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 高杉晋助は仕事だと言っては一年のほとんど返ってこないちょっと風変わりな父親と、おっとりした母親の間に生まれた、ごく普通の少年だった。
年の近い叔父とは違い健康に恵まれ、古武術の道場なんかに通って文武両道、充実した青春を送っていた。
 一度の目の人生の転機は高校二年の夏。
 叔母の葬式に出かけた両親が交通事故で一遍に帰らぬ人になったことだった。
「不幸って重なるもんなんだなぁ」
 しかしその時はまだ、そんな暢気なことを考えるくらいのゆとりがあったようだ。哀しかったし、人並みに涙をこらえ、結局出来ずに泣いた。子供らしく酷く不安な心持ちにもなった。しかし支えてくれる道場の先生や幼なじみたちがいたので、まだ耐えられる、そんな風に感じていた。
 大変だったのは叔父の方だ。同姓同名の甥二人が同時に保護者を失ったのだから。葬儀から法律上の手続き、一切を取り仕切って、忙しさのあまり何度か喘息の発作を起こしていた。
 無理もない。彼もまだ、大学に通う学生だった。
 二度目の転機はその二年後。
 高杉は師と幼なじみと左目を同時に失った。
 その頃のことはあまり良く覚えていない。気が狂う、そんな風に思っていたようだった。
 しかし人間とは強いもので、もともと頑丈で心身共に鍛えてあったせいか、多少いびつに壊れたが死にもせず、大学を卒業する頃にはなんというか輪をかけてエキセントリックになったものの、思ったよりごく普通に生きているつもりだった。
 その辺のサラリーマンと一線を画した職業とはいえ、ちゃんと税金はらって社会人してるし。
 仕事の依頼だって、ちゃんとこなした。
 いわく、○○組撲滅キャンペーン。一週間ほどすっかりこれにかかりきりだ。
 累々たるおっさんの群れを見下ろしながら、高杉は油断なく辺りをうかがう。まだ立ち上がるものがいないかどうか。動くものは? 油断は命取りだからだ。
「ごく普通? これのどこが? 可愛いこと言うね、高杉」
 油断はしていなかった。
 背後をとられながら高杉はその声に総毛立つ。
 この自分がこうも簡単に後ろをとられるとは。いくら、多勢の893と遣り合って肩で息をしていたからといって、あり得ない。
 だが何の気配もなかった。後ろから肩を掴まれるまでは。
「俺は確かにスリルとサスペンスとバイオレンスが好きだけど、ホラーは呼んでねーぜ」
 そういう高杉の首筋を舐め上げながら男は答えた。
「俺もホラーとかダイッ嫌い」
 振り向き様薙いだ刀は、その男の真芯を捕らえたはずだが、男は血を振りまきながら倒れはしなかった。
 あたらなかったわけではない。避けられたのでもない。男はゆらりと陽炎のように揺れた。実体がないのだ。
「銀時ィ、てめー何しに来たよ?」
 このような悪霊に高杉は以前にも遭遇したことがある。何度も。どいつもこいつも同じ顔をしていた。だから高杉はこの顔を好きにはなれない。
「迎えに」
 高杉はけっと、嘲笑った。
「悪霊は墓場に帰って胸くそわりぃ夢でもみてな」
 銀時はにい、と笑った。
「夢はこっちだ。高杉オレと帰ろう。ま、いやだってんなら、おれはお前をぶっ壊すしかねーんだけどな」
 その言葉に高杉は無言でいた。何度も同じ顔の男に同じように誘われれば答えるのも億劫だ。そう思いながら高杉は抜き身の刀を鞘に納めた。
「おやおやまさか、できねーと思ってる?」
 ふところに右手を入れて立つ。
「ああ。残念だがおれはもうとっくの昔に壊れてるからな。ぶっ壊れてる割にゃー普通に生きてると感心してたところさ」
「そういう普通なの?」
 呆れたようにいう銀時はまだ表情に可愛げがあった。
大体まだ、高杉の一人や二人をぶっ壊せば事足りると思っている時点で銀時はまだ呑気なのだ。
 そんなことでこの世界から逃れられると思っているとは。先生を失い、高杉を失い、だがまだこの男の記憶は中途半端なものなのだろう。
 だが高杉は違う。高杉家に八月十日に生まれた男子は全て晋助と呼ばれる。その子は先天的か後天的か左目の視力を失うと決まっていた。
