだけなのか。いつも眠い、高杉のように。そうだったらいいと高杉は思う。
銀時に望むことはなかった。この数年間、銀時がいたらどんなにかと思った事もあったが、やる気がないのだから仕方がない。一緒に戦えないなら、どこか遠くで生きていてくれれば良かった。
だが状況は変わりつつある。まだ決定的ではないにしても。
そう。高杉はまだ戻れる。
戦火の中に。
「ねぇの? 俺はそれでもいいけどね」
だからこのままうやむやとかなし崩しは避けた方がいいのだろう。愛を押し付けられる前に何かなかったかそう思って。
「酒」
高杉は銀時の顔を見ながらぽつんといった。
「ん?」
「酒呑みてぇ」
病をえてからこのかた、禁酒禁煙の高杉だった。
じっと見つめると、銀時は腕を組んでうーん、うーんと考える。そしてちらりと高杉を見てまたうーん、と言った。本当は呑ませられないと思っているのだろう。高杉は上目遣いで銀時を見る。
「あ〜、その目反則。上手にお強請りしやがってったく仕方ねぇな〜。ちょっとだぞ、ちょっと。ほんのちょっとね」
そういって辛抱溜まらなくなったのか、銀時は組んでいた腕を解いてぎゅっと高杉の肩を抱いた。
ちょっとかよけちくせーな、と返事をする前に口を塞がれた。
少なくとも、十日まではここにいるだろう。自分のために。そう思った。
銀時が気付いていないだけで、万事屋を訪れる客は多い。まずはマダオ、それからさっちゃん、お登勢、たま、キャサリン、桂。これらの面々は高杉が起きている時も起きていない時もふつーに万事屋に上がってくる。
以前からの事のようなので、新参の高杉などはおとなしく止めもせず、上がるまま上がらせている。
ただし、さっちゃんからは
「ちょっとあなた、銀さんのなんなのよ」
と絡まれたりする。
「何って元隠密だろ。好きなだけさぐりゃあいいじゃねーか」
「もちろん調べたわよ! そうじゃなくて! ほんとに銀さんのお嫁さんなのって聞いてるのよ!」
銀さんと結婚するのはあたしよーとかいった。銀さんはあたしの理想のドSなのよーって。
(…。銀時に虐められたいってか…)
正直、高杉はひいた。
高杉は銀時の加虐趣味が好きではない。好きな子は虐めたいタイプ、といって本当に虐められた事が何度もあるが、誰が好き好んで痛めつけられたいものか。しかしそういうところがいいのもいるのか。奇特な。
銀時がモテるのは今に始まった事ではない。そういう意味では驚きはないのだが。それにしてもありのままの銀時を受け入れるとはそれはそれで似合いだなとも思う。
ただ銀時にしてみればこのさっちゃんとかいうメガネっこはなしの方向なのだろう。抵抗されるのに燃える口だから。だいたいありだったら高杉なんかを引き取りはしないだろうしさっさと身を固めているだろう。常々、追われるより追う方が好きとかいっていた。
そこそこ巨乳なのにもったいない。がつんと殴って逃げてみればいいのにそう思ってからげんなりした。自分がやってきた事そのまんまだったからだ。
(べっべつに俺は銀時の気を引きたくてしてたわけじゃ)
「おい、銀時いるかい? 今月の家賃払え」
動揺していると下のスナックお登勢の連中が家賃のことでやってきた。
「オイ嫁。坂田イルカ?」
「生体反応2。しかし銀時様はいないようです」
銀時は稼ぎがないわけではないが、家賃をためがちらしい。あくせく働いているように見えるが万事屋ってのは儲からない仕事なのだろう。
高杉がくるまでは大体2・3ヶ月はためては、雑用を引き受けたりして割引してもらったりしていたようだ。ちゃんと払う事もあるようだが。
「俺は嫁じゃねー。同居人だ」
高杉は文句を付けながら寝室として使っている和室の違い棚から梅の文箱を出してきて、家賃の入った封筒を渡す。
