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 目が覚めたら布団の中に一人だった。たたき出されなかっただけましかと思いながら金時はふああと欠伸をする。ここは万事屋晋ちゃん。かぶき町ナンバーワンホストの金時がうまれて初めてといっていいほど本気で口説いている美人さんが経営する何でも屋だ。
 ただし、本人が認めたスリルとサスペンスとバイオレンスな仕事しかしないのだが。その薄暗いジャンルのせいか万事屋晋ちゃんの開業時間は遅い。というか最近遅くなった。
 金時の与り知らぬどこかから、住まいをこの万事屋の事務所にうつしてそうなったのだ。
 金時としては、いつ侵入しても晋ちゃんがお部屋ですうすう寝ているのはたまらなく嬉しいので、そこんところ何があったかは諸事万端詮索禁止を厳命されていたこともあり、なんでそうなったのかは調べたりしていない。気になるけど。すっごく気になるけど。晋ちゃんのことは何だって知りたいけど。
 単純にバイトで来ている女子高生の来島また子が来る時間がそのくらい、とか、日中幼女を愛でるのに忙しい武市にあわせてのことかもしれないが。
 ので大体まあ一、二時間の差はあれどホスト業の金時と晋ちゃんの生活時間は似たり寄ったりになってきている。
(単純にそれもうれしいっつーか。ほらやっぱり格段に手だししやすいし、一緒にいられる時間は長くなってるよな〜)
 このままなし崩しにステディな関係に。頑張れおれ。金時は自分で自分を励ましながら身を起こす。
 ちなみに昨日は何にもしないで添い寝だけで我慢したが今日はうまいこと持ち込みたい所存。
(今日休みだしなぁ。どっかで飯食いにでも行ってちやほやしてーな。でも晋ちゃん うざがるか。仕事してねーときは引きこもりだし。人ごみ嫌いだし)
 その当の晋ちゃんはどこかな、と金時は布団を上げながら思う。出かけるなら金時は容赦なく万事屋の外に捨てられていくからここにいるはずだ。
「んで、今度は何だよ?」
 と思ったら、仕事場にしている隣室から晋ちゃんの部屋からもそもそとした声が聞こえて来た。
 珍しくこんな時間から仕事らしい。
「十月十日に受け取りたい物があるので潜伏先を知りたいのですが」
(ん?)
 普段なら仕事の邪魔をしないように待てしているイイコの金時だが聞き覚えのある声と気味の悪い丁寧語に首を傾げる。
「またか」
「ええ、またですとも。毎日毎日幸せ一杯胸一杯の銀八や百歩譲って相手にされないまでもここにくればいつでもあえる金時と違っておれの高杉ときたらいつも行方不明の音信不通。今は何処の空の下なのぉぉぉぉ! あああああ、晋助愛してる〜」
 気持ち悪く悶えているのはもしかしなくても銀時か。金時は遠慮会釈もなくずかずかと襖によるとすぱーんっとそれを開けた。
「おい、猫が剥がれかけて地がでてんぞ」
「それは失礼」
 と言い合っている二人を目撃すると、マシンガンのように捲し立てた。
「ちょっとちょっとちょっとぉぉぉぉ! 俺の晋ちゃんとなにしてんだよ? つか知り合い? 知り合いだったの? だめ、これは俺の晋ちゃんです。おめーにはやんないから! 近づかないで! 見ないで! 穢れるかr」
「「うるさい」ですよ」
 ナンバーワンホストの顔を二人に殴られたけど金時は文句一つ言わずに晋ちゃんの隣に座って、いつも愛でている腰に縋り付いた。
「だって心配だろ? こっちはまだお付き合いにも至ってねーのにおれら全員好みのタイプが一緒じゃねーか。手出しはもちろんさせねーけど、見られんのもヤダ」
 それを聞いた銀時は遠い目をしてそういえば銀八も見せたら減るからやだとかいってましたね、と思った。ちなみに空港へ銀時の高杉を迎えに行った時、自分も似たようなことを思った。嫌になるくらい外見も内面も似ている。その危惧は分からないでもない。
