総督至上サイト swallowtail mania since 090322 小説はカテゴリーの目次をクリックどーん。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「はいはいそこまで〜」
バイクで飛ばしてきて正解だった。沖田は屯所の門まで出て来ていた。雪火じゃないという証明がなければどうせ駕篭タクにも列車には乗れないけどね。そしてずっと寝込んでいた沖田君はそんな規制がされたなんてことも知らないだろうけどねと銀時は可哀想に思った。
足がなくても行こうとするだろう。死ぬも生きるも好きにさせてやればいいじゃんと思わなくもなかったが、実際死んだら悲しくなるのがいっぱいいるんで目一杯阻止する気だった。
「チッ」
「はい、舌打ちしない〜。刀抜かない〜。病人はいい子で布団に戻った戻った」
最悪、もぬけの殻になった冷たい布団を発見した山崎が携帯で連絡というシュミレーションだったので、発見が早く、あちこち探しまわるはめにならずにすんで良かった銀時である。可愛くない対応をされながらも、沖田を屯所の方へ追い返す。
「旦那、俺は行かなきゃならねぇんで」
「そんなこと知りません〜。文句ならマヨラーに言ってくんね? 俺ただの仕事だしぃ」
説得しようなんて十年早い。ここでいつものごとく甘味を提供されても銀時はうんとは言わないだろう。銀時は土方が大嫌いなので、大概のことは沖田の肩を持つのにやぶさかではないのだが、こればかりは土方の指示通りにする。
「じゃあ、俺が旦那を雇いまさぁ。一緒にいきましょうや。電車代出しますぜ」
しかし沖田は何を思ったか甘味などでなく同行を求めて来た。戦力として当てにしているのか? それともしつこく邪魔されるより取り込んだ方がいいという判断か。
こんな反応は思っても見なかった。そんなところに行くなんて普段の沖田なら間違っても考えないはずなのに、寝過ぎで頭が沸いたんだろうか。可哀想に、熱が上がりすぎると朦朧とするもんね、でもアレ、薬飲んでたんじゃなかったっけと銀時は思う。
薬を飲むと劇的に熱は下がるのだ。ウィルスを攻撃し免疫異常でウィルスごと自分の体まで破壊してしまう白血球の働きを抑えるという。
「何言ってんの。銀さんこれでも売れっ子なの。山奥なんか行ってる暇ないんですよ」
「あんただって、用があるんじゃないんですかぃ? 急がねぇともう二度と会えねえかもしれませんぜ」
しかし沖田は決して頭が沸いているのではなかった。
「何それ、何のこと?」
どうしてどいつもこいつも、銀時と高杉の因縁を知っているのだろう。誰彼構わず話したことなどない。それなのに。
沖田は銀時の目を見て言った。何もかも知っている、といった表情で。
実際沖田は知っていた。何食わぬ顔で、見て見ぬ振りをしていただけだと告白した。
「俺ぁ知ってるんですぜ。旦那の大事な人、何遍も見かけやしたから。…雪火だそうですぜ」
見かけたどころか俺の知らないところじゃ追いかけっこして斬り合ったこともあるんじゃないの、実際と考えていた銀時は思考を停止した。
「はあ?」
雪火?