百石は辞退したものの、これくらいは銀時の為にも受け取れと桂を通して押し付けられている傷病手当だった。
確かに銀時にも居候をこれ以上抱え込む甲斐性はないはずだ。あまり食べないからと言っても食費はかかるし、医療費もある。成程と思ったので心置きなく使い込んでいる。こっそり家賃を払う事で高杉も居心地の悪さを感じないで済むし。
近頃では銀時にいうよりも高杉に督促した方が払いが確実なのをこの三人も充分に承知していた。
「はいよ。キャサリン、領収書」
「オラヨ、嫁」
「毎度ありがとうございます、晋助さま」
「ちわーっす、米屋でーす」
「団子屋でーす」
ツケの支払いも高杉が持っている。
相互扶助。団子代のかわりにやはり雑用をしてやったりしているようだが、そんなことだから現金収入も上がらないのだ。
人と人とのつながりを考えれば悪いとはいいきれないが、相手にも相手の生活があるだろう。現金がなければ商売の材料も買えまいと出来る範囲でやりくりしていた。
それを知っているお登勢は
「銀時に足りなかったのはしっかり者の嫁だったんだねぇ」
などとからかう。
「だからよめじゃねーって言ってんだろ」
「大家と言えば親も同然。親公認? 公認なの? ひどいわ。でもわたし、わたし、負けない。お金の切れ目が縁の切れ目よー!!」
まあサッちゃんのいう通り、こんなことも、臥せっている間だけだ。完全に治ったら、傷病手当もなくなるのだし。
そうしたら、どうするか。
銀時が知ったら嫌がるだろうが、万事屋を訪ねる客の中には高杉自身に会いにくるものも多い。
それは高杉派を敵にして殺された者の遺族だったりすることもあれば、仲間の仇を取ろうという者もあった。
高杉の指名手配は解かれ、国賊として弔いもままならなかった攘夷志士たちも汚名を雪いだ今、高杉の命を狙う者の方がテロリストと呼ばれ、官憲に追われる。ゴミは警察に引き渡したという来島に高杉は驚いたものだ。
眠っている間に目紛しく時勢は流れて行く。その変化は高杉が率先して起こしたものだが一体何処へいきつくのか。
その収束に桂などはきりきりしている事だろう。
高杉は利用したかっただけだから、国の行く末がどうなろうが知った事ではなかったのだが。高杉の見る所、この国の膿はまだまだ出し切れていないし、劫火を燃やし続ける薪は事欠かない。
「ごめんでござる。晋助、拙者を呼んだでござるか」
鬼兵隊は解体された。元は農家の悪たれや村の鼻つまみ者、町のごろつきといった輩が主流だったから落ち着き先を見つけるのは大変だろうがその辺りは武市がうまくやってくれている。来島はしばらく高杉の手元に置いて、しかるべき筋に縁付かせようと思っていた。何しろ来島の親父に頼まれていた。
問題はこの河上万斉。高杉の部下というよりは同盟者のような立場で盟主としてあおいでも、高杉がその座を引けば従ういわれもないのだ。つまりこの男は止まらない。
それを証明するように音楽プロデューサーという表の顔には戻っていないという。それどころか、鬼兵隊解散後、高杉の見舞いに来たきり、似蔵と姿をくらましていた。
高杉にもどこにいるかは分からなかった。何をしているかは分かったが。二人は人斬りなのだ。
「ああ」
似蔵に思想はなくただの手足にすぎないが、万斉にはある。
侍を滅ぼすという信念が。
幕府が倒れたからと言って、新政府ができたからといって戦いをやめる理由にはならない。武士という階級はまだ絶滅していはいない。
話をしなければと思った。だが高杉は万斉にあわなければならないと誰にもまだ漏らしてはいなかった。
それでも呼んだかと言いながら訪ねてくる。そのことに高杉は少しだけ笑った。
こんな風に鬼兵隊との間にも絆があった。
(俺はこいつをこのまま行かせていいのか?)