 その上この万事屋の主も銀八の嫁も銀時の思い人とは年の差こそあれ、クローンのように激似だった。つまり今は高校生のあの子もこの子も高杉もまるっと中心どストライク。
 普通だったらまあなんだ、ちょっとちょっかいかけるくらいいいか、ということにならないでもない。しかし、残念ながら銀時も高杉も目の前の万事屋晋ちゃんも普通ではないのだった。
「わたしの心はあの人で一杯です。ここにはビジネスに来ているんです」
「まあ賢明だな。俺に手なんか出してみろ即滅斬だ」
 銀時はにっこり笑って同意した。
「そうですね」
「あの人そんなに嫉妬深くも見えなかったぜ?」
「わたしへの嫉妬だったらどんなにいいか」
 嫉妬ではない。
 高杉一族の年長者として年少者を守る義務があると思っているにすぎない。最もあの高校生の晋助君と違ってこの目の前の晋ちゃんはもう充分育っているし、高杉の庇護が必要なほど弱くはなかった。
 刀を振り回させたら高杉よりも強いだろう。手出しなんかしたらフルボッコだ。当然金時は身をもってそれを知っているはずだった。金時が生きているのは途中で彼がめんどくさがったのと、金時がゴキブリ並みのしぶとさだったからだろう。
 しかし高杉と万事屋晋ちゃん二人掛かりでやられたら消滅間違いない。まだあの世に行くには早すぎる。銀時はメガネのフレームを直しながらそう思った。
「? どういうこと? つかさ〜、鬼兵堂さん? って人と晋ちゃんどういう関係? 親兄弟いないって言ってたけど親戚?」
「詮索無用っつったぜ」
 晋ちゃんは腰から離れない金時にそろそろうっとうしくなったのかごすっと一発入れて引きはがしながらそういった。もちろん金時は懲りない。こんなことでいちいち懲りていたら晋ちゃんとの仲は何事も進まないのだ。
「銀時は知ってんだろ。銀八も知ってそうでなんか不公平なんだけど。晋ちゃんに惚れてんのはおれなのに」
「こいつらは仕事上仕方ねぇがてめーに言う義理はねぇ」
 仕事。
 仕事ねー。
 じゃあ仕方ないのかと金時は思う。金時と晋ちゃんは友達とも恋人とも言い難い。しいていうならセフレだが、体だけで心を許されていないなら確かにそんな義理もない。いつかそんなことも教えてもらえる仲になりたいが、仕事だといわれればここは引き下がらざる得なかった。この目の前にいるいやみったらしい実の兄弟から情報もとれないに違いない。あの銀八でさえ守秘義務があると言ったのだ。弁護士の銀時なら余計だ。
 あれだけ似てるんだから親戚なんだろうが。まあ今はそれだけ分かってればいいかと金時は思う。従兄弟だろうがなんだろうが、晋ちゃんは天涯孤独の身ではないらしい。寂しくないならいいと思った。寂しいなら寂しいで、そこから入って行くけれども。 
「訴訟だけでなく揉め事ありましたらいつでも呼んでください。一応顧問弁護士ですから。ところで本日の仕事の依頼ですが」
 つか、お前の方が客か?
 そう思いながら金時が見守っていると晋ちゃんは気怠げに言う。
「頻繁にやってっと情報源がバレる」
 スリルとサスペンスとバイオレンスをこよなく愛する晋ちゃんはやる気がないようだ。そういえばさっき誰かの潜伏先を教えてほしいとか言ってたな。十月十日に。
「そこをなんとか。折角の誕生日なんです」
 この話の流れでこれは、相手はあの晋ちゃんよりも退廃的な鬼兵堂さんのことだろう。銀時は金時が晋ちゃんを愛するように、彼にしては珍しく執着をみせているのだった。
「あんたの?」
「ええ、わたしたちの」
 たち、という言葉に晋ちゃんは顔を顰めた。
「…まさかお前もか?」
「ん? 十月十日? すげー確率だろ? 銀八もだぜ」
 そういうと晋ちゃんは忌々しげに舌打ちをした。
「なに?」
「てめーにゃ関係ねえ。あいつは知ってんのか?」
「故意に忘れている可能性はありますが、ちゃんとお伝えしてありますよ」
 それから晋ちゃんは少しの間、何かを考えていた。かりかりと玄関の方から妙な音がしてくるまで。
 何の音?