「薬ものまねぇで戦争とるたぁなまなかなことじゃねぇ。その信念には脱帽しますぜ」
帽子なんかかぶっちゃいないくせにそんなことを沖田は言った。
「沖田君冗談きつい…」
「ザキが見て来た感じじゃ、末期だそうで」
そんなことは聞いてない。だって高杉は十人のうちの一人だ。そう言っていた、本人が。そのはずだ。確か…。
心臓が早鐘のように打ち鳴らされてうるさいほどだ。
銀時は眉間にしわを寄せた。
だが相手は高杉だった。何故それを信じたのだろう。アレの語る全てが嘘だとは思ってはいない。本当のことだって言う。だが質の悪いことに嘘も真実も同じように話す。
それが奴の手だ。
いつだって虚実を織り交ぜて自分の都合のように進めて行く男だった。何故疑いもしなかったのだろう。
最後に会ったのは何時だっただろう。紅桜の後、戦争が始まる前。雪火が瞬く間に広がり、それに比例して刹那的な犯罪が増え始めた頃だった。
高杉は何故か江戸におり、火付けや強盗に乗じて幕臣を手当り次第に殺していた。確かにそんな行動はらしくなかった。
鬼兵隊を再結成した頃からそんな単独行動は止め、大規模な策謀を巡らせていたというのに。それとも策謀の段階は過ぎ、派手に何かをやらかす前の景気付けか。そんな 風に銀時も思っていた。
そんなあいつが雪火だなんて。最後に会ったときはどうだった? 元気だったはずだ。
悠々と刀を揮って、その後の西で起こした戦争のテレビ中継だって一心不乱に敵を屠っていたでないか。そして、今このときも戦場にいるはずだった。
「ぶった切るんじゃなかったのかよ?」
そう言った高杉の足下には制服の男たちが倒れて血溜まりを作っていた。高杉は完全に一仕事終えたという感じで手に刀と懐紙を持っていた。
その日も高杉は闇の生き物のように白く、冴え冴えとしていた。
「獲物がないもん」
そう言いながら、通りがかった銀時は両手を上げた。遣り合う気はないからお前も俺を斬らないでね、というサインだ。高杉はそれでもしばらく懐紙で血脂を拭い取った刀を終わずに言った。
「そいつは何でも切れるんだろ? 大筒だって斬ったっていうじゃねぇか」
何処でそんな情報を拾ってくるのか高杉は詳しかった。あれか。紅桜前の桂か。それともマムシの一件が耳に入ってたのか。あの一派も攘夷だったらしいからな。高杉あたり、ジャスタウェイ仕入れてたら可愛いなと銀時は思う。いやいやいや。物騒だからほんとは止めてほしいんだけどね、なんて考えながら銀時は答える。
「人間みてぇな柔らかいもんぶった切れません。そういうてめぇはお取り巻きはどうした?」
「近くにいる」
高杉は渋々刀を鞘に納めると言った。その白い頬に返り血がとんでいる。
「…いるのかよ。あ、ちょっと待て。血が」
しかし銀時が手を伸ばそうとすると、驚くほど素早く距離をとった。警戒心の強い猫みたいな動きだった。
「寄るな、雪火は空気感染および、飛沫感染だ。こいつらの中に感染者がいれば返り血からでも移る」
「俺平気」
俺を雪火には罹らせたくないんだな、と内心ニヤケながら銀時は言った。
果たしてはそれは、遣り合う機会を失うからか。それとも、と自惚れる。
「十人に一人か」
「そ」
「お前はほんとに丈夫な野郎だな。昔から病気一つしやがらねぇ」
しかし罹らないと知れば知ったで高杉は嫌そうな顔をしてみせた。昔からこいつは病気なんかしない方がいいとお心優しく思っているくせに、自分と比べて銀時があまりに健康優良児なのが気に入らないのだ。
せめて風邪の一つでもひいてみせればかわいげがあるものを、ああ、馬鹿は風邪引かないっていうもんなと憎まれ口を叩いていたこともある。そんな銀時だって最近はたるんでるから風邪の一つはひくようになった。ただ高杉に知りようがないだけだ。
そんな風にずっと一緒にいれば、分かり合えることは沢山あったろうし、看病くらいしてくれたはずなのに、現実の二人は遠ざかったままだ。あんなに一緒だったのに、今では居所さえ確かには分からない。こんなに距離ができるなんて、子供の頃には想像もしていなかった。
「流石におたふく風邪はやったよ? 男の一生に関わるもんな」
「俺が先生に頼まれてうつしてやったんだろ」