行かせれば間違いなくこの男は死ぬ。
高杉の代わりに、とは言わない。高杉は世界を構成する総てのものを滅ぼしたかった。
万斉は士分を根絶やしにしたい。その利害が一致していただけだ。侍の支配を終わらせる鉄槌が下された後にはもしかしたら袂を分かち、暴走する高杉を阻む事さえしたかもしれない。
それとも、自分の悲願は達したと最後まで高杉についてきたか。分からない。そんな日は多分もう来ないのだ。
「少し早いが、拙者からの祝いでござる」
そういって万斉は手に持っていた包みを高杉に渡した。絹の風呂敷に包まれたそれは外側の形状だけでなにか分かった。三味線だ。
「久しぶりにセッションといこうでござる」
そういって万斉はさっさとソファーに座った。
音を聞けば、心胆など知れる。
そういうことか。それとも今生の別れにか、あるいは本当に純粋に楽しみたいのか。
どうでもいい。
弾けば悟られる事もあるだろう。
同じほどに聞けば分かる事もある。
ただ会って話す事と大した違いはない。ただそのほうが目も耳も塞いだこの男には似合いだというだけで。
腹を探るのが面倒になった高杉は促されるまま真向かいに座り、するりと風呂敷を解いた。
べんべんべべんと音を調律する。
曲はいつも高杉が選んだ。勝手に弾き始めれば、勝手に合わせてくる。
高杉は蝉の声に耳を澄ませてから、バチを動かした。
高誕。終わらなかったので適当な所をぶった切りました。早く誕生日になりたいです。
何でけんか腰だよ、照れてんのかと思いながらみそ汁を啜った高杉は壁にかかった日めくりカレンダーをみて、今が八月である事を確認する。
一日の大半を眠って過ごしているし、和室には体力の落ちきった高杉の為にエアコンが取り付けられていて室温28度を保っている。そのためあまり夏らしい気がしていなかったのだが、そういえば蝉も煩い。
八月か。
欲しいものなどないし、不自由も感じていない。望みはなくした。まだ、あるといえばあったが自分にはもう叶える力がない。世界を壊す。だが原動力となった狂おしいほどの憎しみは思い出に変わってしまった。
狂気の獣はどこかへ行った。最後まで一緒にいるつもりだったのに。それともこの胸のどこかでまだ眠っているだけなのか。いつも眠い、高杉のように。そうだったらいいと高杉は思う。
銀時に望むことはなかった。この数年間、銀時がいたらどんなにかと思った事もあったが、やる気がないのだから仕方がない。一緒に戦えないなら、どこか遠くで生きていてくれれば良かった。
だが状況は変わりつつある。まだ決定的ではないにしても。
そう。高杉はまだ戻れる。
戦火の中に。
「ねぇの? 俺はそれでもいいけどね」
だからこのままうやむやとかなし崩しは避けた方がいいのだろう。愛を押し付けられる前に何かなかったかそう思って。
「酒」
高杉は銀時の顔を見ながらぽつんといった。
「ん?」
「酒呑みてぇ」
病をえてからこのかた、禁酒禁煙の高杉だった。
じっと見つめると、銀時は腕を組んでうーん、うーんと考える。そしてちらりと高杉を見てまたうーん、と言った。本当は呑ませられないと思っているのだろう。高杉は上目遣いで銀時を見る。
「あ〜、その目反則。上手にお強請りしやがってったく仕方ねぇな〜。ちょっとだぞ、ちょっと。ほんのちょっとね」
そういって辛抱溜まらなくなったのか、銀時は組んでいた腕を解いてぎゅっと高杉の肩を抱いた。
ちょっとかよけちくせーな、と返事をする前に口を塞がれた。
少なくとも、十日まではここにいるだろう。自分のために。そう思った。
銀時が気付いていないだけで、万事屋を訪れる客は多い。まずはマダオ、それからさっちゃん、お登勢、たま、キャサリン、桂。これらの面々は高杉が起きている時も起きていない時もふつーに万事屋に上がってくる。