 そしていずれ、自分がダミーでスペアでフェイクだということを知る。本物はターミナルで左腕を失ったまま銀時と戦い、爆発に巻き込まれた高杉晋助だということを。
 自分たちはばらばらに飛散した高杉晋助の欠片だということを。
 だから高杉晋助はあちこちに同時に存在している。同じように銀時も。
 銀時はこの不毛な世界からもとの場所へ戻りたいのだろう。万事屋の、子供たちのところへ。だがあいにく、高杉には戻った所でなにもない。万斉もまた子も武市も死んだだろう。
 高杉は顔を顰める。
 もちろん高杉も銀時同様、このぬるま湯のような、甘ったるい世界にいつまでもいたいわけじゃなかった。なんの因果か、同じ顔をした自分たちはどいつもこいつも銀時たちとくっつきやがる。反吐が出る。そんなことまで繰り返すなと叫びたい。
 思い知らされる。それほど、自分たちは無意識に銀時を求めていた。
 従弟はまだいい。あれはまだ何も知らない。あの目はただのものもらいだ。いずれ失明の危険性はあるがまだ見えている。
 だが病で左目の視力を失った叔父は違う。良く平気であの弁護士を傍に置いている。いや、平気ではないのか。その証拠に、出来るだけ日本には帰ろうとはしない。
(でもあいつはやっぱり銀時を好いている)
 だが高杉はごめんだ。受け入れられない。普段は鎮まっている神経がささくれ立つ。いやだ。こちらへ来るな。
 高杉は一瞬過った金時の顔を罵りながら思う。
(大丈夫だ。どうせもう長くない)
 あちらとこちらとでは時の流れが違うとはいえ。
「お前らが頑張ろうが、どうしようが、どうせここはそのうち崩壊する」
「えっそうなのか? やっべー、銀さん高杉せんせーとか食っちゃた。早く言えよ」
 だからこいつは実体がないのかと思いながら高杉はせせら笑う。彼が無抵抗でやられたはずがなかった。
「お前らが莫迦なんだろ? 一匹狼気取りやがって一人で突っ走って情報を共有しねーからだ」
 高杉一族が情報をすりあわせた結果、銀時の記憶が戻る条件もある程度分かっている。
 松陽先生を失うこと。
 そして、高杉も失うこと。
 銀時は自分の高杉を失って、初めて我に帰る。そして他の高杉を屠り始める。高杉たちの中の高杉の欠片を集めて、爆炎の中で死のうとしている本物に出会う為に。
「お前らはしてそーね」
 孤高の総督気取りのくせに結構つるむよね。と銀時はぶつくさ言う。
「当然。情報は最大の武器だ」
「で、賢い高杉君たちの結論は?」
「おれたちは本体と一緒に死ぬ」
 銀時は激高した。
「あれを死なさねーために焦ってんだろうが!」
 怒ったって事実は変わらない。ここは高杉晋助が見ている最後の気の迷い。もしもあんな時代に生まれなかったらというちょっとした幻の産物。死の見せる走馬灯だ。
「ほんとに莫迦だなぁ、銀時ィ」
 高杉は薄く笑いながら、銀時の持つ刀が自分の身に及ぶのを見ていた。
 欠片を狙っているのは銀時だけではない。高杉たちもまた銀時のそれを欲している。どちらが先に完成させるか。それで現実世界の二人の生死が決まるのだ。
 だが恐らく、銀時は間に合わないだろう。あの場所へ、銀時一人が立ち帰ることになる。
 それが個と集団の差だ。
 銀時は一人の侍として強かった。そして高杉は鬼の頭目として手強かった。
(やっぱりてめーもほんものじゃねぇな。度を失いやがって、一人きりだと? せめてガキどもを従えて来な)
 高杉は懐手にしていた右手を出すと充分に調息し、刃先まで神経を届かせた刀を抜いて銀時の刀を弾く。その背後から別の高杉が銀時に斬りつけた。
「なっ」
 高杉一人では銀時に勝てないだろう。鬼兵隊を集めても同じことだ。だがこの世界には何人もの右目を失った高杉がいる。
 懐に偲ばせていた携帯のメールを受信した彼らがGPSで居場所を特定してこれからも続々とこちらへ向かっているだろう。逃がしはしない。この世界が終わる前に、銀時を回収する。
 例えあの弁護士や従兄の婿を斬ることになったとしても。
(廃墟となったおおえどで目覚めればいい。それまでせめて甘たるい夢を見てろ)