その時ばかりは高杉は目元を緩ませた。懐かしい素の微笑み。あの時もそう言えばもの凄く嬉しそうだった。
日頃元気な奴が寝込んでいるとハイになると言うアレだろうか。それとも腺病質の体質が役に立って嬉しかったってか。まあ十中八九、先生のお願い聞けてよかったと思っていたのだろう。
今も先生を懐かしんで微笑んだのかもしれない。それでもいい。銀時はその笑みに誘われるように今度こそ近づいて、乾きかけた血を拭い、ついでに唇を食んだ。
「…」
俺は今でもお前が好きだと、伝わっただろうか。命を取り合うような仲になったとしても、お前は永劫、俺のものだと。
「そういうてめぇは? 返り血思いっきり付いちゃってたけど」
高杉は何の感銘も受けないと言った無表情を貫いた。
「大丈夫だから俺が実行犯してんだよ」
「ああ、お前も?」
高杉はただ、意味ありげな視線を一つくれただけだ。大丈夫との先ほどの言葉もあって、銀時はそれを肯定とみた。
成る程だからお取り巻きは近くにいるけど加勢はしなくて、高杉一人で斬りまくったのか。退路を確保するとかでたまたまいないわけではなくて。そうその時、銀時は納得してしまったのだ。
抗体なんかあるはずがなかった。
ありとあらゆる流行病を拾っては誰よりも多くの時間を臥所で寝たきりになっていた高杉を、雪火だけが許してくれるなんてそんな訳がなかったのだ。
(そうだ。あの時だって)
高杉は一度だって十人に一人とは断言しなかった。
既に感染していたから、もうあれ以上、ウィルスに触れても結果は変わらない。だから自ら実行犯なんかをつとめ、最前線で一人突出して戦っていたのだ。自分のせいで仲間を感染させないため、鬼兵隊も近づけずに。
次に山崎が目を覚ました時にはまだ沖田は屯所の布団の中にいた。
万事屋の旦那が間に合ったのだ。
(ん?)
その布団から床柱に紐のようなものが延びていて、山崎は目をこすった。
(いや、紐じゃなくて鎖…? って首、輪?)
それを認識したとたん、睡魔は晴れて、ぱかっと山崎は覚醒した。
(なんで首輪? 着替えやすいようにか? ちょっと旦那ぁ、気を使うところが違うって!)
そしてだらだらと汗を流した。
(あれ、おかしいな俺、薬飲んで熱下がったはずなのに滝のような汗が…しかもなんか体がふるえるんですけど。死ぬのか? 俺は死ぬのか? 沖田さんが起きたら殺されるのかーっ?)
それにしてもどSの星の王子様を鎖に繋ぐなんて、どんだけ鬼畜どSなんだろう。上か? 沖田隊長より上なのか? しかも首輪なんて、そんな物騒な一般人が世の中に存在し、剰えこんなに近くにいていいのか? と思いながらも流石万事屋の旦那、と山崎は一人呟いた。
しかし間に合ったのは良かった。
(今すぐ駆けつけたって何もできやしない。それに俺たちが必要とされる日は必ず来る)
その時の為に今、ここで温存されている。そう考えなくては遣る瀬ない。みんなを信じて一刻も早く体を治すだけだ。
隊を離れてできることはそれしかない。
近藤捕縛。その報が遠く江戸までやってきたのはそのしばらく後だった。
甲州は天領。将軍直轄地だ。その甲府城の守りにつけとの命を受け、真選組は江戸を後にしたのだが、天候に恵まれず途中まさかの雪が降った。スノータイヤを履いてなかった真選組の車両は足止めを食らった。
その間に西側から寄せた官軍三千人が甲府城へ入城、真選組は出端を挫かれることになった。
真選組隊士はこの時二百足らず。
しばらく甲州街道にて粘ったが、蹴散らされて終わった。刀を使えぬまま無線で指揮を取っていた近藤は、砲撃を至近で受け、気絶、気づいたら運悪く捕縛されていた。
近藤はテレビにもよく出る有名人だったから、すぐに真選組局長だと分かっただろう。その場で車に押し込められて随分遠くまで運ばれたようだ。
(これじゃ幾らトシでも助けにこれねぇなぁ)
と近藤は考える。
土方は戦えない近藤に指揮を任せ、自ら前線で戦っていたはずだ。生きていると信じていたが、どうなったか分からない。当てにはできなかった。
怪我などしてなければいいがと思った。
処分が決まったのか、運ばれた先の牢から出されたのは三日後のことだ。