以前からの事のようなので、新参の高杉などはおとなしく止めもせず、上がるまま上がらせている。
ただし、さっちゃんからは
「ちょっとあなた、銀さんのなんなのよ」
と絡まれたりする。
「何って元隠密だろ。好きなだけさぐりゃあいいじゃねーか」
「もちろん調べたわよ! そうじゃなくて! ほんとに銀さんのお嫁さんなのって聞いてるのよ!」
銀さんと結婚するのはあたしよーとかいった。銀さんはあたしの理想のドSなのよーって。
(…。銀時に虐められたいってか…)
正直、高杉はひいた。
高杉は銀時の加虐趣味が好きではない。好きな子は虐めたいタイプ、といって本当に虐められた事が何度もあるが、誰が好き好んで痛めつけられたいものか。しかしそういうところがいいのもいるのか。奇特な。
銀時がモテるのは今に始まった事ではない。そういう意味では驚きはないのだが。それにしてもありのままの銀時を受け入れるとはそれはそれで似合いだなとも思う。
ただ銀時にしてみればこのさっちゃんとかいうメガネっこはなしの方向なのだろう。抵抗されるのに燃える口だから。だいたいありだったら高杉なんかを引き取りはしないだろうしさっさと身を固めているだろう。常々、追われるより追う方が好きとかいっていた。
そこそこ巨乳なのにもったいない。がつんと殴って逃げてみればいいのにそう思ってからげんなりした。自分がやってきた事そのまんまだったからだ。
(べっべつに俺は銀時の気を引きたくてしてたわけじゃ)
「おい、銀時いるかい? 今月の家賃払え」
動揺していると下のスナックお登勢の連中が家賃のことでやってきた。
「オイ嫁。坂田イルカ?」
「生体反応2。しかし銀時様はいないようです」
銀時は稼ぎがないわけではないが、家賃をためがちらしい。あくせく働いているように見えるが万事屋ってのは儲からない仕事なのだろう。
高杉がくるまでは大体2・3ヶ月はためては、雑用を引き受けたりして割引してもらったりしていたようだ。ちゃんと払う事もあるようだが。
「俺は嫁じゃねー。同居人だ」
高杉は文句を付けながら寝室として使っている和室の違い棚から梅の文箱を出してきて、家賃の入った封筒を渡す。
百石は辞退したものの、これくらいは銀時の為にも受け取れと桂を通して押し付けられている傷病手当だった。
確かに銀時にも居候をこれ以上抱え込む甲斐性はないはずだ。あまり食べないからと言っても食費はかかるし、医療費もある。成程と思ったので心置きなく使い込んでいる。こっそり家賃を払う事で高杉も居心地の悪さを感じないで済むし。
近頃では銀時にいうよりも高杉に督促した方が払いが確実なのをこの三人も充分に承知していた。
「はいよ。キャサリン、領収書」
「オラヨ、嫁」
「毎度ありがとうございます、晋助さま」
「ちわーっす、米屋でーす」
「団子屋でーす」
ツケの支払いも高杉が持っている。
相互扶助。団子代のかわりにやはり雑用をしてやったりしているようだが、そんなことだから現金収入も上がらないのだ。
人と人とのつながりを考えれば悪いとはいいきれないが、相手にも相手の生活があるだろう。現金がなければ商売の材料も買えまいと出来る範囲でやりくりしていた。
それを知っているお登勢は
「銀時に足りなかったのはしっかり者の嫁だったんだねぇ」
などとからかう。
「だからよめじゃねーって言ってんだろ」
「大家と言えば親も同然。親公認? 公認なの? ひどいわ。でもわたし、わたし、負けない。お金の切れ目が縁の切れ目よー!!」
まあサッちゃんのいう通り、こんなことも、臥せっている間だけだ。完全に治ったら、傷病手当もなくなるのだし。
そうしたら、どうするか。