 さだこがガラス戸引っ掻いてるみたいな音なんだけど怖い。晋ちゃんの腕に縋り付き、向かいの銀時も何事かと身じろぎするのに、晋ちゃんはあっさりと立ち上がりながら言う。
「…やっぱりてめぇらん中じゃ銀八が一番うまくやってるな。向こうから連絡付けさせる甲斐性はねぇのかよ?」
「尋常でなく素っ気ない人ですからね。あなたと同様に」
「結構ちょろいぜ。猫でも飼えよ。すっとんでくるぜ。喘息だけどな」
 しゃべりながら晋ちゃんは音の発生源である玄関へ行くと細く戸をあけた。そのままキッチンへ行くと、さらといちご牛乳を持って来た。
 その晋ちゃんの後にはでっかくて、もじゃっとしてて、白猫なのに薄汚れちゃってる猫がついてくる。なんだネコか。
 さっきのかりかりはこの猫が戸を引っ掻いていたのか。
 晋ちゃんはそのぶさいくな猫にいちご牛乳…なんで晋ちゃんは飲まないのにこんなものが常備されているのか常々不思議だったのだ、また子ちゃんのかと思ってた…をやると、懐から取り出した携帯でしゃりーん、と写メった。そしてそのままごく短いだろうメールを打って送信する。
「誰にです?」
「晋助とあいつ」
 にやりと晋ちゃんは笑って言った。
「あの人携帯は持っていないはずですが?」
 PCのメルアドは知っているがそっちもほとんど見てくれない。実は迷惑メールフォルダとかに入れられていても不思議はないと銀時は思っている。それくらい全くというくらい返事がない。
「一緒についてまわってる従業員の携帯だよ。お前のことわざわざ見に来てったよな、白?」
「にゃー」
 タイミング良く返事をした猫は単に追加のいちご牛乳を強請ったのかもしれないがやけに懐いているようだった。こんな猫をかまっていたなんてことも知らない金時だった。
 その横でありかも。でもお泊まりさせられませんよね、だって喘息だし、と銀時が悩んでいた。
「飼う飼わねーは別としてもうちょっとなんかする余地があるだろうよ。あんたは好かれる努力が足りねーんじゃねぇの」
 晋ちゃんがそういうと銀時は抗議しようと口を開けた。しかし晋ちゃんが返信メールを受信している間に、思い直したようにメガネの位置を直す。
「アドバイス感謝します」
 そういうと鞄を持って立ち上がり、万事屋を辞して行った。
 あれも金時の兄弟だから、金時同様好かれる為に涙ぐましい努力をしているはずだが、金時と同じように通じてないことの方が多いのだろう。
 それでも今のやり取りでまだなんかやる余地を見つけたようだ。
「晋ちゃん、銀時に優しくね?」
 携帯から目を上げた晋ちゃんに金時が言うと、晋ちゃんはばかにしくさった女王様の視線を寄越してくれた。やだもう、ぞくぞくしちゃう。
「はっ」
「今の仕事、スリルとサスペンスとバイオレンスなかったよ?」
「あるぜ? ばれたら俺があいつに怒られるだろ? あいつ結構怖ぇんだぜ?」
 うん確かに鬼兵堂さんは怒ったら怖いというか普通にしててもなんかごめんなさいとか言いそうになっちゃう感じ。
「なに、晋ちゃん反抗期なの?」
 晋ちゃんが持っていたいちご牛乳をもらいながら金時がいうと、晋ちゃんは驚いたように片目を見開いた。それからふっと笑う。
「違うね」
 晋ちゃんは仕草のいちいちが人目をひくなぁと思いながら金時はそうなの? と聞いた。鬼兵堂さんも高杉君も晋ちゃんと同じ目の方を隠してるなー。なんかあるのかなと思いながら。
「おれならごめんだがあいつはそうでもないみてぇだから、どっちかっていうと親孝行?」
「んん?」
「お前らん中じゃ、銀八が一番うまくやってる。次は誰かって話だ」
 なにそれ、銀時ってことなの? 地味に凹みました。
「酷い! 晋ちゃんの意地悪! おれのどこが悪いんだよ! かっこいいし尽くしてるし愛してるし稼いでいるし断然! きらめいてるよ?」
 銀時にも負けてんの? 銀時だってそうとうつれなくされてんじゃん。それ以下なの? 金時がぎゃんぎゃんいうと、真顔で晋ちゃんは言った。
「顔」
「えー、でもぉ、高杉君とか鬼兵堂さんのぉ、相手をみて察するに晋ちゃんも好みのタイプ一緒…ヒデブッ!」
 もちろん、金時はぶっとばされた。うん、何となくそんな気はしていたけどもさ。
 でもいいんだ。一日引っ付いてご飯作ってちやほやして一緒にお酒のんで当初の目的は達したもん。ポジティブ!



 以前から年の近い甥っ子から白猫の写メがくるなぁと思っていた鬼兵堂主人高杉晋助は困惑している。いつもの、弁護士のくせに濃い愛の言葉の羅列ばかりで、趣旨のいまいち分からないメールに街角でみかけた猫の画像が添えられて送られて来るようになったからだ。
 あれだ。
 絶対に甥の入れ知恵だろう。
 あの弁護士め。
 一体甥とつるんで何をしているのか。
 と思いつつも、今までほとんど見ていなかった銀時のメールが楽しみになっている現在。
 日本に帰国した暁に、銀時の生活圏内に生息しているだろうにゃんこどもを触りにいかない自信がない高杉なのだった。









弁護士さんはなんで鬼兵堂さんの帰国予定時間が分かったの? 編。結構長く書いた割には金時の報われなさは変わらないという。うん、あれだ。もう無理! と思いました。万事屋晋ちゃんが素直に金ちゃんに落ちるって多分ないね!(生き生きと) 

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