ずらりと幹部らしき人間が居並ぶ中、幕営に通された。察するにここが前線司令部、官軍の会議所だろう。左右両端に居並んでいる猛者たちは諸隊の総督だろうか。全員黒いコートを着用して、腕章をつけていた。
「直接には初めまして、だよなぁ? 真選組局長近藤勳」
最も上座に据えられた胡床には刀の先を地に付けて持つ隻眼の男が座っていた。
「高杉か」
「そうだ。苦労したぜ、お前の身柄をもぎ取るのは」
多数対少数で真選組は敗北したが、同じような数で圧倒的戦力差を覆した男がいる。それがこの高杉晋助だった。彼の蜂起の出発はわずか三十人足らずだった。
恐ろしい才だ。
同じような才人が真選組にいればなぁと思う。でなければ真選組は負け続ける。天道衆はこの戦自体から手を引き始めた。
天人たちは官軍側の外交的駆け引きなのか、それとも何らかの密約があったのか、幕府の要請を受けてもまるで介入をしようとはしない。
前攘夷戦争では彼らと真っ向からぶつかったのは天人たちだったのだが。
「殺す為か?」
「くくく」
高杉は目を細めて笑った。
「知ってるだろうが、お前、恨まれてるぜ。ただ殺すだけなら俺は何もする必要はなかったろうよ」
混沌とラストに向かっているのでいろんな人が入り乱れてくるかも。気になるのは西郷が書けてないことかな。軍の主力なのにごめん。
10
バイクで飛ばしてきて正解だった。沖田は屯所の門まで出て来ていた。雪火じゃないという証明がなければどうせ駕篭タクにも列車には乗れないけどね。そしてずっと寝込んでいた沖田君はそんな規制がされたなんてことも知らないだろうけどねと銀時は可哀想に思った。
足がなくても行こうとするだろう。死ぬも生きるも好きにさせてやればいいじゃんと思わなくもなかったが、実際死んだら悲しくなるのがいっぱいいるんで目一杯阻止する気だった。
「チッ」
「はい、舌打ちしない〜。刀抜かない〜。病人はいい子で布団に戻った戻った」
最悪、もぬけの殻になった冷たい布団を発見した山崎が携帯で連絡というシュミレーションだったので、発見が早く、あちこち探しまわるはめにならずにすんで良かった銀時である。可愛くない対応をされながらも、沖田を屯所の方へ追い返す。
「旦那、俺は行かなきゃならねぇんで」
「そんなこと知りません〜。文句ならマヨラーに言ってくんね? 俺ただの仕事だしぃ」
説得しようなんて十年早い。ここでいつものごとく甘味を提供されても銀時はうんとは言わないだろう。銀時は土方が大嫌いなので、大概のことは沖田の肩を持つのにやぶさかではないのだが、こればかりは土方の指示通りにする。
「じゃあ、俺が旦那を雇いまさぁ。一緒にいきましょうや。電車代出しますぜ」
しかし沖田は何を思ったか甘味などでなく同行を求めて来た。戦力として当てにしているのか? それともしつこく邪魔されるより取り込んだ方がいいという判断か。
こんな反応は思っても見なかった。そんなところに行くなんて普段の沖田なら間違っても考えないはずなのに、寝過ぎで頭が沸いたんだろうか。可哀想に、熱が上がりすぎると朦朧とするもんね、でもアレ、薬飲んでたんじゃなかったっけと銀時は思う。
薬を飲むと劇的に熱は下がるのだ。ウィルスを攻撃し免疫異常でウィルスごと自分の体まで破壊してしまう白血球の働きを抑えるという。
「何言ってんの。銀さんこれでも売れっ子なの。山奥なんか行ってる暇ないんですよ」
「あんただって、用があるんじゃないんですかぃ? 急がねぇともう二度と会えねえかもしれませんぜ」
しかし沖田は決して頭が沸いているのではなかった。
「何それ、何のこと?」
どうしてどいつもこいつも、銀時と高杉の因縁を知っているのだろう。誰彼構わず話したことなどない。それなのに。
沖田は銀時の目を見て言った。何もかも知っている、といった表情で。
実際沖田は知っていた。何食わぬ顔で、見て見ぬ振りをしていただけだと告白した。
「俺ぁ知ってるんですぜ。旦那の大事な人、何遍も見かけやしたから。…雪火だそうですぜ」
見かけたどころか俺の知らないところじゃ追いかけっこして斬り合ったこともあるんじゃないの、実際と考えていた銀時は思考を停止した。
「はあ?」
雪火?