銀時が知ったら嫌がるだろうが、万事屋を訪ねる客の中には高杉自身に会いにくるものも多い。
それは高杉派を敵にして殺された者の遺族だったりすることもあれば、仲間の仇を取ろうという者もあった。
高杉の指名手配は解かれ、国賊として弔いもままならなかった攘夷志士たちも汚名を雪いだ今、高杉の命を狙う者の方がテロリストと呼ばれ、官憲に追われる。ゴミは警察に引き渡したという来島に高杉は驚いたものだ。
眠っている間に目紛しく時勢は流れて行く。その変化は高杉が率先して起こしたものだが一体何処へいきつくのか。
その収束に桂などはきりきりしている事だろう。
高杉は利用したかっただけだから、国の行く末がどうなろうが知った事ではなかったのだが。高杉の見る所、この国の膿はまだまだ出し切れていないし、劫火を燃やし続ける薪は事欠かない。
「ごめんでござる。晋助、拙者を呼んだでござるか」
鬼兵隊は解体された。元は農家の悪たれや村の鼻つまみ者、町のごろつきといった輩が主流だったから落ち着き先を見つけるのは大変だろうがその辺りは武市がうまくやってくれている。来島はしばらく高杉の手元に置いて、しかるべき筋に縁付かせようと思っていた。何しろ来島の親父に頼まれていた。
問題はこの河上万斉。高杉の部下というよりは同盟者のような立場で盟主としてあおいでも、高杉がその座を引けば従ういわれもないのだ。つまりこの男は止まらない。
それを証明するように音楽プロデューサーという表の顔には戻っていないという。それどころか、鬼兵隊解散後、高杉の見舞いに来たきり、似蔵と姿をくらましていた。
高杉にもどこにいるかは分からなかった。何をしているかは分かったが。二人は人斬りなのだ。
「ああ」
似蔵に思想はなくただの手足にすぎないが、万斉にはある。
侍を滅ぼすという信念が。
幕府が倒れたからと言って、新政府ができたからといって戦いをやめる理由にはならない。武士という階級はまだ絶滅していはいない。
話をしなければと思った。だが高杉は万斉にあわなければならないと誰にもまだ漏らしてはいなかった。
それでも呼んだかと言いながら訪ねてくる。そのことに高杉は少しだけ笑った。
こんな風に鬼兵隊との間にも絆があった。
(俺はこいつをこのまま行かせていいのか?)
行かせれば間違いなくこの男は死ぬ。
高杉の代わりに、とは言わない。高杉は世界を構成する総てのものを滅ぼしたかった。
万斉は士分を根絶やしにしたい。その利害が一致していただけだ。侍の支配を終わらせる鉄槌が下された後にはもしかしたら袂を分かち、暴走する高杉を阻む事さえしたかもしれない。
それとも、自分の悲願は達したと最後まで高杉についてきたか。分からない。そんな日は多分もう来ないのだ。
「少し早いが、拙者からの祝いでござる」
そういって万斉は手に持っていた包みを高杉に渡した。絹の風呂敷に包まれたそれは外側の形状だけでなにか分かった。三味線だ。
「久しぶりにセッションといこうでござる」
そういって万斉はさっさとソファーに座った。
音を聞けば、心胆など知れる。
そういうことか。それとも今生の別れにか、あるいは本当に純粋に楽しみたいのか。
どうでもいい。
弾けば悟られる事もあるだろう。
同じほどに聞けば分かる事もある。
ただ会って話す事と大した違いはない。ただそのほうが目も耳も塞いだこの男には似合いだというだけで。
腹を探るのが面倒になった高杉は促されるまま真向かいに座り、するりと風呂敷を解いた。
べんべんべべんと音を調律する。
曲はいつも高杉が選んだ。勝手に弾き始めれば、勝手に合わせてくる。
高杉は蝉の声に耳を澄ませてから、バチを動かした。
高誕。終わらなかったので適当な所をぶった切りました。早く誕生日になりたいです。