 いつから十月十日は休日でなくなったのだったか。まあこの二年ばかしは土日にかろうじて引っかかって休みだけども。その上、体育の日がハッピーマンデーだったので、銀八は愛する嫁に限界まで付き合ってもらって泥のように眠り、起きたのは2時を回っていた。
 眠気覚ましにコーヒーならぬイチゴ牛乳。そう思ってよろよろとメガネをかけて寝室から出た時だった。
「きゃー! なにこのぼろっちい高杉! あれ、高杉ベッドで寝てたよね? うん、寝てる」
 銀八は何度もボロっちく廊下に倒れふしている高杉とやはり前後不覚にへろへろなベッドの高杉を忙しく見比べた。
「っせぇ。何きもい声上げてんだ」
 銀八が騒いでいるともそりとベッドの中の高杉が動いてもそもそ言った。うん、こっちが銀八の嫁だ間違いないと一安心しながら銀八は言い返した。
「はいはい、すぐきもいとか言わねぇの。Sは打たれ弱いんだぞ〜」
「だってお前、きゃーって言っただろ?」
 ばっちり聞こえていたようだ。
「だって、高杉が血だらけかと思ったたんだぞ、驚くわ! もしもし高杉さん、大丈夫? 生きてる? う〜ん、意識無し、と。呼吸は異常なし。あとは怪我…う、う〜ん、血は止まってるか?」
 救急車は呼ばなくてもいいだろう。しかし病院には連れて行った方がいいような気がする。それくらいあちこち傷だらけだった。どこでどんな喧嘩をしてきたのか。
 状態を確かめる銀八の所へ、だるそうに高杉が起きて来た。
 銀八の言動で従兄の様子がただ事でないと分かったのだろう。だが一目見て高杉は言った。
「大丈夫だ」
「ん?」
「寝てるだけだ。とりあえずベッドに放り込んでくる」
「え? お前が?
「んだよ」
「だって重いだろ」
「これくらいできる。邪魔すんな」
 高杉はそういうが、歩くのもへろへろなのに成人男子一人を抱えられるわけない。よしんば持ててもその瞬間ぐしゃっと潰れる。
「いやいやいや。誰もいないならともかく旦那様がいるんだよ? 手伝うって」
 ぐい、と高杉が持っていた高杉さん(ややこしいな!)の手を引き取ると、あっ、ばかと高杉が言う。それと同時にしゃっという音が耳を打つ。
 やばい!
「…!」
 ぎらり、と目を光らせた高杉さんと目があった銀八は咄嗟に両手を頭上へ伸ばし、もの凄く勢いで降りて来た真剣を受け止める動作をした。
 咄嗟になんちゃって真剣白刃取り!
「銀八!」
しかしそれより早くぶん、と風を切って高杉さんの刀が振り下ろされて行った。
(斬られた!)
 と思ったが痛くない。
「刀折れてる…」
 へなへなと高杉が頽れる。それを見ながら銀八は言う。
「あ、ほんとだ。らっきー?」
「…! ぎん…? 晋助?」
 寝ぼけていた(そうとしか言えないだろう!)高杉さんは晋助と銀八を見比べた後、ようやく現状を把握したようだった。
「ああ、婿殿か。わりぃ、間違えた」
 悪いですむのか! 刀折れてたら死んでたわ! なに? 身内以外が触るとオートで攻撃しちゃってくれるの? 大体間違えたって何と? 金時? え? 金時何したの、本気でやる気だったよね、とかいろいろ、いろいろ思う所はあったのだが、婿殿、という呼称に(いや、間違いではない。まちがいでわないよ、ただちょっと俺は中村モンドかって思っただけで)脱力してしまい、なんもいえなかった銀八だった。
「そういや、刀の予備取りに来たんだった。鬼兵堂はまだ空いてなかったし、したらついいつもの調子で寝ちまったんだな」
「一刀二万振りって聞いたことあるけど、もう折ったのかよ。腕なまってんじゃねーの」
 そういいながら高杉は立ち上がるとコーヒーをセットしながら由々しきことを聞いた。
「風呂にする? 飯にする? それとも寝る?」
「ちょっと高杉、おれにもそんなこと聞いたことないのに!」









なんで銀高ばっかりなのか真剣に考えた結果薄暗くなりました! そして長くなったのでぶった切りました。次は同級生銀高とかだせるといいな。高杉先生はごめんなさい。

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