「薬ものまねぇで戦争とるたぁなまなかなことじゃねぇ。その信念には脱帽しますぜ」
帽子なんかかぶっちゃいないくせにそんなことを沖田は言った。
「沖田君冗談きつい…」
「ザキが見て来た感じじゃ、末期だそうで」
そんなことは聞いてない。だって高杉は十人のうちの一人だ。そう言っていた、本人が。そのはずだ。確か…。
心臓が早鐘のように打ち鳴らされてうるさいほどだ。
銀時は眉間にしわを寄せた。
だが相手は高杉だった。何故それを信じたのだろう。アレの語る全てが嘘だとは思ってはいない。本当のことだって言う。だが質の悪いことに嘘も真実も同じように話す。
それが奴の手だ。
いつだって虚実を織り交ぜて自分の都合のように進めて行く男だった。何故疑いもしなかったのだろう。
最後に会ったのは何時だっただろう。紅桜の後、戦争が始まる前。雪火が瞬く間に広がり、それに比例して刹那的な犯罪が増え始めた頃だった。
高杉は何故か江戸におり、火付けや強盗に乗じて幕臣を手当り次第に殺していた。確かにそんな行動はらしくなかった。
鬼兵隊を再結成した頃からそんな単独行動は止め、大規模な策謀を巡らせていたというのに。それとも策謀の段階は過ぎ、派手に何かをやらかす前の景気付けか。そんな 風に銀時も思っていた。
そんなあいつが雪火だなんて。最後に会ったときはどうだった? 元気だったはずだ。
悠々と刀を揮って、その後の西で起こした戦争のテレビ中継だって一心不乱に敵を屠っていたでないか。そして、今このときも戦場にいるはずだった。
「ぶった切るんじゃなかったのかよ?」
そう言った高杉の足下には制服の男たちが倒れて血溜まりを作っていた。高杉は完全に一仕事終えたという感じで手に刀と懐紙を持っていた。
その日も高杉は闇の生き物のように白く、冴え冴えとしていた。
「獲物がないもん」
そう言いながら、通りがかった銀時は両手を上げた。遣り合う気はないからお前も俺を斬らないでね、というサインだ。高杉はそれでもしばらく懐紙で血脂を拭い取った刀を終わずに言った。
「そいつは何でも切れるんだろ? 大筒だって斬ったっていうじゃねぇか」
何処でそんな情報を拾ってくるのか高杉は詳しかった。あれか。紅桜前の桂か。それともマムシの一件が耳に入ってたのか。あの一派も攘夷だったらしいからな。高杉あたり、ジャスタウェイ仕入れてたら可愛いなと銀時は思う。いやいやいや。物騒だからほんとは止めてほしいんだけどね、なんて考えながら銀時は答える。
「人間みてぇな柔らかいもんぶった切れません。そういうてめぇはお取り巻きはどうした?」
「近くにいる」
高杉は渋々刀を鞘に納めると言った。その白い頬に返り血がとんでいる。
「…いるのかよ。あ、ちょっと待て。血が」
しかし銀時が手を伸ばそうとすると、驚くほど素早く距離をとった。警戒心の強い猫みたいな動きだった。
「寄るな、雪火は空気感染および、飛沫感染だ。こいつらの中に感染者がいれば返り血からでも移る」
「俺平気」
俺を雪火には罹らせたくないんだな、と内心ニヤケながら銀時は言った。
果たしてはそれは、遣り合う機会を失うからか。それとも、と自惚れる。
「十人に一人か」
「そ」
「お前はほんとに丈夫な野郎だな。昔から病気一つしやがらねぇ」
しかし罹らないと知れば知ったで高杉は嫌そうな顔をしてみせた。昔からこいつは病気なんかしない方がいいとお心優しく思っているくせに、自分と比べて銀時があまりに健康優良児なのが気に入らないのだ。
せめて風邪の一つでもひいてみせればかわいげがあるものを、ああ、馬鹿は風邪引かないっていうもんなと憎まれ口を叩いていたこともある。そんな銀時だって最近はたるんでるから風邪の一つはひくようになった。ただ高杉に知りようがないだけだ。
そんな風にずっと一緒にいれば、分かり合えることは沢山あったろうし、看病くらいしてくれたはずなのに、現実の二人は遠ざかったままだ。あんなに一緒だったのに、今では居所さえ確かには分からない。こんなに距離ができるなんて、子供の頃には想像もしていなかった。
「流石におたふく風邪はやったよ? 男の一生に関わるもんな」
「俺が先生に頼まれてうつしてやったんだろ」
その時ばかりは高杉は目元を緩ませた。懐かしい素の微笑み。あの時もそう言えばもの凄く嬉しそうだった。
日頃元気な奴が寝込んでいるとハイになると言うアレだろうか。それとも腺病質の体質が役に立って嬉しかったってか。まあ十中八九、先生のお願い聞けてよかったと思っていたのだろう。
今も先生を懐かしんで微笑んだのかもしれない。それでもいい。銀時はその笑みに誘われるように今度こそ近づいて、乾きかけた血を拭い、ついでに唇を食んだ。
「…」
俺は今でもお前が好きだと、伝わっただろうか。命を取り合うような仲になったとしても、お前は永劫、俺のものだと。
「そういうてめぇは? 返り血思いっきり付いちゃってたけど」
高杉は何の感銘も受けないと言った無表情を貫いた。
「大丈夫だから俺が実行犯してんだよ」
「ああ、お前も?」
高杉はただ、意味ありげな視線を一つくれただけだ。大丈夫との先ほどの言葉もあって、銀時はそれを肯定とみた。
成る程だからお取り巻きは近くにいるけど加勢はしなくて、高杉一人で斬りまくったのか。退路を確保するとかでたまたまいないわけではなくて。そうその時、銀時は納得してしまったのだ。
抗体なんかあるはずがなかった。
ありとあらゆる流行病を拾っては誰よりも多くの時間を臥所で寝たきりになっていた高杉を、雪火だけが許してくれるなんてそんな訳がなかったのだ。
(そうだ。あの時だって)
高杉は一度だって十人に一人とは断言しなかった。
既に感染していたから、もうあれ以上、ウィルスに触れても結果は変わらない。だから自ら実行犯なんかをつとめ、最前線で一人突出して戦っていたのだ。自分のせいで仲間を感染させないため、鬼兵隊も近づけずに。
次に山崎が目を覚ました時にはまだ沖田は屯所の布団の中にいた。
万事屋の旦那が間に合ったのだ。
(ん?)
その布団から床柱に紐のようなものが延びていて、山崎は目をこすった。
(いや、紐じゃなくて鎖…? って首、輪?)
それを認識したとたん、睡魔は晴れて、ぱかっと山崎は覚醒した。
(なんで首輪? 着替えやすいようにか? ちょっと旦那ぁ、気を使うところが違うって!)
そしてだらだらと汗を流した。
(あれ、おかしいな俺、薬飲んで熱下がったはずなのに滝のような汗が…しかもなんか体がふるえるんですけど。死ぬのか? 俺は死ぬのか? 沖田さんが起きたら殺されるのかーっ?)
それにしてもどSの星の王子様を鎖に繋ぐなんて、どんだけ鬼畜どSなんだろう。上か? 沖田隊長より上なのか? しかも首輪なんて、そんな物騒な一般人が世の中に存在し、剰えこんなに近くにいていいのか? と思いながらも流石万事屋の旦那、と山崎は一人呟いた。
しかし間に合ったのは良かった。
(今すぐ駆けつけたって何もできやしない。それに俺たちが必要とされる日は必ず来る)
その時の為に今、ここで温存されている。そう考えなくては遣る瀬ない。みんなを信じて一刻も早く体を治すだけだ。
隊を離れてできることはそれしかない。
近藤捕縛。その報が遠く江戸までやってきたのはそのしばらく後だった。
甲州は天領。将軍直轄地だ。その甲府城の守りにつけとの命を受け、真選組は江戸を後にしたのだが、天候に恵まれず途中まさかの雪が降った。スノータイヤを履いてなかった真選組の車両は足止めを食らった。
その間に西側から寄せた官軍三千人が甲府城へ入城、真選組は出端を挫かれることになった。
真選組隊士はこの時二百足らず。
しばらく甲州街道にて粘ったが、蹴散らされて終わった。刀を使えぬまま無線で指揮を取っていた近藤は、砲撃を至近で受け、気絶、気づいたら運悪く捕縛されていた。
近藤はテレビにもよく出る有名人だったから、すぐに真選組局長だと分かっただろう。その場で車に押し込められて随分遠くまで運ばれたようだ。
(これじゃ幾らトシでも助けにこれねぇなぁ)
と近藤は考える。
土方は戦えない近藤に指揮を任せ、自ら前線で戦っていたはずだ。生きていると信じていたが、どうなったか分からない。当てにはできなかった。
怪我などしてなければいいがと思った。
処分が決まったのか、運ばれた先の牢から出されたのは三日後のことだ。
ずらりと幹部らしき人間が居並ぶ中、幕営に通された。察するにここが前線司令部、官軍の会議所だろう。左右両端に居並んでいる猛者たちは諸隊の総督だろうか。全員黒いコートを着用して、腕章をつけていた。
「直接には初めまして、だよなぁ? 真選組局長近藤勳」
最も上座に据えられた胡床には刀の先を地に付けて持つ隻眼の男が座っていた。
「高杉か」
「そうだ。苦労したぜ、お前の身柄をもぎ取るのは」
多数対少数で真選組は敗北したが、同じような数で圧倒的戦力差を覆した男がいる。それがこの高杉晋助だった。彼の蜂起の出発はわずか三十人足らずだった。
恐ろしい才だ。
同じような才人が真選組にいればなぁと思う。でなければ真選組は負け続ける。天道衆はこの戦自体から手を引き始めた。
天人たちは官軍側の外交的駆け引きなのか、それとも何らかの密約があったのか、幕府の要請を受けてもまるで介入をしようとはしない。
前攘夷戦争では彼らと真っ向からぶつかったのは天人たちだったのだが。
「殺す為か?」
「くくく」
高杉は目を細めて笑った。
「知ってるだろうが、お前、恨まれてるぜ。ただ殺すだけなら俺は何もする必要はなかったろうよ」
混沌とラストに向かっているのでいろんな人が入り乱れてくるかも。気になるのは西郷が書けてないことかな。軍の主力なのにごめん。
10
PR